籠池事件と教科書検定の表裏一体 日本中が“森友化”の懸念
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2017年3月28日 日刊ゲンダイ 文字お越し
今は対立する2人だが目指す教育は一緒(C)日刊ゲンダイ
2018年度に小学校で正式教科になる「道徳」の教科書の初の検定。申請した8社、24点の全てが合格はしたものの、文科省から計244件の意見が付いて出版社が修正したのだが、小学1年生の教科書で改められた一部内容には、ギョッとした。
●「友だちのパン屋でおいしそうなパンを土産に買う」という話で、「パン屋」を「和菓子屋」に修正。
●「アスレチックの遊具で遊ぶ公園」を、「和楽器店」に差し替え。
●「しょうぼうだんのおじさん」「パン屋のおじさん」をともに「おじいさん」に変更。
これらは、学習指導要領が規定する「我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つこと」「高齢者に尊敬と感謝の気持ちをもって接すること」という内容項目に合っていないというのが、文科省が意見を付けた理由だった。だが、何でも短絡的に“和風”にすれば「郷土への愛着」になるのか? そもそも感謝の気持ちを表す相手を「高齢者」に限定しているかのような指導要領自体に疑問を抱かざるを得ない。
「道徳」が正式教科に決まった時に、「価値観の画一化」「国の道徳観の押し付け」につながりかねないと懸念されたが、それが現実となったわけだ。
元文科官僚で、京都造形芸術大教授の寺脇研氏がこう話す。
「道徳の教科化は安倍政権下の教育再生実行会議で決まったもので、文科省にとっては、首相のお墨付きの『命令』です。これを受け、教科書の審議会が首相の意向をきちんと反映させる方向に流れるのは想像に難くありません。ただし、昔の教科書検定は『検閲』のようなものでしたが、今は制度が変わって出版社と共同で作るようになっています。ですから、文科省が直接的に『パン屋を和菓子屋にしろ』と言ったわけではないと思います。『エピソード全体に日本の国や地域コミュニティーへの言及が足りない』という形の意見で、これを受けて出版社側が修正したのです。実は私が心配するのは、ここのところ。出版社が政権の空気を“忖度”して自ら日本的なものに直したことが気になります。例えば『あんぱん』をエピソードに加えるなどして、パン屋のままで検定を通す工夫だってできるのに、政権の意向に沿うよう、無難に通そうとする。出版社側の自主規制ムードが、むしろ怖いと思います」
安倍政権が続けば教育現場が洗脳される(C)日刊ゲンダイ
安倍政権が目指す「国家主義」を実践していた森友学園 |
「忖度」といえば、森友学園問題で有名になった言葉だが、森友問題と教科書検定とは表裏一体の関係にあると言っていい。「道徳」の学習指導要領が求める「国や郷土への愛着」とは、安倍政権では「国家主義」に直結する。実際、安倍首相は著書「美しい国へ」で、〈教育の目的は、志ある国民を育て、品格ある国家をつくることだ〉と持論を展開している。
これを実践していたのが森友学園だ。籠池理事長の教育方針で幼稚園児に「教育勅語」を暗唱させていた。その映像がテレビで流され騒ぎになると、籠池理事長は、「何か事があったとき、自分の身を捨ててでも人のために頑張んなさい。そういう教育勅語のどこが悪い」と反論。安倍政権では稲田防衛相も、「日本が道義国家をめざすという、その精神は今も取り戻すべきだと考えている」と、教育勅語を肯定するかのような答弁を国会でしていた。
そんな籠池理事長が属しているのが日本会議大阪だ。戦後史観を否定し戦前回帰を目指す極右勢力である「日本会議」の基本運動方針の4番目にはこう書いてある。
〈日本の感性をはぐくむ教育の創造を――教育に日本の伝統的感性を取り戻し、祖国への誇りと愛情を持った青少年を育成する〉
これって、安倍政権の目指す道徳教育と全く同じじゃないか。つまり日本会議とベッタリ癒着した政権が、日本の教育を“森友化”する構図なのである。
「安倍政権は閣僚の大半が日本会議議連に所属しているような政権ですから、あからさまですよ」と、前出の寺脇研氏がこう続ける。
「私は40年以上教育の仕事をしていますが、今になって『教育勅語』が議論になるなんて思いもしませんでした。私より上の戦前戦中世代の人は、もっとびっくりしているでしょう。『12の徳目が素晴らしい』と言う人たちがいますが、そもそもそれら徳目の全ては、現行の『道徳』にもう入っています。教育勅語を現代の教育に導入したいという人たちは、12の徳目以外の部分、つまり『朕(天皇)のために』を実現したいのだとしか思えません」
安倍に近い連中が中心になってまとめた「自民党改憲草案」の前文には〈日本国民は、国と郷土を誇りと気概を持って自ら守り、(中略)和を尊び、家族や社会全体が互いに助け合って国家を形成する〉と書かれている。安倍政権での道徳教育強化の目的は、紛れもなく「国家」のためなのである。
「忖度」と「空気」に日本の教育が支配される |
そう考えると、「国有地の激安払い下げ」や「小学校のスピード認可」という森友疑獄の本質がよく見えてくる。日本会議と一体化した安倍政権が標榜する「愛国教育」を具現化する小学校だからこそ、特別扱いしてでも開校させようとしたのではないのか。
籠池理事長は小学校設立を「天からのミッション」だと言った。「明治維新から150年の年に素晴らしい小学校ができ、75年かけて本来の日本の教育に戻していかなければならなかった」と戦前教育への回帰をさらけ出した。安倍政権はそれを後押ししていたのであり、だからこそ、安倍首相の昭恵夫人が名誉校長に就いていたのである。
カルト化した強権政権が、国が決めた道徳観を子どもたちに押し付ける。役所も教科書出版社も教育現場も、それを“忖度”して動く。国家に思想信条を支配されていいのか。国民はそれを許すのか。
憲法学者で慶大名誉教授の小林節氏がこう言う。
「学習指導要領で示された『我が国や郷土の文化と生活に親しみ、愛着を持つ』という内容は、日本会議の方針そのものであり、まさに安倍政権の『日本を取り戻す』につながるものです。教育者も教科書検定の役人も、皆が『日本的なもの』に協調する“空気”があり、安倍政権や日本会議が目指す明治憲法体制に向かって走っている。異様です。このままでは、日本中の学校の校長や教頭、教育委員会が政権の意向を忖度し、『明治体制の日本はよかった』という空気が日本中でつくられていく。そうなったら、本当にいつか来た道ですよ」
幼稚園児が運動会で「安倍首相がんばれ!」「安保法制国会通過よかったです」と宣誓する様子におぞましさを感じた国民は少なくなかったはずだ。このまま安倍政権が続けば、教育現場が洗脳され、日本中が森友学園化してしまう。一日も早く、安倍独裁政権を潰さなければ、大変なことになる。