森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 東芝を見捨ててよいのか
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週刊実話 2017年3月16日号
今年度末に東芝が債務超過に陥ることが、ほぼ確実となった。東芝が買収した米国の原発企業ウェスティングハウス(WH)の子会社が7150億円以上の赤字を出す見込みとなったためだ。
東芝はもともと、半導体事業の株式の20%未満を売却することで債務超過を避ける算段だったが、過半の株式を処分しないと債務超過が避けられないことが判明した。
売却手続きのやり直しのため、年度末に売却が間に合わず、債務超過が避けられなくなったのだ。東京証券取引所の規定では、一部上場企業が債務超過に陥ると、二部へと格下げになる。さらに翌年も債務超過なら、上場廃止だ。経営再建に努める東芝にとっては、極めて厳しい状況となっている。
連結ベースで19万人の従業員を抱える日本有数の企業が、なぜ窮地に陥ったのか。
話は、2年前の不正会計事件にさかのぼる。経営陣が達成不可能な目標を現場に与えて、「チャレンジ」を要求した。その圧力の下で、粉飾決算が行われたのだ。
信頼を失った東芝は窮地に陥り、当時の虎の子事業だった医療機器事業をキヤノンに売却し、白物家電事業を中国の美的集団に売却した。それで危機を乗り切ったはずだったのだが、ここにきて飛び出してきたのが、東芝が原子力事業の国際展開のために買収したWH社がらみの損失だ。
その背景には、東日本大震災の際に起きた福島第一原発の事故がある。
この事故を受けて、世界の原発建設ブームに冷水がかけられた。そのためWH社は、10年近く新規の原発建設を受注できていない。さらに、福島第一原発の事故以降、米国でも原発の安全基準が厳しくなったため、WH社が米国で建設中の4基の原発も、完成のメドが立っていないのだ。さらにトランプ政権は、いまエネルギーの化石燃料シフトを目論んでいる。
こうした中で、東芝は新規の原発建設事業からの撤退を決断したが、稼ぎ頭の半導体事業を失えば、残る事業の柱は、社会インフラ(重電)だけだ。それだけで東芝を牽引できるとは、到底思えない。
ところが、日本を代表する企業が危機を迎えているというのに、政府に救済の動きがまったくみられない。
それはなぜなのか。
「原発輸出」は、これまで国策であり、安倍政権の下では成長戦略の柱だ。東芝は、その国策に従う形で原発事業を進めてきた。にもかかわらず、リスクが表面化すると、政府は責任のすべてを東芝に押し付けて、頬かむりするのだ。それは、福島第一原発の事故の責任を東電に押し付けたのと同じ構図だ。
もちろん東芝に責任がないとは言わないが、原発事業に関しては、東芝と同じくらい国にも責任があるはずだ。福島第一原発の廃炉作業の一部を東芝が担っていることも考えれば、国は積極的に東芝支援に動くべきだろう。
そして、今回の事件が明らかにしたことは、原発というビジネスは、兆円単位の民間では抱えきれないリスクを孕んでいるということだ。だから、政府が原発を続けたいということであれば、電力会社の原発も含めて、すべて国策、国営にすべきだろう。
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