絶望の「待機高齢者」問題、今後さらに激増…施設も介護スタッフも不足深刻、孤独死が社会問題化
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2016.12.17 文=末吉陽子/ライター Business Journal
待機児童の解消が各自治体の重要な課題になる中、同時に大きな問題になっているのが特別養護老人ホーム(特養)に入所できない「待機高齢者」だ。
高齢化の進行が世界一速いとされる日本は、それに伴って要介護高齢者の数も年々増え続けている。重度の要介護者を受け入れる介護施設も総じて足りていない。中でも、特養は介護保険の適用施設として社会福祉法人や地方公共団体が運営する公的な介護施設で、収入に応じて助成が受けられ、最期まで面倒を見てくれる。所得の少ない高齢者にとって“最後の拠り所”となる施設でもあるのだ。
しかし、2014年3月に発表された厚生労働省の「特別養護老人ホームの入所申込者の状況」によると、特養の入居申し込み者は約52万4000人もいるという。
今や、こうした「待機高齢者」が超高齢社会を迎える日本の重要な課題になっているのだ。待機高齢者問題は、どのように解決するべきなのか。ニッセイ基礎研究所・保険研究部主任研究員の篠原拓也氏に話を聞いた。
■25年には待機高齢者がさらに増加か
まず、待機高齢者問題を考える上で無視できないのが、現代日本における家族のあり方の変化だ。
篠原氏は「昔の日本は、家族制度を前提として、家族が同居している高齢者を介護することが当たり前の社会でした。しかし、現在では核家族や単身世帯が増え、高齢の身内と同居するという発想が少なくなってきているのです」と語る。
そのため、現状は自宅でヘルパーに頼りながらなんとか生活していても、「もし、特養に入所できるのなら入りたい」と考えている高齢者がたくさんいるという。高齢者を介護する施設が必要とされるようになった背景には、そういう事情があるのだ。そして、この問題は25年以降、さらに深刻化すると考えられている。
「介護が必要な高齢者は主に70代後半から80代ですが、25年には戦後のベビーブーム世代がすべて後期高齢者(75歳以上)となるため、介護施設の整備が進まなければ、待機高齢者がますます増加すると予想されます。 現在よりも、さらに厳しい状況がやってくるのです」(同)
■需要は高いのに待遇が低い介護スタッフ
厚労省の「平成27年介護サービス施設・事業所調査の概況」によると、特養の施設数は7551で利用率は97.4%に達している。すでに特養は満員状態で、受け皿が不足している状態だ。
しかし、待機高齢者は単純に施設の数を増やせば解決する問題ではない。篠原氏は「もっとも見過ごせないのは、深刻な介護スタッフ不足です」と指摘する。
「確かに施設の拡充も重要ですが、実際にケアをする介護スタッフを確保できなければ施設は機能しません。現在も不足していますが、なぜ介護スタッフを確保できないのかといえば、第一に待遇の低さが挙げられます。これは、待機児童問題で保育士不足が起きているのと同じ現象です」(同)
一般的に、需要が高まれば対価も増していくのが市場原理のはずだ。ところが、介護業界では介護スタッフの仕事に対する評価が不当なほど低い。
「介護の需要を考えれば、これだけ求めている人が多くいるわけですから、介護をする側の給料や待遇が良くなってしかるべきでしょう。しかし、介護保険制度ができたにもかかわらず、なかなかそうならないのは、『介護』が『労働として価値が低いもの』『誰にでもできるもの』と思われているフシがあるからです」(同)
介護業界、そして社会そのものに、「介護スタッフの給与を上げる」「高い給与を支払う」という意識が足りないのだという。
「介護は専門的な技術とスキルを必要とするものであり、医療関係者とサポート体制をつくるにあたってコミュニケーション能力も必要とされる、まさにプロフェッショナルな仕事。そういう社会全体の総意が重要です。ひいては、それが労働環境や待遇の改善につながっていくはずです」(同)
ただし、国の財政が潤っていなければ、公的支援における施設の拡充も介護スタッフの待遇改善もままならない。待機高齢者問題の根本は、国の経済状況と切っても切れないのである。
「経済が停滞している国は、産業も賃金も上向いていかないので厳しい。日本の場合、技術革新やモノづくりが得意なので、医療介護の分野などでもより高度なものをつくって海外に輸出し、産業のひとつとして押し上げていくべきでしょう。
日本には長寿国ならではの強みもあり、介護用具の開発も進んでいます。ものを持ち上げたりする際に体の負担を軽くするパワーアシストスーツなどが徐々に浸透していますし、介護用のベッドも高機能です。これらをさらに伸ばして、経済成長を目指していくことが望ましいのではないでしょうか」(同)
■孤独死する高齢者がさらに急増か
そしてもうひとつ、特養に代わるような高齢者向け住宅を増やすことも考えなければならない。篠原氏によれば、今国が力を入れ、増えているのが「サービス付き高齢者向け住宅」というものだ。
「これは、高齢者の住まいとしての賃貸アパート・マンションをつくり、要介護状態の高齢者が入居して、訪問介護などのサービスを受けるというものです。通常、特養よりも費用は高くなりますが、介護付き有料老人ホームよりは安くなります。
初期費用の敷金なども通常の賃貸アパートやマンションと同程度で、場所にもよりますが、だいたい月十数万円ほどで借りられます。そこで、訪問介護を中心に、入居される方と外部の介護サービス事業者が自由に契約をしてもらうというものです。国の補助や税制優遇などの後押しもあり、近年、急速に建設が進んでいます」(同)
この先、日本には介護が必要な高齢者が確実に増えていく。政府は「介護離職ゼロ」「待機高齢者解消」を目指しているが、受け入れ体制が整っているとはいいがたい。
高齢者が終の住処を考えるとき、安心して暮らせる場所を見つけられるのか、それとも入所できずに「待機高齢者」となってしまうのか。「このまま25年を迎えてしまうと、孤独死する高齢者が爆発的に増え、さらに社会問題化する可能性も否定できません」と篠原氏。待機高齢者問題の早急な対策が待たれる。
(文=末吉陽子/ライター)
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