若者の言動に抱く「違和感」を「好奇心」に変えよ
若者に対する嘆きをプラスの力に変える処方箋(後編)
2019.3.15(金) 小林 麻理
若者も上司も互いを理解するには「学び」が必要だ。
「最近の若者は・・・」という、いつの時代もある上司の嘆きに象徴されるような若者と上司世代*1の価値観の相違が、職場で深刻な問題を引き起こしている。そこで、その価値観の相違を乗り越え、両者がともに幸せに働くためのヒントを探るために、若者の育成に長年取り組むリクルートマネジメントソリューションズの桑原正義(くわはら・まさよし)氏に話を聞いた。
前編では「若者責任論」から脱却し、「若者からも学ぶ」というスタンスが提示された。後編では、若者に学ぶ理由やその際のポイントについて深堀りしていきたい。
【前編】「『若者責任論』から脱却し、その価値観に学べ」
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55589
*1:本稿では、若者とはミレニアル世代(1980年以降、2000年前後生まれ)を指しており、それ以上の世代を便宜的に「上司世代」と呼んでいる。
弱いと思っていた若者のほうが、実は強かった?
――かつては桑原さんご自身も若者の価値観に対して違和感を持っていたというお話でした。
桑原正義(くわはら・まさよし)氏。リクルートマネジメントソリューションズ 事業開発部 主任研究員。1992年人事測定研究所(現リクルートマネジメントソリューションズ)入社。2005年から「新人・若手が育つ組織づくり」に関するコンサルティングやトレーニングに携わる。2017年、中竹竜二氏(日本ラグビーフットボール協会コーチングディレクター)と共同で「オトマナ(大人はなぜ若者に学べないのか)プロジェクト」を発足。
桑原正義氏(以下敬称略) はい。若者が持つ、ある部分の価値観や行動に対しては、違和感や驚きを感じることがありました。
たとえば驚いたのは、情報共有の考え方。組織がベースという価値観で行動する私たち世代にとって、同業他社と情報共有や意見交換を積極的にする考えはありません。競争相手ですから、むしろ情報は隠すのがアタリマエの感覚です。
しかし、今の若者は就職活動のときから、情報をシェアしていて、就職後もその仲間で集まって勉強会などを開いていたりします。彼らにとって同業他社は競争相手というだけでなく、同じ目的を目指す仲間でもあるという感覚に驚き、ある意味、視点が高いと感じさせられました。
また、そうした勉強会や意見交換の場では、相手の意見を否定することはほとんどありません。いわゆるSNSの「いいね!」文化です。
「仲間や同僚とも鍛え合うべき」という私世代の価値観からすれば、「いいね」ばかりで、意見をぶつけたり戦わせようとしないことに物足りなさを感じていました。
しかし、「VUCAの時代」*2という言葉に象徴されるように、これまでの経験則が生かされず、正解のない今のビジネス環境では、相手の考えを否定することなく新しい情報や意見をどんどんシェアしていくという若者のほうが強いのではないかと思うようになりました。
*2:「Volatility(変動性)」「Uncertainty(不確実性)」「Complexity(複雑性)」「Ambiguity(曖昧性)」という4つのキーワードの頭文字をとった、現代のビジネス環境の特徴を表した言葉。
VUCAの時代、過去の成功体験は通じない
――VUCAのビジネス環境を実感することが、桑原さんご自身もあったということでしょうか。
桑原 はい、当社の営業も良い例です。以前は、商品・サービスをいかに数多くのお客さまに訪問し提案するかの件数が重要でした。「とにかく訪問100件」が成功につながり、そうした経験の多い上司が、部下に経験をもとに指導すればよかったのです。
しかし、今はお客様の要望は高度化・多様化していて、ただ件数をこなしても成功につながらないことはもちろん、経験豊富な上司でさえ、お客さまの期待に応えるのは難しくなっています。
以前より成果を出すのが難しいという状況で、業績のプレッシャーもある上司も非常にストレスフルです。
こうした状況では、社内競争を意識して個人で頑張るよりも、社内外にこだわらず、さまざまな人と仲間意識でつながり、最新情報やノウハウをどんどんシェアして、試行錯誤をしながらより良いやり方を模索する。つまり若者の価値観である「支え合う」職場のほうがいいのではないか、と思い始めたわけです。
「いいね」と言うだけのぬるく見えた若者のコミュニティには、所属組織にとらわれずに学び合おうという視点があり、場には自分が否定されないという「安心感」があります。否定されない安心感と、「一人ひとりの考えや価値感を尊重する」スタンスが混ざりあつことで、新しい発想やイノベーションが生まれやすくなるんだと気づいたとき、私は若者はむしろ「学ぶ」相手だと思うようになったのです。
「安心感」と「安全」の職場がトライを引き出す
――「安心感」は「失敗したくない」という傾向が強いという若者たちに、トライを促すヒントにもなりそうですね。
桑原 そのとおりです。私たちは2005年くらいから、新人たちがのびのび育っている職場を調査し続けた結果、そうした職場には「何を言っても受け止めてくれる」と言う「安心感」や、「今はうまくいかなくてもいつかできると信じてくれている」という「信頼感」がある、ということが分かりました。
こうした安心感や信頼感が土台となって、トライや自由な発想、コラボレーションが生まれるのです。若者に「やる気」や「能力」がないのではなく、ダメ出しなどの厳しさには慣れていないゆえに「不安や恐れ」を感じてしまい、本来持っている力が出ていないだけなのです。
そうしたことを裏付けるものも出てきました。それは、社員が自律的に行動する次世代型組織モデルとして話題になった「ティール組織」における「安心・安全」への言及や、パフォーマンスの高いチームのカギとして昨今注目されている「心理的安全性(psychological safety)」という概念などです。
また、若者に限らず「失敗」に対して、多くの日本人はネガティブに捉えすぎだと思います。私は、サッカーの本田圭佑氏の「(日本と違い)世界では、失敗は次の学びやイノベーションにつながるからと肯定的にも捉えられる。日本でも失敗の定義を『何かにチャレンジした人』に変えたほうがいい」という趣旨の発言に非常に共感します。
上司世代も、たくさん失敗をしてきているはずです。ですから、100件訪問して営業成績を上げたという成功体験だけでなく、「新人の頃は、こんなミスをした」といった失敗談こそ、たくさん、若者へ伝えてほしいですね。そうした等身大の関わりが、若者の安心感につながり主体的なトライが生まれていくと思います。
「上下関係」の呪縛は若者と接することで克服する
――桑原さんは、若者に対して「学び」があると気づかれたわけですが、そうしたことに抵抗感がある、という上司世代の方も多いのではないでしょうか。
桑原 日本には、たった1年の差でも、先輩後輩といった年齢の「上下関係」意識が根強くあります。そのため、「上」の者が「下」の者に学ぶ、ということに強い抵抗感があるのだと思います。言葉遣いやマナーなど、ビジネスの基本が未熟な部分があれば、なおさら教えるモードになりがちです。
しかし、最近の強いスポーツチームを見ると、先輩後輩の関係はとてもフラットです。中には、先輩が雑用をして下級生の練習時間を増やすことで常勝軍団になったチームもあります。企業に限らず、年齢の「上下」にこだわっていては強いチームは作れなくなっていくと思います。
――どうすれば、抵抗感をなくせるでしょうか。上司世代の方へアドバイスをいただければと思います。
桑原 一番良い方法として、どんどん自分から若者の中に飛び込み、若者と接していくことをお勧めします。たとえば私は今、NPO法人青春基地で、大学生(若者)が高校生(若者)に教育を届ける活動に参加しています。
生徒たちの想いやよいところを引き出し自発的なトライを生んでいくという目的は私たち企業と同じですが、その教育論や考え方にはとても新鮮なものがあり、私にとっては毎回が「学び」の宝庫です。
経験豊富な上司世代であっても、これまでの知識や経験則で今後のビジネス環境を生き残れると自信満々な方は少なく、新しい学びが必要、ということには薄々気づいている方が多いと思います。
だからこそ、もし若者の言動に自分たちの常識とは違うという「違和感」を感じたら、それを「好奇心」に変え、学びにつなげてみてはいかがでしょうか。「訪問件数に意味を感じません」というメンバーがいたら、「これだから今の若者は・・・」と諦めたり、頭ごなしに叱るのではなく、「どうして?」とフラットに問いかけてみると、その答えには意外な学びのヒントがあるかもしれません。
これは、若者に迎合するという意味ではなく、お互いのよいところから学び合おうということです。それが、上司世代を成長させてくれるヒントにもなると思います。もちろん、若者に対して教えることもたくさんあるでしょう。ですから、上司世代にとって若者は、教える相手であり、学ぶ相手でもある。それは若者も同様です。
若者と上司世代がお互いに学び合えば、非常に強く愛着もわく組織が出来上がると思います。そしてそれは、この先の見えない時代に、幸せに働くということにもつながるのではないでしょうか。
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/55590
http://www.asyura2.com/18/social10/msg/143.html