イスラエル軍がヨルダン川西岸のカルキリヤとトルカレムの2自治区から9日未明に撤退したのは、ブッシュ米大統領による再三の撤退要請を受けて、米国の顔を立てた形だ。「即時撤退」を実施してみせることで、ジェニン、ナブルスなど、なお戦闘が続いている自治区での軍事作戦を継続する時間稼ぎをする狙いと見られる。
イスラエルは「米国の圧力ではない」として、あくまで両自治区での軍事作戦の終了に伴う撤退であることを強調している。その意味では、「聖誕教会」の立てこもりが続いているベツレヘムやアラファト議長を議長府に監禁しているラマラなどで、イスラエルが簡単に折れる可能性はなく、国際社会が求める全面撤退にはかなりの時間がかかりそうだ。
またカルキリヤとトルカレム両自治区は、ともにイスラエル国境のすぐ近くに位置している。今回の撤退について、イスラエル軍は、軍が両自治区内から出て、自治区外からの封鎖を強める「再配置」としている。
シャロン首相は8日の国会演説で「撤退後にテロを阻止するために緩衝地帯を設置する」としており、両自治区は将来的に、その緩衝地帯に包囲される形になる。両自治区の「再配置」は軍事的には次の段階に進んだことになる。
イスラエルは今回の軍事作戦を「防護壁作戦」と呼んでいる。すべての自治区でパレスチナ武装勢力を制圧し、武器を押収し、さらに封じ込めることを目的とする。軍は3月29日に始めた作戦完了に、「4週間から8週間必要」としていた。
軍は、作戦を中途半端に終えれば、パレスチナ側のテロの報復が起き、軍事作戦の意義が失われると恐れている。しかし、米国の圧力に全く背を向けるわけにもいかない。今後、パウエル米国務長官の現地入りなどをにらみながら、軍事作戦を「加速」させると見られる。時間の制約のなかで、民間人の犠牲を顧みない軍事強硬策がとられる懸念は逆に強まる。(12:54)