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スティグリッツ教授の提言政策批判:事象的な説明は正しいが政策提言は有効なものではない 投稿者 あっしら 日時 2002 年 10 月 21 日 18:35:30:

TORAさんが投稿された『Re: ティグリッツ教授の提言「日本経済の処方箋」NHK−BS「米国型資本主義を越えて」』( http://www.asyura.com/2002/hasan15/msg/796.html )に対するレスです。

TORAさんへということではなく、スティグリッツ教授に論にレスというかたちをとります。
(批判というには実に簡単な内容で恐縮だが...)

関連投稿『「円安政策」や「金融緩和政策」ではデフレを解消できない』( http://www.asyura.com/2002/hasan14/msg/824.html )を事前もしくは事後にお読みいただければ幸いです。
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>[痛みに耐えても状況はよくならない]

実に正しく明快な主張である。
前から説いているが、痛みが少ない「デフレ不況」脱却政策が、もっとも効率的に「デフレ不況」を解消する政策である。


>「潜在成長率を大きく下回る状態がこれほど長期化している点が最大の問題だ。」

人口も現在のところ超緩やかだが増加し、生産性も上昇し、貿易収支も黒字である。
名目・実質ともにマイナスという経済成長は、政策に誤りがあることを示している。


>「デフレの問題は非常に重要だ。日本をはじめ各国の懸念の対象は長らくインフレで
>あり、経済学の思考パターンもインフレを抑制する方途に感心が集中していた。しか
>し、デフレの方がはるかに破壊的効果を伴う。デフレにより年々、負債が実質的に膨
>らんでいくため、黙っているだけでも政府、企業両部門ともバランスシートの内容が
>劣化していく。」

まったく同意。


>【スティグリッツはさらに19世紀末のアメリカにおけるデフレを巡る論争と日本の徳
>川時代における八代将軍吉宗のデフレ対策を紹介している。】

政府貨幣であった徳川期と中央銀行→商業銀行→一般経済主体という貸し出しを通じた貨幣供給システムを同列に論じることはできない、

江戸幕府が商品生産の生産性向上が及ぼすデフレ圧力を貨幣鋳造の変更で抑え込んだのは賢明な政策であったが、それは、江戸幕府が貨幣鋳造者であるとともにその貨幣を使う需要者だったから有効だったものである。


>「昨年、私と一緒にノーベル経済学賞を受賞したアカロフ教授も最近の研究成果の中
>で最適なインフレ率が存在すると主張している。それはゼロ以上の数値であって、ゼ
>ロではない。」

最適なインフレ率が存在するかどうかわからないが、デフレにしないために必要な“生きた”通貨流通量の増加率は存在する。

基本的には、「生産性上昇増加率−輸出増加率−赤字財政支出増加率+退蔵通貨増加率」に相当する通貨流通量の増加がなければデフレに陥る。

>[3%程度の物価上昇を]

>「インフレ目標は興味深い考え方だ。日本で議論されている目標は最低限のインフレ
>率の実現をめざすもので、インフレが行進しないように上限を目標に据えた他国の
>ケースとは異なる。例えば三%程度のインフレ率を目標にするのが良いのではないか。」
>【スティグリッツはデフレ対策のためのインフレ目標政策に明確に賛成の立場である!】

3%のインフレ率をめざすことに異論はないが、それを実現する手段を“見つけられていない”ことが問題である。


>「金融当局がいまだにインフレに対する警戒を解いてないことが驚きでもあり、いさ
>さか不満でもある。問題の焦点はデフレなのだから。」
>【日銀批判。もちろん驚いているのはスティグリッツだけではない。】

日銀が、デフレを問題視し、なんとかデフレから脱したいと考えていることが見えていないないのかもしれない。


>「ゆるやかな金融緩和、つまり少量の紙幣増発はデフレを打ち消す。ゆるやかな緩和
>など不可能だという主張があるが、そんなことはない。少量の紙幣を増発すれば、わ
>ずかだけデフレを食い止められる、それだけだ。目標のインフレ率を実現できるとこ
>ろまで紙幣を増発しよう。こう発想すれば良い。」

日銀は、商業銀行の日銀当座預金残高が10兆円を超えてもなお金融緩和(紙幣増発)政策を採っている。

それがデフレ解消に貢献しない論理(わけ)を探ることが重要な研究テーマであろう。


>「増発された紙幣は消費を刺激せず、インフレにつながるだけだとする、矛盾に満ち
>た主張も一部で見受けられる。消費に回らなければ、どうやってインフレを促進する
>ことになるのか。」
>【日本におけるデフレ対策としてのインフレ目標政策への反対論が混乱していること
>をスティグリッツも指摘している。】

スティグリッツ教授に指摘されているようなアホなインフレ目標政策反対論があるとは知らなかった。


>[金融リストラ 時期が不適当]

>「問題があるのは金融部門のリストラ (事業再構築) だ。短期的には経済が必然的と
>いっていいほど悪化せざるを得ない。」

>「企業が苦境に陥れば不良債権が増大する。ある金融機関が十件の貸し出しを見直せ
>ば、不良債権が五件増えるという具合に、際限のない抗争のような状態になる。その
>果てにリストラがまだまだ徹底していないとの批判を受けることになるが、そもそも
>不況下では十分には実行し得ないのだ。」

>「需要全体を押し上げて企業が利益を上げられるようにする。債務者が借り入れの返
>済をして利益を確保でき、銀行も返済を受けて経営内容が改善するような方策、つま
>りどうしたら成長を刺激できるかを問うべきであって、どうしたら銀行界をリストラ
>できるかを問うては駄目だ。それは永遠に勝ち目のない戦いを挑むようなものだ。」
>【スティグリッツによれば“永遠に勝ち目のない戦い”を好んでいる人たちが日本に
>たくさんいるということになる。】

ほぼ同意。

問題は、インフレ目標と同じで、どういう手法で「需要全体を押し上げて企業が利益を上げられるようにする」かということになる。


>[円安誘導の追い風必要]

>「円レートを引き下げることが、日本経済が成長を取り戻すために追い風になる。日
>本を訪れる外国人の大半は円が過大評価されていると感じている。」
>【なぜか日本にも円安に反対している人たちがいる。】

まず、米国など他の先進諸国がインフレで、日本だけがデフレであれば、円高傾向になるのが経済論理である。

円安誘導にことさら反対はしないが、それが輸出優良企業のバランスシートを改善させるとしても、日本経済の「デフレ不況」を解消させるものではないという理解が必要である。

「円安に反対している人たち」のなかに大手産業経営者もいるということは、この10数年で日本の貿易構造が変わってきたことの反映である。


>「米国は、日本が経済成長を取り戻すことが世界の安定につながり、米国自身にとっ
>ても好ましいことを認識すべきだ。日本の経済が回復していく過程で発生する事態に
>対して、米国は報復してはならない。」
>【アメリカの報復以前の問題として、日本国内でのヒステリックな円安反対論をどう
>するかという問題がある。】

円安ドル高は、日米の産業レベルでは自動車や鉄鋼など限られた分野でしか対立を生まない。(日本の家電などと競争する産業が米国にないからである)

消費者は日本製品が安く買える円安ドル高を望むだろうし、政府調達も日本製品の比率が高いのであればそう望む。

円安ドル高をいちばん嫌うのは、手持ちドル資産の“国際価値”が劣化する国際金融資本である。


>[設備投資も減税で刺激]

>「米国の財務省は日本に対して減税は恒久的でなければ意味がないという浅薄な理屈
>を根拠に、減税の恒久化を求めている。しかし、それだけでは誰も、本当に減税が恒
>久化するとは思わない。むしろGDPに占める公的債務の比率の高さを考えれば、い
>ずれその負債を処理しなければならないのだから、恒久減税などあり得ないと考える
>のが道理だ。」
>【スティグリッツは、今の日本では恒久減税は現実的に不可能だし、効果もないと考
>えている。】

恒久減税ができないという主張は、「デフレ不況」から脱却してインフレ基調に転化できないという主張と同義である。

財政危機もインフレに転化することで危機水準を押し下げることができるのであり、インフレ転化に寄与する恒久減税(低中所得者減税)を行う必要がある。

実質ベースはともかく、名目GDPを450兆円から600兆円へというように拡大していく政策を採らなければならない。


>「時限的な措置の効力を高めるためには二つの方策がある。」

>「まず、第一の方策として消費税を減税の対象にすることだ。これは、経済全体で
>バーゲンを実施するような効果が期待できる。今後二年間は消費税を引き下げるの
>で、その間にどんどん買い物をしてくださいというわけで、これなら疑ってかかる人
>は出ないだろう。」

誤った政策提言である。
消費税減税が終わった3年後の日本経済がどうなるかを考えれば自明である。

“特需景気”の反動で需要が一気に縮小する。企業経営者もバカではないので、そのような時限的需要拡大策にのっかって設備投資を拡大することはしない。(十分なデフレギャップを抱えているから設備投資は必要ない)

2年間の“祭”が終われば、急激なデフレに見舞われることになる。


>「第二の方策として提言したいのは、投資に対する税額控除だ。計画を上回って投資
>を実施した場合に、投資額の一〇、二〇、三〇%相当額を控除する。ここでも消費税
>の場合と同様、次元的な措置は投資財に対するバーゲンとみなせる。これなら企業は
>投資に動く。」

投資減税はある程度は有効だろうが、それに踏み切る企業は、元々設備投資を予定していたところと予定の前倒しにほぼ限られると推測する。


>[アジア経済統合推進を]

>【スティグリッツは「円圈」だとか「アジア共通通貨」のようなトンデモな主張をし
>ているのではない! スティグリッツは、アメリカの保護貿易主義の害から逃れて経
>済発展するための方策としてアジア地域で現実的な多国間協定を結ぶことをすすめて
>いる。スティグリッツによるアメリカのダブル・スタンダードに対する批判は "World
>must fight US steel tariffs" (ST APRIL 26, 2002 FRI) にもある。「世界経済危
>機でわたしが学んだこと」も参照せよ。】

>「日本の近隣国は急速な成長を遂げているのだから、地域統合は日本経済を大きく押
>し上げる効果があるだろう。地域統合が進展すれば、七−八%の成長を続ける巨大な
>中国経済の波及効果を域内のメンバーが亨受することになる。」
>【スティグリッツは日本の一部に見られる“中国の経済発展は脅威である”という考
>え方と正反対の主張をしている。】

アジア経済の統合を日本が主体として取り組めば、日本経済の利益になることは間違いない。
しかし、そのような統合になるためには、「デフレ不況」からの脱却が不可欠である。
そうでなければ、デフレで減少していく利益や価格競争力の維持という“歪んだ”海外進出の影響で日本経済は痛手を被ることになる。


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