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あえて言おう 年金制度はいらない
2009/04/03
原田 泰 (早稲田大学政治経済学部教授・東京財団上席研究員)
最近になってやっと信じてくれる人が増えてきたが、日本のサラリーマンがもらう厚生年金は、夫婦で月23.6万円であり、世界一高い水準にある。 アメリカの年金は、1349j(12.1万円)、イギリスにいたっては524㍀(6.8万円)でしかない。もちろん、これには、現在の円高を反映して外国の年金が異常に低くなっているのだという批判があるだろう。しかし、1j=120円で換算しても、アメリカの年金は16.2万円である。日本の年金は世界一高い。
しかし、多くの人々は、これでも足りないという。私は、大企業の幹部の方々に、日本の年金が世界一高いという話をしたときに、それでも足りないと言われたことがある。大企業のサラリーマンが、現役時代と同じ生活をしようとしたら、もちろん現行の年金では足りない。しかし、年金とは、本来、社会保障制度であって、国家が、高齢者が誰でも、健康で文化的な最低限度の生活を送れるようにしているものだ。それ以上を求めるならば、自分で老後の生活を考えるべきである。
しかも、現行の年金は、現役世代が納めたお金を、退職世代が受け取る仕組みだ。退職世代が現役時代に納めたお金を、退職時になってもらっている訳ではない。年金の保険料率は、1960年には給与の3.5%、70年に6.2%だったのに、80年に10.6%、90年に14.3%、2008年に 15.35%、17年には18.3%まで上がることになっている(18.3%で固定される)。60年に40歳だった人は、3.5%の保険料しか納めていなかったのに、若い世代の14%以上の保険料からの年金をもらったわけだ。これは高齢世代が若年世代から過分のプレゼントをもらう不公平なシステムである。
日本の年金は不公正だ
70年代の後半からは、生活できる年金が支払われるようになった。それ以前に30歳だった高齢者は、年金制度がない時代に、自分たちは親の面倒を見たのだから、自分たちが若い世代からプレゼントをもらうのは当然だと主張するかもしれない。しかし、その主張は、平均としては事実ではない。多少の面倒は見ていただろうが、現在のような豊かな高齢者などいなかった。当時の、成瀬巳喜男監督の映画を見れば、子供たちは自分勝手で、たいして親の面倒など見ていなかったのが分かる。年金という国家の制度によってはじめて、自分の子供はおろか、他人の子供にまで高齢者の面倒を見させることが可能になったのだ。
年金が最低限度のものならば、国民の誰かが高齢者にプレゼントするのは当然である。それが社会保障制度と言うものだからだ。しかし、現行の年金は、社会保障としては高すぎ、しかも、若い人々の負担になっている。
不公平なのは、豊かな人々が、退職後も、現役世代の年金保険料によって豊かな生活を送ることだ。月23.6万円とは、年収280万円ということになる。ここからは年金保険料を取られないから、実質的には年収300万円を超える。非正規労働が増加して、ボーナスもなく、月15万円しか稼げない若者が急増している時、これが正しいことだろうか。
社会保険庁があるから、政府がお金を配ってくれると誤解する。しかし、お金は社保庁からではなく、現役世代から来る。社保庁が、その間にたって、仕事をさぼり、無駄にお金を使ったのは事実だ。しかし、より大きな問題は、高齢者が、現役世代から、納めてもいない年金を得ようとしていることだ。
収入の低い若者が増えたことに、現在の退職世代に責任があることは間違いない。現在の退職世代が現役世代であった時に、経済政策を誤って長期不況をもたらしたか、経営能力が不十分で企業を発展させられなかったか、不況でも解雇できない正社員であったがゆえに新卒の正規雇用を減らしたか、若者を教育し訓練するのに失敗したかのいずれかの理由で、若者は貧しくなったのだ。自分は違う、若者のために立派な仕事を作ったと言う方もいらっしゃるだろうが、現在の高齢世代が、全体として若者を貧しくしたのは間違いない。貧しい若者から年金保険料を取って、豊かな老後を維持することは、誤っているだけでなく、不可能なことになっている。不可能なことなら、一刻も早くやめた方が良い。
年金制度はいらない
そもそも年金制度は必要なものだろうか。歳をとり働けなくなったときの生活保障であるなら、税金で賄えば良い。未納者には年金を払わなくても良いから公的年金制度は破綻しないという学者がいるが、それでは、未納者には歳をとったら飢えて死ねと言うのだろうか。厚生労働省は、生活保護制度を持っている。社保庁がお金を使わなくても、厚労省は未納者を助けるしかない。公的年金制度は破綻しなくても、生活保護制度は財政的に破綻してしまう。
年金支給額を減額して、保険料を税金で賄い、未納者をなくすべきである。こうすればもはやこれは「年金」ではない。保険料による「年金」を廃止し、税によって等しく最低限の生活を保障する「生活保障金」を新設する。消費税であれば誰しもが払う税だから、それを高齢者の生活保障に回すのは公平である。
なお、これまでの消費税導入及び引上げ時には、増税で物価が上がった分を、支給額に上乗せしているが、これでは高齢者は消費税を負担しないことになる。消費税を引き上げた時には、生活保障金支給額の増額をしないことが必要である。
このときに、消費税は増税になるが、同時に年金保険料はなくなっている訳だから、現役層にとって両方を合わせれば増税になる訳ではない。それどころか、生活保障金の支給額は、現在の年金支給額よりは減額するわけだから、両方合わせて減税にすることが可能だ(社会保険料も政府が取る金だから税金と同じ)。社保庁の事務費用も削減できるから、さらに減税することもできる。
そもそも年金、医療などの社会保険制度は、ドイツ帝国の宰相、ビスマルクが19世紀の終わりに作ったものだ。当時は皇帝に批判的な社会主義運動や労働運動が盛んだった。帝国の将来に危機感を抱いたビスマルクが、上層の労働者や中小の商工業者に安心感を与え、帝国への忠誠心を維持するために始めたものだ。過半数の人々が帝国の恩恵を感じれば良いのだから、全員を社会保険制度に加入させる必要はなかった。反対派が少数派であれば弾圧すれば良いのであって、多数派を弾圧するのは軋轢が大きいから、社会保険制度で懐柔しようとしただけだった。
国民全員を保護する皆保険制度を維持しなければならないと言う学者や行政官が多いが、保険制度の由来を考えてみれば、それで全員を保護することなどできないのが当然だ。ビスマルクは、貧しい労働者は保険料を払えないだろうから、未納者が出るのを当然としていた。ビスマルクなら、少数が飢えて死のうとかまわないだろうが、現在の先進国にそんなことはできない。本当に、国民すべてを社会保険の枠組みに入れたいなら、むしろ保険制度を廃止して、税によって国民を保護するしかない。
40年かけて移行せよ
もちろん、すぐに年金制度を廃止することはできない。ほとんどの人が、すでに年金保険料を払い込んでいるからだ。すると、保険料を払った人にはそれに見合った年金を払うことが必要で、移行期間は年金納付期間の40年間が必要となる。
さらに生活保護制度との関係もある。日本は生活保護水準も世界一のレベルにある。たとえば、東京の高齢夫婦の場合、家賃分を含めると19.9万円である。保険料や医療費の負担もない。これは引き下げなければならない。
国家は、最低限度の健康で文化的な生活の保障をすればよい。それ以上の生活をしたいのなら、自分で貯蓄をすれば良いだけだ。インフレや大災害、戦争などによって個人の貯蓄が目減りする危険があるから、国家がより高い水準の年金制度を維持すべきだという議論がある。しかし、金利が自由化されていれば、インフレになれば金利は上がる。80年代、金利が自由化され、日本が長期停滞、デフレ状態にも陥ってなかったとき、金利は十分に高かったことを思い出してほしい。戦争や大災害などで、貯蓄を失う危険は残っているが、年金制度も、その危険から個人を守ることはできない。仮に、戦争によって日本が焼け野原 になってしまったとしよう。そんな日本で働く人々から、高い年金保険料を取ることなどできはしない。取ることができるだけの年金保険料で、高齢者の年金を支給するしかない。そうであれば、個人が貯蓄していても大して変わらない。
年金制度を廃止し、その支給額を減額した上で、税で賄う制度に置き換え、若い世代を年金の負担から解放すべきである。もちろん、人口に占める高齢者の比率が高まり、しかも、その投票率が高いことを考えると、年金支給額の減額やその廃止が難しいことは確かだ。しかし、いくら難しくてもそうすべきである。その理由は、現行制度が不公正なものであり、実行可能なものではないからだ。高齢者は、自ら特権を捨て、とりあえず、今後計画されている年金保険料の引上げを廃止し、集まったお金だけを高齢者に配ることにするべきだ。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/282
前向きに読み解く経済の裏側
老後資金で最重要なのは公的年金
2018/03/26
塚崎公義 (久留米大学商学部教授)
老後資金で圧倒的に重要なのは、公的年金です。今回は、『老後破産しないためのお金の教科書』の著者である塚崎が、公的年金の重要性と心構えを説きます。年金制度の基本的な枠組みをご存知ない方は、本稿を読む前に拙稿「年金制度について15分で学ぼう」をご覧いただければ幸いです。
(maxsattana/iStock)
標準的なサラリーマン夫婦は月額22万円
年金は、標準的なサラリーマン夫婦は月額22万円受け取れます。現役時代の年収により、支払う保険料も受け取る年金額も異なりますので、これは年収約500万円で40年間働いたサラリーマンと、その専業主婦の場合の金額です。
日本人の平均的な生活費は1人1カ月10万円弱ですから、暮らせない額ではありません。多少の不足分は老後のための貯蓄を取り崩すとしても、サラリーマンの老後の生活資金の圧倒的に重要な柱が公的年金であることは疑いのない所です。
サラリーマンは、年金保険料が給料から天引きされるので、未払いとなっている可能性は大きくありませんが、専業主婦については働いていた期間などがきちんと年金の記録に残っているか、確認が必要でしょう。
自営業者夫婦の年金は月額13万円。手続き漏れ等に要注意
自営業者の年金は、サラリーマンほど充実していません。40年間夫婦2人が年金保険料を払い続けても、老後の年金は夫婦2人で13万円程度です。これでは生活できませんから、高齢になっても元気な間は働くことが重要ですし、若い時から老後資金をしっかり貯めておくことも大切ですね。
自営業者は、自分で年金保険料を納めに行く必要がありますから、納付漏れがあるかもしれません。納付漏れについては、後から納付する制度もありますが、完全ではないので、納付漏れをしていると老後に受け取れる年金額が減ってしまいかねません。しっかり納付するようにしましょう。
特に問題が起きやすいのが、自営業者の妻が途中で働きに出て、一定以上の年収を稼いでいた場合です。その間は厚生年金保険料を支払っていたでしょうから問題ないのですが、仕事を辞めたり年収が減って保険料の天引きがなくなったりすると、今度は自分で申告して国民年金保険料を払いに行かなくてはなりません。その手続きを怠っていると、知らない間に年金支払いを怠っていたことになりかねません。
専業主婦の場合、夫がサラリーマンをやめて自営業者(または失業者)になると、自分も年金上の身分が変わりますから、届け出をして年金保険料を納めに行く必要がありますので、これも注意が必要です。
年金保険料の支払い実績は「ねんきん定期便」で確認
上記のように、手続き漏れなどによって支払うべき年金保険料を支払えていない場合や、自分が手続きをしても、年金事務所が手続きを誤っている場合(いわゆる消えた年金問題)などもあり得ます。そうなると、老後に受け取れる年金が減ってしまいます。老後資金の最大の支えである年金が減ってしまっては大ごとですから、年金保険料の支払い記録はしっかり確認しておきましょう。
確認するために便利なのは、年に一度誕生月に送られてくる「ねんきん定期便」です。これには、今まで何カ月間年金保険料を支払ったのかが記されています。サラリーマンの専業主婦は、夫が厚生年金保険料を給料から天引きされた事で自分も国民年金保険料を支払ったことになるので、その期間も記されています。
加えて、50歳以上の場合には、「今のままの所得が60歳まで続いたと仮定した場合に将来受け取れる年金の見込み額」も記されているので、将来の生活の見当をつけるのに便利です。
長生きとインフレに強い公的年金
公的年金が素晴らしい所の一つは、老後資金の最大の懸念材料である長生きに強い所です。年金は保険です。長生きをしてしまい、老後資金が底を突いてしまった人に老後の生活資金を支払うというものです。火災保険と本質は同じなのです。「火事にならなかったら損だから火災保険に入らない」という人は少ないでしょう。それと同じことなのですから、「年金保険料を払っても早死にしたら損だから年金保険料を払わない」などと言わずにしっかり払いましょう。
公的年金の素晴らしい所の今ひとつは、老後資金の今ひとつの懸念材料であるインフレに強い所です。インフレになれば、その分だけ高齢者が受け取れる年金額も増えるので、年金だけで生活する場合にはインフレになっても生活水準が保てるのです。
公的年金は、現役世代が高齢者を支える制度なので、インフレに強いのです。インフレになれば、現役世代の給料が増えるので、現役世代から高額の年金保険料を徴収して高齢者に支払うことができますから。
「将来は年金がもらえない」という心配は無用
一方で、現役世代が高齢者を支える制度であるため、少子高齢化によって現役世代と高齢者の人数比が変化すると、高齢者が受け取れる年金が減ってしまいます。しかし、現役世代がゼロになるわけではないので、「高齢者が年金を受け取れない」ということはあり得ません。専門家たちも口を揃えてそうしたリスクは否定しています。
筆者としては、別の説明も考えています。万が一年金が支払えなくなったら、高齢者からの生活保護の申請が激増し、財政は間違いなく破綻するでしょう。したがって政府は、年金が破綻しないように、万難を排するでしょう。年金以外のすべての支出を削っても、年金の支払いを優先するはずです。
損得を考えても、公的年金はお得です。平均寿命まで生きるとすると、払った年金保険料よりも受け取る年金の方が多いからです。それは、老齢基礎年金(国民年金)の支払い原資の半分が税金だからです。民間保険会社は、払った保険料から保険会社のコスト等を差し引いた残りが保険金として支払われるので、期待値としては払った保険料の方が受け取る保険金よりも多いのですが、公的年金はそうではないのです。
そうした事を総合的に考えると、公的年金は大事にすべきでしょう。若い人はしっかり年金保険料を支払いましょう。手続き漏れで払えていない人も、一部は後から払える制度もありますので、年金事務所に相談してみましょう。
余談ですが、日本政府は借金が巨額だから破産するだろう、と考えている人もいるでしょう。筆者はそうは思いません。拙稿「日本の財政が絶対に破綻しない理由」をご参照いただければ幸いです。もっとも、読者の中には筆者と意見を異にする方も多いでしょうから、そういう方には、米ドルを買うことをお勧めします。日本政府が破産する時には、日本銀行券をドル札に交換しようと人々が殺到してドルが暴騰するだろうからです。
年金の受け取りは70歳まで待とう
年金の受け取りは、65歳からが基本ですが、60歳と70歳の間で受け取り開始時期が選べます。60歳を選ぶと毎回の受取額が30%減り、70歳を選ぶと42%増えます。平均寿命まで生きれば70歳受け取りが得ですし、何より「長生きとインフレのリスクに強い公的年金」が増額になるのは非常に心強いことです。サラリーマン夫婦は、22万円の1.42倍あれば、老後の生活は安心でしょうし、自営業者夫婦も13万円の1.42倍あれば、最低限の生活は何とかやっていける安心感が得られるでしょう。是非とも検討してみましょう。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/12305
消費増税、国民への影響はどれほど?
キャッシュレス化は消費税対策になり得るか
2018/11/06
島澤 諭 (中部圏社会経済研究所研究部長)
高度成長期に確立し、右肩上がりの人口や経済を前提として組み立てられている日本の財政・社会保障制度は、少子高齢化の進行、とりわけ高齢者に占める後期高齢者の割合が増加する「高齢者の高齢化」の進行により、その持続可能性が危ぶまれる状況が続いている。それは、人口ピラミッドが逆立ちすることが見込まれていたにもかかわらず、その抜本的な改革を断行せずに放置した結果、現状ではGDPの2倍に及ぶ政府債務が蓄積してしまっている。
こうした日本財政の危機的状況にもかかわらず、日本政府には莫大な資産があるから増税や歳出削減なしでも財政破綻は起こり得ないとの主張も存在する。内閣府『国民経済計算』を見ると、国と地方に社会保障基金を加えた一般政府に日本銀行や日本学生支援機構、上下水道事業、地方公立病院等公的企業を加えたいわゆる統合政府の連結決算では、金融資産1,800兆円に対して公的債務1,251兆円となっており、両者を相殺すれば財政再建は確かに完了する。しかし、金融資産のうち、公的年金の積立金や公的金融機関から民間企業への貸出し、ODAなどを除くと1,020兆円となり、公的債務が上回る。金融資産の他、社会資本*を売却すればよいとの主張もある。主要な社会資本を外国に抑えられたパキスタン、モルディブ、スリランカなどが債権国のくびきとなっている現状はそうした主張への雄弁な警告となる。そもそも、資産売却で債務を一時的に解消しても、財政赤字体質を放置したままでは元の木阿弥となるのは確実で、財政問題は何ら解決しない。
債務の発生原因は社会保障
日本の社会保障制度はこれまでもっぱら高齢世代を給付の対象とし、現役世代は支える側とみなしてきた。高く持続的な経済成長が続く社会では、すでに引退したか引退間近の世代は、そうした経済成長の恩恵に与ることができず、後世代との豊かさの格差は拡大していく一方である。その場合、相対的に貧しくなっていく高齢者に相対的に豊かになる若者世代が所得移転を行うのは若者世代にとっても負担とはならない。また財政赤字が発生したとしてもマクロ経済や歳入が歳出に合わせてパラレルに成長していくのであれば、財政赤字の累積としての債務残高が経済規模に対して一方的に拡大していくことはないし、経済が拡大している期間においては租税弾性値が歳出弾性値を上回る場合が多く、当初の財政赤字を埋め合わせることが可能となるからである。
したがって、経済成長の恩恵によって放っておいても豊かになる一方で、かつ企業により生活保障を受けていた現役世代に対する社会保障給付よりも経済成長の恩恵から取り残された高齢者により手厚く社会保障給付がなされ、高齢者を優遇することは正義に適っていた。
しかし、経済が停滞し、繰延された負債を担う将来世代が減少していく現局面においては、状況が全く異なる。実際、財務省によれば、特例公債の発行から脱却することのできた1990年度以降歳出を原因とする債務残高の増加額416兆円のうち7割強の293兆円が社会保障を原因とするとされている。つまり、日本の財政問題は社会保障問題と言っても過言ではない。増加する一方の社会保障支出を賄うための収入増加策は不可避である。
*社会資本に相当する生産資産は非金融資産に分類され732兆円(うち防衛装備品9兆円)。それとは別に、地下資源、漁場、国有林等の非生産資産(自然資源)153兆円もある。
しかし、社会保障を支えることが期待されている現役世代の弱体化が続いている。その背景としては、非正規雇用比率の上昇や賃金水準の高い雇用機会の喪失といった経済構造の変化がある。また、当初所得の低迷だけでなく、税制や社会保障制度の恩恵が薄い未婚者の増加等、世帯構造の変化も生じていることが挙げられる。
こうした現役世代の苦境を前提に、政府・与党のみならず野党においても、子供の医療費無料化(窓口負担ゼロ)、最低賃金引上げ、18歳選挙権、待機児童解消策、給付型奨学金導入、幼児・高校・大学教育無償化など、高齢者とともに現役世代重視の全世代型社会保障の充実を目指している。
全世代型社会保障を支えるのは消費税
このように現役世代が貧困化しつつあるからこそ全世代型社会保障が提案されているという事実に鑑みると、現役世代に負担させる従来の仕組みを維持するのには無理がある。「誰もが受益者」である全世代型社会保障を実現したいなら北欧諸国を例に挙げるまでもなく「誰もが負担者」でなければならない。
したがって、全世代型社会保障の財源について、財政当局は、(1)現役世代が減少し、高齢世代が増加することから、特定世代に負担が集中せず、国民全体で広く負担する消費税が社会保障給付の財源にふさわしい、(2)所得税や法人税に比べ、消費税は景気変動に左右されにくく安定している、との理由から、財源を消費税により広く全世代に求める方針としている。
しかし、消費税率の引上げは、税制抜本改革法によって引上げスケジュールが定められている。また、増収分の使途についても、社会保障制度改革プログラム法によって配分が定められているにもかかわらず、実際には、景気後退懸念を理由として、10%への引上げは、2017年4月、さらに2019年10月へと延期されるなど、政治、国民問わず、財政再建、消費増税への拒否反応が著しい。
世代や所得階層で異なる影響
2019年10月の消費税率引き上げが家計に与える影響を試算した(表1、表2、表3、表4)。
まず、所得階層別家計に与える影響を見ると、所得階層が高いほど消費税負担金額や軽減税率導入に伴う負担軽減金額が大きくなっている(表1、表2)。これは所得階層が高いほど消費支出金額も大きいから当然である。しかし、所得に占める負担割合を見ると低所得層ほど、負担率も軽減率も大きくなっている。消費税の負担を金額で評価するのか、所得に対する割合で評価するのかで、まったく逆の見解が生じ得るが、所得に対する割合で評価するのが一般的である。そうした観点から考えると、消費税は低所得層ほど負担(率)が重く高所得層ほど負担(率)が軽くなる逆進的な性質を持つ一方で、軽減税率の導入によって低所得層ほど恩恵を受けることが分かる。
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次に、年齢別消費税負担を見ると、20歳代15.8万円を底として加齢とともに増加し50歳代25.8万円でピークを迎え、それ以降は低下し、70歳代では17.9万円となっている(表3)。60歳以上の高齢世代の負担額が30歳代以下の若者世代の負担を上回っていることが確認できる。また、軽減税率導入に伴う負担軽減額を見ると、若者ほど恩恵が小さいことが分かるが、これは若者ほど食料以外の支出ウェイトが高いことと、新聞を購読している割合が低いことに起因している(表4)。
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以上のように、消費税引き上げは、世代や所得階層といった世帯属性の違いによって与える影響が異なるので、消費増税に賛成するのは高所得・現役世代に対して、高齢世代と低・中所得現役世代は各々反対するインセンティブが働く。後者の方が多数を占めるため、民意に敏感な政治消費税の引き上げに二の足を踏むのももっともなことであるとも言えるだろう。
キャッシュレス経済への移行によるメリット
政府や経済学者は、マクロ経済パフォーマンスに与える影響の面においても、世代間格差に与える面においても、消費増税による財政再建の方がメリットが大きいと考えているものの、実際に消費増税が度々延期されてきたことからも、試算結果からも明らかになったように、国民の大半にとっては消費増税の負担増は大きい。
こうした国民の間にある根強い消費増税へのアレルギーを緩和するため、政府は目下様々な対策を決定もしくは検討中である。
例えば、外食と酒類を除く飲食料品等に対する軽減税率の導入は、大半の経済学者は強い拒否反応を示しているものの、先に見た試算の通り、飲食料品への支出の割合が大きい高齢者や低所得者対策としては効果的であろう。
もう一つ、政府は、電子マネーの普及などに伴い近年キャッシュレス化が進行しているとはいうものの、他の先進国や韓国などと比べてキャッシュレス決済は普及していない現状に鑑み、現時点では、キャッシュレス決済を普及させる狙いで、消費税率の10%への引き上げと軽減税率の導入に伴い、中小小売店舗でキャッシュレスにて買い物をした場合に限り、2%分をポイントで還元する仕組みの導入を企図している。
日常の買い物のキャッシュレス化には、店側では機器の導入コストや様々な手数料などランニングコストが重くのしかかる他、大規模自然災害による停電発生時の取引の確保等課題も多い。しかし、キャッシュレス化は、消費者にとってはATMから現金を引き出す時間や労力など取引コストを節約できるし、小売業者は現金の管理・運搬等にかかるコストを削減できる。さらに、消費者の購買行動に関するビッグデータが取引付随して集まるので、その購買行動を分析することでより効果的な販売活動、ひいては売り上げ増も期待できる。
また、キャッシュレス化の進行によって、大半の商取引が電子データで管理されれば、現金を用いるより遥かにカネの動きが透明化され、脱税やマネーロンダリングなどを抑止できるなど、税務処理の効率化や税収増が期待できる。税収増は当然将来の追加的な増税幅を圧縮させるだろう。
さらに、Moody'sが2016年に公表したカード決済の普及によるキャッシュレス化が経済に与える影響に関する報告書(“The Impact of Electronic Payments on Economic Growth”)によれば、2011年以降2015年まで世界経済全体で毎年740億ドル(日本円に換算すると8兆円強)分のGDPを増やす効果があったとのことである。さらに、キャッシュレス化が1%進むと0.04%ス日本の経済成長を押し上げる効果を持っているとしている。
以上のようなキャッシュレス経済への移行によるメリットを十分に発現できれば、消費税率引き上げに伴うマクロ経済や家計の負担増を軽減できる効果も期待できる。
http://wedge.ismedia.jp/articles/print/14411
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