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(回答先: 年金激減がやってくる「無定年」時代を生き抜く3つの働き方 中高年は「肩書のない余生」に備えよ 投稿者 うまき 日時 2018 年 10 月 05 日 06:20:49)
仕事の自動化が進むとより重要性を増す3つの職種
ジョン・ヘーゲル3世:シリコンバレーにある研究所、デロイト・センター・フォー・ジ・エッジの創設者兼会長。
2018年10月5日
テクノロジーの進化にともない、機械による仕事の自動化が進むことは間違いない。機械に取って代わられる仕事もあるが、その一方で、ますます重要性を増すであろう3つの職務分野があると、シリコンバレーの識者ジョン・ヘーゲル3世は言う。
テクノロジーが経済を変容させていく中、ますます注目を浴びるトレンドがある。我々人間がこなしている仕事を、テクノロジーがいっそう自動化していくだろうという予測だ。
そのリスクにさらされているのは、高い技術を必要としない肉体労働だけではない。運用分析やマーケティングなどの「知識」労働も、高度な人工知能アルゴリズムに取って代わられつつある。
その一方で、別の変化も生じている。仕事の人間的側面がより重要になるような変化だ。
たしかにテクノロジーは、大勢の労働者のルーチン業務を奪っているが、それと同時に、グローバル市場を動かす多くの需給動向も変化させている。この後者の変化によって、自動化による仕事の消滅を防ぐことができるのだ。
ただし、仕事の性質は変わることになる。
テクノロジーによる市場の再編
需要側では、テクノロジーは消費者に、かつてないほどの力を与えている。消費者は利用できる選択肢について膨大な情報を持ち、ニーズが満たされなければ、いとも簡単に供給業者を乗り換えることができる。また、多くの人は要求が高くなっている。特定のニーズや状況に合わせたニッチな商品を探すことがはるかに容易となり、標準的な大衆市場向けの商品で我慢しようという気がなくなっているのだ。
供給側にとってのさらなる課題は、人々が所有モデルから従量課金モデルに移行しつつあることだ。利用状況を監視する技術によって、製品やサービスを実際に使った分だけお金を払うことが可能となったためである。
たとえば、いくつかの保険会社は自動車の診断ポートに小さな無線デバイスを接続し、走行距離に基づいた保険料の支払いを可能にしている。このため、たまにしか車に乗らない人は、もっとひんぱんに車を利用する人々の保険料を賄うことなく、手頃な価格でフルカバーの保険をかけることができる。人々は、形ある製品への出費を減らす半面、人生を豊かにしてくれる有意義な体験に目を向け、お金を投じる傾向が高くなっている。
広告ブロック機能のようなテクノロジーを使って、広告の洪水を避けている人も多い。したがって、企業は注意を引くために消費者に介入するのではなく、消費者が探し求めたくなるほどの充実した価値とサポートを提供する必要がある。
たとえば、ある調査によると、米国のインターネット利用者のうち広告ブロック機能を使っている人の数は、2014年から2018年の間にほぼ倍増し、利用者全体の3分の1近くに達している。広告ブロック機能の利用は、もっと根本的なトレンドを示す1つの兆候だ。それは、企業に限らずあらゆる機関に対する、信頼の低下である。機関は自分にとって有益ではない、と考える人が増えているのだ。
供給側では、概してテクノロジーは製品オプションの拡大と、製品ライフサイクルの短縮に寄与している。
積層造形(3Dプリンティング)のような技術により、小規模なオーダーメード製品の製造が容易になることが多い。大がかりな製造施設をいまだに必要とする製品の場合でも、小さな供給業者は大規模な委託製造業者と容易に連携し、製造活動を遠隔で調整することができる。
さらに、新製品の選択肢が急激に広がり、消費者が入手できる情報が増えたことも、製品ライフサイクルの短縮につながっている。新製品がより迅速に市場に投入され、従来の成功している製品に挑むからだ。
その結果、何が起きているのだろう。ますます多くの市場において、標準化された大衆市場向けの製品・サービスは、高度にカスタマイズされた創造的な製品・サービスへと急速に取って代わられようとしている。
消費者とは、見分けのつかない「顧客」という一群ではなく、進化する個々のニーズを持った1人ひとりの人間であり、それらのニーズを理解して対応できるかが、自社の成否を左右する――この事実を、供給側はますます意識させられているのだ。消費者を広告で邪魔するのではなく、その高い有益性が口コミとなり、消費者から求められるような企業にならなければならない。
仕事はどう変わるのか
この結果、仕事の性質は2つの面で大幅に変化すると思われる。
第1に、標準化された、大衆市場向け製品の世界における仕事を特徴づけるルーチン業務は、ますます機械に取って代わられるだろう。
第2に、より差別化されて急速な変化を続ける製品の世界で、価値を生み出す唯一の方法は、根本的なレベルで仕事を再定義することである。つまり、好奇心、想像力、創造性、感情的知性、社会的知性といった、人間特有の能力に重点を置いて職務設計をするということだ。
激しく変化する経済では、一般に、3つの仕事分野がいっそう重要になるだろう。
第1に、「クリエイター」の仕事が増えてくる。クリエイターとは、個々の消費者の急速に進化するニーズを予測し、創造的かつ高度にカスタマイズした製品・サービスを設計して、提供できる人材だ。いろいろな意味で、いまビールやチョコレートの分野ですでに起きているような、クラフト・ビジネスの復活を目にすることになる。これにより、たとえば木工や編み物などの趣味を生かし、より深く継続的に顧客とつながって生計を立てる人々が増えるだろう。
第2に、「コンポーザー」の仕事の分野が増えるだろう。これは、ニッチな顧客の願望とニーズを熟知し、彼らにとって魅力的かつ実り多い一連の体験を「組み立てる」という仕事だ。顧客の興味が形ある製品の所有から、意義深く記憶に残る体験の探求へと移るにつれ、この分野は成長し、ますますやりがいのある仕事になるだろう。
こうした体験は、アートギャラリーや近所の庭をめぐるツアーから、他者とより豊かに深くつながるための交流体験まで、多岐にわたる。たとえば木工職人なら、同業者を集め、経験を共有し、互いに刺激し合うことができるだろう。
最後に、3つ目の重要な分野となるのは「コーチ」の仕事である。これは、さまざまな領域で顧客が潜在能力を発揮できるように、手助けする仕事だ。現在、初期の兆候として見られるのは、顧客の健康維持と身体能力の向上をサポートする「健康コーチ」の増加だ。
人々が潜在能力をより発揮したいと望むようになるにつれて、多様な分野でますます大勢のコーチを目にするようになるだろう。たとえば、デートや人間関係、旅行、娯楽、金融、生涯学習などだ。ガーデニングや、服装やメークによるクリエイティブな自己表現を手助けするコーチングも必要とされるかもしれない。
その結果、何が起こるだろうか。今日の多くの仕事を特徴づけるルーチン業務を、人間が行う機会は減り続けるだろう。その理由の1つとして、機械は人間よりもはるかに優秀にルーチン業務をこなせることが挙げられる。
しかし、より説得力のある理由は、一般的に顧客の要求がますます高まりニーズが変わる中、ルーチン業務は、企業に求められる価値創造に段々とそぐわなくなるからだ。仕事の重点は、機械には真似が難しい、より人間的な能力を問われる活動へと移っていくだろう。
実際、我々人間のニーズは尽きることを知らない。食住の最も基本的なニーズが満たされるや否や、人はより高い目標を設定するのが通常であり、人間としての潜在能力をより多く発揮する方法を探し始める。
ここに、素晴らしい真実がある。人間としての潜在能力をもっと発揮したいというニーズこそまさに、人間にさらなる潜在能力を発揮させる形での仕事の進化を促す力となりえるのだ。今後現れるそうした新しい仕事では、大学の学位は必要ないかもしれない。しかし、他者とより豊かで意義深い方法でつながる情熱と願望が問われるだろう。
この変化は間違いなく、困難を伴う。私たちは、仕事やビジネスに関する、最も根本的な前提を疑ってみなければならない。たとえば、企業は従業員をコストと捉えるのではなく、拡大し続ける価値を生み出せる資産と見なす必要がある。現行の効率重視の姿勢を見直し、急速に変化する顧客ニーズに対応するために学習を重視するという姿勢を、歓迎する必要もある。
要するに、テクノロジーによって、こうした課題に取り組む人々が報われる市場原理が広がり、それを無視する人々は主流から外れることになるのだ。
そして、テクノロジーは人間から仕事を奪い、人間性を押し潰すどころか、さらなる潜在能力を発揮できる仕事や活動に目を向けるチャンスを与えてくれる。これほど素晴らしいサービスは、ないだろう。
HBR.ORG原文:3 Kinds of Jobs That Will Thrive as Automation Advances, August 21, 2018.
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ジョン・ヘーゲル3世(John Hagel III)
シリコンバレーにある研究所、デロイト・センター・フォー・ジ・エッジの創設者兼会長。シリコンバレーに長らく在住し、著述家としても活躍。ジョン・シーリー・ブラウンおよびラング・デイブソンとの共著『「PULL」の哲学』(主婦の友社、2011年)など、7冊の著書がある。
http://www.dhbr.net/articles/-/5542
日本企業のオープンイノベーションに
欠けているもの
諏訪光洋:ロフトワーク代表取締役社長
2018年10月5日
連載初回では、BMWの事例を取り上げながら、オープンイノベーションにおけるコミュニティがもたらす効果について触れた。コミュニティの具体的な構築、運営方法に入る前に、今回はオープンイノベーションを成功に導くために最も必要な考えである「欠乏しているリソース」のとらえ方について考えてみたい。そこには日本の大企業でオープンイノベーションが上手くいかない理由が隠されている。アップルによるスマートウオッチの事例を交えながら考察しよう。
オープンイノベーションは難しい。一度でもそのプロジェクトを任された人であれば、その設計から運営まで、思い通りに進まなかったことばかりが頭に浮かぶことだろう。さまざまな方法論を見たり、他社との交流を図ってみたりしても、思うような成果が出ない……なぜ、うまくいかないのか。原因の一つは、「オープンイノベーションのそもそも論」が欠けているせいだ。まずは「コミュニティファーストの戦略論」を話す前に、この点について整理しておきたい。
日本企業のよくある問題として、新規事業をあまりにも「大きな市場」から考え過ぎてしまうことが挙げられる。大企業で散見されるのは、最低でも数百億円規模のビジネスに成長させるロードマップを求められることだ。特に売上高1兆円を超えるような企業であれば、数十億円の規模への期待値では事業として認められない。既存事業の効率化や拡充で達成できてしまう数字のため、新規事業としてリスクをとりながら進める意義がなくなってしまうからだ。
だからこそ、大きな市場を主語にした参入を検討する。例えば、60兆円超えの自動車ビジネスに参入したいから、自動車メーカーと一緒に新しいソフトウエア開発ができないかという発想になる。あるいは「10兆円の介護ビジネス」を対象にして、介護ロボットの実装などを考え始める。しかし、それは市場を古い携帯電話で撮影した画像のような、粗い解像度で捉えたにすぎない。新規事業を見つけるには、より鮮明な解像度で問題を捉え、現場の実態に寄り添う必要がある。肝心なことは、もっと小さなイシューから始めることだ。
2000年以降に急成長した新規事業は「インターネット」を活用することが特徴に挙げられる。インターネットを通じてサービスをアップデートすることが可能であり、他の企業やサービスと連携しやすくすることで、グローバル市場への進出が容易となった。さらに、関係する企業、サービス間で相互にデータの受け渡しができる点も有用に働く。
こうした環境下では、つい大きな市場をターゲットにしたビジネスを設計しがちだが、世界を動かしてきた事業は、たった1つの技術や小さな仕組みからスタートすることがほとんどである。「小さく、面白く、意義あること」が基点となり、その基点が他社を巻き込んで拡大していく過程で、新規市場そのものが大きく、強くなっていく。これは後述するが、Apple Watch(アップルウオッチ)などのスマートウオッチ市場も1兆円規模に届こうかとしているが、それは小さな問題解決から始まったエコシステムが巨大化したからこその成果なのである。
10兆円の介護ビジネス市場に展開できるアイデアがあったとしても、まずは「50億円規模の高齢者見守りカメラ市場」のシェアを完璧に押さえる問題解決を設計することが重要だ。その小さな領域での圧倒的な競争力が、グローバルなパートナーとの関係を生み、思いもよらない技術との連携を成立させる。10兆円の市場を見据えるには、こうした周囲の動きを導き出せるイシューをつくれるかどうかにかかっている。
「欠乏」を見つけられなかった
日本企業
イシューの発見と解決につながるイノベーションを起こすためには、大きく2つの要素が必要になる。ヨーゼフ・シュンペーターが定義した「新結合」の発想と、それをつなげる実際の活動だ。オープンイノベーションを企業が実践する動機を端的に言えば、イノベーションを発生させるリソースが社内に不足しており、社外にその「出会い」を求める必要があるからだろう。新結合と活動を一挙に起こそうというわけだが、実は多くの企業において、ある観点の検証が足りていない。
それは「自分たちに欠乏している能力の見つけ方」である。
例え話を1つしよう。あなたは原始時代に荒野を1人で生きている。すると、自分の足の速さも強みもわからない。もし、5人のチームになれれば、相対的に「自分の優れている能力」や「欠けている能力」にも気付けるようになる。一方で、あなたのいるチームにとって「不足している部分」も、他のチームと比べることで浮き上がってくる。つまり、欠乏している能力や不足しているリソースというのは、外部との比較によって発見できるのだ。この「欠乏」をオープンイノベーションによって補い合うことで、お互いにとってメリットのある取り組みが成立していく……というのが、全ての前提となるのである。
欠乏を見つけられなかった痛手を、日本企業はすでに知っているはずだ。2000年代前半、日本の大企業は世界のIT革命から取り残され始め、イノベーションと活力を失っていく。しかし、多くの日本企業の重役からは「すでに優秀な人材は社内にいる。素晴らしいプロダクトも生み出せるはずだ」と、私自身も何度となく聞かされていた。
時は、アップルの絶頂期が近づきつつあった。ソニーが誇っていた携帯型音楽プレーヤーの市場に、スティーブ・ジョブズはiPod(アイポッド)をぶつける。音楽の権利を持っているレコード会社、ダウンロードと管理を行うiTunesというソフトウエア、独自の著作権管理システムがひも付く「垂直統合」は一気に市場を席巻。日本企業にも「垂直統合モデル」への夢を見させた。それは同時に、自社あるいは自社グループへの「閉じた」モデルへの志向を生み、前述のような自社内の才能や技術への過信も深めていった。
特にインターネットにまつわるオープンな技術やUX(顧客体験)デザインを、多くの日本のエンジニアや経営者は重要視せず、社内への導入に失敗した。ある大手企業から聞いた「たかがWebですから」という言葉も、私の耳には残っている。現在、「たかが」と言われたWebテクノロジーが、この20年間のイノベーションにおいて果たした役割を否定できる人はいないだろう。グーグル、フェイスブック、あるいは時価総額として世界トップに輝いたアップル。あらゆる分野でのイノベーション、コードやリポジトリの管理、クラウドベースのワークスタイルなども含めれば、この20年間でWebテクノロジーと「無関係な」急成長企業を見つけることは、ほとんど不可能といえるほどだ。
2000年代前半における日本企業の多くに、Webの知見を持つエンジニアやデザイナー、あるいはその未来を感じることができる人材は、明らかに欠乏していた。そして、その欠乏がどれだけ致命的な遅れをもたらすかを把握していなかった。後になってみると理解はできるが、多くの場合で「何が不足しているか」は、その組織だけを見ていると把握しづらいものである。現在、日本企業の経営層がオープンイノベーションの必要性を把握し、「自前主義」からかじを切りつつある背景には、この致命的な遅れへの反動もあるといえるだろう。
対話から生まれた
アップルウオッチのエコシステム
欠乏への向き合い方によって、オープンイノベーションはあっけなく失敗する。よくあるケースとしては、欠乏を埋めるためだけに安易なコラボレーションを仕掛けてしまうことだ。自社の持つリソースと親和性の弱い市場に、M&Aなどで参入しようとする例など、失敗例は多々ある。
具体例な成功例に話を移そう。欠乏を埋め合うことで市場そのものを拡大していった例として、アップルウオッチの取り組みが参考になる。かつてはアイポッドの「垂直統合」で成功を収めた彼らも、アップルウオッチでは発売の10ヵ月前に商品の仕様や技術を公開した。結果的には、事業がオープンする段階で2000ほどのアプリケーションが出そろい、エルメスやナイキといったコラボレーション相手も得て、充実のデビューを飾ったのである。
企業コラボレーションは、アップルにとって欠けていた分野を補う方法としてふさわしかった。高級嗜好品のジャンルでエルメスがベルトを制作し、スポーツのジャンルではナイキとのコラボレーションモデルを生んだ。ナイキにとっては、心拍数などの生体データが取れるウエアラブルデバイスの知見は、自社ビジネスにも直結するうま味がある。アップルが作り出したエコシステムに参画し、その規模が拡大していくことで、自社のビジネスも拡大させられる可能性があるのだ。
アップルウオッチには製品発売よりも先んじて、商品仕様と技術のオープン化と得られるデータへの期待によるコミュニティがあった。あらゆる業界から参画した人々との対話を通して、アップルは自らの欠乏を発見し、その視点からプロダクトが生まれた。だからこそ、自社だけでは提供し切れない有益なアプローチが可能になった。アップルだけでは、デビューと同時に2000ものアプリケーションを用意することなど、不可能だったろう。また、資本提携などを経た構築済みの関係内における事業連携だけでは、自らの欠乏を見つけ出すには不十分で、予定調和に終わる可能性も高かったはずだ。
このことからも学べるように、オープンイノベーションにおいて目標とすべきはコラボレーションそのものではなく、まずは10社や20社と参加してくれるようなコミュニティをつくることにある。それにより、多様な視点から欠乏に気付いていき、エコシステムが拡大していく。
また、コミュニティでは、プロダクトを共同開発するよりも、それぞれが有機的につながりながらも、企業ごとにビジネスを作り上げていく方が良いだろう。エルメスならアップルウオッチのベルトを、ナイキならコラボレーションモデルやアプリケーションを売る。エコシステムの中でビジネスをつくることで全体の収益が上がり、その市場自体が拡大していくのだ。
だからこそ、オープンイノベーション、そして私の提唱する「コミュニティファースト」が日本企業における新戦略となったとき、2000年代前半に止まってしまった時計の針が動きだすと信じている。
アップルの例ではイメージがつきにくいようであれば、もっと個人的な体験に置き換えてみるとしよう。あなたはハッカソンに参加したことがあるだろうか? 少なくとも存在は知っているかもしれない。
ハッカソンをかいつまんで言えば、ある一定のお題に対して、異なる強みを持つ数人から成るチームで、短期間で開発したアイデアやプロダクトを競うイベントである。前述した「原始時代の例え話」と図式は同じだ。ハッカソンに参加していると、チームあるいはあなた個人の「優れた能力/欠けている能力」に気付くことがある。そして、その気付きこそが大切なのだ。特に欠乏に気付いた瞬間に、あなたはこれまでの生活から想定できないリソースとの新たな関わりを、意識するようになるだろう。ハッカソンはオープンイノベーションのトレーニングとしても有用なのである。他にも、デザイン思考やワークショップなど、気付きのための手法は開発されてきている。
本稿もまとめに入る。オープンイノベーションの成立には、当事者意識を伴うイシューを発見することが不可欠である。市場規模ありきではなく、周囲が関わりたくなるような問題解決からエコシステムをつくること。そして、そのイシューを適切に発見するうえでコミュニティは役に立つということである。
次回から戦略的にコミュニティを運営し、いかにイノベーションの実践につなげるか。その方法について、紹介していく。
http://www.dhbr.net/articles/-/5540
現代ビジネスマン必読の書、
『ジョブ理論』とは?
「イノベーションのジレンマ」の著者が提唱する新理論を学ぶ
松ヶ枝 優佳/2018.10.3
「イノベーションのジレンマ」で有名なハーバード・ビジネス・スクールのクレイトン・M・クリステンセン教授(以下、クリステンセン教授)が新たに提唱する「ジョブ理論」が語られた『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』(ハーパーコリンズ・ ジャパン、2017年8月)が反響を呼んでいる。これまでの著作はやや経営者向けの内容だったが、本作はマーケターを筆頭に「顧客から選ばれるサービスや製品を生み出したい」と願う多くのビジネスマンから注目されているのだ。
「データ至上主義」に陥りがちな従来のマーケティング手法に一石を投じる「ジョブ理論」のポイントを学んでいこう。
「イノベーションのジレンマ」とは
ジョブ理論についての説明に入る前に、クリステンセン教授の代表作『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』(翔泳社、2001年7月)で語られている理論について押さえておく必要がある。
タイトルでもある「イノベーションのジレンマ」という理論は、成功した企業ほど市場を一変させる「破壊的技術」やそれによるイノベーション(破壊的イノベーション)が起こった際に対応することができず、イノベーション競争に失敗してしまう現象を指す。
ある分野で成果を上げている優秀な企業は、顧客の声に耳を傾け、求められる価値を提供する仕組みが社内に出来上がっている。これにより、既存顧客の声に応えて既存技術を進化させる「持続的イノベーション」へは対応できるのだが、破壊的な技術によってもたらされる「破壊的イノベーション」には対応できない。
というのも、破壊的技術は登場当初、既存の製品やサービスに比べて価格は低いが質も低い。それらが創造するのは、既に成功している企業からしてみれば既存顧客からは求められていない上に利益率も低い市場となるため、参入への魅力を感じづらいのだ。
しかし、既存技術の進歩はある段階で市場の需要を上回ることがある。そうした中で登場した破壊的技術は、性能が低くともローエンド層を中心とした新たな顧客を着実に獲得していくし、いずれは性能面でも既存技術を上回ってしまう。真摯に顧客の要望に応えていたはずの既存企業はいつのまにか既存顧客まで奪われ、市場の勢力図が塗り替えられてしまうのだ。
図1:持続的イノベーションと破壊的イノベーションの影響(『イノベーションのジレンマ 増補改訂版』より)
携帯電話市場やPC市場を「破壊」した(のちにスマートフォン市場を創造した)iPhoneの歴史を振り返ると、この「破壊的イノベーション」理論は理解しやすいだろう。しかし、この理論だけではイノベーションの生み出し方や市場の作り方、ヒット製品の予測方法を知ることはできない。それを可能にするのが今回の「ジョブ理論」なのだ。
「ジョブ理論」とは何か
「ジョブ理論」の最大の特徴は、人が製品やサービスを購入する(本理論ではプロダクトを“雇用する”と捉えている)のは「何らかの“ジョブ(用事、仕事)”を片づけたい」からだ、と捉える点にある。「何かを食べたい」等の漠然とした「ニーズ」とは異なり、「ジョブ」とは「ある特定の状況で顧客が成し遂げたい進歩」と定義されている。
「片づけるべきジョブ」を理解すれば、「バター対マーガリン」等の類似製品や業界に留まらない「真の競争相手」も見えてくる。次の例を見て欲しい。
オフィスで働く喫煙者にとって、タバコは「ニコチンを摂取したい」という機能面と「リラックスしたい」という感情面のメリットだけでなく、「仕事に区切りを入れて喫煙所で仲間とくつろぐ」という社会面でのメリットも享受できる。こうした観点から見ると、仕事の合間にログインすることでリラックスし、ネットを介して友人達と雑談できるFacebookも、「タバコと同じジョブを巡り競い合っている」と言えるわけだ。
ジョブ理論で重視されるのは「誰が」や「何を」ではなく「なぜ」を考えることだ。様々な知見を集め、それらが密接に絡み合ったストーリーを理解することで、数字やデータだけでは分からないイノベーションの種を見つけ出すことができる。
ジョブ理論がよく分かる「ミルクシェイク」の事例
次に、有名な「ミルクシェイク」の事例を見てみよう。
あるファーストフード・チェーンがミルクシェイクの売上げを伸ばすため、潜在的顧客のプロファイルに合致する層に対して値段や量、味等についてのアンケートを取り、その結果を基に様々な施策を行ったが、売上に変化はなかった。
そこで今度は「来店客の生活に起きたどんなジョブ(用事、仕事)が、彼らを店に向かわせ、ミルクシェイクを“雇用”させたのか」という切り口で課題の解決を試みたのだ。
その結果、ミルクシェイクは早朝「仕事先まで、長く退屈な運転をしなければならない」というジョブを抱える顧客、つまり通勤中の空腹を紛らわせたい顧客によく売れていることが分かった。なお、これらの客に人口統計学的な共通要素は見つからなかった。
さらに、このジョブをより適切に片づけられるライバル製品はこれといって存在しないことも判明した。バナナだとすぐに食べ終えてしまうし、ドーナツではくずが落ちる上に手が汚れてしまうといった具合だ。ミルクシェイクなら飲み終えるのに20分ほどかかる上に、容器を車のカップホルダーにぴったり納めることができる。
一方で、小さい子どもを持つ父親が「子どもにいい顔をして(ミルクシェイクを与えることで)やさしい父親の気分を味わう」というジョブも考えられる。この場合、ミルクシェイクの競争相手は玩具店に立ち寄ることや、子どもとキャッチボールをすること等となるだろう。
通勤客のジョブに沿った施策として、より濃厚なミルクシェイクにしてフルーツやチョコレートを足すなど、できるだけ長い時間顧客を退屈させないための工夫ができる。一方、後者のジョブに対しては子どもでも飲みきりやすいハーフサイズを用意するなど、前者とは全く違ったアプローチが考えられる。
2つのジョブは「ミルクシェイクを選ぶ」という結果こそ同じだが、そこに至る基準は全く異なり、それに対する施策も全く異なる。数字や顧客の属性にばかり固執していては、「最大公約数」的な製品やサービスしか生まれずイノベーションを起こすことはできない。
ジョブを見つける方法
顧客のジョブを正確にとらえることができれば、イノベーション成功への道筋が開かれる。前掲の『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』では多くの事例を交えながら、従来のデータ分析のみでは見えてこない顧客のジョブや、その解決策を見出し、イノベーションを起こすためのヒントが書かれている。
詳しくは本書を一読いただきたいのだが、ここではより実践的な内容として、第4章で述べられているジョブを見つける5つの方法の概要を紹介しておきたい。自身のビジネスに使えないか、考えながら読み進めてみていただけると幸いだ。
1.生活に身近なジョブを探す
市場調査に頼り切らず、自分の生活の中にある「片づけるべきジョブ」を探すことでイノベーションの種を見つけることができる。自分にとって重要なことは、他人にとっても重要なことである可能性が高いということだ。
2.無消費と競争する
「無消費」とはジョブを満たす解決策を見つけられず、何も雇用しないことを指す。自社製品も競合製品も“雇用”していない人々に着目することで目に見えない需要を見出し、可能性が無いと思われていた部分に新たな成長機会を生み出すことができる。
3.間に合わせの対処策
既存の商品やサービスでは満足に解決できず、顧客自身があれこれ工夫して自分なりに対処しているジョブも存在する。潜在的顧客がどのようにやりくりしているか、どういった状況で苦労しているのかを注意深く観察することでイノベーションの手がかりを見つけることができる。
4.できれば避けたいこと
できれば避けたいジョブである「ネガティブジョブ」は多い。例えば、仕事が立て込んでいる日の朝に子どもが喉を痛めてしまった場合の「できることなら医者には行きたくない」というネガティブジョブ。『ジョブ理論 イノベーションを予測可能にする消費のメカニズム』ではこれを解決するため、大手ドラッグストアチェーンの中に予約無しの患者を診察し、日常的な疾患に対する薬を処方する店舗を開設していったCVS[※1]ミニッツ・クリニックの例が紹介されている。
5.意外な使われ方
製品やサービスによっては、企業が想定したものとは異なる使われ方をされる場合もある。これを調べるのだ。例えば「パンを焼くための材料」として重曹を長らく販売してきたチャーチ&ドワイトは、消費者が掃除や洗濯等、様々な用途に重曹を使用していることに気がついた。これをもとに「浴室の水垢やカビを取り除きたい」といったジョブを片づけるための新製品を発表していき、大成功を収めた。
本書では、的確なジョブを見つけるための顧客への質問方法や、イノベーションを起こせる組織づくりにも触れられている。従来のマーケティング手法に物足りなさや行き詰まりを感じているのであれば特に、本書が突破口を開く一助となるだろう。ぜひ熟読して、イノベーションを起こす足がかりを見つけて欲しい。
※1:CVSは米国のチェーン薬局
http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/54249
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