米企業、減益下で直面する賃上げ圧力 ENLARGE 今年は少なくとも15の州が最低賃金を引き上げ、一部の州では1時間あたり15ドルに上がった。(マイアミの小売店の求人広告) PHOTO: JOE RAEDLE/GETTY IMAGES By KEN BROWN 2016 年 5 月 12 日 14:50 JST 経済に精通した投資家はマイナス金利の意義を論じ次の利上げ時期に頭を悩ませているが、株式市場に大きな影響を与えるのは一般大衆かもしれない。 米企業は過去数年間多くが考えたことのなかった問題に直面している。賃上げだ。これは、企業が減益となる一方で株価は割高という居心地の悪い組み合わせの相場をひっくり返す一因となり得る。 米国の労働者は金融危機以降初めて賃上げを求めており、実際に賃上げを獲得するか、その方向に進んでいる。 離職者数の増加は、新たな職に就くことができるという自信の現れで、企業は良い従業員を何とか失うまいとしている。ドイツ銀行によると、求人を埋めるにはいまや27日かかる。これは少なくとも2001年以降で最長だ。バンクオブアメリカ・メリルリンチによると、1-3月期中に人員削減を発表した企業はわずか32社で、過去7四半期で最少だった。 労働者は政治家からも支援を受けている。今年は少なくとも15の州が最低賃金を引き上げ、一部の州では1時間あたり15ドルに上がった。 この労働者寄りへの変化は小幅で、大半の投資家は他のことに気をとられている。しかし、ファンダメンタルズ(経済の基礎的諸条件)に少しでも期待はずれなことがあれば、相場は崩れやすい状態にある。 ENLARGE 左上:米国の労働分配率、右上:平均時給(前年比)、左下:雇用トレンド指数、右下:1求人あたり労働者数 賃金の上昇は待望の朗報だ。ゴールドマン・サックス・グループによると、リセッション(景気後退)後の賃金の伸びは過去50年間で最低だった。金融危機がもたらした最も暗い統計の一つは、労働者に配分される国内総生産(GDP)の比率だ。この比率は01年に過去最低の52.2%をつけ、リセッション終了後も雇用市場が何年も弱い中、あまり変わらずにきた。 その後2ポイント上昇し金融危機以前の水準に戻ったが、成長率がもっと良好だったリセッション前数十年間の水準を回復するとは誰も考えていない。過去3年間で雇用は800万人増え、賃上げ圧力が強まり、雇用の伸びは減速する可能性がある。 民間調査機関コンファレンスボード(全米産業審議会)の上席エコノミスト、ブライアン・シャイチン氏は「より多くの収益が労働者のふところに向かっている。賃上げは企業収益に下方圧力をかけるだろう」と指摘した。 6日に発表された4月の雇用統計で平均時給は投資家の予想を上回り2.5%増えた。ゴールドマン・サックスによると、賃金上昇率はこれまでの中心値である3.1%を引き続き下回っているが、一部の業種では賃上げ圧力が強まっている。 投資家を悩ませる大半の統計とは異なり、こうした数字は実際に実体経済にとって重要なものだ。GDPに対する賃金の比率が低いということは、収益の大部分が労働者よりも事業者のものになっているという意味だ。これにより、リセッションのかなり前から拡大していた貧富の差がさらに広がった。 貧富の差は中央銀行の金融緩和で悪化した。金融緩和は、不動産や株式、債券などの資産価格の上昇をもたらすが、そうした資産の大半は富裕層が保有している。この格差が、最低賃金の引き上げや大統領選挙運動の論点に一部つながったとも言えるだろう。 マクロ面でみると、賃金の上昇は企業の雇用減少につながる可能性がある。4月の雇用が期待はずれだった一つの説明がこれだ。コンファレンスボードの調査では、人件費が増えているため、雇用を増やすよりも減らすと予想する最高経営責任者(CEO)が多くなっている。 あるいは、より良好な成長見通しを背景として企業は賃上げをのむ可能性もある。だがこの見通しは、労働者が賃上げ分を消費するか蓄えるかに左右される。消費者はガソリン安で生じた余裕を消費に回さなかった。 企業利益について言うと、ゴールドマン・サックスのストラテジストらの推計では、労働コストが1年あたり3%増える場合、賃上げ率があと1ポイント高くなるごとにS&P500種構成企業の利益は0.7%減る。 賃上げ圧力は企業にとって新たな現実となる可能性がある。コンファレンスボードの分析によると、労働年齢人口は2030年にかけて過去最低の伸びとなり、労働市場全般が引き締まる見通しだ。 関連記事 • 米最低賃金アップ、同時に高まる職場の緊張 • 米国の賃金伸び悩み、経済成長の足かせに https://si.wsj.net/public/resources/images/MI-CP609_UNHEDG_16U_20160511110909.jpg
米国債利回り、マイナス圏突入の恐れ−オプション市場の警報 ENLARGE イエレンFRB議長(3日、ワシントン) PHOTO: BLOOMBERG NEWS By BEN EISEN 2016 年 5 月 12 日 11:18 JST 国債市場でマイナス利回りをつける銘柄が急増しているのはこれまでのところ、中央銀行が景気てこ入れ策としてマイナス金利を導入したユーロ圏と日本にほぼ限定されている。 しかし、米連邦準備制度理事会(FRB)が金利の引き下げではなく引き上げに努めている米国でも、債券トレーダーは短期国債の利回りがゼロを割り込むのではないかと心配している。 そう指摘するのはウェルズ・ファーゴの金利ストラテジストチームだ。ボリス・リヤビンスキー氏がヘッドを務める同チームは、オプション市場のインプライド・ボラティリティー(予想変動率)と米短期金利との関係を調査した。すると、かつては連動して同じ方向に動いていた両者だが、近年は方向が反対を向いていることが分かった。 欧州や日本で大きな注目を集めているマイナス金利が、米国でも取り沙汰されるようになってきた。FRBは大手金融機関を対象とした今年のストレステスト(健全性審査)で、3カ月物米財務省短期証券(TB)の利回りがマイナス圏で推移するシナリオを盛り込んだ。マイナス金利の環境下では、銀行や保険会社は事業モデルの見直しを余儀なくされるかもしれない。そうなれば、マイナス金利に対するヘッジ需要が高まるだろう。 リヤビンスキー氏は「オプション市場では、投資家は米短期金利がマイナスに転じるリスクをヘッジする商品に自ら進んでより高いプレミアム(オプション料)を払おうとしている」と言う。 ENLARGE オプション市場が示唆する将来の米国債利回り(青=3カ月物、緑=6カ月物、灰色=1年物) 金融危機後の米国債市場では、FRBが政策金利をゼロ近辺に引き下げたことを受け、短期債利回りはかつてないほどの低い水準に低下した。利回りがゼロに迫る中、ほぼ誰もがこれ以上は下がりようがないと考えた。このため、利回りの低下に伴いインプライド・ボラティリティーは下がった。つまり、米国債利回りはゼロを割り込むことができないためこの先狭い範囲での動きにとどまるに違いない、と市場は判断したのだ。 ところがリヤビンスキー氏は、2015年末以降、短期債利回りが下がる一方でインプライド・ボラティリティーは上昇し、両者の関係性が従来と逆になっていることを見いだした。現在、オプション市場が示唆する将来の利回りレンジは一部マイナス圏に及んでいる。 同氏によれば、全体的に見ると市場の取引動向は政策担当者らに対する「威嚇射撃」だと言える。 同氏は「金利をあまりに長期間ゼロ近辺に据え置けば、市場主導で利回りがマイナス圏に突入する可能性がある。そうなれば、(市場の動きに)逆らうことは難しいだろう」と指摘した。 関連記事 • 米国のマイナス金利導入、公算極めて低い=地区連銀総裁 • マイナス金利、量的緩和より効果大 • マイナス金利で実質リターンの機会縮小 • マイナス金利、米国で有効か • 米FRB特集 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NZ056_TREASU_G_20160511114059.jpg 米銀の債券取引、回復なるか ENLARGE ゴールドマン・サックスは今年、10%の人員削減を債券部門で実施する計画 PHOTO: REUTERS By AARON BACK 2016 年 5 月 12 日 15:02 JST 新芽が必ず緑豊かに育つとは限らない。米国の銀行の債券取引は1-3月期の低調を経て、4月に持ち直しの兆しを見せた。だが、それほど力強い回復にはならないもようで、債券取引部門が近く大幅な利益を上げることはなさそうだ。 米証券業金融市場協会(SIFMA)のデータによると、4月は債券の平均取引高が前年同月比で3%増加した。この緩やかな回復は、1-3月期末にかけて見られた復調の延長線上にあると言える。 だが、1月と2月の市場を襲った冷え込みを打ち消すには不十分だった。この2カ月間は、原油価格の下落や米連邦準備制度理事会(FRB)の利上げ観測、中国経済の減速懸念を背景に市場のボラティリティー(変動率)が極端に高まり、投資家が様子見に回った。 結果として、1-3月期は米国債券の1日の平均取引高が前年同期比2%減少した。4月は増加したが、1〜4月の平均取引高は前年同期をまだ0.9%下回っている。 確かに、最悪期は過ぎたようだという単純な事実は銀行にいくらか安心感をもたらすだろう。だが、警戒を解いている人など一人もいない。 ENLARGE 米債券市場の取引高、前年同月比の増減率 まず、4月の取引高は前年同月比で増加したが、前月比では7.3%減少している。これは債券取引が1-3月期に最も活発化するという傾向を反映している。1-3月期はこの先1年に向けて投資家が持ち高を調整し、企業は資金需要を満たす。 そして銀行に広がるムードは明るいとは言えない。クレディ・スイスのティージャン・ティアム最高経営責任者(CEO)は今週、決算発表に伴う声明で、3月と4月は顧客活動に回復の「一時的な兆候」が浮上したが、「低水準の顧客活動は今年4-6月期、あるいはそれ以降も続く可能性が高い」と指摘した。 一方、ゴールドマン・サックスは5月初め、トレーディング部門のさらなる人員削減に動いた。ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)の報道によると、同社は毎年5%の人員を削減しているが、今年はこれを上回る10%の削減を債券部門で実施する計画だ。 ゴールドマンはこの分野で有数の粘り腰を見せてきたため、この動きは特に注目に値する。同社は一貫して、取引高の減少は循環的要因によるところが大きく、取引高が回復すれば利益を得られる立場にあると主張してきた。 これは今でも本当なのかもしれない。だが、ゴールドマンや他行は、取引高が持ち直しても華々しい回復にはならないという現実に適応し続けている。 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NZ098_BONDHE_M_20160511123908.jpg 米国の出生率低迷、経済成長の圧迫要因に ENLARGE キャサリン・ブロゼナさん(42)と夫のビンセント・エスピノザさんは、年齢を理由に子供を持たないことに決めたl PHOTO: LAURA MORTON FOR THE WALL STREET JOURNAL By JANET ADAMY 2016 年 5 月 12 日 12:28 JST 米国では出生率が伸び悩んでおり、この状態は長く続くとみられる。その影響は徐々に米経済に広く波及し、産科病棟から連邦政府の社会プログラムまであらゆるものに影響を与えるだろうと人口統計学の専門家はみている。 米国の出生率は2013年からわずかに上向いており、15年も同様だったとみられる。それ以前は、07年のリセッション(景気後退)入りとともに、低下が続いていた。 出生率が小幅とはいえ上昇に転じたことは朗報だが、気がかりな兆候もある。女性1人が生涯に産む子供の数(合計特殊出生率)は、リセッション前には平均で約2人だったが、当分はこの水準に戻りそうにないことだ。リセッション後のベビーブームが予想ほど盛り上がっていないことから、将来の出生率に関する予想を下方修正する人口統計学者もいる。 出生の傾向を予想するデモグラフィック・インテリジェンス社の推計によると、15年に米国で生まれた子供は約400万人と、前年の399万人からわずかに増加した。合計特殊出生率は1.86人から1.87人に上昇したようだ。 だが、これは1980年代終盤から07年まで続いた比較的高い出生率を大きく下回る水準だ。合計特殊出生率は07年に2.12人でピークを打った。ニューハンプシャー大学のケネス・ジョンソン氏によると、その後の出生率低下で、08〜15年に生まれた子供は約340万人少なくなった。 デモグラフィック・インテリジェンスのサム・スタージョン社長は「全てがわれわれの予想を下回っている」と述べた。同社は最近、米国が先進国としては異例に高い出生率を経験した四半世紀が終わったとの認識を示した。スタージョン氏は、今後少なくとも5年間は合計特殊出生率が1.9人を超えることはないとみている。 人口統計学者によると、理想的な合計特殊出生率は現状の人口を維持するのに必要な2.1人前後だ。非営利研究機関、人口問題研究所(PRB)のマーク・マザー氏によれば、米国は欧州の大半やアジアの一部に比べてはるかに良好な状態を維持している。例えば、ドイツの合計特殊出生率は1.44人、イタリアは1.49人まで低下している。 米国の出生率低下はさまざまな社会・経済的要因が絡み合った結果だ。ミレニアル世代(1980年代〜2000年代初めに生まれた世代)では女性の晩婚化と出産高齢化が進んでいる。出生率押し上げに貢献していたヒスパニック系移民の流入は徐々に減っている。女性の学位取得は今や男性を上回っているが、これも出生率の重しとなっている。大卒の女性は出産によるキャリア中断で犠牲にするものが大きい。また、調査によると、若者は前の世代が若かった頃に比べて宗教との結びつきが薄れており、子供を多く持つ人の減少につながっている。 若い時期が労働市場低迷と重なった女性は、生涯の出産数が少なくなることを示す調査もある。プリンストン大学の経済学者ジャネット・カリー、ハネス・シュワント両氏が14年に行った調査によれば、20〜24歳の女性1000人当たりの妊娠は失業率が1ポイント上昇すると短期的に6件減少する。これらの女性が40歳になるまでに、若いときの失業率上昇の影響で減った妊娠の件数は1000人当たり14.2件となった。 出産する女性の傾向にも変化がみられる。年齢や学歴が高く、より豊かな既婚女性の出産は増えている。一方、高校中退者の出産は減少しており、特に10代の減少が顕著だ。疾病対策センター(CDC)によると、平均出産年齢は14年には28.3歳と、10年前から1歳弱しか上昇していない。 一部の人口統計学者は、特に景気が良くなれば、出生率の上昇ペースが上向く可能性があるとの楽観姿勢を崩していない。ミレニアル最大の層が、20代半ばから後半に入っているためだ。若者の労働参加率は上昇に転じており、ヒスパニック系住民の出生率も上向き始めた。70年代半ばなど過去の多くのリセッション後には、出生率は低下前に近い水準に回復している。 ENLARGE 左:合計特殊出生率、右:出生数(単位:百万人) ミネアポリスとセントポールに病院を持つミネソタ小児病院の幹部によると、リセッション後に出産年齢が小幅上昇するなか、新生児の入院は11年から増加傾向にある。この病院では、35歳以上での出産が増えていることなどから、新生児の病室と分娩(ぶんべん)室が近くなるように産科病棟のレイアウトを変更しているという。 結婚や子作りを先延ばしにするミレニアル世代の傾向は、一戸建て住宅販売の逆風になっている。また、PRBのマザー氏によると、ソーシャル・セキュリティー(失業保険などの社会保障制度)などに加入する若年労働者が減ることによる長期的影響など、顕在化するまでに数年かかかる波及的影響もある。 玩具大手トイざラスのベビー・マタニティ用品部門ベビーザらスでは、この市場は拡大しないとみて、競合他社からシェアを奪ったり、ミレニアル世代の親たちの「満たされない需要」を掘り起こしたりすることで売り上げを増やす計画だ。 関連記事 • 米ベビーブーマー世代、人口がまもなく3位に降下へ • 米高卒「ニート率」、男性の苦悩際立つ http://jp.wsj.com/articles/SB11177905867255194074504582061271641982332
米高卒「ニート率」、男性の苦悩際立つ 金融危機前の水準を回復できず ENLARGE 閉そく感に包まれたニートの数は金融危機前よりもはるかに多い PHOTO: MARK FELIX/ASSOCIATED PRESS By JOSH ZUMBRUN 2016 年 4 月 22 日 16:15 JST 大半の米国人は高校を卒業すれば就職するか大学に進学する。 だが最近は、高校生の約6人に1人が卒業後に何もしなくなる。つまり大学に入らず就職もしない17歳から20歳の若者が140万人いるのだ。これを失業率と呼ぶ代わりに「ニート率( idleness rate)」と呼んでみよう。 この数字は、米経済政策研究所(EPI)が発表した労働市場の見通しについての最新リポート「2016年卒業組」から抜き出したものだ。EPIは左寄りのシンクタンクで、若い労働者に対するセーフティーネット(安全網)の拡大を支持。リポート内の数字は米労働省のデータから引用されている。 高校卒業後に何もしない人の数は、経済全体の健全性と密接に関わっている。景気が良い時でさえ一部の人はすぐに就職したり進学したりしないが、この人数は不況期に膨れあがる。米国のニートの数は1990〜91年のリセッション(景気後退)後に増え、2001年の景気後退の最中にも増加した。その後の景気回復期にはニートの数は減少した。 進学も就職もしない17歳から20歳の高卒者の割合の推移(12カ月移動平均) 米国全体の失業率は5%まで低下し、金融危機前の水準に近づいたものの、閉そく感に包まれた高卒者の数は危機前よりもはるかに多い。ニートの数は高止まりしたままで、これは米国経済が完全回復からほど遠いことを示唆している。 ニート率の上昇が若い男性をますます悩ませるようになってきた。2007年12月からの景気後退で、男性のニート率は19%以上まで急伸した。対照的に、それより前の2回の景気後退で男性ニート率は14%ほどまで上昇したが、これは現在の割合(16.2%)を下回る。 言い換えれば、過去6年間、高校卒業後に何もしない若い男性の割合は、金融危機より前の2回の景気後退期におけるどの月よりも大きかったのだ。 これは女性には当てはまらない。この景気サイクルの中で、女性のニート率は1990年代初めほど上昇しなかった。ここには、若い男性よりも女性の方が大学に入学して卒業する可能性がはるかに高くなったという事実が部分的に反映されている。 人種別ニート率の推移(12カ月移動平均、緑は黒人、オレンジはヒスパニック系、青は白人) 人種別に見ると、ニート率は白人よりも黒人やヒスパニック系の方が高い。ただ、黒人のニート率はかつての非常に高い水準から下落基調を示している。1990年代初めには30%以上の若い黒人高卒者が就職もせず進学もしなかった。現在、その割合は21%まで低下し、比較可能なデータの中で最低水準に近づいている。若いヒスパニック系高卒者のニート率は現在17%と、こちらも最低水準に近い。 この中では若い白人のニート率が最も低いが、基調は逆方向に向かっている。現在の割合である13.6%は、2009年より前のどの時点よりも高い水準だ。 若いニートたちは求人に応募するか大学進学に挑戦してうまく行かなかった可能性がある。あるいは親や家族を当てにしているのかもしれない。 明らかなのは、大卒者と比べて高卒者がはるかに厳しい状況に置かれていることだ。 リポートの執筆者の1人、エリース・グールド氏は「若い労働者は不況時にひどい打撃を受け、その状態から抜け出せずにいる」と語った。 関連記事 • 米高卒率が過去最高に、トップはアジア系 • 米国で若い大卒者の収入が急増=NY地区連銀リポート • 最終学歴でみる「最も稼げる」職業は • 米国の若者、夏休み中の労働参加率が低下 https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NR363_0422_N_NS_20160422003549.gif https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NR364_0422_N_NS_20160422003631.gif
ギリシャ、改革こそ生きる道 STAVRAKIS/ASSOCIATED PRESS By SIMON NIXON 2016 年 5 月 12 日 12:57 JST 欧州連合(EU)は反民主的で、国家の破壊をいとわず、緊縮策を押し付ける横暴な組織との批判がある。その証拠として、ギリシャの6年間に及ぶ債務危機が挙げられることがよくある。英国のEU離脱の是非を問う国民投票が目前に迫る中、ギリシャ危機再燃の兆しが強まっている。だが、こうした批判は的外れだ。いかなる議論も、ギリシャが抱える問題の責任の大部分はギリシャ自身にある、と認めることが出発点となる。同国は危機前の数十年間、長続きすることはまずあり得ない経済モデルを採用し、それ以降、変更に応じることはほぼなかった。 ギリシャに対する第1次支援策の設計にミスがあったことは確かだ。政府債務が2012年ではなく10年に再編されていれば、ユーロ圏全体にとっては不都合でもギリシャにとっては好都合だったはずだ。また、同支援策が厳しい財政目標を突きつけていたことも事実だ。加盟国が債務返済や財政資金の支援を他の加盟国の納税者に頼らざるを得ない場合、財政目標は必ず厳しいものとなる。ただ、財政目標をどのような手段で達成するかを選ぶ権限は常にギリシャが握っていた。それ以降に直面した苦難の大半は、ギリシャ歴代政権がこうした権限を正しく行使しなかったことに原因があった。 ギリシャ歴代政権はこの数十年間、左派政権も右派政権も寛容すぎる福祉国家を築き上げ、さまざまな利益団体に対する保護策を大盤振る舞いで実施した。無謀な借り入れを行ったり、一段と縮小した課税ベースにさらに高い税率を課したりすることで、その財源を賄った。危機に見舞われても、政府はこのモデルを放棄せず、借り入れなど従来の手法を加速させた。 政府当局が医療設備・医薬品への支出や基幹インフラの維持よりも、公務員の雇用・賃金の確保を優先している状況はずっと変わらない。退職年金の基本額がドイツの教育・訓練支出を上回るような年金制度の保護も訴えてきた。さらに、雇用を創出している企業の負担を軽減するよりも、労働者の55%という驚くべき割合(アイルランドは2%、ポルトガルは4%)が免除対象となっている所得税制度も維持してきた。こうした成長を奪う選択肢を採用したことによる最大の犠牲者は、とてつもなく高い失業率に耐える生活を余儀なくされている若者だ。 ギリシャの債権団はかなり前にこの問題を認めた。債権団が12年に第2次支援策をまとめた際、ギリシャが政策を自由に選ぶ権限を制限し、追加融資の条件となる具体的な改革措置を定めようとしたのはそのためだ。ギリシャが現在の財政を持続可能な軌道に戻し、民間部門が成長できる状況を作り出すための現実的な方法は、課税ベースを拡大し、公的部門の改革を進め、年金支出(年間予算の17%を占めていた)を削減することしかない、と債権団は訴えていた。債権団はこの4年間、ギリシャに影響力を及ぼすことができる唯一の手段を用いて、歴代政権に公約の実行を迫った。その手段とは、支援融資を停止し、ギリシャを秩序あるデフォルト(債務不履行)の危険にさらす、というものだ。 だが、このような圧力をもってしても、ギリシャを翻意させられずにいる。同国では改革を巡る対立から、新民主主義党(ND)と全ギリシャ社会主義運動(PASOK)の連立政権が解散・総選挙に追い込まれ、2015年に2回の総選挙と国民投票が実施される事態となった。いまの行き詰まり状態は、こうした対立が続いているにすぎない。過去の政策のツケで財政赤字が膨れ上がる中、ギリシャ政府は富裕層を対象にした新たな増税の必要性を訴えている。 今回がこれまでと違うのは、債権団のうち国際通貨基金(IMF)が支援参加を拒否していることだ。IMFはギリシャの政策案では、プライマリーバランス(基礎的財政収支)で対国内総生産(GDP)比3.5%の黒字を達成するという公約を達成できないとみている。この黒字目標を1.5%という、より現実的な水準へ引き下げるべきというのがIMFの立場だ。しかし、他のユーロ圏加盟国にとってこれは政治的に「毒薬」であるため、IMFは(目標未達時の)緊急措置を取りまとめ、長年避けてきた改革もこれに盛り込むよう求めている。 こうした状況では、債務減免をめぐる議論は最優先の問題ではない。ギリシャの債務は、最も楽観的なシナリオ以外では持続不可能と誰もが考えている。ギリシャが今後数年で債務を返済し、数十年間は市場から自力で資金を調達すると考える人などいない。ギリシャに政治的な手柄を与えてしまうこと以外に、債務減免が問題となっている大きな理由がある。それは、IMFが融資できるのは、対象国が支援終了までに市場での資金調達を再開できると判断した場合に限られるからだ。ギリシャの長期の債務負担がもっと明確にならない限り、実現性はかなり低いようだ。従って、ドイツが今後の支援に応じる主な条件に挙げているIMFの支援参加が実現するには、透明性を必要とするIMFと、ギリシャが放漫財政に逆戻りするのを防げるだけの影響力を維持したいドイツとのバランスを取った解決策を見いださなければならない。 ただ、この問題での進展はいますぐには望めない。今週のユーロ圏財務相会合(ユーログループ)では、これまでギリシャ改革に関する合意がまとまらなければ債務減免協議には応じないとしていたドイツが譲歩したことで、同協議の開始で合意できたが、4年前から膠着(こうちゃく)している改革協議が進まなければ意味はない。こうした膠着状態を打開するには、既に破綻している経済モデルを捨てることでギリシャがようやく合意するか、ギリシャ支援策にIMFも参加すべきという主張をドイツが取り下げるか、のどちらかしかない。実現すれば、ユーロ圏はギリシャが短期的な財政難を乗り越えられるだけの資金を供給することができる。言い換えると、ギリシャ危機の長期的な解決を先送りできるということだ。その場合、英国でEU残留の是非を問う国民投票が行われているさなかにギリシャ危機が再燃する事態は避けられそうだ。 関連記事 ギリシャ債務減免、ユーログループが具体策を協議 ギリシャ危機、なぜ今年は再燃しないのか https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NZ235_EUROFI_M_20160511151454.jpg 中銀マン育成するドイツの古城 ドイツ連邦銀行の中銀マン養成学校の校舎として使われている中世の古城(ハーヘンブルク城) KETZ By TOM FAIRLESS 2016 年 5 月 12 日 15:35 JST 【ハーヘンブルク(ドイツ)】うっそうとした渓谷を見下ろす小高い山の上に立つ12世紀の城の中で、ドイツ連邦銀行(中央銀行)は、海外から押し寄せる荒波にあらがい国内経済の防衛の第一線に立つ将来の中銀マンを育成している。 最も近い大きな町から曲がりくねった山道を50キロほど走ったところにあるこのハーヘンブルク城は遠い昔、周辺地域を治める伯爵の住まいだった。現在は、約350人の若者にエリート教育を施す大学の校舎として使われている。この大学で取得できるのは中銀業務に関する学位だけだ。エーリヒ・ケラー学長は典型的な学生像を「リスク回避志向の強い人」と表現する。 2002年までドイツの通貨だったドイツマルクはユーロの導入に伴い姿を消した。欧州中央銀行(ECB)の理事25人のうちドイツ出身者はわずか1人で、マルタ出身者と同人数だ。だがドイツ連銀は依然として一目置かれる存在であり、同連銀の行員養成学校「ドイツ連邦銀行応用科学大学」は多くの卒業生を輩出している。 ドイツ連銀の行員約1万人のおよそ25%がこの大学の3年課程の卒業生だ。卒業後は同連銀で働くことが義務付けられているが、卒業生の80%超は連銀での勤続年数が10年以上に及ぶ。 欧州連合(EU)が高い失業率、テロ、難民流入、マイナス金利、英国のEU離脱問題などに揺れる中、ハーヘンブルク城の城壁内に漂うのは従来と変わらぬ安定感だ。 物価安定重視というドイツ連銀の揺るぎない信念は、経済に甚大な損害をもたらした1920年代のハイパーインフレの経験から生まれたもので、この姿勢こそが戦後ドイツの経済成長を支えた。現在の連銀はECBの傘下にあり、ECB内での影響力という点ではFRBに従属する米地区連銀に近い。 ドイツ連銀の行員数は90年代初めから半減したものの、依然としてECBの3倍に達する。また、大学は拡大路線を歩み、昨年10月の入学者数は約15%増加した。 この大学で学ぶヨハネス・ショップ氏は、連銀に対しドイツ人はいまも「信頼のイメージ」を抱いていると指摘する。 連銀への信頼は数十年来変わっていない。92年にフランス出身のジャック・ドロール欧州委員会委員長(当時)が「神を信じないドイツ人はいるが、ドイツ連銀を信じないドイツ人はいない」と言ったのは有名な話だ。 ショップ氏は「安定性を維持する手伝いをしたい」からドイツの貯蓄銀行を辞めて連銀の大学に入ったと話す。 古城での授業はシャンデリアのある小さな教室で行われ、窓からは広大な景色が見渡せる。毎朝7時30分きっかりに授業が始まる。 約25人の学生を相手にデリバティブ(金融派生商品)評価に関する授業を行っていたベアーテ・ユットナー・ナウロート教授は「われわれは米国の教科書ではなく、ドイツの教科書を使用している」と明かし、ドイツのアプローチの方が正確だからだと語った。 3年課程は倍率が10倍という狭き門だ。学生は授業料を払う必要がなく、1カ月当たり最大およそ1400ユーロ(約17万円)の奨学金を受け取る。ただし、卒業後5年以上ドイツ連銀に勤務することが条件だ。 この大学の1期生(80年卒)であるケラー学長は選考基準について、どれだけ「われわれの組織に適合できるか」という視点からの評価が重要なポイントの一つだと説明している。カリキュラムはファイナンス(金融学)に重きを置いているものの、投資銀行出身の志願者が特に歓迎されるわけではない。「報酬を非常に重視している人たちは(連銀をすぐに)辞めてしまうはずだ」と学長は言う。 ECBの政策からドイツの預金者や投資家を守ろうとするドイツ連銀の姿勢は好感され、連銀に対する国民の評価は再び上昇中だ。世論の圧力を受けて連銀は、ニューヨーク連銀とフランス銀行(中央銀行)に保管してある数百トンもの金準備を本国に引き上げる方針を明らかにしている。また、フランクフルトの貨幣博物館を改装中だ。 ドイツ連銀関係者らは、ECBが景気てこ入れのために実験的に導入した大規模な国債買い入れ策を非難してきた。イタリア出身のドラギECB総裁はこれに対し、全てを拒否して何もしなければ危険なことになっていたと反論したが、「全てを拒否して」の部分だけドイツ語を使い、ドイツ連銀への批判をにじませた。 ケラー学長はECBが導入したマイナス金利のせいで「金利が機能していない」と不満を漏らした。ECBはコメントを控えた。 ドイツ連銀のバイトマン総裁は国内のあちこちの公開イベントで暖かく迎えられており、国民はドラギ総裁に論争を仕掛けるバイトマン総裁に拍手を送っている。3月11日付のドイツ経済紙ハンデルスブラットは第1面で、100ユーロ紙幣を燃やして葉巻に火を付けているドラギ総裁のイラストに「ドイツ国民のお金を危険なゲームに投じるマリオ・ドラギ」とキャプションを入れ、その下に「何でもあり」と加え、ユーロを守るために「何でも」やると約束した総裁の約4年前の言葉を皮肉っぽくほのめかした。 ドイツ連銀は70年代半ば、持ち主の破産に伴い、荒れ果てた古城を買い取った。当時、同国経済は好況に沸き、ドイツ連銀幹部の発言は欧州各国の政府を震え上がらせた。隅々まで手を加え改装されたハーヘンブルク城の室内装飾は、栄華を極めた往事を思い起こさせる。 学生一人当たり年間3万8000ユーロ(約470万円)と推計される大学経費はそれだけの価値があるのかと疑問視するドイツ人もいる。この問題については、ドイツ連邦会計検査院は監査中だとしており、その結果を連邦議会に勧告する見通しだ。 ケラー学長は、納税者がこの大学から得るものは大きいと指摘。学生を集めて将来の中銀マンとして育成するのは、「(優れた行員を採用するためには)自分の市場価値をまだ知らない人たちに門戸を開き、人材を確保しておく必要がある」からだと言う。学長によると、ドイツ連銀の行員一人当たりの平均採用コストは、専門知識や経験のある人材を外部から引き入れなければならない他の欧州諸国の中銀よりも低い。 学長は「KPMGはうちの学生に関心を持っているが、学生を彼らに渡すつもりはない」と話す。KPMGはコメントを拒否した。 ケラー学長によると、他の国にも同じような中銀マン養成学校があるという。ロシア、中国、ベラルーシなどで、ウクライナには2校もある。これらの国の学校には全て、ドイツ連銀の大学との間に交換留学制度がある。ただし、ウクライナは政情不安により一部の制度が停止中だ。 学長は「市場経済の国の方がこうした養成学校は少ない」と語る。 増員を進めるECBの給与はドイツ連銀の2倍に達するため、連銀が人材獲得競争でECBに勝利することはそれだけ難しい、と学長は指摘する。最近では、100人超の行員がほぼ同時に連銀を辞め、ECBが新設した銀行監督部門「単一監督メカニズム(SSM)」へ転職したという。 それでも、静かな中世の町にあるこの大学に通い、何世代にもわたり受け継がれてきたインフレ撃退法を学ぶことは何物にも代え難い経験だと学生や教授は口を揃える。 前出の学生、ショップ氏は「ここでの生活がどのようなものかを想像するのは難しいと故郷の友人たちに話している」と言う。 関連記事 ECB、貯蓄重視のドイツ国民性を変えられるか ドイツ連銀、ECB追加緩和に反対していた=関係者 ドイツの古城、よりどりみどり 売り出し中のドイツの古城、おとぎ話のような生活には巨額の維持費も https://si.wsj.net/public/resources/images/BN-NY606_hachen_M_20160510103815.jpg
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