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【日本の不動産最前線】マイナス金利が住宅市場に効かない2つの理由
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160512-00012113-forbes-bus_all
2016/05/12 17:00 Forbes JAPAN 長嶋 修 , CONTRIBUTOR
「第三者性を堅持した個人向け不動産コンサルタント」の第一人者。
マイナス金利導入後も、住宅市場に改善の兆しは見られない。
日銀が2月から導入した「マイナス金利付き量的・質的金融緩和」(以下マイナス金利)を受けて不動産市場では、先にマイナス金利を導入したスイスやデンマーク、スウェーデンなどで住宅市場が加熱しているとして、日本でもそうしたことが起きるのではないかとの思惑が働いたが、現在のところそうした動きは確認できない。
東日本不動産流通機構によると、3月の首都圏における中古マンション成約件数は3,590件と前年比で3.7%減少し、6か月ぶりに前年同月を下回った。不動産経済研究所によると4月の首都圏新築マンション発売は39.6%減の2,693戸と4か月連続減。契約率は67.6%と、高不調の分岐点とされる70%を再び下回っている。
一方でJ-REIT(不動産投資信託)は堅調な動きを示す。マイナス金利の導入で10年もの国債利回りが大幅に低下したことを背景に、平均利回りが3%台であるJ-REITは、主要な買い手である金融機関などの機関投資家にとって魅力的に映るためだ。
もちろん住宅ローンは量的緩和やマイナス金利を受けて歴史的な低金利水準にある。全期間固定のフラット35は1.080%(返済期間21年以上35年以下、融資率9割以下の場合)変動金利に至ってはじぶん銀行がわずか0.497%だ。
仮に現在の金利水準で3,000万円の新築住宅を購入する場合を考えてみる。引っ越しまで含めた諸費用150万円まで含めて3,150万円を全額住宅ローンで購入した場合、月々の支払いは81,728円である。都市郊外では土地30坪・建物4LDK30坪の新築一戸建てが3,000万円内外で売られている(じぶん銀行・変動金利・期間35年の場合)。同様の地域でこれを8万円台ではとても借りられないから、毎月の支払だけ見れば「借りるより買ったほうがトク」が実現している。
加えて、住宅ローンを利用して住宅を購入した場合には「住宅借入金等特別控除」が利用でき、年末ローン残高の1%を10年間、所得税から控除できる。つまり0.497%で資金調達すると、1%の還付を受けられるということ。住宅ローンにおいては「事実上のマイナス金利」がすでに実現しているのだ。
しかしこのような状況下にあっても住宅購入に火がつかないのはなぜか。
我が国の住宅市場は今後、少なくとも新築市場について今後回復する見込みはないと断言していいだろう。理由は2つ。ひとつは「圧倒的な需要不足」。住宅購入適齢期である30代は年々減少しているうえ、持ち家率も低下傾向でパイは減る一方。そもそも社会保障が手厚く将来不安を持たないデンマークやスウェーデンなどと日本を比較することに無理がある。日本では、終身雇用や年功序列といったかつての日本の就業慣行が崩れ非正規雇用が増加、人口減少に加え少子化・高齢化も手伝って社会保障負担が増し将来の見通しが立たないなかで、住宅を購入する地合いにはない。
加えて「供給過剰」。OECD(経済協力開発機構)に加盟できるレベルの、いわゆる普通の国の多くが「住宅総量目安」「住宅供給目標」といった計画を持っている。総世帯数、総住宅数や住宅の質の現状を踏まえ、今後10年間にどの程度の新築建設が適切かといった目安である。この目安に合わせて税制や金融をコントロールしていく。
世帯数や住宅数を勘案すると我が国の適正な新築着工数は年45万程度と見られるが(この点については次回詳述する)、年90万戸程度である。実は空き家の増加の本質的な原因はここにあるのだが、迷惑空き家に対応する、いわゆる「空き家対策法」は施行されたものの、空き家増加の根本原因にはまだ踏み込んだ政策は打たれていない。我が国の空き家率は2013年時点で13.5%、空き家数はすでに820万戸(総務省・2013年時点)に達し、いまなお空き家は年々増加している。2030年には空き家率が30%を超えるとのシンクタンクの試算もある。
さてこうした論調はアベノミクスや東京五輪開催、またそれに伴うインバウンド需要でホテル不足が顕在化していることや、東京都心で商業地の開発ラッシュが起こっていること、都心の高額なタワーマンションや富裕層や総増税対策、外国人需要などで売れ行き好調で、むしろバブルとの声もささやかれるといった、巷によく聞くアナウンスとは随分温度の異なる論調と映っただろうか?
実は住宅市場で好調なのは、都心の超一等地や郊外・地方都市の駅近・駅前物件などほんの一部であり、それ以外の大半は何ら恩恵をこうむっていない。物件種別でいえばマンションだけが価格上昇、それ以外の住宅地・戸建住宅はむしろ下落トレンドにある。
グラフ1 : 不動産価格指数(国土交通省)より長嶋修事務所作成
さらに見ていくと首都圏では、2012年の政権交代以降、価格上昇を続けたのは都心3区(千代田区中央区・港区)、せいぜい5区(加えて新宿区・渋谷区)くらいまでである。
グラフ2: 月例マーケットウォッチ(東日本不動産流通機構)より長嶋修事務所作成
では住宅市場はこのあと、はたしてどのような動きを見せるだろうか。次回以降更に詳しく市場を検証する。
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