01. 2013年4月11日 19:35:43
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焦点:急浮上する国債の価格操作懸念、「国を挙げた地上げ」の声も 2013年 04月 11日 17:10 JST トップニュース 1月のギリシャ失業率、2006年以来で最悪の27.2%に 消費環境、心理的にはバブルの状態=岡田イオン社長 韓国のLG電子、スマートフォン販売シェアで初の3位=調査会社 日本株は上値追いに弾み、海外勢の強気センチメント継続 [東京 11日 ロイター] 日銀が異例の国債購入日の通告に踏み切った。これまでは日本証券業協会の基準気配が操作されては適正な価格が維持できないとの理由から明らかにすることはなかったが、国債取引が連日不安定になったことでその開示を余儀なくされた。 「まるで国を挙げた地上げ」(邦銀)との声も聞かれ、今後、日銀が高コストで国債を購入するだけでなく、不透明な金利形成を誘発しかねないと懸念する見方も出ている。 日銀は11日、総額4.3兆円を市場に供給すると同時に、長期国債を12日に買い取ると発表した。黒田日銀による異次元緩和の対象から外された短期国債を安定化させるため、国庫短期証券を買い取る公開市場操作(オペ)も合わせて実施すると発表した。 資金の供給額そのものは、1日の資金供給額としては東日本大震災後の2011年3月23日に計5兆円通告して以来の規模。貸し出す期間も、一部を初めて1年に延ばし、「(日銀は)金利安定へ『不退転の決意』をみせた」(邦銀の資金担当者)との見方が広がった。また、日銀が長期国債2.5兆円余りを一気に買い取るとの異例の発表は、その効果がはっきり表れた。 大手銀行の一角が5年物の国債でまとまった売りを出したことが、相場が不安定になった一因とされる。購入日が新発5年物の入札前に前倒しさたことが明らかにされ、これまでの需給不安はひとまず後退、「売り注文を受けて在庫を抱えていた証券会社の買い戻しや、高値で日銀に売却できると先回りで国債を買う動きが広がり、一転して金利は軒並み下がった」(別の邦銀)という。 実際、この日の取引で一時0.320%に上昇していた新発5年物利回りは午後に低下し、0.190%と前日より0.085%下がった。先物相場は急反発し、東京証券取引所の長期国債先物は一時144円77銭と、前日より61銭高値で取引された。 ある証券会社の売買担当者は「銀行の売りが出たときは(2003年に史上最低金利から一転2%の金利上昇となった)『VaRショック』の悪夢が脳裏をよぎったが、異例の日程通告に正直、安どした」と明かす。 同時に、市場からは「日銀の焦りを浮き彫りにした」(外銀幹部)との声も漏れる。国債購入の規模から「実際にいつ買い取るのかの日程を巡る思惑が相場を不安定化させるなら、いっそのこと日程を開示したらどうか」(大手行幹部)との声もあったが、一方で「事前の価格操作を誘発しないか」(市場筋)と、その副作用を懸念する声は根強い。 前出の邦銀関係者は「もはや『国を挙げた地上げ』のようなもの。基準気配を意図的に釣り上げるような動きは日銀が高いコストを払う(高値で国債を購入する)だけでなく、不透明な金利形成を誘発しかねない」と話す。 (ロイターニュース 山口貴也 編集:久保信博) 日銀は異例の長期国債買い入れ日程事前公表、市場不安定化で 2013年 04月 11日 13:03 JST [東京 11日 ロイター] 日銀は11日、長期国債を買い取る日程を事前に公表する異例の措置に踏み切った。黒田日銀による異次元緩和で国債市場が不安定化したことに配慮する。 日銀が公表したのは4月に予定していた5回のオペのうち、2回目と3回目の日程。それぞれを同時に12日に通告する。2回目は残存5年超10年以下を1兆円、10年超を3000億円買い取り、3回目は1年以下を1100億円、1年超5年以下を1兆1000億円買う。1回目は8日に通告していた。 また、国庫短期証券の買いオペについても12日に通告するとしている。 市場では「短期ゾーンが政策コミットから外れ、銀行の現物売りから需給が崩れ、(財務省が16日に予定している)新発5年物の国債入札が不安視されていた。さらに相場が不安定化するのを配慮するのが狙いだろう」(外銀)との声が出ている。 日銀の発表を受けた午後の円債相場では、東京証券取引所に上場する長期国債先物が急反発した。
ドル99円後半、日銀「期待」から「現実」に目線シフトへ 2013年 04月 11日 15:57 JST [東京 11日 ロイター] 東京外為市場午後3時のドル/円は、ニューヨーク市場午後5時時点に比べてドル安/円高の99円後半。利益確定売りに押される場面もあったものの、日経平均株価が上げ幅を拡大させる中で、ドル/円、クロス円ともに買い戻された。 日銀が不安定な国債市場の鎮静化に乗り出したことで、長期金利が低下に転じたことも意識された。ドル/円は100円を目前に足踏みしているが、市場では今後は日銀に対する「期待」から「現実」の動きに目線がシフトするとの見方が出ていた。 <JGB市場に注目集まる> ドル/円は99円台で取引された。前日のニューヨーク市場では99.88円と2009年4月以来となる100円台に迫ったが、東京市場では利益確定売りに押される中で99.35円まで下落した。 ただ、午後に入り、日経平均株価がジリ高の展開になると、ドル/円、クロス円ともに買い戻された。日銀が不安定な国債市場の鎮静化に乗り出したことで、上昇圧力がかかっていた長期金利が低下に転じたことも意識されたという。 市場では「一部参加者はJGB(日本国債)を見ながら取引をしている」(大手邦銀)との声が出ており、これまで以上に日本国債市場に注目が集まっている。 ある大手邦銀関係者は「JGBも手掛けている人はそこでやられている(損失が出ている)と思うので、為替で積極的にドル/円のロングを作るのは厳しい人もいるかもしれない」と指摘する。 日銀は11日、固定金利方式の共通担保資金供給オペ3本を実施した。期間は1カ月物1本と1年物2本で、計4兆円を供給した。1年物は初めてで「やや長めの金利の急激な上昇に対応するために実施した」(金融市場局)という。 日銀はこのほか、長期国債を買い取る日程を事前に公表する異例の措置にも踏み切った。 <日銀が示したパス確認へ> ドル/円は100円を目前に足踏みしているが、今後の展開について、三井住友信託銀行マーケット・ストラテジスト、瀬良良子氏は「100円台に乗せたら、いったんは達成感が出てくるだろう」と予想する。 同氏は「いまはユーフォリア、日銀のニュースを受けて上がっているが、実際にはまだお金が出ていない。これまで期待先行で上げてきたが、今後は日銀が示したマネーが増えていくというパスをしっかり評価していかないといけない」と指摘。その上で「インフレ期待が上がって、デフレ脱却への確信が高まってくれば、100円台が定着し、もう少し上昇期待も出てくると思うが、期待ですでにここまで来てしまった。期待だけで相場を長続きさせるのはしんどいのではないか」との見方を示した。 <北朝鮮への反応は見方割れる> 北朝鮮のミサイル発射が警戒されているが、市場では、ミサイル発射が強行された際のマーケットの反応について見方が分かれている。「円売りモメンタムが強まっている場合には円安がさらに強まる展開もありうる」(外銀)との声がある一方で、「ミサイル発射で株安になれば、利益確定の円買いが強まりやすい」(国内金融機関)との指摘も出ていた。 (ロイターニュース 志田義寧) 日本株は上値追いに弾み、海外勢の強気センチメント継続 2013年 04月 11日 16:53 JST [東京 11日 ロイター] 日本株が上値を追っている。ドル/円は100円手前で足踏みを続け、円債市場も依然不安定であるが、日経平均は約4年9カ月ぶり高値を回復。短期的な過熱感は強いものの、強気な海外勢の買いが継続し、上昇に弾みがついている。
米金融緩和の早期縮小観測の強まりにも、米景気が上向いているためとポジティブに受け止めるセンチメントの強さがある。 <米国の「ゴルディロックス」継続か> 海外勢の強気センチメントが依然として続いている。キプロスなど欧州への不安は短期間で収束。中国経済への減速懸念や北朝鮮情勢などネガティブ材料を横目に米株などリスク資産を購入している。10日の米市場でダウとS&P500は過去最高値を更新した。 強気ぶりが表れたのが米連邦準備理事会(FRB)が10日に公表した3月19─20日の連邦公開市場委員会(FOMC)議事録への反応だ。FOMCメンバーの一部が年内の資産買い入れ終了を視野に入れていたことが分かったほか、議事録では「メンバー2人は、現在の買い入れペースが少なくとも年内は続くと見込んでいる」とされた。市場では「2人しか年内の緩和継続を見込んでいないのかと驚きが走った」(国内証券)が、ネガティブ材料とはならなかった。 市場予想を大きく下回った3月米雇用統計が発表される前のFOMCであり、議論は陳腐化している可能性もあるとみられたこともあったが、市場では早期緩和縮小観測の強まりを「景気が持続的成長軌道に乗った証拠であると強気に受け止めた」(大手証券・海外市場担当者)という。 T&Dアセットマネジメント・チーフエコノミストの神谷尚志氏は金融緩和と緩やかな景気回復が共存する米国の「ゴルディロックス」(心地いい状態)がしばらく続くとみている。「欧州経済や中国経済など、不安があることが金融緩和期待を継続させている。一方、米景気は緩やかながら回復している。少しずつでも米企業のEPS(一株利益)が増加し、金融緩和でPER(株価収益率)が上がるなら、株価は上昇する」と話す。 <海外勢の日本株買いは再加速> グローバル投資家のリスク選好度上昇は日本株にも波及する。海外勢の買いは昨年11月以降、約5兆円を超えているが、途切れる気配はまだない。 3月31日―4月6日の対内株式投資(指定報告機関ベース)は8686億円の資本流入超となった。3月3─9日に05年1月の統計開始以来最大となる1兆1219億円の資金流入となったあと、17─23日は「安倍相場」入り後、初の資金流出超となったが、ここにきて再び資金流入ペースが拡大している。 立花証券・顧問の平野憲一氏は、日本株のパフォーマンスが高く、年金など海外の長期投資家も否が応でも組み込まざるを得なくなっていると指摘する。「日本株をアンダーウエートからニュートラルに戻すだけで5兆円の買い需要が発生すると試算されていたが、いまの日本株のパフォーマンスからはニュートラルではなくオーバーウエートまで引き上げざるを得なくなるパフォーマンスだ。リアルマネーの買いはまだ五合目といったところではないか」という。2005年の郵政解散時の上昇相場では、海外勢は日本株を約10兆円買い越している。 日経平均は250円を超える大幅続伸。2008年7月24日以来約4年9カ月ぶりに1万3500円台を回復した。「海外勢は中心銘柄を買ってきている。過熱感も警戒されるが、国内勢の売りも一巡し、売り手が乏しい中、日本株は上値を追っている」(大手証券トレーダー)という。トヨタ自動車(7203.T)は前日比310円高(5.82%)の5640円まで上昇し、約4年10カ月ぶりの高値となった。 <国内勢の外債投資に大きな関心> また市場関係者の大きな焦点となっている国内機関投資家の外債投資だが、今回の対内対外証券投資では、国内勢(居住者)の対外中長期債投資は1兆1449億円の資本流入超(外債を売り越し)と、一部の思惑に反する結果となった。 ただ日銀による「異次元緩和」で国内低金利が一段と低下する中、「国内機関投資家は頭を悩ませている」(国内投資顧問)という。為替ヘッジ付きの外債投資では為替への影響は中和されてしまうが、ヘッジなしであれば円安要因となる。 生保協会によると、2011年度末時点の生保が保有する有価証券は257兆5603億円。内訳は国債が約55%の141兆円、株式が約6%で14兆円、外国証券が約18%の46兆円となっている。仮に1%比率を上昇させるだけで約2.5兆円のマネーがシフトすることになる。 三菱東京UFJ銀行・金融市場部戦略トレーディンググループ次長の今井健一氏は「国内機関投資家の動向は現在、マーケットの最大の関心事だ。生保や銀行は巨大であり、わすかにポートフォリオのバランスを変えるだけで兆円単位のマネーが動くことになる。日計りのトレーダーではない売り切り・買い切りの主体が動けば市場への影響は大きい」との見方を示している。 (ロイターニュース 伊賀大記;編集 佐々木美和) 消費環境、心理的にはバブルの状態=岡田イオン社長 2013年 04月 11日 19:10 JST [東京 11日 ロイター] イオン(8267.T)の岡田元也社長・グループCEOは11日の決算会見で、消費環境について「現在は明らかに良くなっており、心理的にはバブルの状態。久しぶりに忘れていた感覚を思い出している状態」と述べた。ただ、恩恵を受けているのは高齢者が中心で、若者に及ぶかどうかは、分からないとした。 また、2014年4月の消費増税以降は「相当厳しい状況になる」とし、準備が重要な課題になるとの認識を示した。 関連ニュース
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「日本は金融政策により依存を」 G20を前にIMF専務理事 産経新聞 4月11日(木)8時51分配信 【ワシントン=柿内公輔】国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は10日、ニューヨーク市内で講演し、先進国の金融緩和策は適切で、日本はデフレ脱却と成長の加速に向け、「金融政策により頼るべきだ」との見解を示した。
ラガルド氏は、世界経済の回復は地域によってばらつきがあると指摘。成長が続く新興国や改善途上にある米国と比べ、信用不安が広がるユーロ圏とデフレが長引く日本を出遅れたグループに位置づけた。 ラガルド氏は先進国の金融緩和について、インフレ懸念に配慮する必要はあるが、「景気回復に大きな役割を金融政策が担うことは理にかなう」と支持。日銀の新たな緩和策を「野心的な金融緩和の枠組みで正しい一歩」と評価し、デフレ脱却のため緩和策への依存を強めるべきだとした。 IMF専務理事、日銀の緩和は「前向きな一歩」と評価 ロイター 4月11日(木)2時31分配信 4月10日、国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は、日銀の大胆な緩和強化策は「前向きな一歩」と評価した(2013年 ロイター/Brendan McDermid)
[ニューヨーク 10日 ロイター] 国際通貨基金(IMF)のラガルド専務理事は10日、世界経済は今年も引き続き低成長となる公算が大きいとして、中銀は金融緩和の継続を通じて、景気を下支えるべきとの見解を示した。ニューヨークでの講演で述べた。 日本については、成長の勢いに弾みをつけるため、一段と金融緩和に頼る必要があるとした上で、日銀の大胆な緩和強化策は「前向きな一歩」と評価した。 ラガルド専務理事は「金融当局者の行動によって、経済情勢は半年前ほど危険な状況にないようにみえる」と言明した。 同時に、金融状況が改善しつつあるものの、依然として実体経済の改善につながっていないとし、「現状では、緩和的な金融政策の維持によって景気を押し上げることが理にかなっている」と述べた。 さらに「インフレ期待はしっかりと抑制されており、中銀には景気支援に向けた措置を講じる一段の余地が存在する」と述べた。 日本の財政については「ますます持続不可能となっているようだ」と指摘。「日本は明確で信頼の置ける中期的な財政再建策の策定が必要」とし、「景気活性化に向け、包括的な構造改革に着手すべき」と語った。 新興市場国では、先進国での超緩和的な金融政策を背景とした資本フローの突然の反転をめぐる懸念が根強い。 専務理事は「現時点でこのリスクは制御されているようだ」としつつも、各国中銀が緩和解除を開始するようであれば、新興市場国は起こり得る影響に対処する措置を整えるべきと述べた。 米国は「財政の崖」を回避したものの、オバマ政権が信頼の置ける中期的な債務削減計画を打ち出すことが不可欠との見方を示した。 欧州については「資本増強や事業再編、必要であれば銀行の閉鎖を通じ、銀行システムの改善に向けた取り組みを継続することが優先事項」と強調した。 銀行改革に加え、欧州の大半の国が債務削減に向けた厳格な財政政策を維持することが必要としつつも、緊縮策が過度に厳しく、急激なものではあってはならないとの見解も示した。 対キプロス支援に関する質問に対しては、他の多くの国とは異なるため、今後の救済策の「ひな型にはならない。基準を設定するものでもない」との見解をあたらめて示した。 IMFは19─21日の日程で、ワシントンで春季会合を開催する。 【関連記事】 アジアの経済成長率、今年6%近くに=IMF専務理事 日銀緩和策、世界経済支援で歓迎される措置=IMF専務理事 エジプト、2週間以内にIMFと融資について最終合意へ=報道 キプロス支援、IMF資金援助に関する最終決定は5月以降の見込み IMF、13年米GDP成長率見通しを1.7%に下方修正へ=報道 最終更新:4月11日(木)7時19分 「日本は金融政策により依存を」 G20を前にIMF専務理事(産経新聞)8時51分 日銀の緩和策「正しい一歩」=IMF専務理事(時事通信)6時27分 IMF報告書 日銀の大規模緩和策を支持(SankeiBiz)10日(水)8時15分 <IMF>「インフレ恐れず緩和を」分析で黒田日銀を支持(毎日新聞)10日(水)0時55分 (朝鮮日報日本語版) IMF専務理事は親日派? 金融緩和策を支持(朝鮮日報日本語版)9日(火)9時31分 この記事に関連するニュース一覧を見る(11件) http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130411-00000006-reut-bus_all <黒田日銀総裁>追加緩和当面せず…物価目標達成へ「順調」 毎日新聞 4月10日(水)22時14分配信 毎日新聞などのインタビューで笑顔を見せる日本銀行の黒田東彦総裁=東京都中央区の日本銀行本店で2013年4月10日、山本晋撮影 日本銀行の黒田東彦(はるひこ)総裁は10日、毎日新聞などのインタビューに応じた。4日に導入した「量的・質的金融緩和」について「2%の物価上昇目標の達成に必要で十分な措置を決めた。追加策を次々に打つことは考えていない」と、追加緩和は当面、想定していないことを表明した。その上で「(株高・円安の)市場の動きが企業や家計心理の改善とともに景気を上昇させながら、中長期的に物価を引き上げていくことを期待する」と述べ、物価目標達成に向け、順調なスタートを切ったとの認識を示した。 【金融緩和】暮らし変える黒田相場 黒田氏が報道機関のインタビューに応じるのは総裁就任後初めて。日銀は4日の金融政策決定会合で、市場に供給するお金の量(マネタリーベース)と、長期国債や上場投資信託(ETF)の保有額をそれぞれ2年で2倍とすることを柱とする緩和策を導入した。 導入後、円安・株高が進んでいることについて黒田氏は「予想していた方向に向かっている」と強調。長期金利が乱高下していることに関しては「金融緩和が従来より大規模だったため、市場が消化するまで時間はかかるだろう」と、一時的な動きとの認識を示した。 緩和策で国債買い入れを大幅に増やすことで「財政赤字の穴埋めと受け止められかねない」との見方が出ていることには、「国債購入は(世の中に出回るお金の量を増やす)金融調節の手段」と改めて否定。先進国で最悪水準の日本政府の借金残高について「財政の持続可能性が疑われている。債務残高を減らすことは重要で政府も約束している」と財政再建の重要性を強調した。 新たな緩和策導入に伴い、日銀の国債保有残高を銀行券(お札)の発行残高までとする「日銀券ルール」を一時停止したことについては「2%の物価上昇が安定的に達成されればいずれは(金融緩和からの)出口となるので、将来的には日銀券ルールは復活する」とした。同時に「大規模な金融緩和を行っている時に特別なルールを作ることは考えていない」と述べ、量的・質的緩和の実行中、国債購入の歯止めとなるルールは設けない考えを明らかにした。【工藤昭久】 【関連記事】 【クローズアップ】黒田日銀、新政策決定 緩和、異次元の量と質 <黒田・異次元緩和をポイント解説>マネタリーベース倍増 <コラム>経済観測:日銀に必要なミクロ政策=清華大学米中センター高級研究員・酒井吉廣 <IMF>「インフレ恐れず緩和を」分析で黒田日銀を支持 <社説>黒田日銀始動 危険伴う大きな一歩だ 最終更新:4月11日(木)1時28分 http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20130410-00000102-mai-bus_all 小宮一慶の「スイスイわかる経済!“数字力”トレーニング」 日銀が新たな緩和策を決定!経済指標からアベノミクスの成否を探る ? 2013年4月5日 日銀は4月3日、4日に開いた金融政策決定会合で、「量的・質的金融緩和」と名付けた新たな緩和策を発表しました。2014年末までにマネタリーベース(資金供給量)を12年末比で約2倍の270兆円に拡大するとともに、長期国債の購入量も同2倍強の190兆円に増やしていきます。上場投資信託(ETF)などのリスク資産についても、保有残高が年1兆円ずつ増えるよう買い入れを進める方針です。 最も大切なポイントは、名目GDPと製造業の数字が回復するかどうか いよいよアベノミクスが本格始動します。今は期待だけが先行している状況で、実際のところ、安倍政権はまだほとんどのことは具体的には着手しているとは言えない状況です。これからアベノミクスがどのような成果を上げていくのか見極めるには、私たちの生活が本当に豊かになっていくのかどうかを確かめなければなりません。今回は、アベノミクスと景気回復を評価するための指標をピックアップしていきます。 国内景気が実質を伴って回復しているかを見極めるためには、最終的に国内総生産(GDP)が上がるかどうかを確かめる必要があります。国内総生産とは、企業の付加価値の合計です。特に、GDPの実際の金額を表す「名目GDP」は給与の源泉であり、この7割程度が皆さんの給与として支払われていますから、重要な指標です。 アベノミクスでは、「名目成長率目標3%」と「物価目標2%」を設定しています。見方を変えれば、名目成長率3%からインフレ率2%を差し引きますと、実質的に1%の成長率となります。1%国民の生活が実質的に豊かになるということです。もし、アベノミクスの目標が達成されたとしても、この実質的な1%成長を維持できるのかどうかに注意しなければなりません。つまり、インフレ率を1%上回る名目の成長率を確保できるかどうかということです。インフレだけが起こったら、生活は貧しくなるだけです。 GDPとあわせて見ておきたいのが、景気と密接に連動する「鉱工業指数 生産指数」です。これは、国内の製造業の動向を示す指標です。日本は、なんだかんだ言っても製造業が元気でないと発展しない国ですから、国内景気の強さは製造業の指標に現れやすいのです。 「鉱工業指数 生産指数」を見ますと、2012年12月、2013年1月は改善を続けていましたが、2月は89.0(※速報値)と微減で、足踏み状態です。出荷に対する在庫の割合を示す「製品在庫率指数」は、2月も120を超える高水準が続いています。生産が伸びず、在庫が積み上がるという「悪い在庫」を持っている状況が続いているわけです。以上のことから、必ずしも国内景気は一本調子で回復しているわけではないと言えます。 今後を見通す上でポイントとなるのは、企業の設備投資が増えてくるかどうかという点です。設備投資として利用される機械の受注額を示す「機械受注」の数字を見てみましょう。2012年12月は前年比マイナス3.4、2013年1月前年比マイナス9.7と、2カ月連続でマイナスとなっており、あまり伸びていないことが分かります。「法人企業統計 設備投資」も10-12月は前年比マイナス7.2と落ち込んでいます。これらの数字がいつから改善するのか。ここにも注目することが大切です。 金融政策を見極めるために注目すべき指標は 金融政策を見極めるために注目すべき指標は 4月3日、4日に、日銀金融政策決定会合が黒田東彦新総裁のもとで初めて行われました。会合では、日銀が購入する資産内容の範囲を広げることについて議論されました。今まで日銀は、償還まで3年以内の国債を購入していましたが、これから行われる追加金融緩和では、より長期の国債を買い始めるということです。長期国債の購入量は12年末の89兆円から13年末には140兆円、14年末には190兆円に増やしていきます。さらに上場投資信託(ETF)や不動産投資信託(J-REIT)などのなどのリスク資産の買い入れも増やそうとしています。 これは、「日銀のバランスシートの資産サイドを増やす」と言い換えることもできます。国債やリスク資産を買い入れることで資産を増やし、その一方、買入れ代金は、それらを売った金融機関などの保有する「日銀当座預金」に振り込まれます。これは日銀の負債になります。結果的にバランスシートの左右をともに増やしていくのです。 このような日銀のオペレーション、つまり金融緩和の取り組みは、「マネタリーベース」に現れます。「マネタリーベース」とは、日銀券(日銀が発行することのできるお金)と日銀当座預金残高(金融機関が日銀に預けている資金)の合計です。金融緩和とは、このマネタリーベースを増やすことだと言い換えることもできます。日銀は、金融機関から国債などの資産を購入して、お金を金融機関に供給しているのです。 マネタリーベースの推移を見ますと、2012年後半から、前年比2桁の伸びをしています。すでに白川前総裁の時から増やし続けていたのです。今後、マネタリーベースはこれよりも増えていくことは間違いないでしょう。しかし、問題は「M3(現金通貨と民間銀行・ゆうちょ銀行の預金残高の合計)」が反応するかという点です。 景気が良くなると、企業の資金需要が増えます。企業からの借入は一時的に銀行の預金口座に入るので、預金残高、つまり「M3」が増えます。日銀が金融緩和を行ってマネタリーベースを増やし、その結果、M3が増えるかどうかが、金融政策の成果を評価するポイントとなるのです。 もう一つ、あわせて見ておきたいのが、「銀行計貸出残高」です。一般的に、景気がよくなって資金需要が旺盛になると、企業からの借入が増えて「銀行計貸出残高」が増えます。ですから、日銀の金融緩和がうまく機能しているかを判断するためには、「M3」と「銀行計貸出残高」が増えているかどうか、に注意する必要があるのです。 一部で、「アベノミクスの影響で、大手銀行の貸し出しがが増えている」という報道がありますが、上の表を見てもお分かりのように、傾向としては昨年夏あたりから微増し続けています。この理由はなぜでしょうか。 「鉱工業指数 生産指数」を見ると、昨年夏あたりが景気の底でした。つまり、この時期から景気が自立反転しだしたという背景があると思います。また、円安の影響で、輸入決済のための資金需要が増えていることも考えられます。さらに、金融円滑化法の終了を見据えて、連鎖倒産を防ぐ意味からもキャッシュポジションを上げておいた方がいいと考える企業が増えたことも影響しているかもしれません。 アベノミクスへの期待がないわけではありませんが、それだけで資金需要が順調に増えているわけではないのです。 円安で本当に輸出は伸びるのか? 2013年4月2日時点で、1ドル=93円まで円安が進んでいます。この影響で輸出がどこまで伸びるかどうかも、景気の先行きを見極める上で重要なポイントになります。 「貿易・通関」を見てください。震災が起こった2011年度は、約4兆4千億円の貿易赤字に転じました。12年以降もこの傾向が続き、特に円安が加速した2013年1月は、1兆6000億円という単月で過去最大の貿易赤字となりました。2月も約8000億円の赤字です。円安に振れたことで、今後は輸出が伸びるだろうと言われていますが、実際はどうなのでしょうか。 「Jカーブ効果」という言葉をご存じでしょうか。円安になると、輸入額の方が先に増えるために、最初は貿易赤字が増えます。その後に輸出が増えて、貿易赤字が減少していくのです。こうした状況を、縦軸を輸出額、横軸を時間とした場合に、アルファベットの「J」の形になることから、「Jカーブ効果」と言われています。今後、本当に輸出が増えて「Jカーブ効果」が現れてくるのでしょうか。 大方の予測では、輸出が好転するだろうと考えられています。一部の輸出企業、例えばトヨタ自動車は、4月あたりから輸出が伸びると見越して生産を拡大しています。しかし、日本全体で輸出が伸びて貿易赤字が減り始めるのかどうかは、今後も指標の動きに注意しながら見極めなければなりません。 また、貿易赤字が拡大しているということは、実需で円が売られているということですから、当然、この分円安に振れやすくなります。「貿易・通関」とあわせて「円相場」の動向にも注意しておくと良いでしょう。 もう一つ、貿易収支や所得収支などを含む「経常収支」の動きにも注目することが大切です。 企業の海外進出が増えたことで、配当や金利のやりとりの額である「所得収支」が増加し、今ではひと月に1兆円程度の黒字となっています。しかし、貿易収支の赤字額が増えていることから、2012年11月以降は経常赤字が続いています。 経常赤字が続くと、日本国債の信任が失われる恐れがありますから、非常に大きな問題なのです。貿易収支の改善によって、経常収支がいつ黒字に戻るかどうかにも、注意しなければなりません。 金融緩和策なくとも、物価が上昇する恐れも 冒頭でもお話ししましたが、アベノミクスでは「物価目標2%」を掲げています。ここでいう「物価」とは、「消費者物価指数 前年比」のことです。これを、2年で2%まで上昇させると言っているのです。 ここで、大きな問題があります。表を見てもお分かりのように、「輸入物価指数」が円安の影響と資源価格の上昇によって跳ね上がっているのです。2013年1月は前年比11.0%、2月は前年比13.2%と大幅に増えています。金融政策がなくとも、物価が上昇しやすい傾向があるということです。 輸入物価が上昇し、企業間の物価(国内企業物価指数)も上昇し、その結果、消費者物価指数も上がってしまうと、単に日本から海外にお金が出ていくだけです。 これで物価目標が達成されても、何の意味もありません。実質的に景気が良くなって、給与の源泉である名目GDPが伸びた上で、消費者物価が上がるかどうかという点を考えなければならないのです。 消費者物価だけ上がって名目GDPが増えない、という最悪パターンに陥ったら、安倍政権だけでなく日本経済が後退することは間違いありません。物価の動向と名目GDPの伸びの双方に注意が必要です。 3月末あたりまでは、アベノミクスに対する期待値が先行していました。しかし、円相場や日経平均株価を見ますと、そろそろ期待も一服しているようにも感じます。これからは、経済が本当に期待に応えるのかどうかという点がポイントになるでしょう。 私たちの身近なところから考えますと、「現金給与総額」が上がって、なおかつ、「有効求人倍率」や「完全失業率」が改善するということが、実際に起こるかどうか。ここをきちんと見極めなければなりません。 これらが順調に起こればいいのですが、うまくいかなかったら最悪です。給与が上がらないまま来年4月1日から消費税増税が行われることとなり、日本経済の“終わりの始まり”がスタートするのです。 結局は、経済だけでなく、国民生活が豊かにならなければ意味がありません。ですから、一部の指標だけを見て「経済が良くなりました」と言っても仕方がないのです。最終的には、経済がプラス成長になった上で皆さんの給与が上がり、生活が実感として豊かになったかを見極めなければなりません。期待だけで現状を判断するのではなく、今回指摘してきた指標をきちんと見ておくことが大切です。(つづく) 小宮一慶(こみや・かずよし) 経営コンサルタント。小宮コンサルタンツ代表。十数社の非常勤取締役や監査役も務める。1957年、大阪府堺市生まれ。81年京都大学法学部卒業。東京銀行に入行。84年から2年間、米国ダートマス大学エイモスタック経営大学院に留学。MBA取得。主な著書に、『ビジネスマンのための「発見力」養成講座』『ビジネスマンのための「数字力」養成講座』(以上、ディスカバー21)、『日経新聞の「本当の読み方」がわかる本』、『日経新聞の数字がわかる本』(日経BP社)他多数。最新刊『ハニカム式 日経新聞1週間ワークブック』』(日経BP社)――絶賛発売中! 小宮コンサルタンツ facebookページ: http://www.facebook.com/komiyaconsultants 皆様からお寄せいただいたご意見(11件) 1. 猫も杓子もアベノミクス。 黒田日銀の唐突なる金融緩和で面を食らったエコノミクス諸兄の両極端の 意見が面白く見えてしょうがない。今は何とでも言えるでしょうね。 マスコミも異口同音のことを跋扈して何か的を得ていない感じもしますね。 日銀は多かれ少なかれ限りなくお札を供給し続け物価を制御し経済活動の 活性維持に努めなければならないが、潤沢な資金がどのように市中にまわり 企業の投資に反映され、生産、消費へと回転していくのは、政策次第であり 一部の経営者の意図次第になる。そんなに短期に循環するわけがない。 ややもすると外債購入やら残存不良債権の償却で吸収されてしまう。 直近では円安により輸入価格の増大と消費税増税が景気に覆いかぶさるのは目に見えている。 900兆もある個人金融資産は益々防衛に走ってタンスに置かれたままになる。 デフレで財布の口をゆるめていた優雅な高齢年金生活者も逆に財布の口を閉じるかもしれない。 ここはウォッチングしかないのでしょうか。 潤沢なお札の供給でお金の価値が減ずれば、株、債権、不動産投資だけが活況づく感じを 受ける。証券会社、投資銀行のみが小躍りしているが、外国投資、ヘッジファンドが 7割も関与している状態の市場がなぜか不気味です。 一部の偏屈なエコノミストが言う過度な円安、国債暴落も覚悟が必要か。 (ytk) (2013年04月10日 10:42) 2. 低所得層や貧困層は、たしかに物価高で困るかもしれない。しかし、株高や不動産価格上昇などの資産効果による消費拡大(プラス)と物価高(マイナス)を見比べれば、日本経済全体では圧倒的にプラスが上回る。低所得者や貧困層の方が人数的には多いので、政治的には色々な対応が必要となるが、経済面でのマイナス面を強調するのはミスリードを言われても弁解の余地はない。 (山田一太郎) (2013年04月09日 14:28) 1. 日銀の大胆な金融緩和策は本来は日本の金融機関が総力を挙げて行うべきものであろう。1500億円以上の金融資産が日本国内の金融機関に死蔵されており、適正に民間市場に流れていかない異常な状況が長期に渡って続いている。日本の金融機関は多量な預金を国債を購入することで、安易な金利稼ぎをしていると同時に市場への金の流れを堰き止めている元凶となっている。反面、日銀が国債等の購入は死蔵されずに資金が市場に流れていく。日銀の国債の購入は金融機関の購入と逆の作用を及ぼす。今回の日銀の金融緩和策は正に国内の金融機関が果たさねばならない役目を引き受けたわけである。 こうでもしなければ景気の劇的な回復は不可能なほど日本の金融機関の創造性と責任感が衰退ししてきている事が、日本の経済力悪化の根本要因の一つなのであろう。全てを日銀任せにせず今回の金融緩和を契機に、日本の金融機関が1500億円もの巨大な資金を死蔵せずに有効活用して日本の経済再生、活性化に向けて日銀と協調して、全力を尽くすことを期待したい。 (クスリ) (2013年04月08日 17:38) 2. 毎週、経済指標を引用した解説を掛かれる小宮さんのご苦労は大変なものだと思う。私は、毎週発表される小宮さんのブログを楽しみにして読み、この2年間、毎回欠かさず意見を書かせてもらっている。 80歳の暇な老人は、バックナンバーを2009年から拾い読みし、小宮さんの解説も皆さんのコメントも自分の意見も、随分変遷しているなと思った。最近私は、円安が大事だといっているが、2009年頃は、金融緩和は意味がないようなコメントを書いている。読みの浅さを思い知って恥ずかしい。 2009年頃、小宮さんが取り上げられるテーマは幅広く、かつ多数の方がコメントを寄せられていた。しかし最近、直接間接にアベノミクスに関連するテーマに絞られてから、かってたくさんお見受けしたペンネームが見つからず、コメント欄がさびしい。経済金融問題については、意見が書きづらいのだろうか。 2度の政権交代を経て、TPP交渉のテーブルに着くことは確定したし、日本社会は変革に差し掛かっている。今後諸般の情勢変化は加速するだろう。小宮様の問題提起を種に大勢の方のご意見を読みたいと思う。人間の智恵は、連想で発達する。大勢が意見を交わすほど良い結論が出る。コメントを許すブログは貴重な存在だ。小宮様、毎週ご苦労様ですが、種となる記事をよろしくお願いします。 (富士 望) (2013年04月08日 14:21) 3. 実体経済の長期的な推移に着目したお銀様とAG様に大賛成。ストックのことばかりでGDP15%分の輸出金額が20%以上増額することに全く言及のないクスリ様のご意見には賛同できない。 (富士 望) (2013年04月08日 12:25) 4. アベノミックスの発表から円安、株高で世の中少し、明るくなっているように見えます。日銀の黒田総裁の発表は英国のFTはバズーカ砲と比喩していたが、20年に及ぶデフレ脱却には副作用を恐れず、今回の果敢な金融政策は評価されてよいと考えます。しかしこの20年でグローバリゼーションの進展、特に中国はじめ途上国の目覚しい発展、人口減少社会と高齢化、円高から多くの製造業の疲弊はシャープ、パナソニックの苦境をみてもわかります。一方サムスンは半導体や、液晶テレビだけでなく、最近はスマホで大発展を遂げ営業利益は二兆円ともいわれ、電機大手の合計より 多いのが昨今の現実です、自動車、建機と一部の製造業を除き、円安のメリットを受け、利益を拡大、従業員の給与をアップさせるには数年を要すると考えます、結果、物価だけがアップするスタグレーションを心配します。やはり消費税アップは一年間遅らせるべきでしょうか? (川崎のゴリさん) (2013年04月08日 12:04) 5. 筆者は一番重要な点を見落としています。 それは、異常な円高の是正により、存亡の危機にあった日本の製造業が息を吹き返したという点です。この3月期決算を見れば分かるでしょう。企業収益が改善されれば、報道されているように満額ボーナスやら設備投資に回り日本経済の復活の一歩になるでしょう。経済のパイが拡大していく状況で、筆者の言う最悪シナリオは、あまりに心配性に見えます。「パイの拡大」にも疑問を呈しているようですが、「金は天下の回りもの」ですから、金融政策と円レート双方により、これは間違いはないと思います。まだ統計数字には表れていないのでしょうね。 過去の数字を見ることは大事ですが、このような変化の激しい時代に、時間遅れのある数字それだけをベースに議論することに危うさを感じます。 (AG) (2013年04月08日 10:21) 6. 単なる経済指標の解説記事が今時どれほどの役に立つというのか。更に不安要素を論い何の解決策も述べていない。4年にも及ぶ100円を切る異常な円高を当たり前のように受け入れ,そこを出発点にして物事を見るからおかしくなる。それ以前の100円を超す為替相場が何10年も続いていた時をベースに考えるべきである。 (お銀) (2013年04月08日 09:36) 7. 印刷機能を付けてください.きちんと理解したい記事はPDF化して後からじっくり読みます.全てを表示して印刷できる機能がないと不便です. (読者) (2013年04月06日 16:34) 8. アベノミックスの効果が国民全般に及ぶまでには、最低半年〜1年程の時間を要することと思う。株高、不動産価格の上昇による資産押し上げ効果は、多くの資産を抱える金融業界、大手企業、資産家等に資産効果をもたらし、そこに大きな資本、資金が生まれるからである。元々、多くの資産を持たない大多数の国民にとっては資産効果は直ぐには起こりえず、円安による輸入物価高騰による物価高の方が先行せざるを得ない。大手企業の資産効果、円安による製造業の景気回復や企業利益が増えてから社員、従業員の給料がアップする条件が整って、それが実施可能となるからである。逆の流れである、社員、従業員の所得アップが企業利益アップに先行することはあり得ない。給与アップにしても、大半の企業では毎年一回の4月の給与改定時期にしか行われない為に、利益を向上できた企業では夏、冬のボーナスで利益を従業員に還元することになる。従って今年は、アベノミックスの効果による給与効果はボーナスの支給状況で判断するのが妥当であろう。アベノミックスの経済効果は、水の流れと同様に高きから低きへ流れて行き次第に大きな水の流れを生み出し、大きな河の流れとなって行くと思われる。当面の資産効果に浮かれず、それが続く内に第3の矢である成長戦略を何とか正常軌道に乗せること経営者、政治家には強く願いたい。 (クスリ) (2013年04月05日 16:17) 9. 小宮様の、生産指数、輸出金額、マネタリーベース、銀行貸出残高の統計値を引用した説明は納得できる。しかし円安の影響は今後注視が必要だとされている。そこで、ドル円レートと輸出金額について2008年以降の推移をグラフ化し、次を読み取った。コメントにグラフを載せられないのは残念。 1. 2008年のドル円相場は110円台で輸出額は現在より30%程度多い。 2. ドル円相場は、2009年4月の100円から2012年9月までほぼ一定の低下トレンドが続いたが、同月のマネタリーベース増加を受けて下げ止まりとなり、2012年11月の日銀政策の変更後は円安が急激に進み、4月5日の相場は97円近くである。 3. リーマンショックの2008年末から1年間は輸出が急減し、2009年末にやや戻した。 4. 2010年以降昨年まで3年間の輸出金額は、月額±8千億円程度変動するが、月額平均は2008年の30%減の54千億円程度で横這いである。輸出額減少はリーマンショックの後遺症というより円高影響だと推察できる。 小宮様の短期分析を契機に2008年からの経済統計値をグラフ化し、円高の影響で円の輸出金額が30%程度減少していたことが改めて認識できた。しかし、輸出は一般的に契約時に為替予約する。今の売上は円高時の契約だから、円安効果が輸出金額、生産指数、機械受注に現れるのは大部遅れる。小宮様の言われる通り、今後の輸出金額等の推移には注目が必要だ。 アベノミクスの主な狙いではないが、金融緩和は明らかに円安を招いている。しかしまだリーマンショック前のドル円相場までは戻っていないから、一層の金融緩和で更なる円安を期待したい。諸経済指標に円安効果が現れるのは今後だし、小宮様が心配される物価高は、円安で輸出が2008年頃のレベルに戻った後で考えて充分間に合うだろう。 (富士 望) (2013年04月05日 13:52) http://www.nikkeibp.co.jp/article/column/20130404/346411/?ST=career&P=4 【第33回】 2013年4月11日 山田厚史 [ジャーナリスト 元朝日新聞編集委員] 「原発」に学ぶ「異次元」の死角 アベノ日銀はリスクが満載 ?黒田日銀が打ち出した大胆な金融緩和策は、人体に例えれば心臓を2倍にして2倍の血液を送りだすようなものだ。日本経済は興奮し株式市場は大商いである。たいした効果だが、強い薬には副作用がある。異次元の金融政策は異次元のエネルギーとされた原発と重なる部分がある。リスクを軽視した「強者の慢心」は危うい。 ?景気好転で世間の関心が「経済」に移っている最中、福島第一原子力発電所では放射能汚染水が漏れ、制御不能の事態に陥っている。政府の収束宣言にもかかわらず、フクシマの現場ではいまも危機の綱渡りが続いている。 「出口戦略」の不在 ?金融政策と原発政策は意外にも共通点がある。違和感を持つ人もいると思うが、「危機管理」の観点から見ると、両者には共通する欠落点がある。 ?第一は「出口戦略」の不在。原発はすさまじいエネルギーを発生させる代償に放射性廃棄物を生み出す。「核のゴミ」といわれるが捨てられないゴミである。人体や生態系を破壊する猛毒の処理方法さえ決めず、発電を始めた。長い時間軸で考えるべき経営が短絡的採算を重視し、先のことは考えない。事故はその中で起きた。 ?黒田日銀の大胆緩和は、株式・債券・外国為替の市場に大きなインパクトを与えた。目先の利益を追う人には嬉しいことだ。しかし、こんなことはいつまでも続かない。株式市場の最大のテーマは、どこまで上がるか、いつ売ればいいのか、である。 ?資産価格の膨脹は「適正水準」でピタリと止めることができない。ハンドルさばきを誤ると破裂するまで膨脹する。「異次元」とまで総裁自らがいう過激な金融膨脹は副作用を覚悟すべきだろう。その副作用を見据えて「出口戦略」が用意されているとは思えない。 「デフレ脱却に着手したばかりなのに、出口を云々する時ではない」と麻生財務相は国会で答弁したが、お膝元の財務省では、「国債バブル」が心配のタネになっている。 ?今は国債が買われ、長期金利がどんどん低下しているが、いつもでも続かない。金利の反転が急激に起きたら大変なことになる。困ったことに、それがいつ起こるか、何がきっかけになるか分からない。その時、どう対処するか。「出口戦略」を持たないまま「異次元の金融政策」に突入した。 「政府が新規に発行する国債の7割は日銀が市場を通じて買うことになる」と黒田総裁は明言した。そこまでやるのか、という大胆な金融緩和だ。本来、国債市場には「大量発行の歯止めをかける自律的機能」がある。消化能力を超える大量発行になれば、国債が売れなくなり(金利は上昇し)「警鐘」を発する。だが日銀がどんどん吸い上げれば、その機能が損なわれ、ある日突然、金利はね上がる(価格暴落)という事態が起きかねない。 「有事」になってわかるコスト ?第2は「有事」になってはじめて政策コストが明らかになることだ。 ?原子力は安全運転が続く「平時」なら、一番コストの安い発電方法とされてきた。だが運転をやめて廃炉にする時のコストや、突然の事故で賠償やら汚染対策などの費用が発生する「有事」になると、とんでもなく割高の発電方法であることが分かる。 ?異次元の金融政策は、アナウンス効果が絶大で、何も始まっていないうちから株価は上がり、円は安くなり、金利が低下した。極めて効果的な政策に見えるが、「事故」が起きた時、どうなるのか。首尾よく安全運転を続ける可能性はゼロではないが、「資産価格」を膨脹させる政策だけに、「暴落」という事故と隣り合わせの政策である。 ?黒田総裁は「現時点では資産バブルの心配は全くない」と強調する。危ないことを承知の上で「安全神話」を煽ってはいないか。 ?政策のコストは、失敗の可能性を織り込んで計算した方がいい。 ?リスクが大きい政策はなるべく避ける、というのが日銀の伝統的手法だった。だが、白川前総裁は「リスクがあるからやらない」ということではなかった。国債を買い上げて市場に資金を流し込む、株を買い上げる、J−REITを買う、という「非伝統的」な政策は、白川時代に始まった。黒田総裁との違いは「リスクある政策だから、市場の様子を見ながらやる」という姿勢だった。 ?そんなやり方を黒田総裁は「戦力の逐次投入」と批判した。「政策は小出しにせず、有効と考えることは全て投入する」という。危険承知で突き進む、という蛮勇のコストはどれほどになるのか。リスクが現実化して分かる、という事態になる恐れは十分ある。 日和見主義 ?第3は、御用学者・日和見エコノミストの跋扈だ。 ?原発の安全神話を振りまき、怠慢なリスク管理の温床となったのが、「原子力ムラ」で権勢を振るう御用学者たちだった。有名大学の偉い先生は原発推進の「お飾り」になっていた。金融政策に「御用学者」がいないのか。 ? ?白川方明前総裁の政策に不満だった安倍首相は、「私の政策に理解がある総裁を選ぶ」と宣言し、お眼鏡にかなった正副総裁を選んだ。だが、金融政策は総裁だけで決まらない。金融政策決定会合という場で多数決で決まる。メンバーは総裁と副総裁二人、そのほか6人の審議委員がいて、計9人の多数決で政策を決める。白川総裁の時も同じである。 ?ということは3人代わっただけでは政策は変わらない、はずだ。 ?黒田日銀の初会合で、「異次元の金融緩和」は全員一致で決定された。白川総裁の時と正反対の決定がトップが代わっただけで実現した、ということである。 ?日銀の審議委員は大学教授、企業経営者、民間のエコノミストなど金融の専門家によって構成される。それぞれご自分の意見をもった人であるはずだ。それが白川が黒田に代わった途端、クロがシロになったというのか。 ?3月に行われた金融政策決定会合の議事録に、興味深い事実が載っている。 ?白井さゆり審議委員が「2014年から始まる無期限の金融緩和をすぐに始める」など、黒田日銀の政策を先取りしたような提案をしていた。ところが審議の結果、多数の委員は「様々な選択肢の一つだが、現状維持が適当」と反対し、提案は退けられた。 ?一ヵ月後に開かれた黒田総裁の初会合で、ほぼ同じ提案は全員一致で決まった。この一ヵ月で大多数の委員の意見が代わるような市場変動は起きていない。総裁が代わっただけだ。日銀の政策決定会合も政府の審議会と同じように、官僚が決めた政策を追認する「儀式」で、高名なセンセイたちは「イエスマン」なのか、と思わせる風景である。 ?今回、副総裁に就任した金融学者の岩田規久男氏は独自の金融論で日銀を批判していたので、これまで審議委員になることはなかった。6人の審議委員は穏当な意見で、日銀の意向に沿う「空気が読める人」が選ばれてきたと思わざるを得ない。 ?政治主導で白川氏が黒田氏に代わり、委員たちは「空気」を察知したのだろうか。それにしても前月に反対した委員は、今月どんな理屈で賛成に回ったのか。来月公開される4月の議事録が興味深い。 ?審議委員は官庁の審議会委員と違い、常勤である。日銀の内部関係者によると2000万円前後の年俸が支払われているいう。たんなる名誉職ではない。その実態が「ゴム印を押すだけ」というのでは預金者に対する背信である。 ?問題なのは御用学者の人格云々でなく、制度を空洞化させるからだ。専門の有識者が決定に加わることで多重のチェックを働かせ、システムのリスクを軽減する。それが委員会方式の使命である。 ?原発が御用学者によって杜撰な管理に置かれ、取り返しの付かない悲劇を招いた教訓は他人事でない。 ?審議委員だけではない。銀行や証券会社などのエコノミストやアナリストにも「空気を読む」が広がっている。 「当局に批判的はコメントは出しにくい」と銀行の広報担当者はいう。アベノミクスの危うさを指摘すると、「こんなに巧くいっているのに、景気に冷や水を浴びせるのか」 という批判にさらされる、というのだ。 ?参議院選挙まで「ともかく景気を」という政権の意向を、金融界は十分に感じ取っている。 「株高や円安など市場が賑わっている時に、敢えてネガティブな見方は出しにくい。自民党が選挙に大勝し、これからも力を持つだろう、ということは無視できない」 ?銀行の人たちは言う。当局から免許をいただき、理念より利益の金融界は体質的に日和見なのかもしれない。危ないと思いながらも口を拭う金融界の空気が、アベノ日銀を暴走させることにならないか。 責任を負いきれないほどのリスク ?第四は、責任を負いきれないリスクを抱えていることだ。 「日銀総裁は原発を運転する電力会社の社長と同じ覚悟がいる」 ?日銀OBの一人はそう言った。原発のリスクに平然としていた東京電力の経営者は、フクシマで大変な責任を負った。その自覚があるかは不明だが、個人が一生をかけても償いきれない犠牲を社会に与えたのである。 「私の責任で再稼働します」などと首相が言っても、もし事故が起きたら、責任を負いきれるものではない。日銀総裁も「なにも起こらないで経済が順調に進む」ことが最良の仕事で、狂乱物価やバブル経済を発生させた総裁は、責任を負いきれない打撃を世間に与える。 ?アベノミクスは政治的野心を伴った政策である。「中央銀行の政治的独立」に疑義を唱え、政治力で金融政策を変えた。そのとっかかりが「緩和政策」をバナナの叩き売りのように競わせた総裁選びだった。 ?御用学者や安全神話に寄りかかり、やみくもに異次元にのめり込むことで大丈夫なのか。アベノ日銀は、一見無関係な原発事故から学ぶべきことが多いはずだ。事故が起きたときは手遅れである。 http://diamond.jp/articles/print/34505 第178回】 2013年4月11日 田中秀征 [元経済企画庁長官、福山大学客員教授] 「次元の違う金融緩和」が秘めた危険性 ?貸手が気前よくなったら経済は要注意。
?これは経済を観るときの私の重要な視点の1つだ。 ?故・速水優氏が日銀総裁に就任した直後にも私は同氏にそう言った。 「気前が良すぎる貸手が現れたらそれは大きな異変です。貸手が借手に頭を下げて借りてもらうのは経済法則に著しく反する行為だからです」 ?速水氏は細川政権当時、経済同友会の代表幹事をしていて、細川政権の改革全般を強力に支援してくれていた。日銀総裁としても「円高」と「規制改革」には一家言を持つ硬骨漢であった。2006年の量的緩和の解除により景気後退のA級戦犯のように言われるが必ずしもそうではない。私はその直後に、規制改革を進めない政府に記者会見でボールを投げ返す必要があったと感じて彼にそう言った。政府が必要な経済政策を推進して、はじめて金融政策を転換できるという意味であった。 ?さて、素人同然の私が日銀総裁に前述のようなことを言って実に失礼だと反省したが、彼は私の話を真剣に聞いてくれた。 ?日銀という高台から見張っていて、貸手が金を持って借手を追いかけている。私のイメージはそんなところであった。もしそんな現象を発見したら半鐘を鳴らして警告すべきだと言いたかった。 「借りてくれる」は危険なサイン ?私は80年代末のバブル最盛期に、ある農協役員にこう頼まれた。 「金を借りてくれる人がいたら紹介してください」 ?このとき私は「借りてくれる」という言葉に強い違和感を持ち、その後幾日も考え込んでしまった。 「貸してくれる」ならわかるが、「借りてくれる」はおかしい。「貸してくれる」は古代の人でもわかるが、「借りてくれる」は理解できないだろう。 ?私はつねづね、経済がどんなに大規模になり、複雑になっても、経済を支配する基本的な法則は不変であると信じている。それは他でもない「人々の暮らしを良くする」という目標は時代にかかわらず変わらないはずだからだ。 ?正常な経済状況の下では、金を借りる必要のない人は借りない。そして、借りたい人でも返す力のない人は借りないし、貸手もそんな人には貸さない。 ?問題は借りる必要がない人が借りたり、返す力のない人が借りる現象が起きることだ。 ?リーマンショックの契機となったアメリカの住宅バブルの崩壊もその典型であった。中流家庭に住宅が行き渡ると、バブルを維持するためには低所得者層に拡大せざるを得ない。返済困難な人にまで融資をすればバブルの崩壊は時間の問題となる。 ?また、貸手が借手に「借りてもらう」ようになると深刻なモラルハザードが発生する。「あなたが借りてくれと必死に頼んだから借りてやった」のだから返済する気持ちが極度に弱くなる。結局それが不良債権として蓄積するのだ。 ?1980年代バブルが弾けた後、宮沢喜一元首相に「何とかならなかったですか」と聞くと、「みんなが歓んでいるときに水をかけるのは難しいんだな」とつぶやいた。 「80年代バブル」の二の舞にならないために ?私の念頭にあるのは、言うまでもなく、「次元の違う」金融緩和策。特に日銀が市場に供給する資金量を2年間で2倍にするという破天荒な政策だ。資金需要のないところに供給すればその金はどこに行くか。結局はまず土地や株に向かい、資産バブルを起こさざるを得ない。銀行も旨味の少ない国債から離れて借手を探すことになる。そうすれば、逃げる借手を追う貸手という不条理な風景が再発するかもしれない。 ?黒田日銀はもちろんその対策を考えているだろう。また、金融当局も学界も、何よりも企業や個人も、80年代バブルで多くを学んでいる。今のところ絶好調なアベノミクスをどう着地させるか。官民挙げて知恵を絞らなければ元来た道を再び辿ることにもなりかねない。 ?もしも、この絶好調を堅実な成長過程につなげることができれば、アベノミクスの大実験は経済史に深く刻まれよう。 http://diamond.jp/articles/print/34506 日本の政策転換、やり残した「革命」 2013年04月11日(Thu) Financial Times (2013年4月10日付 英フィナンシャル・タイムズ紙)
黒田日銀は金融政策の革命に着手した〔AFPBB News〕
日銀の黒田東彦新総裁が金融政策の革命に着手した。日銀にはデフレを終わらせる力はないと日銀自身が明言していた、20年に及ぶ慎重な政策運営に幕を下ろした格好だ。 2%の物価上昇率を2年以内に実現するという安倍晋三首相の目標は野心的で、黒田氏はそれを達成する大胆な政策を手にしている。 問題は、その政策がうまくいくかどうかだ。これだけではダメだと筆者は考える。日本政府が抜本的な構造改革でこれに続かなければならない。 「量的・質的金融緩和」の限界 日銀は4月4日、「量的・質的金融緩和」なるものを打ち出した。マネタリーベースを倍増させ、買い入れる日本国債の平均残存期間をこれまでの2倍以上に延ばすという。 実行されれば、マネタリーベースは年間60兆〜70兆円(米ドル換算で6000億〜7000億ドル、日本の国内総生産=GDP=の13〜15%に相当)増加し、購入する国債の平均残存期間は現在の3年から7年に延びる。日銀はさらに、「『量的・質的金融緩和』は・・・必要な時点まで継続する」と述べている。 これはいわゆる「ヘリコプターマネー」ではない。なぜなら、景気が回復したら金融緩和政策を転換するつもりでいるからだ。また、これはスイス国立銀行が行ったような外国資産の買い切りでもない。 フルクラム・アセット・マネジメントのギャビン・デービス会長の言葉を借りるなら、これは「内的バランスシート操作という薬の大量投与」であり、資金の運用先を日本国債からほかの資産にシフトするよう金融セクターに促すと同時に、実物資産の価格を引き上げることを狙った措置だ。とはいえ、円相場の下落は間違いなく望ましい結果だろう。 この政策がうまくいく可能性があるのはなぜなのか? それは、日本が民間部門の構造的な貯蓄超過に苦しめられているからだ。日本企業は現金を過剰にため込んでいる。今回発表された政策は、この構造を少なくとも一時的には変える可能性がある。 その経路は2つある。第1の経路は、実質為替レートを下落させることにより、経常黒字の拡大を通じて過剰な貯蓄を輸出する能力を高められるかもしれないというもの。第2の経路は、実質金利をマイナスにし、かつ資産の実質価値を高めることにより、投資が増えて貯蓄が減少するかもしれないというものだ。 ただ、最もうまくいった場合でも、この政策は短期的にしか機能しないだろう。最悪の場合には、インフレ期待を危険なほど不安定にし、日本をデフレからあっという間に超高インフレに追いやる恐れがある。 従って日本の国民は、政府の狙いは国民の(明らかに持続不能な)貯蓄の実質価値を引き下げて国民を著しく疲弊させることにあると考えるかもしれない。 もし国民がこの恐怖に駆られて円を見捨て、資産を外国に移したら、政策当局は途方に暮れることになる。金利を引き上げてこれに対応すれば、政府の財政に壊滅的な打撃を与えることになるからだ。実際、当局は為替管理まで導入せざるを得なくなるかもしれない。 機能不全に陥っている企業部門 では、今回の金融政策の変更を成功させるためには何をすればよいのか? その答えは、最大の障害物が構造的なものであることを認識することにある。問題は、機能不全に陥っている企業部門にあるのだ。 スミザーズ・アンド・カンパニーのアンドリュー・スミザーズ氏とロンバード・ストリート・リサーチのチャールズ・デュマ氏は先日、ほとんど同じことを主張していた。日本の民間部門における貯蓄超過――そのほとんどが企業部門によるもの――は、妥当と見られる投資機会に比べて、あまりに大きすぎるという。 そのため2011年には、内部留保と減価償却費の合計のGDP比が29.5%という信じ難い高水準に達していた。やはり企業の貯蓄超過に困っている米国でさえ、この値は16%にとどまっている。 日本の経済システムは、多額の民間貯蓄を生み出すマシンだ。人口動態が芳しくない成熟経済は、こうした貯蓄を生産的に活用することができない。デュマ氏が指摘するように、米国の設備投資総額は過去10年間、平均してGDP比10.5%なのに対し、日本は13.7%に上る。にもかかわらず、米国の経済成長は日本のそれを大きく上回ってきた。 日本企業の投資は少なすぎたのではなく、過剰だったに違いない。企業の過剰貯蓄をもっと吸収するために投資率を引き上げることが無駄を増やさないとは思えない。 短期的には、マイナスの実質金利は投資を多少増やすかもしれない。貯蓄から得られる収入が減るからだ。だが、中長期的には、日本企業の設備投資は減っていくはずだ。家計の貯蓄は少なく、借り入れ意欲も低いため、企業部門の莫大な過剰貯蓄を吸収できる部門は2つしか残らない。外国人と政府である。 実際には、この20年間、政府が主にこの仕事を引き受けてきた。財政赤字が巨額で、公的部門の債務が上昇し続けるトレンドを描いているのは、このためだ。一方、対外黒字は縮小した。これは交易条件の悪化と輸出量の不振によるものだ。ここでもやはり、円安が助けになるはずだが、ごく小さな助けにしかならないだろう。 企業部門の過剰貯蓄を吸収し、公的債務比率を引き下げるために必要な財政黒字を生み出すためには、少なくともGDP比10%の経常黒字が必要になる。いまだに経済がかなり閉鎖的な日本は、そのような黒字を生み出せない。仮にできたとしても、諸外国はそれを吸収しないだろう。 日本に必要な構造改革とは となると、当然、日本には是が非でも構造改革が必要だということになる。だが、どんな構造改革でもいいわけではない。日本に必要なのは、企業の貯蓄超過を減らすと同時に経済のトレンド成長率を高める改革だ。日本の1人当たりGDP(購買力平価ベース)は米国の水準の76%、労働時間当たりのGDPは71%まで下がっているため、この組み合わせは可能なはずだ。 政策の選択肢には、減価償却引当金の大幅な削減、場合によっては投資拡大の奨励策とセットにした内部留保に対する重税の実施、株主の権限を強めるためのコーポレートガバナンス(企業統治)改革などがある。その狙いは、非効率性を助長してきたキャッシュフローのクッションを企業から奪うことだ。 考えられる限り最悪の増税は、現在計画されている消費税の増税だ。というのも、日本は消費が少なすぎるからだ。むしろ、企業の貯蓄に課税すべきだ。 こうした改革は本当に抜本的なものになるだろう。では、安倍首相がこの方向に動く可能性はほんの少しでもあるだろうか? 答えはノーだ。だが、この種の改革がなければ、日銀の新しい政策はよくても短期的な対症療法で終わり、最悪の場合、インフレの惨事を招く。 一方、中国はこれが、投資を優遇し、消費を抑えることで築かれた経済の最終結果であることに留意しなければならない。先進国に追いつくための戦略としては素晴らしいが、高度成長が終わった時には、極めて大きな頭痛の種が残るのだ。 By Martin Wolf http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37561 【第57回】 2013年4月11日 上久保誠人 [立命館大学政策科学部准教授] アベノミクス三本目の矢・成長戦略に 「痛みを伴う」大胆な外資参入を ?マーガレット・サッチャー元英国首相がお亡くなりになった。元々、私が英国留学を志した理由は、サッチャー氏の指導力へのあこがれであった。また、会社を辞めてから競争社会に身を置いた私にとって、「サッチャリズム」という個人主義・自由主義の思想は、生き方の指針であった。私の人生に最も影響を与えた人物であったといっても過言ではない。謹んでご冥福を祈ります。
?サッチャー氏逝去のさまざまな記事を読んでみた。興味深かったのは英ガーディアン紙だ。この記事からは、世界のさまざまな国が、サッチャー氏に対して「偉大な指導者」と称えるだけでなく、複雑な感情を持っていたことがわかる。 ?例えば、南アフリカではサッチャー氏がアパルトヘイト(人種隔離政策)を支持していたことに触れ、それでも「英国の他の指導者より、まだマシだった」という微妙な評価をしている。また、東西冷戦終結に関しても、ロシアや東欧圏のサッチャー評は単純ではない。チリでは、サッチャー氏がピノチェト軍事独裁政権を高く評価していたことを称えている。 ?残念なのは、日本の反応を紹介した部分だろう。まず他国に比べて非常に短い。そして安倍晋三首相が、中国との領土問題を念頭に、サッチャー氏を「フォークランド紛争を解決した偉大な政治家」と評価したとしている。相変わらず一国の首相とは思えないほど、物の見方が狭いことを海外に示してしまった。せめて、中曽根康弘元首相の東西冷戦期の首脳外交の思い出話でも紹介してもらいたかった。 アベノミクス三本目の矢・成長戦略スタート: だが「日本企業の支援=日本の経済成長」ではない ?安倍晋三内閣の経済政策・アベノミクスの三本目の矢「成長戦略」が動き出している。既に、二本の矢「公共事業」「金融緩和」で急激な円安・株高を生じ、日本国内にある種の高揚感が生まれている。一方で、二本の矢はあくまで「時間稼ぎ」に過ぎず、最も重要なのは、「成長戦略」であるという、冷静な見方も広がってきた。 ?安倍首相は成長戦略の重要性をよく認識している。成長戦略は、日本経済再生会議のもとにできた産業競争力会議で議論されているが、首相は積極的に指示を出している。今後5年間を緊急構造改革期間として、産業再編、企業の事業再構築、起業や投資を促進するための法人減税の拡充、海外M&A支援策、イノベーション支援策など「日本企業の国際競争力強化」を支援する方針を打ち出したのだ。 ?これらの政策は、一言でいえば「日本企業に対する支援策」である。だが、それだけでは、日本経済の「三本目の矢」としては不十分ではないだろうか。「日本企業の支援=日本の経済成長」ではないからだ。もはや斜陽産業となった輸出産業の保護や、国内空洞化を防ごうと、無理に企業の海外進出を引きとめようとする支援策は、結果として経済の停滞を長引かせてしまう。日本の経済成長のためには、日本企業にとって「痛みを伴う」ことになる政策も必要なのではないだろうか。 「痛みを伴う」外資参入が日本を救う(1): 外資の研究開発と高品質製品の製造拠点を日本へ呼び込む ?以前この連載で取り上げた、英国の事例を三度紹介する(第43回を参照のこと)。英国では、インド・タタ財閥による、ブリティッシュ・スチールやジャガー買収など、新興国の企業による英国製造業の積極的買収と、英国内工場の操業によって、製造業が拡大している。 ?タタ・モータースは、ジャガーの買収によって、「有名ブランド」を手に入れ、「知識・情報の集積」「高い技術力」があり、「政治的リスクの低い」英国に研究拠点を設けた。そして重要なことは、日本同様に労働コストが高いにもかかわらず、ジャガーの英国工場をそのまま維持して操業している。エンジンや高品質の自動車部品を英国工場で製造し、インドに送って組み立てて、アジア地域に販売しているのだ。また、北米・欧州への輸出は、買収後も英国の工場から行っている。一方。英国からすれば、インド、中国など新興国など外資の進出によって、国内の自動車工場が廃業に追い込まれずに済んだ。不況下でも英国内の雇用は下支えされてきたのだ。 ?重要なことは、タタが英国に進出した「有名ブランド」「地理的条件の良さ」「知識・情報の集積」「高い技術力」「質の高い労働力」「政治的リスクの低さ」という諸条件を、日本も十分に備えているということだ。つまり、新興国にとって、日本は英国に劣らず魅力的であるはずなのだ。 ?そこで、この連載では諸外国の製造業の「アジア地域向け研究開発拠点」や「高品質部品の製造拠点」を日本に誘致するという主張を打ち出した。そもそも、「研究開発と高品質製品の製造拠点の国内維持」は、日本企業の一般的な戦略である。その戦略を日本企業に限定せず、世界中の企業の「研究開発と高品質製造」も日本に呼び込むことで、日本経済の成長につなげようという発想だ。 「痛みを伴う」外資参入が日本を救う(2): 外資からの中小企業受注増が「デフレ対策」になる ?ここからが、今回の新たな論考である。現在、欧米の製造業は、研究開発と高品質製品の製造を欧米の工場で行っている。そして、部品を中国、インドなどアジア諸国へ輸送して、最終製品の組み立てを行っている。この研究拠点と高品質製品の製造拠点を日本に移転すれば、欧米企業にとって、輸送費などコスト削減が可能になる。なぜなら、高い技術力を誇る日本の中小企業を下請けに起用できる範囲が広がるからだ。更に、研究開発拠点を日本に置けば、よりアジア市場に近いところで、顧客ニーズを汲み取った開発が可能にもなる。競争力強化にさまざまなメリットがあるということだ。 ?一方、日本側からすれば、欧米企業の製造拠点が日本に進出すれば、国内の労働者の雇用機会が増えることになる。また、日本企業の下請けだった中小企業が、欧米企業からの発注も受けられるようになる。これまで、中小企業は親会社からタダ同然の安売りを強いられてきた。欧米企業からの受注が増えれば、親会社の理不尽な安売り要請を断ることができる。そして、親会社は中小企業への発注金額を上げざるを得なくなるだろう。中小企業は売上・利益拡大となり、労働者の給与も挙げられる。これは、まさに「デフレ対策」ではないだろうか。 ?もちろん、欧米企業の日本進出が、日本企業のアジアでのシェアを奪う可能性はある。競争相手をわざわざ市場に参入させるというのだから、日本企業は激しく抵抗するだろう。だが、外資参入の経済効果は、日本企業が受ける「痛み」を上回るはずだ。また、厳しい技術競争や販売競争は日本企業を鍛え上げ、より成長させるものである。 「痛みを伴う」外資参入が日本を救う(3): 航空機産業の工場誘致を考える ?自動車産業以外の欧米企業の日本誘致を考えてみる。例えば航空機産業である。今後20年間にアジア太平洋地域の航空会社に引き渡される新造旅客機と貨物機数が約9870機になるという予測がある。金額にすると1兆6000億米ドル(約145兆6000億円)である。これは、世界の航空機引き渡し機数の35%を占め、北米と欧州を追い抜く巨大市場となる見込みである。この需要を日本に取り込もうということだ。 ?まず、ボーイング社である。起死回生をかけた新鋭中型機「ボーイング787」が、バッテリー発火トラブルで運航停止となった。そのトラブルの原因を巡り、バッテリー周辺の不具合が焦点となり、日本メーカー・GSユアサに国土交通省と米連邦航空局の立ち入り検査が入った。 ?日本にとってはネガティブなニュースだった。だが、一方でボーイング787の機体の多くの部品が「メイド・イン・ジャパン」であることが広く一般に知られることとなった。最新鋭のハイテク航空機の開発には、日本の技術力が欠かせないということだ。それならば、ボーイング社の「研究開発拠点」と「最終組み立て工場」に、日本に来てもらってはどうだろうか。 ?ボーイング社は、航空機をイタリア、イギリス、フランス、カナダ、オーストラリア、韓国、中国などの約900社で国際共同開発している。日本からも、機体製造において、三菱重工が主翼、川崎重工が前方胴体・主翼固定後縁・主脚格納庫、富士重工が中央翼・主脚格納庫の組立てと中央翼との結合を、エンジン製造では三菱、川崎、IHIが参加している。また、東レが一次構造材料向けに2006年から2021年までの16年間の長期供給契約をボーイングと締結し、使用される炭素繊維材料の全量を供給している。日本企業の担当比率は、米国以外では最大なのである。 ?現在、ボーイング社が航空機の最終組み立てを行うのは、米ワシントン州シアトル郊外のエバレット工場である。各国のメーカーで製造されたさまざまな機体部品は、専用の輸送機によってエバレット工場に搬送されている。日本では、中部国際空港に輸送機が定期的に飛来して、部品を米国に運んでいるのだ。そこで、ボーイング社がアジア向け航空機需要を獲得するために大幅なコスト削減を考えるならば、最大の部品供給国である日本に航空機の最終組み立て拠点と開発拠点があればいいという発想が出てくる。 ?そして、この発想をもう一歩進めてみる。ボーイング社のライバルである「エアバス社」の最終組み立て工場と研究拠点も日本に誘致するのだ。エアバス社は、日本ではボーイング社に比べてなじみが薄いが、民間航空機部門では次々と新型機を販売し、世界的なシェアではボーイング社に大きく水を開けている存在だ。 ?現在、エアバス社の最終組み立て工場のラインは、欧州にはフランスのトゥールーズに2本、ドイツのハンブルクに1本、スペインのセビリャに1本の合計4本である。そして、アジアの需要増に対応するために、中国の天津において組み立て工場を設立している。だが、このところ中国の「政治的不安定」「技術流出」「環境問題」などのリスクが高まっている。日本は思い切って、工場の移転を働き掛けてはどうだろうか。 円安のメリットを受けるのは、日本企業だけではない 真の日本経済再生のために、既得権に切り込む蛮勇をふるうべき ?現在、円安が進み、1ドル100円に迫る勢いだ。個人的なイメージであるが、円レートが1ドル100円程度で落ち着くなら、外資が日本に拠点を置いて研究開発をし、ハイテクの部品や製品をアジア諸国に輸出することを検討する余地が出てくると思う。円安の恩恵を受けるのは、日本の輸出産業だけではないのである。外資の研究開発拠点・工場の進出こそ、もはや縮小を続けるだけと考えられてきた日本経済を劇的に拡大させる可能性があるのではないだろうか。 ?もちろん、これには日本企業が徹底的に抵抗すると容易に予想される。安倍首相の強力な政治的リーダーシップが必要だ。これまで、安倍首相は「国民の望む政策」をずらっと並べて支持率を高めてきた。だが、指導力も政治力も必要ない、誰でもできる政策を羅列するだけでは、日本経済を成長させることはできないのだ。安倍首相は今こそ、「日本企業の支援=日本の経済成長」という固定観念を捨て、真の日本経済再生のために、既得権に切り込む蛮勇をふるうべきだろう。 http://diamond.jp/articles/print/34438 JBpress>日本再生>日本経済の幻想と真実 [日本経済の幻想と真実] 規制改革の本丸は労働者の会社からの自立だ 雇用調整助成金を廃止し、労働移動を促進せよ 2013年04月11日(Thu) 池田 信夫 安倍政権の「3本の矢」のうち、第1の金融政策は黒田東彦総裁の「異次元の金融緩和」で華々しくデビューし、第2の財政政策は通年で100兆円を超す大型予算ですでにスタートしたが、第3の矢となるはずの成長戦略は、いまだに姿が見えない。 産業競争力会議で議論は始まっているが、6月をめどに取りまとめを行なうというスケジュール以外は、ほとんど何も決まっていない。そんな中で、競争力会議の民間議員である長谷川閑史氏(経済同友会代表幹事)から「解雇ルールの見直し」という話が出てきて注目を集めている。 解雇ルールを巡って迷走する論争 こういう主張が出てくるのは初めてではない。小泉改革の経済財政諮問会議でも、民間議員から日本の雇用規制は過剰で不透明だという批判が出て、改正の論議が行なわれた。 しかし日本の解雇規制は、法律の条文としては必ずしも強くない。民法では雇用契約は一方からの申し出によって打ち切ることができるとされ、労働基準法では解雇の30日前に通告するよう定めているだけだ。ただ判例で「整理解雇の4要件」など司法的なハードルが高い。 これが問題になったのだが、逆に2008年の労働契約法改正で「客観的に合理的な理由を欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、解雇は無効」と「解雇権濫用法理」が明文化されてしまった。 このため派遣社員で雇うケースが増えると、厚生労働省は労働者派遣法の規制を強化し、このためパート・アルバイトなどの契約社員が増えると、厚労省は「非正社員を5年雇ったら正社員として雇用せよ」と労働契約法を改正してしまった。 このように財界が「解雇の自由」を求めると厚労省が規制を強化し、結果的に正社員の既得権が強められる一方、非正社員が増える「逆コース」をたどってきたのだ。 大企業のほとんどは希望退職 雇用改革を巡る議論がこのように迷走する原因は、財界から「解雇の自由化」という形で要請が出てくるためだ。労働組合にとっては解雇を許したら組織は立ちゆかないし、連合の関連団体に多くのOBが天下りしている厚労省も労組と一体だ。 しかし現在の規制で、労働者は守られているのだろうか。中小企業ではかなり自由に解雇が行われているので、労働法に関係するのは大企業の正社員に限られる。この場合も、整理解雇や指名解雇のような形で行われることは少なく、ほとんどは希望退職の募集である。 例えば経営不振の半導体大手、ルネサスエレクトロニクスは、昨年から今年にかけて社員の3割近い1万人以上を削減したが、すべて希望退職であり、雇用規制とは関係ない。大企業では経営者が「人員整理=経営悪化」というイメージを嫌うため、経営不振になっても一時帰休などでしのぎ、ルネサスのように絶体絶命になってから大量にクビにすることが多い。 主な上場企業の希望・早期退職者の募集実施推移(募集人数で募集枠を設けていないケースは応募人数をカウント)、出所:東京商工リサーチ その結果、希望退職者の数は大きく変動し、東京商工リサーチの調べによると、上の図のようにふだんは数千人なのだが、2002年の不良債権の最終処理や2009年のリーマン・ショック後のような業績悪化のとき激増する。このときは会社そのものが破綻することが多い。 労働者が企業と心中する社会 大企業は日常的には社内失業が増えても要員には手をつけないで、企業が破綻に瀕してから人員整理を行うのが日本的経営の倫理とされている。だから日本の正社員は手厚く守られているように見えるが、それは会社の経営が順調に行っているときだけで、経営が行き詰まると労働者は企業と心中するしかない。 これが日本の企業収益を悪化させているばかりでなく、労働者の人生を大きく狂わせる。日本以外の国では、例えば溶接工は溶接工場に採用され、溶接が必要なくなったら他の会社に移って溶接工をすればよいが、日本では「何でも屋」のサラリーマンを雇っていろいろな仕事に使い回すので、他の会社では使い物にならない。 だから問題は解雇ルールよりも、仕事がなくなったら一定の割増金を払って希望退職を募集する退職ルールをつくることだ。これは法律より社内の労使慣行の問題で、外資系企業は日本でもやっている。仕事がなくなったら労働者が辞めるのは、日本以外の国では当たり前である。 もちろん、こういう働き方の変更は容易ではないが、日本の会社もいつまで存在するか分からない。労働者は自分の身を守るためにも会社から自立し、自分の人生を自分で決める必要がある。 ところが厚労省の政策は逆で、社内失業者の休業手当を政府が最大9割も補填する雇用調整助成金が今年度も2100億円も支給される。これは実質的に破綻している「ゾンビ企業」を延命するばかりでなく、仕事のない「ゾンビ労働者」を増やし、日本経済の停滞の大きな原因になっている。 雇用調整助成金は廃止し、それに使われている予算は、仕事のなくなった労働者が新たな仕事につけるような「労働移動助成金」のような制度に使うべきである。 http://jbpress.ismedia.jp/articles/print/37566 |