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「[その2]「財政問題の基本」:日本にとって財政問題とは何なのか」(http://www.asyura2.com/12/hasan75/msg/238.html)の続きです。
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消費税の増税は、官僚機構・野田政権・民主党をはじめとする主要政党の多数派・経団連を筆頭とした企業経営者組織・政府や大手メディアから声がかかるような主流派学者・大手メディアの幹部などがこぞって実現を求めている重要政策テーマである。
イヤな見方になるが、頭脳明晰で指導的立場にある人たちが声を揃えてそうすべきだと言っているのだから、消費税の増税は日本の将来にとって必要なことなのだろうと思う人が増えたとしても不思議ではない。
その一方で、発生以来まもなく1年が経とうとしている福島第一原発事故のことを考えると、そういった連中が声を揃えて称賛していることにロクなものはないと疑いを抱く人も今なら少なくないかもしれないとも思う。
■ 原発と同じ支配層のスクラム構図で育まれ“定着”した消費税
消費税についてあれこれ考えをめぐらすと、日本を広く深く覆っている闇が垣間見えて沈鬱な気分に陥る。
私に言わせると“悪魔の税制”でしかない消費税が、紆余曲折を経ながらも今日のレベルで“定着”してきた理由として、原発の“定着”と極めてよく似た言論の構図を指摘しなければならない。
※ 阿修羅からいったん撤退した04年の1年ほど前から消費税を“悪魔の税制”と呼び、アンチ消費税の投稿を行った。しかし、自分自身の理解不足と説明力欠如のため、思うような賛同を得られなかったと記憶している。このあたりも阿修羅からの撤退へとつながっていく要因だったので、消費税批判は鬼門だと思ってはいるのだが(笑)
国民の多くが抱いている消費税の“イメージ”は、名称そのものから始まり、国家社会の指導者を気取る官僚・政治家・学者・経営者・大手メディアの口先から発せられるウソ・ゴマカシ・デタラメの説明に依拠して形成されたものであり、消費税の内実とは大きくかけ離れている。
原子力発電も、同じ構図の力で、進歩する科学技術の象徴や未来に向け日本が発展する原動力としてイメージさせられてきた。
今なお、コスト的に有利な発電設備だから、原発の再稼働を急がなければ日本経済に将来はないと叫ぶメディアさえある。
80年代後半から90年代初めにかけて起きたバブルの生成と崩壊は、銀行や企業のバランスシートを深く傷みつけ、日本経済を長いトンネルへと誘った。
その導入がバブル崩壊の引き金の一つとして機能した消費税は、バランスシートの回復をようやく終えた日本経済を、その後も低迷の淵に引き留め続ける重いアンカーの役割を果たしている。
● 消費税の基本 〜 付加価値税であり「直接税」 〜
消費税の内実を要約して言えば、「経済主体が供給活動で手に入れる付加価値の大部分を課税対象とする税」である。
そう言える税制でありながら、奇妙なことに、輸出優良企業が生み出す付加価値やメガバンクを中心とした金融業が手に入れる付加価値には課税しないという変なカラクリが仕込まれている。
消費税は、財務省や国税庁がそう説明し、多くの人もそのように回答する「間接税」ではなく、所得税や法人税と同じ「直接税」である。
消費税は、法人税や個人事業者所得税の“変種”や“亜種”であり、外形課税に似た「直接税」なのである。
経済論理としてはそういった区分にほとんど意味がなく、定義の説明もあやしげなものだが、「間接税」は税負担者と納税義務者が異なる税で、「直接税」は税負担者と納税義務者が同じ税とされる。
財務省(国税庁)は、消費税について、「国内取引の消費税の納税義務者は事業者ですから、事業者でない者は納税の義務はありません」と説明している。
政府とメディアは、89年の消費税導入以前から、消費税を「間接税」だと国民に思い込ませるため、様々な宣伝活動に励んできた。導入後しばらくは「外税」制度にすることで、消費税は「間接税」というイメージの定着を図ったほどである。
一方、消費者自身が納税義務を負う「間接税」について、国税庁は、「入湯税、ゴルフ場利用税、軽油引取税などは、利用者などが納税義務者となっているものですから、その税額に相当する金額を請求書や領収証等で相手方に明らかにし、預り金又は立替金等の科目で経理する」と説明している。
「間接税」を消費者から受け取り税務署に納める事業者は、納税を代行する立場でしかない。
仮に消費者が該当する間接税を負担しないと言えば、取り引きを拒否するか、その分を本体の価格から値引きして税を受け取ったかたちにするしかない。
財務省はこれまでの行きがかりからか消費税を「間接税」と区分しているが、消費者に納税義務があるわけでなく、法律で事業者が納税義務を負うと明記されているのだから、税負担の転嫁が可能かどうかは無関係で「直接税」とするのが正しい。
政治家やジャーナリストならともかく、官僚や学者たちは、当然のようにわかっていながらウソをついている。
● 消費税課税の仕組み
消費税がどのようなものか、実際の税務処理とは異なるが、簡略化したかたちで説明する。
まず、消費税の課税ベースとなる付加価値は、売上から原価となる仕入を差し引いたものである。それが、人件費・支払利息・租税公課・営業純益などの原資になる。
広告宣伝などの販売促進費や事務用品などの事務経費は、仕入(原価)とみなされ、消費税の課税ベースからは除外される。
財務省の金融業を除く法人統計で示されている付加価値の平均的構成を見ると、社会保険負担を含む人件費が70%ほど、賃貸料が10%ほど、支払利息が4%ほど、租税公課が4%ほどとなっている。営業純益は、景気変動で左右される付加価値額の増減に従うため、2%から14%のあいだで大きく変動している。
※ 支払利息は損金として扱われるが、損金にはできない借り入れの元本返済は、税引き後の利益から賄うかたちになる。
【ある企業の決算内容と納付消費税の算定】
税込売上40億円:税込仕入30億円:人件費7億円:税込諸経費1億円:利払い費0.1億円
消費税の課税ベースとされる付加価値は、売上高から税込仕入高及び税込諸経費を差し引いた9億円である。
日本の消費税制では設備投資も仕入と同じ扱いになり、減価償却法が適用される法人税とは異なり、購入に伴う税額相当は単年度で控除できる。
伝統的な法人税の課税ベースは、消費税の課税ベースから人件費・支払利息・減価償却費を控除した金額になる。
減価償却費は省略させてもらった例示企業の法人税課税ベースとなる所得は、消費税ベース付加価値から、(人件費+利払い費)を差し引いた1.9億円である。この金額から法人諸税を払い、利子の他に元本の一部を返済し、配当や役員賞与を支払うことになる。
法人諸税が40%とすると、納付しなければならない法人諸税は0.76億円になり、内部に残せるのは1.14億円である。
法人諸税の負担は、付加価値9億円に対して8.4%である。優遇税制などは別として、法人諸税の合計税率が40%といっても、消費税の課税ベース付加価値を基準に考えると、それほど高いわけではない。
消費税の税務処理は、課税売上から計算で消費税額を求め、課税仕入から計算で求めた消費税額を控除するかたちで進められる。
課税対象品目の売上である限り、販売先から消費税相当分を上乗せして受け取ったかどうかは無関係である。仕入も、それを買うときに消費税を負担したかどうかは無関係である。納付すべき消費税額は、グロスの売上や仕入から一定の算式で算出される。
「預かった消費税」や「相手に支払った消費税」といった表現は、消費税の本質を隠し間接税のフリをさせるためのマヤカシの言葉でしかない。
例示した決算内容に対する消費税は、
売上に係わる消費税:1.9億円:(40億円×5/105)
仕入に係わる消費税:1.43億円:(30億円×5/105)
諸経費に係わる消費税:0.05億円:(1億円×5/105)
納付すべき消費税:0.42億円:(1.9億円−(1.43億円+0.05億円))
この消費税額は、課税ベースの付加価値9億円に対し4.7%となる。
法人税のベースである所得1.9億円に対する消費税額0.42億円は22.1%になるから、消費税と法人諸税を合わせた“事実上の法人税率”は、所得の62.1%ということになる。
次に、同じ決算内容で消費税の税率が10%になったとすると、
売上に係わる消費税:3.64億円(40億円×10/110)
仕入に係わる消費税:2.73億円(30億円×10/110)
経費に係わる消費税:0.09億円( 1億円×10/110)
納付すべき消費税;0.82億円
この金額は、付加価値9億円に対し9.1%、所得1.9億円に対し43.2%である。法人諸税(0.76億円)とこの消費税(0.82億円)を合算すると、所得に対し83.2%もの高率に達する。
それほど付加価値率が高くない例示のケースでも、40%の法人諸税より、10%の消費税のほうが税負担額は大きい。
岡田副首相や一部の学者が叫んでいる17%の消費税になったら、
5.81億円−(4.36億円+0.14億円)で、1.31億円の消費税を納付しなければならない。
付加価値9億円に対し14.6%
所得1.9億円に対し68.9%
法人諸税(40%)と合算すると、なんと110.5%になり、税負担金額は所得金額を超えてしまう。法人税減税で法人諸税の合計が35%になっても、100%を超えることは変わらない。
※ 但し、納付した消費税は、翌年の決算で法人税を処理するとき損金になる。このように法人税の課税ベースが減少することで、少しは“救済”される。
EU参加の主要国は20%前後のVAT(付加価値税)になっているから、付加価値(利益も元は付加価値)にかかる税金がどれほどすさまじいものか想像するのは難しくないだろう。
※ EU諸国などでは食品を中心に軽減税率が適用されているが、それは、消費者のためというより、農業者などに対する保護政策であり、通常税率が適用される業界への“転嫁”補助策であると考えたほうが実態に合っている。
● 消費税は「給与」への二重課税
消費税課税の仕組みを知ると、同じ売上規模の企業でも、人件費比率が高い企業や利益が大きい企業のほうがより多くの負担を強いられることがわかる。
何より重要なポイントは、消費税が、所得税とは別に、給与に課税される税だということである。
消費税増税&法人税減税派は「所得税での配当課税は、法人税との二重課税になるから廃止するのがスジだ」と主張している。
その論理を援用すると、「給与所得者の所得税は、消費税との二重課税だから廃止するのがスジだ」となる。
このような論理を使うのなら、配当は、二重課税ではなく、消費税・法人税・所得税の三重課税と主張したほうが的を射ている(笑)
このような“言いがかり”は、個人の損得を問題にすることが目的ではなく、後ほど説明するが、消費税の内実が、この20年間の雇用形態や給与実態の変移に深く結びついていることを明らかにしたいからである。
前述した企業統計によれば、人件費が付加価値のほぼ70%を占めている。
付加価値の2/3以上が人件費の原資なのだから、消費税の2/3以上は、企業負担分の社会保険料を含む給与に課税されていると言って間違いではない。
奇妙な話だが、消費税は、政府や経済学者が称揚する高付加価値企業のように、人件費を多く支払ったり、効率よく所得(純利益)を稼ぐ企業のほうが、より多く負担しなければならない仕組みになっている。まるで付加価値を多く稼ぐことが悪と言わんばかりの税制である。
ずばり言えば、付加価値の総和であるGDPの成長を阻害する性質を持っているのが消費税なのである。
次に、例示した企業とは仕入額と人件費だけが異なるケースを考える。
税込売上40億円:税込仕入10億円:人件費27億円:税込諸経費1億円:利払い費0.1億円
という決算内容である。
同じ売上金額で所得金額も変わらないが、人件費の比率が高いので、消費税課税ベースの付加価値は29億円になる。
このように人件費比率が高い企業は、コンピュータソフトの開発会社などをイメージすればいいだろう。
※ 売上が少ない(5千万円以下)企業は、簡易課税制度を選択することで、人件費比率が高く仕入比率が低いサービス業でも、売上の50%相当の仕入があったとみなして消費税額の計算ができる。これを益税として非難する学者もいるが、益税ではなく、減税による中小企業保護策である。「預かった消費税」というのは虚構でしかないから、益税といった話はハナからない。
新たに設定したケースの消費税は、
5%:1.37億円(1.9億円−(0.48億円+0.05億円))
10%:2.6億円(3.6億円−(0.9億円+0.1億円))
5%の消費税でも納付額は所得金額とそれほど変わらない金額になり、10%になると所得を大きく超える消費税額になる。
支払い能力があるという前提だが、給与を支払えば支払うほど消費税の負担が膨らむのである。逆に言えば、同じ粗利益率でも給与を減らせば減らすほど消費税の負担が減少する。
むろん、株主への配当や事業拡大に向け内部留保を増やすことも、より大きな消費税の負担につながる。
経済社会との関わりで見た消費税最大の問題点は、人件費(給与)が課税対象になっていることである。
もう一つ、利子や元本の支払い原資にも消費税が課税されていることも問題点として指摘しておく。
消費税のこの仕組みが、90年から92年にかけてのバブル崩壊の誘因になったり、消費税2%のアップがあった97年に金融危機を引き起こした背景でもある。
よりわかりやすいのは、97年の金融危機であろう。
バブル崩壊後に苦しいながらも元本返済は待ってもらい利払いだけなんとか続けてきた企業に2%アップした消費税がのしかかると、消費税アップ分を価格に上乗せして転嫁することはほとんどできず、そのまま粗利益(付加価値)の減少になる。そうなると、利払いどころか、消費税の納付さえできなくなり倒産に至る可能性が高い。
そして、そのような融資先を数多く抱えるようになった銀行は、拓銀のようにギブアップすることになる。
元本は従来からそうだが、支払利息の原資となる付加価値部分にまで消費税が課税されるのは実に重い話なのである。
● 最終消費者を含む取引先への消費税転嫁問題
このように消費税の負担の大きさを説明すると、消費税は、買うほうが負担するのだから、どのような負担であっても事業者には問題がないのでは?と疑念を提示する人がいるかも知れない。
国税庁も、「消費税は、特定の物品やサービスに課税する個別間接税とは異なり、消費に広く公平に負担を求める間接税です。」「消費税は、生産及び流通のそれぞれの段階で、商品や製品などが販売される都度その販売価格に上乗せされてかかりますが、最終的に税を負担するのは消費者となります」と説明している。
「販売価格に上乗せされてかかりますが、最終的に税を負担するのは消費者となります」の前半部分は正しいが、後半部分は、なんの根拠もないタワゴトか“お為ごかし”の説明でしかない。つまり、後半部分はゴマカシの説明である。
消費税の転嫁に係わる国税庁の文章をまねて法人税を説明すると、「法人税は利益をあげた法人の所得にかかる直接税です。法人税を負担するのは法人となります。それが販売価格に上乗せされることはありません」という笑い話になってしまう(笑)。
法人税減税推進派は、「法人税の負担は消費者に転嫁されるので、法人税を増税すると、その負担増分が価格に上乗せされ、結局のところ損をするのは一般消費者になる」と説明し、企業に法人税の負担増を求める考えを思慮不足だと批判する。
一見もっともらしい話だが、現実を知っている人なら微笑んでしまう説明である。
確かに、自分及び株主のために最大限の利益を追求する企業経営者は、消費税や法人税に限らずあらゆる負担の最小化を考え、配当や役員賞与そして事業拡大や株式消却などの原資になる税引き後の利益が最大になるよう努力する。
法人税云々ではなく、端的に、最大の収入(売上)をめざす一方で、そのお金が外部に流出することを意味する諸経費や租税公課は最小になるよう工夫を凝らすというのがオーソドックスな営利企業の行動基準だ。
しかし、世界に名を馳せてきた日本の家電メーカーが軒並み赤字決算に陥る事態を知れば、法人税どころか、そのベースである利益さえ、そう易々と消費者に転嫁できるものではないことがわかる。
経済状況や個別企業の競争力や価格支配力の変化などで、利益や税負担どころか、減価償却費や肝心要の人件費さえ、取り引き先に転嫁できないこともありえるのだ。
それが、管理された公定価格で動く社会主義経済ではなく、市場原理で価格が形成される自由主義経済の基本である。
事業者は利益や自分の生活を維持するため消費税負担分を価格に上乗せしようとするが、それができる保証は誰もしてくれないから、現実にどこまで上乗せできるかは、需給バランスを中心とした経済状況全般や競争(力)関係による。
このような現実は、消費税増税を推進している財務官僚や学者もよくわかっている。
経済学者や財政学者は、ミクロ経済学の部分均衡分析などを用い、物品税や法人税が供給側と需要側のどちらにより多く負担されることになるのかあれこれ示しているが、こと消費税に関しては、需要側が負担するという“公式見解”から踏み出さそうとしない。
自分の身分を守るためにやむをえないことだとしても、心ある経済学者なら、恥ずかしい気持ちになっているだろう。
直接税であろうが間接税であろうが、そこから先がない家計(個人の所得)にかかるものでなく、そこから先がまだある供給主体にかかるものであれば、条件次第で直接税も含めて負担を転嫁させることができるというのが基本の論理である。
経済論理にとって、税制的な区分にそれほどの意味があるわけではない。
消費税は、現実の経済的力関係や家計条件を考えると、中小企業と低中所得者にしわ寄せされる税制ということができる。
※ 上述の法人税減税推進派の説明に対しては、法人税を上げなくても、利益を追求する企業は、上げられるならいつでも価格を引き上げようとするし、法人税を下げたからといって、価格を引き下げるわけではないと指摘しておく。利益への課税である法人税を上げれば、現実の諸条件のなかで最大の利益があがるよう新たな努力や方法を見つける。
法人税は、社会保険料負担分も同時に考えて負担の大きさを判断し、国外に逃げないレベルで事業の拡大に支障がないよう控除を充実させれば、消費税と違い、国民経済的リスクが少ない税である。
野田政権がめざしている14年・15年の消費税増税に合わせて、低所得者への補助金支給が俎上にのぼっているが、それは、低所得者への補助金というより、価格転嫁がさらに困難になる企業へのささやかな補助金と考えたほうが現実に合っている。
消費税が本当に最終消費者に転嫁されたらアップ分に追いつかないレベルの金額なのだから、補助金ではなく困窮緩和金でしかない。
低所得者向け補助金政策の導入の隠れた意図は、それを言い訳に、「マイナンバー制度」の導入を正当化し推進することである。
● 消費税の魔力で誘導される企業の行動
ここまで読んできた人の多くが、「消費税があっしらの説明通りの税制なら、経団連などが増税に賛成しているワケがわからない」と思われているかも知れない。
それでも経団連が消費税増税に賛成するワケの詳細は次回で説明するとして、説明してきたような消費税の性質が、企業をどのような方向に誘導するのか簡単に説明したい。
優良大手企業の経営者が集まる経団連までが、日本経済全体の利益ではなく、加盟する個別企業にとっての共通的利益しか考えないような情況なので、消費税が内包している魔力は日本経済に大きな影響を与えてきた。
消費税の重圧から逃れる最短の道は、企業が生み出す付加価値のほぼ70%を占める人件費をできるだけ減らすことである。人件費と言っても直接人件費である。
人の活動力を同じ量使うとしても、活動力を発揮してくれる人との契約形態の違いで消費税に対する影響が異なる。供給活動はほぼ同じレベルを維持しながら、契約形態を変えることで、消費税の負担を減らすことができる。
正規社員と呼ばれ直接の雇用契約を結んでいる従業員への給与は、消費税の課税対象となる付加価値を原資とするしかない。
一方、非正規社員として急速に増えた派遣社員を使うと、その経費は“仕入”となり、消費税の対象になる付加価値から除外される。
従来から使われてきた方法である下請けや外部への発注も“仕入”になる。
ということから、消費税の負担を軽くする手っ取り早い方法は、派遣社員に切り替えたり、内製を減らし外注を増やし、直接雇用する従業員を減らすことだとわかる。
最後に扱ったソフトウェア会社的決算の例でそれを確認してみたい。
決算内容を再掲すると、[税込売上40億円:税込仕入10億円:人件費27億円:税込諸経費1億円:利払い費0.1億円]である。
負担する消費税は、
5%:1.37億円
10%:2.6億円
であった。
消費税の負担が重くこのままでは存続が危ぶまれることから、チームリーダー以上の社員のみ正規社員として残し、他は派遣社員で賄うことにした。
これにより、人件費が3億円となる一方で税込み仕入が34億円となった。
派遣会社のマージン分や消費税負担分だけ派遣になった労働者の給与はずいぶん減少するが、企業の所得が変わらないことでもわかるように、企業が負担する総人件費が減ったわけではない。
[税込売上40億円:税込仕入34億円:人件費3億円:税込諸経費1億円:利払い費0.1億円]となった決算で算出される消費税は、
5%:0.23億円
10%:0.46億円
となる。
同じ陣容でも、多くが“仕入”として扱われる派遣になったことで、消費税の負担が6分の1近くまで減少した。消費税の課税ベースが、29億円から5億円と、6分の1近く減少したおかげである。
給与は“仕入”ではないから控除できないが、派遣社員費用や外注費用は“仕入”となり、消費税の課税ベースとされる付加価値から控除できるという消費税の特性が、コスト軽減化欲求と相俟って、企業に派遣社員を増大させ外注化を進めさせているのだ。
そのような企業の動きを法的に後押ししてきたのが自公連立政権である。民主党も、この問題では公約の実行を先延ばしにしているが...
直接の雇用から派遣社員に変えれば、社会保険料負担を含めた直接的な支払い額を減らせる上に、消費税の課税からその部分が除外できる。
経団連に加盟しているような輸出優良企業はともかく、デフレ不況で苦しみ利益も出せず、従業員共々ただ生き残りを模索している企業が、やむなく人を減らし、残った従業員のためにそのような策に踏み出すことを非難できないと思っている。
野田政権は消費税を段階的に10%にまでアップしようとしているが、これまでの説明でわかるように、5%の消費税税率と現在レベルの経済状況ならなんとか生き延びられる企業も、税率が倍になった消費税の重みで、さらなる人減らしに追い込まれたり、借り入れ債務が履行できなくなる可能性が高いことなどの悪影響をどこまで理解しているのかはなはだ疑問である。
倒産は金融政策で抑え込んだとしても、消費税がアップされると、雇用条件や個人所得が悪化する派遣社員への切り替えや外注が増加することで総需要が減少し、日本経済が悪化することは火を見るよりも明らかである。
少し話は変わるが、けっこう大きな地方都市の有名商店街でも見られる「シャッター商店街」現象にも消費税が関わっている。
「シャッター商店街」は、自動車利用を前提とした郊外型大型SCの隆盛に強い影響を受けたものだが、消費税とクレジットカードの利用拡大からくる影響も無視できない。
クレジットカードと消費税は、粗利益=付加価値の一定割合が強制的に吸い上げられるという点で、事業者に共通の悪影響を与えている。
消費税についてはこれまで説明してきたが、クレジットカードは、リボ払い以外ならカードホルダーから手数料をとらず、売上に対して3%以上の手数料を販売者から徴収する仕組みになっている。売上の70%が原価(仕入)で、30%が粗利(付加価値)だと仮定すると、3%の手数料といっても、付加価値に対しては10%になる。クレジットカードを使われると、追加的な消費税がかけられるようなものである。
仕入力があり価格競争力で勝った事業者なら、クレジットカードの手数料負担を織り込んだ値決めができるが、1、2名の従業員で小さく営んでいる商店にとっては手痛いロスになる。クレジットカードの利用を拒みたいが、マイレージポイントなどもあり利用したい消費者が増えているから、わずかでも売上が欲しい立場ではそうもいかない。
利益はハナからなく、家族の生活費や数名の従業員を雇えるだけの付加価値を稼いできたような商店にとって、家族の生活費やわずかな従業員給与に充当される付加価値から消費税やクレジットカード手数料が吸い上げられるのは大きな痛手である。
それまでと同じレベルの付加価値しか稼げないのなら、利益は元々ないのだから、消費税とクレジットカード手数料の分だけ生活や給与を切り下げなければならなくなる。手元に残る付加価値額がある水準まで下がると、商売を続けるより、照明や冷暖房を使わなくて済む店じまいのほうが得になる。
消費税免税業者の売上基準が3千万円から1千万円に切り下げられたことで、廃業の道を選んだ商店は多いはずだ。
消費税の税率が10%に上がったら全国の商店街がどうなるのかと想像するだけで怖くなる。
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