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原発がもたらす放射性廃棄物は万年単位の宿痾として人類に降りかかるが、原発の運転は、どの国が運営してもリスクがあり、リスクが放射性物質放出として現れればどうなるかは現在進行形の福島第一原発の事故でよくわかっている話である。
大飯原発の再稼働を表明した野田首相は、言外に、立地地域を中心とした日本国民に対し、電力会社や立地地域の金銭的利益のため、万が一のときは福島第一の事故と同じ事態に陥ることを覚悟してくれと言っているのだ。野田首相がそんなことはいと真顔で抗弁するのなら、知性が崩壊している証だから、すぐさま総理大臣も国会議員も辞めたほうがいいと断じる。
聴取の対象が事故発生当時の政権幹部に及んできたことでメディアも大きく取り上げている国会事故調査委員会だが、公開性や人選に魅力は感じても、焦点の当て方や論点にズレがあることは否めない。
これまでも投稿してきたことだが、今回の福島第一原発放射性物質放出事故の問題を検証するにあたって、“ベントの遅れ”や“3月12日夕方の海水注入”さらには“3月15日未明の東電撤退”は、事故原因や事故対策の不備を究明するに際して、根幹どころか、枝葉末節にもあたらない、エピソードでしかない話である。
それは、“ベントの遅れ”が何を引き起こした(何につながった)のか?“3月12日夕方の海水注入”で何を防げた(何を引き起こした)のか?“3月15日未明の東電撤退”はどういう問題を引き起こしたのか?を考えてみればわかる。
1号機が対象となっている“ベントの遅れ”は、格納容器が損壊する事態を起きたのなら問題視されなければならない出来事である。しかし、実際は、ベント(対象は圧力容器だが)が建屋内での水素爆発につながった可能性はあっても、“ベントの遅れ”が事故の深刻化につながったという事実はないのである。
“3月12日夕方の海水注入”問題も、13日以降もディーゼル発電機の燃料切れで注水できない事態が何度か起き、4月に入ってさえ地震による電源喪失で冷却機能が1時間ほど停止する事態を引き起こしている。注水しなかった(できなかった)問題なら、一区切りがついた後のほうがより問題であろう。
原子炉への注水(燃料棒の冷却)が大きな問題になるタイミングは、すでにメルトダウンからメルトスルーにまで至っていた3月12日夕方ではなく、3月11日のメルトダウンが起きる前である。
メルトダウンを防ぐ手立ては、燃料棒の冷却を続けることしかない。
注水問題を取り上げるとしたら、3月11日の1号機であり、13日や14日になってなおメルトダウンにつながった3号機・2号機の冷却(注水)不能原因でなければならないはずだ。
“3月15日未明の東電撤退”は、東電のデタラメな対応を浮かび上がらせ、菅前首相の敢然たる姿勢を見せた一つのイベントではあったが、現実には、それでも、明け方までにほとんどの作業者が退避している。
その後に、2号機で圧力抑制室の損壊や4号機建屋で“火災”が発生しているが、その原因は作業者の退避にあるとはされていない。
意思疎通の悪さが原因で、菅前首相が東電の「全員撤退」を阻止したかのような話になっているが、実際には、2号機の圧力抑制室損壊や4号機の建屋“火災”が起きる前に、ほとんどの作業者が福島第一から一時的に退避している。
“東電の全員撤退騒動”を問題にするとしたら、菅前首相が怒鳴り込んだ後でもなお、総員に近い作業者が一時的に撤退した理由を明らかにしなければならないはずである。
3月15日は、福島第一原発の事故で最大の放射性物質がまき散らされた日である。停止状態にあった4号機の建屋で“火災”もしくは“爆発”が起きた日でもある。
3月15日に焦点を当てるとしたら、たいした意味があるわけではない“東電全員撤退”騒動ではなく、今なおはっきり説明されていない2号機で起きた内容であり、4号機で起きたことであろう。
末尾に転載する記事によると、「事故調は吉田昌郎前所長にも聴取し、東電は全面撤退を考えていなかったと判断。「官邸への伝え方が最大の問題」として、清水氏のあいまいな説明で意思疎通がうまくいかず、官邸の不信を招いたと結論づけた」そうである。
しかし、聴取された東電の前社長清水氏は、「菅直人首相(当時)には官邸に行き撤退はないと申し上げた段階で、(全員撤退はないとの)理解を得られたと思っていた。首相が東電の本店に来た時は、たいへん厳しい口調で話した。撤退すれば東電は百パーセントつぶれる、60歳を超えた幹部は現地に行って死んでもいいんだ、と言っていた」と説明している。
菅前首相が厳しい口調で話した後に福島第一ではほとんどの作業者が一時退避をした事実や、電話で数分間やり取りしたレベルではなくわざわざ官邸に出向いて撤退はないと説明したという清水前社長の発言を聞いてもなお、「「官邸への伝え方が最大の問題」として、清水氏のあいまいな説明で意思疎通がうまくいかず、官邸の不信を招いたと結論」するような国会事故調査委員会では、事故原因や事故対応の不備を究明することは難しいと思う。
※ 関連投稿
「国会事故調査委員会:菅前首相の東京電力本店への未明乗り込み=“全員撤退阻止”説を否定」
http://www.asyura2.com/12/genpatu24/msg/541.html
「3月15日未明の菅前首相「東電本店訪問劇」の真相:“全面撤退阻止”ではなく、真逆の“一時退避要請”が目的の一つ」
http://www.asyura2.com/12/genpatu21/msg/883.html
「「菅前首相「東電本店訪問劇」の真相」(4号機原子炉建屋爆破説)でいただいたコメントへの回答」
http://www.asyura2.com/12/genpatu22/msg/130.html
「カレイドスコープの「4号機の奇跡」を評す」
http://www.asyura2.com/12/genpatu22/msg/154.html
「4号機の核燃料プールで“奇跡”が起きなかったら、日本政府は、手を拱いたまま“日本の壊滅”を待ったと思う?」
http://www.asyura2.com/12/genpatu22/msg/174.html
「4号機「水素爆発」説を否定する決定的写真:4号機に水素を流れ込ませたとされる排気管は前日に起きた3号機の水素爆発で破断!」
http://www.asyura2.com/11/genpatu14/msg/820.html
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原発撤退の混乱「伝え方に問題」 国会事故調 東電前社長「全員離れるとは考えず」
東京電力福島第1原子力発電所事故を検証する国会の事故調査委員会(黒川清委員長)は8日、清水正孝東電前社長を公開で聴取した。原発からの全面撤退を申し出たとされる問題で、清水氏は改めて否定した。東電と官邸との意思疎通不足が官邸の不信と過剰な介入を招いたと事故調は指摘。国と事業者がもたれ合う中で、危機管理体制をあいまいにしてきたツケが浮き彫りになった。(関連記事政治面に)
福島第1原発では昨年3月14日、3号機が水素爆発し、2号機も爆発の危険が高まった。清水氏は海江田万里元経済産業相らに電話して作業員を退避させる意向を伝え、全面撤退と受け止めた菅直人前首相は東電本店に乗り込み「撤退はありえない」と発言した。これについて清水氏は「全員が離れることは考えていなかった」と反論した。
事故調は吉田昌郎前所長にも聴取し、東電は全面撤退を考えていなかったと判断。「官邸への伝え方が最大の問題」として、清水氏のあいまいな説明で意思疎通がうまくいかず、官邸の不信を招いたと結論づけた。
両者が相互不信を高めた背景には、危機管理の責任の所在が不明だったことがある。問題の根は、国が原子力利用を推進して民間企業が原発事業を担う「国策民営」体制にあったと、民間の有識者が設けた福島原発事故独立検証委員会(民間事故調)は指摘した。
事故調は6月中に最終報告書をまとめる。危機管理の不備を生んだ無責任の積み重ね。こうした「負の歴史」にどこまで踏み込めるかが焦点だ。
[日経新聞6月9日朝刊P.3]
清水・東電前社長の国会事故調発言要旨 (総合2面参照)
■「全面撤退」問題
福島第1原子力発電所からの全員撤退は全く念頭になかった。当時、事務系社員や女性を含めて700人くらいの人がいた。緊急作業にかかわる一部の人を残して退避することは検討していた。具体的に残る人数や役割を決めるのは、発電所長だと認識していた。
海江田万里経済産業相(当時)には福島第1原発が厳しい状況にあり、退避を検討する必要があると申し上げた。全員とか撤退という言葉は使っていない。一部が残り、その上で作業をするという大前提で話をした。一部という言葉を使ったかどうか記憶していない。退避という言葉は言った。非常に切迫した中でのやりとりで、言葉を発する方と受け手でズレがあったかなという感じはする。
菅直人首相(当時)には官邸に行き撤退はないと申し上げた段階で、(全員撤退はないとの)理解を得られたと思っていた。首相が東電の本店に来た時は、たいへん厳しい口調で話した。撤退すれば東電は百パーセントつぶれる、60歳を超えた幹部は現地に行って死んでもいいんだ、と言っていた。
■首相官邸の介入
菅首相が福島第1原発を訪問した時は現場はベントなどを準備していた。所長らが時間をとられる。現場の指揮にあたる立場からしても芳しくない。緊急時の連絡ルートは事業者とは経済産業省原子力安全・保安院が基本。官邸には保安院から、が妥当だ。(海水注入の一時中断は)首相の(注入への)理解がなかなかいただけない状況と認識したため。しかも、短時間(の中断)ということで、やむなしと判断した。
官邸駐在の技術顧問も理解を得られないまま続けることを懸念した。(首相の判断が誤っていたとしたら)所長以下現地を熟知している判断が優先されるべきで、当然議論になる。状況を一番分かっているのは現場だ。ここがオペレーションすることが基本的な姿だ。ただし、事態の推移によって、専門家のアドバイスも重要と考えている。
■事故対応体制の不備
(過酷事故対策の規制強化に電気事業連合会が抵抗したとの指摘に関しては)規制を骨抜きにするような働き掛けはない。ただ、対策は設備の実態を踏まえるべきだ。電事連と政府の意見交換や擦り合わせが大切だ。原発で働く社員の人命軽視はあり得ない。(原発敷地内にシェルターを設けるなどの)人命尊重の安全施策は一つの議論だ。
緊急時の責任者は社長。昨年3月11日は四国出張の帰りに奈良県の平城京復元事業を視察していた。勝俣恒久会長が同時期に中国に出張することは知っていた。社長と会長が(本店から)同時に離れないことが不文律だった。大きな反省点だ。
[日経新聞6月9日朝刊P.4]
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