口伝(1)オーディオ事始 [口伝・オーディオ萬之事 〜父から息子たちへ〜] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-01-20「音のいいケーブル」? さて「話を鵜呑みにしてはいけない」例をもう一つ。 たとえば、「CD−プリアンプ間のピンケーブルを、Aというケーブルに替えたら、CDにこんな音まで入っていたのかと驚くほど解像度が上がった」と喜ぶ人がいたとしよう。 この話の大前提として、元のケーブルの品質は粗悪品ではなく、一流電線メーカーの、ごく一般的な標準品クラスかそれ以上とする。 この話はつぎのように言い替えなければならない。 「その人のシステム環境において、CD−プリアンプ間のピンケーブルを、Aというケーブルに替えたら、その人は驚くほど解像度が上がったと感じた」である。 このことから、「Aケーブルは音がいい」などと、Aケーブル固有の話であると単純に解釈してはいけない。 つまり、自分のシステムに使っても音がよくなる、と思ってはいけない。 自分のシステムに使った場合、たまたまいろいろな条件(システム環境)が合えばプラス面が現れる可能性もあるが、逆に合わなければマイナス面が出るかもしれない。 ケーブルの音質問題は、「相性」の問題である。 また、「解像度が上がった」との感想は、その人の感覚であり、別の人の耳では、「解像度が上がったのではなく、音のバランスが少し変わったようで、高域が少しきつくなった感じがする」となるかもしれない。
いずれも先の「9割/1割」論の1割に当たる微妙な領域の話である。 オーディオシステムにおける組み合わせの「相性」とは
オーディオの話題には、「相性」という言葉がよく使われる。 「相性」などと曖昧で正体が分からないようなものを、由緒正しいエレキとメカの理論の上に成り立っているオーディオ機器の組み合わせに持ち込んでは困る・・、とは実は言えない。 「相性」は、エレキの理論上からも明確に存在する。
「相性」の原因の一つは、オーディオシステムの入り口から出口までの、それぞれのコンポーネント間のインターフェースの部分に発生する。 [CDプレーヤー]−@−[プリアンプ]−A−[メインアンプ]−B−[スピーカー]。
この4つのコンポーネントで構成されるオーディオシステムの場合、@ABの3つのケーブル接続部分に、それぞれ固有のインターフェースの問題がある。
簡単な一例を図1に書いてみた。 先の、ケーブルをAケーブルに取り替えた話の図である。 信号伝送の図 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/E4BFA1E58FB7E4BC9DE98081E381AEE59BB3B5A3jpeg.jpg
<図1:CDプレーヤーとプリアンプ間のピンケーブル接続に関係する諸々のパラメーター> **それぞれ、カタログの仕様に出てくる程度の代表的な諸元をあげてみた** ケーブル問題は「信号伝送」と捉える必要あり
CDプレーヤーとプリアンプ間をピンケーブルで接続するということは、すなわち、CDプレーヤーの出力をプリアンプに伝送する「信号伝送」として考える必要がある。 信号伝送は、送信側回路の諸状況、ケーブルの諸状況、受信側回路の諸状況などが複雑に絡み合い、影響し合って信号の伝送が行われる。 「諸状況」とは、図1に示したような各種のパラメーターである。 図に記したものは、いわば「カタログ・パラメーター」的な代表的なものであるが、そのほかにも、たくさんの「パラメーター的な要素」があると思われる。 それらが「複雑に絡み合い、影響し合った」結果、音響的にたまたま具合がよかったり、悪かったりするわけである。 ある所で大変いい結果が出たケーブルが、別の所で同じ結果が出るとは限らないことが、図1の各種のパラメーターや、その他の隠れたパラメーター的要素の存在がある、ということから察することができるだろう。 なお、エレキの理論から、代表的なつぎの2つが、信号伝送における「格言」として昔から言われている。 ・ケーブルは可能なかぎり低抵抗、低静電容量(これは当然)
・ローインピーダンス出し、ハイインピーダンス受け ライン出力でもヘッドフォンが鳴る?
「インピーダンス」とは何か、については、ちょっと説明が必要かもしれない。 たとえば、CDプレーヤーのライン出力が、「出力電圧2V」、「出力インピーダンス5Ω」の場合と、「出力電圧2V」、「出力インピーダンス50KΩ」の場合とでは、ライン出力から取り出せるパワー(エネルギー)がまるで違う。 「出力電圧2V」、「出力インピーダンス5Ω」のライン出力を、一般的なヘッドフォン(そのインピーダンスを30Ωとしよう)につなげば音がガンガン鳴る。 しかし「出力インピーダンス50KΩ」のライン出力につないだ場合は音が出ない(出ても微か)。 @出力インピーダンス5Ω → 入力インピーダンス30Ω
A出力インピーダンス50KΩ → 入力インピーダンス30Ω ライン出力にヘッドフォンをつなぐなど、普通はあり得ない極端な例ではあるが、@では良好な信号伝送が可能であり、Aでは不可能であることが分かる。
これが出力インピーダンスと入力インピーダンスの関係の一つの例である。 また、電気的な外来ノイズをケーブルが拾う度合いも、インピーダンスが低いほど小さく、高いほど大きい。 以上が格言「ローインピーダンス出し、ハイインピーダンス受け」の一つの説明である。 ちなみに、私のプリアンプC-280のライン出力のインピーダンスは、なんと「1Ω」である。 各コンポーネントの選択
意味あり一点豪華主義 さて、これから自分のオーディオシステムを徐々に構築していくことになるが、何を、どのような基準で選べばよいかが分からないだろう。 そこで若者の限られた財政状況のなか、音響的に最大のコスト/パフォーマンスを求めるのであれば、まず思いつくのは評価が定まっている往年の名機の入手である。 最上クラスのものをgetしておけば、後々の迷いがなく、そこは不動のポジションとなる。 それが長い目でみれば、結局は安い買い物になる。 「音響的にも製品的にも、これ以上のものは別次元の話」との諦めもつく。 日本のオーディオ産業が輝いていた時代、特にその後半に作られた、各メーカーを代表するような名機は、もう二度と作られることはないだろう。 富裕層をターゲットとした、価格が一桁違う超高級機は、昔も今も、また別の話である。 だから往年の名機は、今も今後も、たいへん貴重な存在である。 新しい商品の購買に結びつかない、日本の経済発展に寄与しない話で、まことに申し訳ない。 C-280Vいま生産すれば価格は?
Accuphaseのプリアンプに、「C-280V」という往年の名機がある。 1990年の年末に発売され、価格は800,000だったそうである。 私は今現在、その一代前のC-280を使っている。 過不足なし、とは言わないが、要は使いこなしかた次第である。 なによりも、メインボリュームの性能と回す感触のよさは唯一無二、比肩するものなし、と思っている。 さて、C-280Vと同等のものを(音も作りのよさも)、今、オーディオメーカーが一般市場流通の高級機として生産するとしたら、その価格はどうなるだろう。 私の推測では、おそらく当時の2倍では収まらず、最低でも3倍になるのではないだろうか。 事前の市場調査の購買予測から、商品化には至らない可能性も高い。 「一生もの」を中古でget
その後彼らはこのC-280Vをgetすることになるが、これをシステムのセンターに据えれば、後々まで長く、全幅の信頼を寄せる「不動のセンター」として愛用することができるだろう。 そして数年後、「卵」から「おたまじゃくし」の期間を経て、「子がえる」になったかえるの子は、口伝の教示に沿うようなコンポーネントをgetしていった。 その結果、現在はこのような状況になっている。 すべては中古品であるが、幸い、怪しそうなコンポーネントはないようだ。 中古品にはリスクがある。
それを承知の上で、「目利き」の能力も必要であり、事前のチェックも十分しておかねばならない。 入門者にはとても難しいところであり、経験者の助言・助力が必要だろう。 <写真6:KP-9010に慣れた後にgetしたTechnicsのターンテーブル>
**これも親父に似ているが、総合的に見て、コスト/パフォーマンス上、これ以上のものを探し出すのはむつかしい。彼もKP-9010は、居眠り対策に欠かせないらしく、反対側に置いてあるとのこと** <写真7:かえるの子が数年間で構築した主要システム>
**同じ歳頃の私の時代とは隔世の感がある。どれも古い中古であるが、第一級の名機であり、末永い使用に耐えるだろう。またデジタル機器を除けば、買い換える必要性も起こらないだろう** スピーカーは父と同じ「実証済」のALTEC MODEL19である。 入手した価格で、これ以上のスピーカーは簡単には見つけられないため、「まねしてる」と思われてもやむを得ない。 REVOX B77は4トラックであり、私の貸し出しである。
デジタル機器はまだまだ発展途上 だいたい一通り揃ったようであるが、「一生もの」を選択できないコンポーネントがあることに注意しておく必要がある。
デジタル機器である。 デジタル処理のデバイスも、それらのデバイスの応用技術も、今後の進化は計り知れない。 サンプリング周波数44.1KHz、量子化ビット数16bitの普通のCDの再生装置でさえ油断はできない。 CDが市場に登場したのは1982年である。 30年以上も経っているが、それを再生するための手法は、新しいアプローチがまだまだ残されている。 ということから、「デジタル機器は発展途上」との認識のもと、コンポーネントの選択をしなければならない。 さてさて、オーディオの「よろずの事」を口伝しようにも、あまりにも範囲が広く、奥も深いため、途方にくれる思いである。
とても「体系的に」など、きちんと順序だてた話はできないが、思いつくまま、ぼつぼつとやっていきたい。 えっ、ケーブルの接続はバランスかアンバランスかって?
そうかそうか、C-280Vはバランス入出力が充実してるからね。 この問題は簡単明瞭だけど、今日の最後の話として、はっきりさせておこう。 バランス接続できる個所はバランス接続。 バランス接続できない個所はアンバランス接続。 このことは当たり前の話であり、オーディオ信号の「信号伝送」は、バランス伝送が基本中の基本。 RCAタイプのピンジャックなどのアンバランス入出力は、短い距離の伝送など、バランス伝送でなくても、あまり問題が発生しない場合の「簡易伝送法」である。 だから状況に応じて、よかれと思うやり方で接続すればいい。 えっ、なぜバランス伝送が基本中の基本なのか、って? これも理屈は簡単だけれど、続きはまた、ということにして、なにか一曲聴かせてほしいな。 (口伝(1)オーディオ事始 おわり) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-01-20 ▲△▽▼ 口伝(3)「最良の電源ケーブル」 Fケーブル・パラドックス [口伝・オーディオ萬之事 〜父から息子たちへ〜] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-06-15 口伝・オーディオ萬之事 (くでんオーディオよろずのこと) この日記は、父が息子に、オーディオについて語ったことを拾い集めた「拾遺集」です 今回は、父が昔考えた、Fケーブルのパラドックスの話をしておこう。 それを「Fケーブル・パラドックス」と名付けた。 ケーブル選びの本質的なことに気付くヒントを、パラドックスの形で表したものだ。
音がよくなるケーブルは存在しない
言い方を換えれば すべてのケーブルは、必然的に伝送信号を劣化させる要素を持つ オーディオ機器に使用する各種のケーブル類。
『なにも足さず、なにも引かず、「送り元」から「送り先」へ情報や電力を伝送する』 これが「ケーブル」の使命であり、理想である。 もし、「音がよくなる」ケーブルがあったとしよう。 そのケーブルは、「なにかを足している」か、「何かを引いている」。 もしくはその両方をやっている。 ケーブルはいかなる品質のものであっても音は劣化する 劣化が極小で検知不能なことはあっても、よくなることはあり得ない
電源ケーブルであれ、スピーカーケーブルであれ、ラインケーブルであれ、何であれ、「このケーブルは音がいい」と主張する人がいたとしよう。 こういった話の解釈(理解のしかた)は、「口伝(第1回)」で説明したとおりである。 『ある人が、あるオーディオ・システムの環境において、ある部分にそのケーブルを使用したところ、その人は「音がよくなった」と感じた』 と解釈しなければならない。 その音を別の人が聴けば、逆の評価になるかもしれない。 同じシステムの別の場所に使えば、違った評価になるかもしれない。 別のシステム環境では、推薦した人でさえ、こんなはずではなかった、と思う結果になる場合もある。 ケーブルはいかなる品質のものであっても、「なにかを足している」か、「何かを引いている」。 もしくはその両方をやっている。 その「何か」がどのような性質のものか、その量がどれほどのものか、そしてその影響が音に表れるのか否か、表れるならどのように。 これらのことは、すべてのケーブルに付きまとう。 これは、たとえ超伝導状態の「電気抵抗完全ゼロ」のケーブルであっても、この世に電気・磁気の法則があるかぎり、免れることはできない。 具体的には、本日の日記後半の「分布定数回路」の段で少し触れる。 ケーブルは、多かれ少なかれ音に何らかの影響を与える そしてその影響にはシステムとの「相性」がある
ケーブルが、何かを足したり、何かを引いたり、その両方をやったりするかぎり、検知限界よりはるかに極小の変化であっても、また、訓練された耳の持ち主には感じられる変化であっても、多かれ少なかれ、音に何らかの変化を与えているはずである。 すべてのケーブルは、必然的に伝送信号を劣化させる要素を持つ。 そして、その「劣化させる要素」が、それぞれのケーブルによって微妙に異なる。 それによる音への影響も微妙に異なる。 それがいわゆる「相性」と呼ばれるものの正体なのだろう。 ある人が、「音がよくなった」と感じる場合、「そのケーブルは、そのシステムのその場所に使った場合、たまたま相性がよかった」ということになる。 ただし、「その人の感覚でそうであった」という話であり、他の人が聴いても同じ評価とはかぎらない。 つまり「音がいいケーブル」とは、ややこしい表現ではあるが、 『そのケーブルによる音の「劣化」が、システム全体の最終出口の音に影響を及ぼし、たまたま、ある人にはそれが「いい音」と感じられた』 ということである。 以上の話が、電源ケーブルであれ、スピーカーケーブルであれ、ラインケーブルであれ、デジタルケーブルと称するケーブルであれ、「ケーブルと音」に関して押さえておかねばならない最も基本的な話である。 「最良の電源ケーブルはFケーブル」のパラドックス
さて今日の日記は、『「口伝」ケーブル編』の最初として、まず「電源ケーブル」について考えてみたいと思う。 理想の電源ケーブルって何だろう、と思案して、「最良の電源ケーブルはFケーブル」というパラドックスに行き着いた。 Fケーブル【えふけーぶる】
主に、住宅の電気系統の配線に用いられる一般的なケーブルのことをいいます。 「F」とは、「Flat type」を意味します。銅の心線がビニール樹脂で二重に覆われ、2芯と3芯、さらには4芯のものもあります。 流せる最大電流は1.6mmが15A、2.0mmが20A、2.6mmは30Aとされています。 また、「Fケーブル」の切断には、「VA線ストリッパ」という専用工具を使用します。 壁コンセントから電源を取ることが大前提であるが、このパラドックスの結論は、
・電源ケーブルはFケーブルが基準であり、不都合な点が一つもない。 ・Fケーブルを使えば何の問題もなし。 である。 この結論を受け入れられない人もいると思われるが、「受け入れがたい結論が導かれる」のが、パラドックスである。 しかしこのパラドックスには矛盾点がなく、結論は「まやかし」ではない。 パラドックスの結論には、「偽」の場合もあるが「真」の場合もある。 意外に思うかもしれないが、「Fケーブル・パラドックス」の結論は「真」である。 壁コンセントがパラドックスの入り口
このパラドックスは「思考実験」であり、実際に実行する話ではない。 しかし、まったく架空の話ではなく、その気になれば実際にやってみることが可能である。 またこの「実験」は極めて単純明快であり、誰もがその状況をイメージすることができるため、ごまかしや錯覚を仕込む余地はない。 <写真1:壁コンセントと屋内配線のFケーブル> https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-06-15
**壁コンセント本体に接続されているFケーブルが10cmほど見える** <図1:分電盤からオーディオ機器への電源供給の基本的経路> https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AEFBCA6E382B1E383BCE38396E383ABE383BBE38391E383A9E38389E38383E382AFE382B9EFBC91.jpg 一般の家庭の場合、オーディオ機器への電源供給は、図1のような形となる。
屋内の分電盤から、壁のコンセントまでは、天井裏や壁裏を通ってFケーブルで配線されている。 その距離は、コンセントの位置や家の構造、広さにもよるが、数mから100m超といったところだろう。 「Fケーブル」は通称であり、正式には「VVFケーブル」(ビニール絶縁ビニールシース平型ケーブル)のことである。 「F」はFlat type(平型)のFであり、住宅の屋内配線用として一般的に使われている。 さて、その壁コンセントとオーディオ機器のインレットの間を、適当な電源ケーブルで接続することを考える。 さあ、変則的なことをやります(思考上)
普通は適当な電源ケーブルで、壁コンセントとオーディオ機器とを接続する。 それが当たり前であり、こういった一般的な家庭における状況が前提である。 この前提から、オーディオ機器における電源問題は、一般的には「電源ケーブルの選択」の問題に絞られることになる。 例外的には、壁コンセントの商用電源に「見切り」をつけて、商用電源とは完全に分離・独立した、ピュアなAC電源を新たに生成する装置(交流100Vの発電装置)を導入する方法もあるが、その話は今回の俎上にはない。 *Fケーブル・パラドックス2.jpg <図2:「最良の電源ケーブルはFケーブル」のFケーブル・パラドックス>
https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AEFBCA6E382B1E383BCE38396E383ABE383BBE38391E383A9E38389E38383E382AFE382B9EFBC92.jpg ご注意:図2の中には、思考上、壁のコンセントを取り外し、コンセント本体からFケーブルを引き抜く作業などがあります。それらの作業には、電気工事士法により、電気工事士の資格が必要ですのでお含みおきください。あくまで思考上の話ですので、その点、誤解のないようにお願いいたします。
壁コンセントを外してFケーブルを引き出す
(@図):図2の@は、壁コンセントの表面プレートを外し、さらにコンセント本体を外して、Fケーブルごと手前に引き出した場面である(写真1参照)。 数10cmほど、Fケーブルを引き出すことができたとしよう。 そしてコンセント本体からFケーブルを引き抜いた。 (A図):Aは、コンセント本体から引き抜いたFケーブルの先端を、オーディオ機器の電源入力コネクタ(インレット)の機器内側の端子に接続した様子である。 接続法は、端子の構造によって異なるが、いずれにせよ、「確実な接続」を行ったとする。 これ以上に最良の電源供給法はない
あくまで思考実験であるが、一般家庭のオーディオ機器にAC電源を供給する方法として、図2のA以上に良好なAC電源の接続法はない。 「電気的に良好な接続」についての話である。 なにしろ、音に何らかの影響を与える「電源ケーブル」が不要となり、使わないのであるから「最良」に決まっている。 本来は使用しなければならないはずの電源ケーブルによる劣化はゼロである。 この状態で出る音が、そのオーディオ機器の本来の音である。 そのはずであり、そうでなくてはならない。 ただし、もしかしたら、そのオーディオ機器に付属の電源ケーブルがあり、「このケーブルを使った場合が本来の音である」などといった能書が付いているかもしれない。 製造メーカーの立場から、それは当然のことだろう。 まず第一に、AのようなFケーブル直づけのような暴挙は想定外である。 機器を動作させるには、必ず、電源ケーブルを使用することを大前提としている。 そして付属品の電源ケーブルは、購入ターゲット層の最大公約数が「好ましい」と思うような音が期待できるようなものを付属させているはずである。 このことから、付属の電源ケーブルを使うように指定するのは、もっともなことである。 しかしあくまで、 ケーブルはいかなる品質のものであっても音は劣化する。 よくなることはあり得ない。 が、大基本である。 もしAのような電源接続をして、音が悪くなるような機器であれば、それはどこかに、また何かに、機器の設計・製作上の吟味不足があると考えざるを得ない。 そもそも音響的ハイエンド機器において、電源ケーブルによる「音づくり」など、製造メーカー自身がやってはならない、してはならない。 もちろんのこと、ユーザーが勝手に電源ケーブルを交換するのは、趣味であり道楽である。 他人がとやかくいう筋合いのものではない。 と、父は思う。 オーディオ機器の電源インレットに、最良のAC電源を供給したときに、最良の動作状態になる。 これが音響的ハイクラス・オーディオ機器の当たり前の姿であり、そのはずである。 ケーブル本来の使命(可能な限り、なにも足さない、なにも引かない)を放棄したような、キャラクターの強い電源ケーブルを敢えて使用して、音づくりをするようなオーディオ機器は、ここでの俎上にはない。 パラドックスの話に戻って(B図)。
さてさて、図2のBは、Aの状態のまま、Fケーブルを慎重に引っ張ってみたら、どういうわけか1m〜2mほど、無理なく引っ張り出せた、という状態である(普通、そのような長さの余裕があるわけはないが)。 そのおかげで、近くにあるオーディオラックの設置場所に納まった、としよう。 いよいよパラドックスの核心部
AとBとは、オーディオ機器の置き場所が少し違うだけで、電源の供給状況は同一である。 つまりBも、一般家庭のオーディオ機器にAC電源を供給する方法として、これ以上のやり方はない最良の接続法である。 さて核心。 そこで@〜BのFケーブルとまったく同じFケーブルを使って電源ケーブルを作ってみる。 同じFケーブルがなければ、Bの室内に引き出したFケーブルを切断して電源ケーブルを作ればよい。 電源プラグやインレットプラグは、一流メーカーの信頼性あるものを使ったとしよう。 思考実験である。 金に糸目をつける必要はない。 超ハイグレード、ロジウム、クライオ処理(*注:後段)など、気の済むまでの超一級品を使おう。 なになに、両端のプラグと、Fケーブルとの接続処理で合計100万円? 上等、上等、結構、結構。 両端のプラグがどうのこうのと、誰からも文句を言われないような、最上級のことをやってくれ。 遠慮はいらない。 ということで、最上級のプラグを選択し、Fケーブルとの接続は、最善の方法で完璧に行われたとする。 ネジ止めや、ハンダづけでなく、ピンポイント溶接を行ったのかもしれない。 Fケーブルで作った電源ケーブルを誰も「卑下」できない
さて、こうして作られた電源ケーブル。 BとCの状態を比較してみる。 BとCを見比べて、Fケーブルで作った電源ケーブルの音が「いいか、悪いか」を考えてみよう。 答えは明快である。 AやBと比較して、悪い点を指摘できない。 一つも悪いところがない。 電源プラクとインレットプラグの介在は、避けることができない必要悪である。 いかなる電源ケーブルも、両端に電源プラクとインレットプラグを装着しなければならない。 つまり電源ケーブル両端のプラグによる影響は、「影響がある」ということに関して、どのような電源ケーブルの場合も平等であり、比較の対象から除外できるだろう。 しかもこのFケーブルの場合は、この世に存在する「最高の品質」のプラグを、それぞれのオーナーが、気が済むまで吟味してセレクトしたものである。 Fケーブルとの接続は、ピンポイント溶接までしてある。 この世に、これ以上の品質・性能の両端プラグとその接続処理はないのである。 Fケーブル・パラドックスの結論について、これ以上の説明はいらないだろう。 図2の@〜Cに描いた「Fケーブル・パラドックス」から、
「Fケーブルで作った電源ケーブルには、音的にも、電気的にも、何一つ不都合なところがない」 という結論が導かれる。 音がいい、音がよくなる、などとは言っていない。 ABと比較して、必要悪の両端のプラグ以外に、何一つ悪いところ、劣るところがない、との結論である。 もちろん、使い勝手や見た目などは度外視している。 パラドックスの結論を否定できない
この結論を否定することは、すなわち、屋内配線に使われているFケーブルを否定するに等しい。 そうなれば、家庭におけるオーディオ機器の稼動そのものが成立しない。 分電盤から壁コンセントまでの屋内配線用Fケーブルの存在は必要悪であり、万人が甘受しなければならない義務のようなものである。 Fケーブルの電源ケーブルを薦めているわけではない Fケーブルで作った電源ケーブルなど、使いにくくてしょうがない。 もちろん使う必要はないし、私は使わない。
ただし、先のパラドックスの段の冒頭の「最良の電源ケーブルはFケーブル」の「最良」は、つぎのような意味である。 Fケーブルよりも各種の電気的特性が優れたケーブルは山ほどある。 しかし高価なケーブルが、そのシステムのその場所の相性に合うかどうかは分からない。 その失敗を避けたいのであれば、「Fケーブル・パラドックス」の結論に従えばよい。 Fケーブルの電源ケーブルは、分電盤から壁コンセントまでの屋内配線Fケーブルの、そのままの延長と考えることができ、「間違いのない選択」と言える。 つまり、あれこれ迷い悩む人にとっては「最良」の選択である。 ちなみにFケーブルの単価は、メーカーや規格によって違ってくるが、10mあたり、500円〜1000円程度のようである。 愚痴をちょっと
インレット不信 私は昨今流行(はやり)のように採用されている、オーディオ機器の電源受け入れ口のインレットを信頼していない。 差込む深さも浅いし、ケーブルをうっかり引っ掛ければ簡単に抜ける。 グラグラを何度も繰り返せば、少しづつ抜けてくる。 このことは高級品のインレットやコネクタでも大差はない。 「抜けやすいもの」を高級オーディオ機器に採用するなど、私の感覚では考えられない。 壁コンセントも引っ張れば抜けるが、こればかりはやむをえない。 壁コンセントを引き合いに出すのはフェアではない。 ケーブルを引っ掛けたときに、オーディオ機器が棚から落下しないよう、抜けるようになっている、なども言い訳にならない。 では、ガッチリ締め付けるようなメインアンプのスピーカー端子などは、どう説明するのか。 できることなら、オーディオ機器の製造メーカーが、国内一流ケーブルメーカーの標準的な電源ケーブルを十分吟味・試聴して、「過不足なし」のものを選び、機器直出し(コネクターなしで直にケーブルを出す)をしてもらいたい。 製造ラインの都合やコスト優先の普及機クラスであればインレットもやむをえない。 しかし高級オーディオ機器であればなおのこと、機器「直出し」を望みたい。 電源ケーブルを交換できる「選択の自由」よりも、オーディオ機器の電源受け入れ口のインレットなどの「接触部分」がない方がはるかに信頼感があり、音的にも安心できるのだが・・。 クライオ処理
熱して高温に曝す、冷却して低温に曝す。 それらの温度によっては、そのどちらにも、ケーブルの導体金属(銅)の物性の変化が起こるであろうことは想像できる。 たとえば極めて低い温度に冷却して、物性に何らかの変化が生じたとする。 その変化が、音的に良好な状態になると仮定しよう。 問題はその変化が、常温に戻ったときに残っているのか、元の状態に戻ってしまうのかである。 可逆的か非可逆的か、いずれにせよ、金属工学や冶金工学の基本的な話と思われるので、勉強すれば分かると思う。 興味があれば銅について調べ、その結果だけを教えてほしい。 銅の物性変化は可逆的と思っているが確認をしておきたい。 ただしオーディオケーブルにおける「クライオ処理」に、父はまったく興味はない。 ケーブルの本質 本筋に戻り、最初に話したように、
音がよくなるケーブルは存在しない。 言い方を換えれば、すべてのケーブルは、必然的に伝送信号を劣化させる要素を持つ。 さて、この根拠はどこにあるのか。 言い換えれば、ケーブルの正体はなにか。 *Fケーブル・パラドックス3.jpg
<図3:伝送信号を劣化させる要素とケーブルの正体>
https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AEFBCA6E382B1E383BCE38396E383ABE383BBE38391E383A9E38389E38383E382AFE382B9EFBC93.jpg 一般的なケーブルを想定した2本の導体に、何らかの信号が流れる。 あるいは電力の電流が流れる、とする。
オカルトの世界でない限り、その導体には否応なく「抵抗」があり、「自己インダクタンス」があり、「線間静電容量」がある。 純度「99.」のコンマ以下に「9」がいくつ並ぼうが、結晶の大きさや性質がどうであろうが、クライオ処理をしようがしまいが、これらの成分は必ず付きまとう。 (例外として超伝導状態では「抵抗」が完全にゼロになる) 当然ながらそれらの成分は、ケーブルの端から端まで、まんべんなく一様に分布している。 そのため、ケーブルの電気的性質は、抵抗「R」、自己インダクタンス「L」、静電容量「C」を使った「分布定数回路」という等価回路で表すことができる(図3)。 平たく言えば、ケーブルの導体には多かれ少なかれ「抵抗」があり、直線であってもコイルの性質「インダクタンス」があり、おまけに2本の導体が寄り添っているため「コンデンサー」の性質まで持つ。 2Wayとか3Wayとかのスピーカーシステムのネットワークに興味がある人にはお馴染みの単位、「R」であり「L」であり「C」である。 非常にざっくりとしたところであるが、オーディオ用の普通のケーブルの1mあたりのそれらの値と単位は、 抵抗R: mΩ(ミリオーム) 自己インダクタンスL: pH(ピコヘンリー) 静電容量C: pF(ピコファラッド) といったあたりのオーダーで表される。 こういったことからケーブルは、図3のような「R」と「L」と「C」の性質を持った「分布定数回路」で近似的に描き示すことができる。 ケーブルの導体には互いに反発する力が働く
また、一般のケーブルのような、2本の近接した平行導体に電流が流れると、それぞれの電流の向きにより、引き合う力、あるいは反発し合う力が働く。 2本線のケーブルの場合、普通は互いに逆向きの電流が流れるので、反発力となる。 2本線のケーブルを束ねて1本のケーブルとして使えば、その2本に同じ向きの電流が流れるので、引き合う力が働く。 反発であれ、引き合いであれ、その力を受けるケーブルの導体は、普通、ビニールやゴム系の材料で絶縁被覆されている。 極微の動きであっても、被覆材の性質によって、振動の状態は異なるだろう。 2本の導体に働く力は電流に比例するので、そこそこの電流が流れる電源ケーブルやスピーカーケーブルの場合は、微小とはいえ何らかの影響が出る可能性もある。 さらには、地磁気が存在するため、導体の電流と地磁気との作用による力も、さらに微小ではあるが働く。 ただし今回はそれらの力の大小や、その力による音への影響のあり・なしについては言及しない。 要点は、どのようなケーブルであっても、これらの力や、上段の「R」や「L」や「C」の影響を免れることはできない、ということである。 そのことをまず知っておく必要がある。 まあ、どのようなケーブルでも、オーディオ信号やデジタル信号、AC電源の電流などを流すと、いろいろ厄介な現象がくっついてくる。 安物ケーブルであっても、超高額ケーブルであっても、電気の原理はそれぞれの物性に応じて、分け隔てなく作用を及ぼす。 さあ今回は、これぐらいにしておこう。 お前たちは自適親父よりリッチだが、ケーブル選びに興味はないのか? なに? 別に今の音にそれほど不自由してない?
お前がREVOXのテレコに使っている、赤白の細いRCAピンケーブルは、昔のビデオ録画器に付属してきたやつだぞ。 そのこと知ってるのか?何かの4トラテープが凄い、とかいってたけれど。 (口伝(3)「最良の電源ケーブル」 Fケーブル・パラドックス おわり)
コメント 4 経験的には
あ)電源ケーブルの交換により、複数の被験者が聞き分けられる再生音の変化が観測できることがある い)この場合調音ツールとして利用できる 良い音になるとは 文学的表現と解釈しています[わーい(嬉しい顔)] by いちあい (2014-06-16 19:44) いちあいさん、ご指摘、恐縮です。そのとおりだと思います。訓練された耳には、電源、ライン、スピーカーなど、どのケーブルも、多かれ少なかれ、それぞれのケーブル特有の「劣化要素」による付帯音や、その影響による音を聞き取ることができます。本文で一貫して主張している「すべてのケーブルは、何かを足しているか、何かを引いている。あるいはその両方」が、まさにそれです。結果的にそれが「調音ツーツ」になる、というわけですね。 今回の日記は、そういったことを理解して、ご指摘の「調音ツーツ」として有効に利用するなどのヒントになれば、との思いがありました。 いちあいさん、私のオーディオ部屋の壁コンセントは、写真のように残念ながら松下電工の3p標準品です。使ってほしい3pがあって指定したのですが、電気工事屋さんに、何んだかんだと結局は松下を使われてしまいました。交換も面倒なので、そのまま使ってます。 by AudioSpatial (2014-06-17 09:52) 久々に聴いた分布常数。 確かにケーブル(電源であれスピーカであれ)で音変わります。 今回ふれられていませんが、今仕事でほとんど毎日スペアナ(高周波)を覗いています。 かつての高城重躬さんではないですが部屋自体を鉛板でシールドする必要があるかもしれませんね。 学生時代 雑司ヶ谷で下宿していましたのでかつてのSTAX本社へは何度か足を運びました。 未だに建物はあるんですか。 15年ほど前に下宿はどうなっているのか?と近くまで行きました。 銭湯はマンションに変わり、雑司ヶ谷霊園まで行かないと 当時の記憶とマッチしませんでした。また遊びに来ます。 by kchann (2014-07-16 15:10) 学生時代には雑司ヶ谷におられたとのこと、懐かしいですね。 かってのSTAX本社は、今は東京都有形文化財「雑司が谷旧宣教師館」として保存されているようですが、写真でみるかぎり、当時の緑に囲まれた落ち着いた風格は、失われているようです。俗に言う「ケバイ」印象で、がっかりし、訪ねてみる気も失せました(笑)。 現在は高周波関係のお仕事のご様子、「スペアナ使い」なんですね。 私は、オーディオのすべては、オームの法則と、感性の上に成立している、と思っていますが、よろしかったら、またぜひ、ご訪問ください。 ちなみにここでの「オームの法則」は、電気や物理の法則全体を象徴したものです。 by AudioSpatial (2014-07-19 09:45) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-06-15 ▲△▽▼ 口伝(4)スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理 〜これでよし! 実用的末端処理〜 [口伝・オーディオ萬之事 〜父から息子たちへ〜] https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-07-27 スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理。
STAX ELS-8Xコンデンサースピーカーに付属のスピーカー・ケーブル
STAX ELS-8X。
父が1987年に入手した、当時のSTAXのフラグシップ・モデル、大型コンデンサースピーカーのELS-8X。
このスピーカーに付属していたスピーカー・ケーブルは、とてもよいケーブルだった。 現在、お前の8Xに使っているのがそうだ。 修復した自分の8Xに使いたいが、ちょっと短すぎた。 今日はまず始めに、このスピーカー・ケーブルの話をしよう。 *新8X全景 https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE696B08XE585A8E699AFEFBC88E7B8AEE5B08FE38388E6B888EFBC89DSC_7442.jpg
<写真1:STAX ELS-8Xコンデンサースピーカーと背面下部のスピーカー端子>
https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8A8XE8838CE99DA2E4B88BE983A8E585A8E699AFDSC_0299.jpg **上記本文中の「お前の8X」(息子が昨年入手した8X)と、背面下部のSP端子。 私が1987年に購入した8Xよりバージョンが1つ古い。 SP端子が1987年のものよりかなり小さい。 この息子の8Xはオーディオ部屋ではなく、別室に今もこの状態で居候している** <写真2:8Xに付属してきたスピーカー・ケーブル> https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8A8XE8838CE99DA2E4B88BE983A8E58FB3DSC_0312.jpg https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8A8XE8838CE99DA2E4B88BE983A8SPE7ABAFE5AD90DSC_0301.jpg **赤・白それぞれ独立した単独線。細目の撚り線が10組ほど、さらに撚り合わさっている**
スピーカーのエージング
1987年の昔の話、8Xが家にやって来た。 我が家で最初に鳴り響いた8Xの音は、記憶は薄いが、すでにそれなりの音質を持っていたように思う。 「エージング」(バーンイン。慣らし運転)については、すでに知っていると思うが、ほとんどすべてのオーディオ機器に、それによる変化が起こる。 特にスピーカーは、それが顕著に現れる。 ものによっては、また鳴らし方によっては、数ヶ月、あるいは1年以上のエージング期間が必要な場合もある。 憧れのスピーカーを購入し、自宅に納入され、初めてその音を聞いたとき、「こんなはずではなかった」と落胆する、という話はざらにある。 つまり、その機器本来の音が出るまでに、けっこう長い「慣らし運転」の期間が必要である。 8Xの場合は、それが比較的少なかったのではないかと思う。 昨年の8X修復直後の音出しでも、最初から十分に「こなれた」よい音が出たことからも推察できる。 このエージングの話は今日の主題ではないので、これ以上の深入りはしないでおこう。 スピーカーの評価は即断できない
このように、オーディオ機器には総じてエージング現象がある。 特に新品のスピーカーなどは、初めての音出しで、すぐさま評価などできるわけはない。 またもう一つの大きな問題として、スピーカーのセッティング(設置位置)がある。 平面型スピーカーに比べれば、一般的な箱型スピーカーの方が、設置位置の影響が大きい。 背面からも、まったく同一の逆相の音が放射される平面型スピーカー(プレーナー型スピーカー)は、「設置場所を選ぶスピーカーである」などと言うオーディオ・ライターが多いが、それは机上の空論である。 私の長年の経験上、平面型スピーカーより、一般的な箱形スピーカーの方が、設置位置の影響を、より多く受ける。 まあいずれにせよ、スピーカーを設置するには、その最適な置き方を探し出すまでに、かなりの期間、試行錯誤をすることになるだろう。 この話もまた、今日の主題ではないので、これ以上の深入りはしないでおこう。 さて、何日もかけて、スピーカーの位置やら、アンプとの組み合わせやら、ああだこうだと試行錯誤して、ようやく8Xの音を客観的に聴くことができるようになった。
なんだかんだとやっているうちに、聞く耳にも、8Xを聴くための対応が、自然に出来てくる。 8Xに限らず、どのような形式のスピーカーであっても、最初はそういうものだ。 何日も一緒に暮らし、そのスピーカーに慣れなければ本当の音は分からない。 オーディオショップのスピーカー売り場で、あれこれと試聴して品選びをするのはやむを得ない。 しかし、その程度で十分な評価ができるわけではない。 つまり、そのスピーカーの本来の音が聴こえる(その音に気付く)ようになるには、自分のオーディオ環境の中に持ち込んで、何日も一緒に暮らす必要がある。 ハイクオリティーのスピーカーの再生音は、それほど奥が深い。 スピーカーについて、これらの話は、まあ、そういうものか、と頭に入れておくだけでいい。 いまひとつ、納得できる音が出ない
さて、8Xを鳴らすための最適な条件を探して、いろいろと試行錯誤しているうちに、どうもスピーカー・ケーブルに問題があるのかもしれない、と思うようになった。 以前から使っていたケーブルに交換して鳴らしてみると、かなり具合がいい。 ケーブルの芯線の断面積は、8Xに付属の方が数倍大きい。 常識的に考えれば、8Xに付属のケーブルは、従来から使っていたものと比べ、「勝るとも劣らない」はずである。 相談はしてみるもの
このことを、8Xの納入時にお世話になったSTAXの営業マン氏に話すと、けっこうあっさり、 「あっ、分かりました。ちょっと、これをやってみてください。見本を作って、その材料を郵送しますから」 みたいなことを言って、電話での話は簡単に終わった。 <写真3:STAXの営業マン氏が郵送してくれた末端処理の見本と使用する単線の銅線> https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE5B081E7AD92E5908DE5898DDSC_0336.jpg https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE5B081E7AD92E382B5E383B3E38397E383ABDSC_0341.jpg
**(おことわり)封筒の住所・電話番号は、今はない「STAX工業株式会社」です**
後日、届いたのが写真3の封筒と、その中身である。 簡単な内容の手紙もあったが、残念ながら、失くしてしまった。
同封されていた末端処理の見本は、「見れば説明の必要なし」の簡単なものであった。 写真3の見本のとおり、銅の単線を巻きつけてハンダ付けしただけのものである。 同封されていた単線は、元は1mほどの長さがあった。 単線の材質は同封の手紙に書いてあったが確かな記憶がない。 OFC(無酸素銅)系のものとの記憶があるが、かなり柔らかく、取り扱い、取り回しが楽にできる線材である(Fケーブルの芯線などより、はるかに柔らかい)。 この封筒は、長く工具箱の中に放り込まれていたため、よれよれになっているが、「オーディオ・ケーブルに関する大きなことを発見した記念品」であり、私のお宝の一つである。 初期の頃の末端処理法
8Xに付属のスピーカー・ケーブルの構造は、写真2や写真3の被覆を透かして、その概観が何となく判別できる。 細線が撚り合わされた撚線が10組ほど、さらに撚り合わされた構造になっている。 そのため、もしその末端がバラけると、極細線のハケのようになり、始末に終えなくなると思われる。 私は最初、このケーブルの先端の5mmほどを、ハンダでしっかり濡らして(ハンダが細線の内部に満遍なく浸み込むようにハンダ付けして)、そのままの状態で使っていた(図1)。 図1の模式図のような状況で、スピーカーや、メインアンプと接続されると考えればよい。 <図1:最初の頃に行っていた末端処理の模式図> https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE5889DE69C9FE381AEE69CABE7ABAFE587A6E79086.jpg **最初、8Xに付属のスピーカー・ケーブルを、図のように先端だけをハンダ付けした状態で使っていた。しかし、どうも思わしい結果が出なかった** 初期の末端処理にも理はある
8Xに付属されていたスピーカー・ケーブル(細線の撚り線)の末端を、最初は図1のように処理して使っていた。 この処理法は、誰に教わるでもなく、昔からやっていた。 この処理法には、自分なりに解釈した理屈もある。 図1のように、末端を、しっかりとハンダが浸み込むようにハンダ付けすることにより、すべての細線が、ケーブル内各部の状態がどうであれ、両方の末端で短絡・接続されることになる。 極端に言えば、1本の細線が信号と導通すれば、ケーブルの導体のすべてに信号が流れることになる。 この末端のハンダ付けをしない場合、図1のように、線材を端子で挟み込んだだけでは、何百本かの細線のすべてが導通しているかどうかの保障がないのではないだろうか。 おそらく、いくらかは導通しておらず、またいくらかは抵抗を持って導通している可能性があるのではないか、と思う。 その懸念が、図1のように、末端の数mmにハンダを十分浸み込ませることにより払拭されると考えている。 しかし、このような末端処理をして、ハンダのない部分を端子に挟み込む方法では、なぜか、いい結果が出なかった。 そこでこのことをSTAXに相談した話が、先の「相談はしてみるもの」の段である。 (ちなみに、ハンダ付けした部分を、接続端子で挟み込んで圧着してはいけない。ハンダには弾力性がまったくないし、強い力が加われば、ハンダ付け部分のハンダが割れてしまう。ハンダ付けされた部分の挟み込みは厳禁である) 末端処理後の生気を帯びた音に驚く その音が出た瞬間、
スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理 の一言に尽きる、と思った。 8Xから出てくる音が、嘘のように生気を帯びた。 音が生きている。 スピーカーを介さずに直接耳に響いてくるようなリアル感のある音。 スピーカーの存在を忘れさせる音。 私がこのブログでよく使う「そこで演ってる感」のある音。 今まで使っていたケーブルなのに、出てくる音は全然別物。 この変化に驚き、線材等を送ってくれたSTAXの営業マン氏に電話をすると、 「そうでしょう。変わったでしょう。しばらくそれで様子を見てください」 と、例の「あっさり」口調であった。 これ以降、8Xに付属してきたケーブルは、その時に教わった末端処理をしたまま、現在に至るまで、メインシステムのスピーカー・ケーブルとして使っている(今現在は息子の8Xに使っているが)。 そしてこのケーブルが今現在も、私のスピーカー・ケーブルのレファレンス(基準)となっている。 <図2:スピーカー・ケーブル末端処理の「決め手」> https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8ASPE382B1E383BCE38396E383ABE69CABE7ABAFE587A6E79086E6B395.jpg **1987年に入手したSTAX ELS-8Xに付属のスピーカー・ケーブルの末端処理を、当時のSTAXの営業マン氏に教えてもらった。その処理による音が大変良好なので、以来、この末端処理法が私の「決め手」となった。現在もすべてのスピーカー・ケーブルに採用している。巻きつける線材については下段参照** <写真4:スピーカー・ケーブル末端処理の例>
https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE38390E3838AE3838AE7ABAFE5AD90E6ADA3E99DA2DSC_0330.jpg https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE38390E3838AE3838AE6A8AADSC_0328.jpg **スピーカー・ケーブルの末端を、このように処理してバナナプラグに使用した状態。私は昔に作られたバナナプラグの品質を信頼しており、スピーカーの端子に多用している。**
スピーカー・ケーブルの末端処理はこれでよし!
STAXの営業マン氏に教えられた末端処理の結果に驚き、当時の現用のスピーカー・ケーブルのすべてに、また、それ以降に使ったすべてのスピーカー・ケーブルに、この図2の末端処理を採用している。 巻きつける銅線は、Fケーブルの芯線でもいいし、さらに高純度のものや、無酸素銅系のものでもよい。 肝心な点は、少なくともFケーブル程度以上の柔らかめの、柔軟性がある線材を選ぶことである。 この線材が硬いと、取り回しが自由にならず、使い勝手が悪い。 それらの結果を総合して、私は、スピーカー・ケーブルの末端処理に関しては、「これでよし」、と断定している。 また、その他の末端処理法をいろいろ試みても、これ以上の音質改善は望めないだろうと思っている。 その昔、8Xに付属のスピーカー・ケーブルから学んだ末端処理を、以来20数年間、すべての場合に採用して何の問題も不満もない。 スピーカー・ケーブルの末端処理は、これでよし! アルミ単線のスピーカー・ケーブル
以下、参考までに、の話である。 過去、高額なケーブルこそ使ったことはないが、一般的なスピーカー・ケーブルは、いろいろな形式のものを使った。 その中で、一般的ではないが面白かったのは、太さが大人の人差し指ほどのアルミの単線や、同じく直径が4mmほどのアルミ単線を使ったことがある。 長さはどちらも4・5mほどあった。 それらアルミニウムの単線ケーブルは、人からの頂きものであり、いずれも手作りであった。 太い方のケーブルは、単線に薄い布製のダブダブのチューブを被せてあり、4mmφのケーブルは、これも太めのビニールチューブが被せてあった。 自分から積極的に入手するようなものではないため、実験試料としては貴重なケーブルである。 電気をよく通す、通さない
アルミは銅よりも電気を通しにくい。 逆にいえば、銅の方がアルミよりも電気をよく通す。 参考までに、電気抵抗率(電気の通しにくさを表す値)の低い順のベスト4を挙げてみる。 つまり、電気をよく通す順である。 電気抵抗率(単位はオームメートル:Ω・m)(温度による影響を無視している) 1位) 銀 1.59 × 10の-8乗 2位) 銅 1.68 × 10の-8乗 3位) 金 2.21 × 10の-8乗 4位) アルミニウム 2.65 × 10の-8乗
電気をよく通す順は、1位が「銀」で、「アルミ」は4位である。
さて、電気の伝導に関して、このように銅より劣るアルミのケーブルの音は、いったいどうであったか。 電気抵抗率の値から、アルミが劣るといっても、線材の断面積しだいである。 銅線の2倍の断面積のあるアルミ線は、銅線よりも電気をよく通す。 線材の電気抵抗は、線材の材料よりも、さらには意味不明のクライオ処理などよりも、線材の断面積(つまり太さ)により、簡単に数倍以上の差が出る。 また、温度による抵抗値の変化も、思ったより大きい。 銅線の場合、銅の純度競争や、クライオ処理などの影響は、こと「抵抗値」に関して、温度による変化の前に、ほとんど意味を持たないほど小さい。 このことは、十分に頭に入れておく必要がある。 <写真5:4mmφのアルミ単線ケーブル> https://801a-4242a.c.blog.so-net.ne.jp/_images/blog/_dda/801a-4242a/EFBC8AE382A2E383ABE3839FE58D98E7B79ADSC_0354.jpg **手作りのスピーカー・ケーブルであり、ビニールチューブをかぶせてある** アルミ・ケーブルの音
このアルミ単線のスピーカー・ケーブルは、私のオーディオ・システムに使った場合、とても「アルミらしい」音であった。 太い方のケーブルは人にあげてしまったので手許にはないが、先日、4mmφのケーブル(写真5)を探し出して再度聴いてみた。 やはり昔聴いた印象どおり、「軽いアルミの音」であった。 この表現は半分ジョークではあるが、アルミの材質の感触をそのまま表すような、「軽々しい」雰囲気の音であった。 偶然の一致とはいえ、まさにアルミの音、と言っていい。 材質の感触と、音の質とが、偶然とはいえ同じ感じであったのは興味深い。 太いアルミ線の音は?
詳しくは覚えてないが、人にあげてしまったことから、私のシステムにおいては満足のいく音ではなかったのだろう。 その上、人差し指の太さのアルミ単線など、取り扱いがどうしようもない。 家庭のオーディオ用ケーブルは、スピーカー・ケーブルであれ、電源ケーブルであれ、各種のライン・ケーブルであれ、柔軟でなければならない。 柔軟性に欠けるケーブルなど、音がどうであれ、父は使わない。 と、まあ今回は、末端処理とともに、こんなこともケーブル選びの基本の一つ、と覚えておけばいいだろう。 ケーブル選択の基本
また、各種のケーブルそのものの選択は、何度も言っているように、日本の一流ケーブル・メーカーの、ごく一般的な標準品を使っておけば、それで過不足なしであり、それでよし、である。 それらのケーブルを使って、良好な音が出ないようなオーディオ・システムは、どこかに欠陥がある。 ケーブルをあれこれ気にする前に、まずその点を追求すべきだろう。 (口伝(4)スピーカー・ケーブルは線材よりまず末端処理 〜これでよし! 実用的末端処理〜)
コメント 2
流体力学の圧力損失と流量の関係から考えても、断面積の激減するケーブルの末端はボトルネックであろう危惧していました。これは確実で安価でよい方法だと納得できました。ありがとうございました。 by 山本健児 (2016-04-23 09:06) スピーカーケーブルの端子処理を考えていたらこちらのブログにたどりつきました。 早速やってみたところ、音が驚くほど引き締まり驚きました。 これは効果ありです。参考にさせていただきありがとうございました。 by aspyaji (2017-07-25 11:37) https://801a-4242a.blog.so-net.ne.jp/2014-07-27
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