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家永三郎『太平洋戦争』より抜粋
http://www.asyura2.com/09/reki02/msg/172.html
投稿者 スットン教 日時 2009 年 8 月 08 日 21:27:16: CmuKS.2SNuq/E
 

書物というのは読まれねば意味がありませんね。日教組を悪し様に言う自民党の教育改革と
はどういうものでしょう?


 生活物資の逼迫による肉体的苦痛が激化したばかりでなく、精神的・道義面の破戒も進行した。
「滅私奉公」「一死報国」などの美辞麗句の横溢するこの時期ほどm国民の道義の裏表の分裂のは
なはだしかった時代はない。「滅私奉公」の叫びがかん高くなればなるほど、逆に一身一家の生活
防衛のためにエゴイズムの露骨度の高まるという皮肉な状況が生じた。さる農村の一六歳の少年で
あった渡辺清の一九四一年一月六日の日記には、入営前の青年たちが、「すぐ戦地に持っていかれ
て生きて帰れるかどうかわからないので、やぶれかぶれになって」、処女を輪姦する事件の一度な
らず起っていることが記されており、内務省警保局の昭和一四年付の「部外秘」文書『銃後遺家族
を繞る事犯と之が防止状況』には、出征軍人の妻の姦通の各地に頻発している状況が記載されて
いる。
 企業整備によって非時局産業その他戦争に直接関係ない職業に従事している人たちは、転業や
廃業を迫られ、さらに国家総動員法による徴用令で軍需工場に徴用され、僅かな給料しか支給され
ないため、家族の扶養も満足にできないものが少なくなかった。一九四三年に入ると、在学中の学
徒や家庭の女子までが勤労動員の対象となり、学生・生徒は学業を放棄して軍需工場等に出勤し、
未婚の女子も女子挺身隊に編入されて動員された。教育内容の軍国主義化ばかりでなく、高等専門
学校・大学の学年短縮、中等以上の学校における動員などによって、満足に学業にいそしむことの
できないまま社会に送り出されまた成長していったこの時代の人々の精神的損害は、決して軽少
なものではなかったといわなければなるまい。
 在学中満足な教育を受けられなかったというだけではなく、学校が終わると待ち受けていたのは、戦
場への道であった。一九四三年に大学・高等専門学校在学者が、徴集延期廃止により「学徒出陣」
の途に出でたったのは、学籍のない同世代男子がすべて入営を余儀なくされていたことに照らして
やむをえなかったとしても、小学生にまで少年兵および満蒙開拓青少年義勇軍志願の割当が行なわ
れた。その割当人員を満たす責任を負わされた教員が「日本男子と生まれてこの聖戦に参加しない人
は、一生の恥だ」と直接児童に呼びかけたり、あるいは家庭を訪問して、父兄を泣く泣く承知させ
たりした結果、多くの卒業生が少年飛行兵・少年戦車兵等の少年兵あるいは開拓青少年義勇軍に
「志願」した。海軍は、四二年以後海軍練習生の名で数え年一四歳(中には一三歳のものもいた)か
ら一六歳未満の少年を約一万七〇〇〇人募集してその多数を戦場に送り出し、約三八〇〇人を戦死
させている。また年端もゆかぬ紅顔の少年たちが、あるいは特攻隊に編入されて自爆の旅に出で
たち、またはソ連軍の進攻開始のために満州の土と化したのは、まことに悲惨というほかはないであ
ろう。  

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