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(回答先: 立花隆さんの「メディア ソシオ-ポリティクス」の海外アーカイブを阿修羅のスレッドでまとめて保存してくれないかと、。 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 05 日 18:06:37)
第51回 東大の産学共同研究センターで人間サイボーグの実験台に立つ (2005/10/20)
http://web.archive.org/web/20051231032541/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051020_cyborg/
2005年10月20日
いま制作途上にあるNHK特番、“サイボーグの時代”(仮題)の取材で、東大の「国際・産学共同研究センター」にある満渕邦彦教授(情報理工学系研究科)の研究室を訪ねた。
この研究室では、神経接続(あるいは神経インタフェース)の研究を長年やっている。その技術を利用すると、一種の人間サイボーグ化の実験が可能になるというので、自分も被験者として、その実験に参加させてもらうところを撮影したのである。
触覚神経に針電極を刺して人工触覚を実現させる
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何をするのかというと、腕の触覚神経の中に、細い針電極を刺して、そこに微弱な電気信号を送ることで、人工的に触覚を感じさせようというのである。
これは2002年に腕に電極を埋めこむ実験をして、「世界最初の人間サイボーグ」の名乗りをあげたケビン・ワーイック教授の実験も、これに似た実験となる。
なぜそんな研究をしているのかというと、いま手や足を失った人は、義手や義足をつけて生活しているが、義手や義足には神経がない。ただの金属とプラスチックのかたまりでしかないから、人と握手しても、相手は冷たいプラスチック(金属)にさわった感覚を得るだけで、人と握手をした気持ちになれるわけがない。こちらも、相手が自分の義手を握ってくれたときに手を握ってもらったという感覚は全くなにも生じない。
それだけではあまりに淋しいし、不便でもあるから、触覚付きの義手・義足を作ろうという研究が相当前からはじまっている。
具体的にはどうするのかというと、義手の表面に触覚センサーを貼りつけておいて、そのセンサーから得た信号を神経を刺激するための電気パルス列に変換して、人の腕の神経系に直接送りこんでしまおうというのである。
そんなことができるのかというと、技術的には十分可能で、これまでいろんな実験が行われている。
感覚器官と脳をつなぐ神経路の信号をコンピュータで制御
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人間の神経系を走っているのは、電気パルス信号である。あらゆる人間の感覚は、感覚器官(目、耳など)が感知した外界の物理情報(光、音)を電気信号に変換して脳の感覚野に送ることで生じる。
感覚器官と脳をつなぐのが感覚神経である。感覚器官とは、信号の変換器(物理情報⇒電気信号)である。そして、神経とは電気信号の伝送路である。いってみれば、それは電話線と同じようなものだが、金属のワイヤではなく神経線維と呼ばれる細い糸状の動物性繊維物質(ファイバー)でできているところがちがう。
それは基本的に信号を伝える伝送路でしかないから、実はワイヤに置きかえることも可能だし、外部からワイヤを入れて、外部機器につなぐことも可能なのである。
つなぐべき外部機器は、感覚器官と同じような役割を果してくれる「外界物理情報⇒電気信号」変換器である。音でいえばマイクロフォン、光でいえばビデオカメラである。
next: 神経路を流れている信号を…
http://web.archive.org/web/20051215052656/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051020_cyborg/index1.html
神経路を流れている信号をモニターして、それを解析する。それによって神経路を流れている信号の構造(パターン)をつかみとる。
次に外部機器から入ってくる電気信号をコンピュータで変調して、そのパターンに似せた信号に仕立てあげ、それを脳の感覚野に送りこんでやる。すると脳はそれを本当の感覚器官からの信号と思いこんでそのまま認識してしまう。
これが人工感覚器官の原理で、実際に人工聴覚器官も、人工視覚器官も開発され、すでに一部使用がはじまっている。
本来の感覚系のどこに人工感覚系の信号を入れるかによって、さまざまな方式がある(自然感覚系に障害を持つ患者の症状がさまざまだから、それに対応してさまざまな方式が必要になる)。
たとえば、人工眼の場合、網膜に信号を入れる方式もあれば、視神経に信号を入れる方式もあり、さらには、脳の視覚野そのものに信号を入れてしまう方式すらある。
聴覚の場合は、いちばん実用化がすすんでいるのは、内耳の蝸牛管の中に電極を入れる人工内耳方式で、すでに世界中で人工内耳の装着者が6万人以上いる(日本でも数千人)。
いざ実験開始・・・日常生活で体験したことがない感覚に言葉を失う
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では触覚の場合は、どうするのか。そもそも触覚とは何かというと、皮膚の下にある小さな4種類の触覚センサー(メルケル盤、ルフィニ小体、マイスネル小体、パチニ小体など。実際には他の種類もある)の発する信号が複合したものである。
これら微小な触覚センサーが、指先なら1平方センチあたり100ぐらいある(手のひら全体で1万7000ぐらい)。その一つひとつに細い細い神経線維がつながっているが、それはやがて合流して、1本の感覚神経になっていく。1本の感覚神経線維が何本にも分岐して多数のセンサーを支配する構造になっているといってもいい。センサーがばらまかれていて触覚を感じる領域を「受容野」といい、複数の感覚神経の受容野が互いに重なり合う構造になっている。
実験はまず手首の部分に細い細い(100ミクロン程度)タングステンの針電極を刺す。妊婦のお腹の中の赤ちゃんを観察するときに使用するような超音波センサーの小型のもので、手首の内部を観察しながら、その針電極が、1本の感覚(触覚)神経線維にあたるような位置にもっていく。
と一口にいうものの、これが難しい。そう簡単に狙った部位に針が行ってくれない。針は注射針よりはるかに細いから、入るときチクッとするだけで、あとは痛みはない。
針が感覚神経の近くまでいくと、微妙な感覚が手に走るようになる。そのうち、神経線維そのものに針があたると、手はビクンと跳ね上がるように反応する。痛みがあるときもあるが、普通はない。それはなんとも奇妙な感覚で、思わずアワワと声が出たりする。どんな感覚かと問われても、表現しようのないほど奇妙な感覚である。
こういうとき、人間の言葉はすべて日常感覚の世界のために作られているのだということがよくわかる。いままでの日常生活で体験したことがない感覚におそわれたとき、人間は言葉を失うのである。
ともかく、これで針電極と神経が接続を果したわけである。
next: 刺激をあれこれ変えてみると…
http://web.archive.org/web/20051215055717/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051020_cyborg/index2.html
刺激をあれこれ変えてみると、中指の第一関節のあたりに・・・
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そして、針電極を、電気信号の計測装置につなぐと、神経線維の中を流れている電気パルス信号をモニターすることができる。メーターの針をふらしたり、波形を観察したり、パルスを音に変えて、ピッピッピッあるいはピリピリピリといいった音で信号を聞くことも可能である。
だが、いまつながった神経が、どこに受容野を持つ神経なのかは、すぐにはわからない。なにしろ、手の受容野は大変に数が多く、しかもそれが折り重なっている。それに、その辺には触覚神経以外の神経も走っているから、すぐにはつながった相手がどのような神経なのかわからないのである。
それが狙い通りの触覚神経かどうか、どうやって調べるのかというと、その受容野があるとおぼしき皮膚の表面をこすったり、あるいはピンで押したりして、その反応が電気信号のモニター装置から出てくるかどうか調べるのである。
そこが受容野であれば、そこに与えた触覚刺激は、触覚センサーに拾われて電気信号に変わって出てくるはずである。
そして触覚刺激を強めたり弱めたりすれば、それに同期して、電気信号(パルス頻度)も多くなったり少くなったりするはずである。
触覚刺激に同期する電気信号が出なければ(あるいは微弱であれば)、狙った触覚神経と針電極がうまく接触していないということだから、また針電極を移動させたり、刺し直したりして、ちがう接続を試みなければならない。
これがなかなかうまくいかない。で、実に2時間近くも、針電極をあっちにやったりこっちにやったりした。
今回はどうもうまくいかないようだから、あきらめますかと研究者がいいだし、こちらも肉体的に疲れてきたので、今回はやめたほうがいいのかもしれないと思いはじめたとき、急に刺激と同調する信号が聞こえだした。
はじめは弱くではあるが、たしかに手のある部分を刺激すると、刺激の強さに応じて、信号音が変化する。そこで、針をさらにちょっとだけ動かしてみると、信号はさらに強くなった。刺激をあれこれ変えてみると、中指の第一関節のあたりに受容野があることがわかった。
人工的に作った触覚信号のリアルな感覚に、思わず声をあげる
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そこまでわかったところで、今度は、針電極に人工的な電気信号を流し込んでみる。すると、受容野のあたりに、なんだかうまく表現できない妙な感覚が広がる。
受容野を刺激すると電気信号が生じる部位に、逆に電極から電気信号を入れてやると、受容野のあたりを触覚刺激されたような感覚が生まれるのである。これが人工触覚の基礎原理なのである。
next: 流しこむ信号の強さやパターン…
http://web.archive.org/web/20051215063623/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051020_cyborg/index3.html
流しこむ信号の強さやパターンを変えると、いろいろの感覚が生まれてくる。
「なにかにさわられたという感覚がしますか?人によっては、筆先でそっとなでられた感じがするなんていう人もいましたよ」
と研究者がいうので、神経を集中し、感覚をとぎすましてみるが、そういう感じは生じない。代わりに、中指の第二関節のあたりに、細い糸を巻きつけられ、それをしめられたような感じがした。同時にそのあたりが熱くなったような感じがした。
針電極の位置や、信号のパターンを変えたり、いろいろやってどういう感覚が生じるか試しているうちに、突然、手先から腕の肘あたりまでの裏側を人の手で大きくなであげられたような、驚くほどリアルな速い動きをともなった肉体感覚(皮膚感覚)がして、思わず
「エーッ」
と声をあげてしまった。
「どうしたんですか?」
と問われて、その感覚を説明すると、
「そんなはずがないんですが」
と研究者はしきりに首をかしげる。
そのあたりだと、針電極を刺した正中神経の受容野の広がりの外に出てしまうのだという。
神経学上そんなはずはないのかもしれないが、それは実に奇妙で実にリアルな感覚だった。被験者としては、確かにそう感じたとしかいいようがない。
針電極は腕をちょっと動かしても、あるいは腕を動かさなくても、自然に生じる腕の筋肉の体動で、刺した位置からすぐにずれてしまう。すぐ再現実験というわけにもいかず、実験メニューは次に進んだ。
触覚センサーへの強い刺激で反射的に手がはねあがる
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次は、そばのテーブルの上に置かれた人工義手の表面にとりつけられた触覚センサーが生み出す電気信号を直接針電極につないで、腕の感覚神経に入れると、どう感じるかという実験だ。
触覚センサーというのは、「感圧導電性ゴム」でできたシートで、そこに圧力を加えると、圧力の強さに応じたパルス頻度の電気信号が出力されてくる。触覚センサー(感圧導電性ゴム)は、みんな知らないだけで、現代社会ではいたることころで使われている。さわるとピッピッと反応するタッチパネル、ケータイの文字盤などはみなこれで動いている。
研究者が、義手につけられた触覚センサーの表面をこすったり押したりする。すると、先ほどの針電極に人工的に作りあげた触覚信号を入力したときと同じような妙な感覚を感じる。弱く押したり、強く押したり、素早くこすったり、ゆっくりこすったり、いろいろやってみるが、研究者がどれくらいの刺激が適度なのか、手加減のほどがよくわからないらしく、ときどき刺激が強すぎて
「アアーッ」
と声を出したくなったり、反射的に手がはねあがってしまうほどになったりした。そうなると、痛いとか、耐えられない不快感があるというわけではないが、いい気持ちもしない。
next: そのうち、見学していた学生の1人が…
http://web.archive.org/web/20051226011533/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051020_cyborg/index4.html
そのうち、見学していた学生の1人が、
「触覚センサーの刺激を自分の左手でやってみたらどうだろうか」
と提案した。
これはやってみると、なかなか具合がよかった。
要するにこれは、自分の左手で、右手の触覚神経を直接刺激するのと同じことになる。強い弱いも、自分が思いのままにコントロールすることができる。左手の運動出力と感覚入力の間にフィードバックループができたのと同じことだから、実に精緻な調節ができる。微妙な感覚を極限までコントロールすることができる。
電気機械系を経由して自分が自分を刺激しているわけで、そこで得られる感覚それ自体は先に述べたように奇妙な感覚で、それ自体は快感でも何でもないのだが、その自在な刺激感が何ともいえず面白い。
自在の神経コントロールが快楽を呼び起こす
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少しあれこれ調子を変えて試していくうちに、例の「わけがわからない奇妙な触感」の中に、ある種の快楽を感じるようになったのは、この自在のコントロール感が与える喜びのためだったのだろうか。
ディレクターに実験の感想を問われて思わず次のように答えた。
「いやあ、これは何なんだろうと思ったら、これこそまさに、オナニーの原理だね。左手の運動出力で、右手の感覚入力を自在にあやつっているわけだ。針電極が右手の触覚神経にしか伝わっていないから、こういう奇妙な感覚しか得られないけど、これがもし、針電極がペニスの触覚神経につなかっていて、左手の刺激がそのまま脳の性感領域へ刺激入力として入っていくとしたら、
『アアー感じる!』
になって、オナニーそのものになっちゃうね。美味神経につながっていたら、
『アアー美味しい!』
だろうし、美的快楽神経につながっていたら、
『アアー美しい!』
だろう。この方法論は無限の応用がきくね」
こういったところ、オナニーは放送用語としてまずいとかで、この実験経過は放送されるが、この感想のくだりはカットしたということだった。
いやあ、これは実に面白い体験だった。
人間の神経系に直接電極を入れることで、感覚系を独特に刺激したり、運動系の信号を取りだして外部機器を動かしたりする時代が本当にはじまりだしたのだという実感が持てた。
人間の感覚系も運動系も、基本的に電気信号系なのだから、その信号のロジックを解析して模倣することができたら、なるほど人間のサイボーグ化が可能になってくるのだ。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。2005年10月から東大大学院総合文化研究科科学技術インタープリター養成プログラム特任教授。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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