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(回答先: 第52回 立花隆の仕事場から(2)〜天皇と東大 大日本帝国の生と死 (2005/10/31) 投稿者 ROMが好き 日時 2008 年 12 月 06 日 22:28:47)
第53回 小泉改造内閣人事で浮き彫りに キング・メーカーの執念と野望 (2005/11/01)
http://web.archive.org/web/20051220121212/nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051101_yabo/
2005年11月1日
今回の改造人事を見て何より感じたことは、小泉首相は自分を、キングからキング・メーカーの地位に引き上げたなということである。
私はこれまで、ポスト小泉の最有力候補は小泉首相自身ではないかと見てきたが、小泉首相はいまさら他のポスト小泉候補と自己を同列にならべるような意志は全く持ってないということが今回の組閣でよくわかった。
小泉首相はすでに、自分のステージを一段と高いレベルに上げてしまったのである。
政治家としての快楽を、キングであることに見出すというより、キング・メーカーであることに見出すようなレベルになったということである。
キングであるより、キング・メーカーに
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政界引退後の吉田茂、政権末期の佐藤栄作、あるいは同じく政権末期の中曽根康弘、闇将軍時代の田中角栄などと同じようなレベルに自分を置くようになったということである。
だから、小泉首相は基本的には、来年9月で本当にやめるだろうと思う。
もちろん、来年9月までに、どうしてもあと1年(ないし2年)小泉首相にやってもらわないとおさまりがつかないという事態に客観的政治情勢がなり、周囲から、三顧の礼どころか、四顧、五顧の礼をつくして懇願されるというようなことになったら、小泉首相が自らポスト小泉を引き受けるという展開もないではないと思う。しかし、小泉首相が自らそれを望んで画策するようなことはないだろうと思う。
キングであるより、キング・メーカーであるほうが、ずっと精神的に楽なはずであるだろう。
キングは、いつでも自分の地位を失う大きなリスクをかかえているから、戦々恐々としていなければならない(表面上は泰然自若としているように見えても内心では)。しかし、キング・メーカーに上がってしまったら、それがない。
自分が作ったアリーナの中で、キング候補たちが、小泉首相がデザインした「改革続行競争」というゲームで勝ち抜こうと必死で争い合っているさまを見ながら、ときどきチャチャを入れつつ、けしかけたり、あおったりしていれば、自分のスーパー権力を維持しながら、キング・メーカーの地位が保てるのである。
やり残し部分が多々ある小泉改革を、候補者たちがみんな自分の政治生命をかけて次々に実現していってくれるのである。
途中であれやこれやの失敗もあるだろうが、その失敗の責任を取るのは候補者たちであって、一段高いステージ上がってしまった小泉首相ではない。
こうした構図の中では、ポスト小泉の候補者たちが、自らの力で次の政権を戦い取るなどということは不可能である。
next: 権力は基本的に…
http://web.archive.org/web/20051220121212/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051101_yabo/index1.html
権力は基本的に自分の力で戦い取るか、ときの権力者のおぼえをできるだけよくして、譲ってもらう(後継者として指名を受ける禅譲)しかない。
これまで長期政権が倒れるとき、次の政権の座を狙う者は、いつも、この二つの路線の間で、みな揺れ動き、悩んだ末にどちらかを選択し、そのたびに異なる政治ドラマが展開した。
しかし今回は、小泉首相に弓を引いて、権力を戦い取る路線に立とうとする者は、すでに消え去っている。そういう可能性がある者は、すでに郵政民営化問題で、小泉首相と対立し、郵政案に反対するという行動を取ったため、消えてしまった(選挙で落選させられるか、その後の除名処分、離党勧告などで党の外に出された)のである。
党内に残っている者で、ポスト小泉を狙う者は、みな、小泉首相が線を引いた改革続行ゲームの参加者となり、小泉首相と小泉路線に忠誠を誓って、禅譲を期待する者以外いなくなってしまったのである。
すべてがイエスマンの恐怖政治がはじまった
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こんなことは、自民党の歴史においていまだかつてなかったことである。小泉首相の、「反逆者は断固許さず」の強硬路線で、みな「モノ言えばクチビル寒し」の心境に追い込まれているのだろう。
政治の世界では、フランス革命のロベスピエールのジャコバン支配、幕末の安政の大獄など、ときの権力者が、反対者を政治テロで葬り、反対者が反対のハの字もいえなくなった恐怖政治の時代が現出したことが何度もあるが、いまの自民党はほとんどそれと同じである。
自民党はこれまで、あらゆる政党の中で、最も自由闊達にみんな好きなことをいいあえる政党で、悪くいえばルーズ、よくいえば自由な雰囲気が満ち満ちた政党だった。これほどの恐怖政治的状況が党内を支配しつづけたということはないのである。
このような状況は誰がみても異常である。
ところが、これは異常だと声をあげていう人すら、自民党の中にほとんどいなくなってしまったというところに、自民党の危機的状況がよくあらわれている。
これからしばらくは、自民党内の政治構図は、小泉首相の恐怖政治支配という状況がつづくだろう。小泉首相は好きなように政治を動かしていくことができる。外部から見ているかぎりでは、ちっとも面白くない政治状況がつづくだろう。
その中で、小泉首相がやり残した改革の、国民に不人気にならざるをえない部分、すなわち、国民にさらなる負担を強いる増税路線と行政サービスの低下路線(財政再建路線と小さな政府路線)がはじまるわけである。
その過程で、国民の人気は必然的に小泉首相からかなりの程度去らざるをえないだろうが、そのとき、何が起こるかは、いまから予測することは不可能である。
外相の座でポスト小泉から遠のいた麻生太郎
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いずれにしても、このような小泉首相の絶対権力に近い権力掌握状況が、このまま来年9月までつづくとはとうてい思えない。
政治は休むことなくダイナミックに動き、不測の事態がいつでも起こり得る世界である。
だから、先のことは何ともいえないが、いまのところはっきりしているのは、ポスト小泉候補の中で、小泉首相が一番シンパシーを示しているのは、安倍晋三だということである。
何しろ、改造人事の発表前に、安倍にだけは会って、きみには大事な仕事をしてもらうと予告し、人事発表後の記者会見では、官房長官の職務内容をあれこれ説明したあと、そのような政権の要ともいうべき重要な職務をいま体験することが安倍の政治家としての将来に、どれほど大きな意味を持つことになるかということを強調した。これは安倍が将来総理大臣になることをにおわせた発言といってよい。
さらに、政権発足後の初閣議で、小泉首相に何かあった場合の臨時首相代理第一席の座に、安倍をすえることを決めている。小泉首相が頓死したりしたら、安倍がそのまま臨時に政権を引き継ぐということである。
これに対して、外相になった麻生は、ポスト小泉を狙うかと記者団に問われて、まんざらでもない表情の受け答えをしていたが、他のポスト小泉候補に擬せられた人々がみな全否定する中で、やる気を堂々と見せた麻生の態度はひときわ目立った。
しかし、私は、小泉首相が、ポスト小泉候補として麻生を特に買ったから外相にしたのではないと思っている。
もともと外相というポストは、次に首相になるためのポストとしては、あまり適当であるとはいえない。外相になると、役目柄どうしても、国内政治との間に距離ができてしまう。次の総理を狙うためには、やはり国内政治と近いところに身を置いておいたほうが有利である。
前にも述べたことだが、佐藤栄作長期政権のあと、後継者候補筆頭の座にあった福田赳夫が、もう一人のポスト佐藤候補だった田中角栄に追いつかれ、追い抜かれてしまうのは、福田が外務大臣になって外交に精を出していた時代なのである。
そのことを、福田赳夫の秘書であった小泉首相はよく知っているはずである。
中曽根政権の下で、次を争っていた安倍晋太郎と竹下登の間で、竹下が圧倒的に有利になっていくのも、安倍晋太郎が外務大臣を四期もつとめ、国内政治から離れていた時期なのである。
next: 小泉首相が安倍晋三に抱く…
http://web.archive.org/web/20051220114123/http://nikkeibp.jp/style/biz/topic/tachibana/media/051101_yabo/index3.html
小泉首相が安倍晋三に抱く親愛の歴史
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小泉首相は、安倍(晋太郎)が竹下と首相の座を争ったとき、安倍派にいた。
87年総裁選のとき、小泉は安倍派の戦闘的若手の筆頭格で、次のようなエピソードを残している。竹下に敗れた総裁選の打ち上げがあったときのことである。
「安倍さんは挨拶まわりがあったので、料理屋には遅れてやってきた。その安倍さんに向かって、『だからあんた、甘いんだよーッ!』。卓をダーン!と叩いて、小泉さんはいきなり怒鳴りつけたんです。派閥の会長にですよ。
小泉さんにしてみれば、話し合いに持っていったこと自体が甘すぎるッ、という口惜しい気持ちだったのでしょう。そこにはもちろん派閥の先輩もいましたが、寂として声はなかった。安倍さんはただ黙って、苦笑いしていた。あそこに小泉さんの真骨頂があるんだね、一途で気性が激しい」
(「ポスト小泉の資格を語ろう」<『文藝春秋』2004年7月号の中での平沼赳夫の発言>)
小泉首相は、安倍晋太郎とこのように情的に深いつながりがあったから、その息子の安倍晋三をなんとか、オヤジがついになれなかった総理大臣の座につけてやろうと思っているのだろう。
福田康夫と小泉純一郎の長い長い確執
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今回の改造人事で、小泉首相はポスト小泉候補のうち、福田康夫を外した。小泉首相は政界入りして早々のころ、福田赳夫の家に住み込みの書生として入ったので、そのころは、福田康夫とは大先生の息子対学生という関係にあり、「康夫さん」「純ちゃん」と互いに呼びあうワンランク上と下の関係にあったといわれる。
福田康夫と小泉純一郎は、小泉が総理大臣になって、福田が官房長官としてそれにつかえる立場になっても、福田の意識からはどうしても小泉を目下の者扱いしていた時代の感覚が抜けきれなかったので、小泉はそれを嫌い、二人の仲は前からギクシャクしていたといわれる。
その後、中国問題、靖国問題などで、福田は小泉首相に対して批判的立場に立つようになり、ついには、年金の未払い問題の責任を取るという形で、福田は自分から小泉内閣を突然去ってしまうという行動に出た。小泉首相を怒らせ、そのとき以来、小泉首相は福田を絶対に許すまじの心境になったといわれる。
今回の改造人事の最大のサプライズは、もともとポスト小泉の最有力候補だったはずの福田康夫を、小泉首相が完全無視するという挙に出たことだといわれるが、その背景には、このような両者の間に横たわる長い長い感情のもつれがあるのである。
結局、今回の人事で、何よりはっきり出たのは、小泉首相の安倍に対する強い肩入れぶりである。
これからの一年、安倍がソツなく小泉首相のサポート役をつとめあげれば、安倍がポスト小泉の最有力候補になるということだろう。ただ、安倍には、前にも指摘したが、有力閣僚としての経験が不足しているから、本当は、もう一年ぐらい小泉首相に任期を延長してもらって別の有力閣僚の座を手に入れるのがいちばんだろう。
そのあたりの展開がこれからどうなるかは、現段階ではとても予測がつかない。
立花 隆
評論家・ジャーナリスト。1940年5月28日長崎生まれ。1964年東大仏文科卒業。同年、文藝春秋社入社。1966年文藝春秋社退社、東大哲学科入学。フリーライターとして活動開始。1995-1998年東大先端研客員教授。1996-1998年東大教養学部非常勤講師。
著書は、「文明の逆説」「脳を鍛える」「宇宙からの帰還」「東大生はバカになったか」「脳死」「シベリア鎮魂歌―香月泰男の世界」「サル学の現在」「臨死体験」「田中角栄研究」「日本共産党研究」「思索紀行」ほか多数。講談社ノンフィクション賞、菊池寛賞、司馬遼太郎賞など受賞。
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