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都会の死角 自転車事故編<上>
東京都足立区の都立中川公園は、モミジやカエデが百種以上も植えられ、秋には紅葉が楽しめる。
昨年十一月末の日曜日午後三時五十分ごろ。区内に住む溝部進さん(71)=仮名=は、この公園の外周にある歩道で、前方から自転車にはねられた。
進さんは頭を路面で強打し、翌日朝に亡くなった。自転車に乗っていた男子大学生=当時(22)=は、重過失致死などの疑いで書類送検された。
「まさか歩道で交通事故に遭うとは…」。長男の道夫さん(48)=仮名=は振り返る。交通量の多い道路で自動車にひかれたわけではない。自転車に、それも公園外周の歩道で衝突されての交通事故死だった。
警視庁綾瀬署によると、事故の瞬間を見た人は現れなかった。「(加害者は)気が動転し、記憶がとんでいると警察官から聞いた」と道夫さん。事故時に、進さんが歩いていたのか、立ち止まっていたのかさえはっきりしないという。
「おやじが持っていたデジタルカメラには、こすれたような跡が残っていた。写真を撮っていて事故に遭ったのかも」。道夫さんは想像をめぐらせる。「定年退職後、デジタルカメラで風景を撮るのが趣味だったから」
大学生は今年五月、過失致死の罪で罰金四十万円の略式命令が確定した。道夫さんは、自分に言い聞かせるように話す。
「私にも(加害者と)同い年の息子がいる。息子は自転車にもよく乗る。自転車の事故は人ごとじゃない」
自転車対歩行者の交通事故が急増している。
警察庁や交通事故総合分析センター(千代田区)によると、二〇〇四年には全国で二千四百九十六件発生。交通事故全体(約九十五万二千件)に占める割合はまだ低いものの、一九九五年の五百六十三件から、この十年で四・四倍に増えた。
〇四年の事故では、全体の95%で自転車側の過失責任が大きかった。年齢別にみると、自転車側は過半数の51%が十三−二十九歳。歩行者側は44%が六十歳以上、14%が十二歳以下だった。未成年者を含む若者の乗る自転車が、高齢者や子どもにけがをさせている。
歩行者が優先されるはずの歩道での事故も43%に上った。歩行者は、歩道にいても安心できない状況がうかがえる。
警察庁は自転車対歩行者の事故が急増した背景について、交通事故として警察に届け出る人の増加などが一因とみる。ただ、警察に届け出ない人もいるため、実態はさらに多いとの見方もある。
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自転車は原則として車道を通行するもので、歩道を通行できなかった。だが、自転車を車の事故から守るため、一九七八年に「自転車通行可」の標識がある歩道に限り、歩道を通行できるようになった。
ところが、その後も車対自転車の交通事故は増え続けている。分析センターによると、〇三年中に起きた車対自転車の事故は約十五万三千件。九四年からの十年で一・三倍に増えた。交通事故全体の伸びとほぼ同じペースで推移している。
交通事故死者に占める自転車乗車中死者の割合や、同じく負傷者の割合はじわりと増加。〇四年は自転車乗車中に死亡した人のうち、59%が六十五歳以上だった。高齢者が重大事故に遭いやすい。
東京では〇四年に約二万八千件の自転車事故が起き、十年前の約二倍に増えた。全国を上回るペースで悪化している。
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環境にやさしく、健康によいとされる自転車。だが、安心して利用できる環境には程遠く、暴走自転車が歩行者に危害を加えるケースも増え始めている。携帯電話をかけながらの運転など、マナーの悪化を指摘する声もある。
自転車をめぐるそんな「死角」について、三回にわたって考える。
http://www.tokyo-np.co.jp/00/thatu/20050629/mng_____thatu___000.shtml