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社説
01月22日付
■NHK問題――ことの本質を見失うな
NHKの放送前の番組に対し、自民党の有力政治家が「偏った内容だ」と指摘した後、番組が改変された。朝日新聞がそう報じてからNHKや政治家側が反論し、それに朝日新聞が再反論する事態が続いている。
朝日新聞は正確な取材をもとに、間違いのない報道を心がけてきた。報道の内容に自信を持っている。
それにもかかわらず、NHKは虚偽報道などと非難してきた。朝日新聞はNHKを名誉棄損で訴える構えだ。
ことの本質を見失ってはならない。問われているのは、NHKと政治家の距離の問題である。その不自然さは今回、NHKや政治家の言い分によっても明らかになってきた。
番組の放送前に、NHKの放送総局長だった松尾武氏らが内閣官房副長官だった安倍晋三衆院議員に会い、番組の説明をした。その後、総局長試写があり、44分だった番組は再編集で43分に縮められ、さらに放送当日まで編集を重ねて40分になった。これには争いがない。
安倍氏によれば、NHK幹部は予算の説明に伺いたいと言って、やって来た。その際、この番組の説明もした。そこで「明確に偏った内容であることが分かり、私は、NHKがとりわけ求められている公正中立の立場で報道すべきではないかと指摘した」という。
NHKも予算の説明に行ったという一方で、安倍氏に番組の説明をしたのは「『日本の前途と歴史教育を考える議員の会』の幹部だったからだ」と記者会見で明らかにした。
この会は当時、問題の番組に批判的だった。だからこそ、説明に行ったのだろう。ほかのメンバーにも、NHKは放送前に説明していたこともわかった。
その流れで「公正中立に」と言われたのだとしたら、その意図はNHK幹部にもはっきりと伝わったはずだ。
NHK幹部が訪問した本来の目的は、番組の説明だったと思わざるをえない。
さらに耳を疑うことがある。
放送前の番組を議員に説明をするのは通常業務の範囲であり、「当然のこと」とNHKの現放送総局長が言うのだ。
もちろん、番組をつくるにあたって、批判的な意見を念頭に置くことは必要だ。だが、特定の議員に事前に番組の内容を説明することが当然のことなのか。まして、その後に番組が修正されたとあっては、「自主的な判断に基づいて編集した」というNHKの主張に疑問を持たざるをえない。
番組の事前説明について毎日新聞は社説で「日常的に行われているのだとすれば、NHK幹部の感覚は、報道機関としての一般常識と大きくズレている」と書いた。中日新聞・東京新聞の社説も「報道機関としての生命線を危うくするものだ」と指摘する。同感である。
自立したジャーナリズムであるのかどうか。いまNHKが問われているのは、そのことだ。
http://www.asahi.com/paper/editorial20050122.html