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(回答先: 職場から 日本は大事なものを失いつつある (SENKI) 投稿者 愚民党 日時 2005 年 2 月 01 日 17:31:59)
第1回 あるケータイ用ソフト技術者の場合(1)
http://biz-inno.nikkeibp.co.jp/mentalhealth/article20050203.shtml
2005/02/03
あなたの周りで、ある日突然、職場に姿を現さなくなった同僚はいないだろ
うか。成果を高く評価され、やる気にあふれて働く者がいる一方で、生気を失
った者が増えてはいないか。
未曾有の不況からの脱却を目指し、日本の企業はこの10年間、人員削減や業
務の外注を推し進めてきた。機能しなくなった年功序列型のシステムをやめ、
成果主義の導入を図るなど、あらゆる策を講じてきた。一見したところ、企業
は回復への体力を蓄え始めたかのようだ。しかし、現実の職場を見回せば、何
が見えてくるだろうか。うつ症状に苦しむ人や、パワーハラスメントの被害に
遭う人が後を絶たない。
成果主義の導入による職場環境の変化、リストラ、合併吸収――。内的、外
的要因を問わず、企業を取り巻く環境の変化は激しい。働く環境の変化は、そ
の対応に揺れるビジネスパーソンの心に異変を起こしている。本連載では、こ
うした事象の奥にあるものを「人」を中心に探っていく。そして、彼らの葛藤
を糧に、あるべき職場環境の解を見つけ出せればと思う。
これから登場する人たちが経験した葛藤を、「この人の立場に自分がいた
ら」、「この人の同僚(上司、部下)の立場だったら」…などと、ぜひ、自分
をあてはめながら読んでいただけたら、と思う。
ソフトウエア開発者の悲鳴、「プロジェクト方式」の陥穽
薄型テレビやDVDレコーダー、デジタルカメラに携帯電話。いずれも日本製
品が世界シェアの7割以上を占めるジャンルだ。これらの開発に欠かせないの
が、ボタン一つでユーザーの思い通りに機械を動かすためのソフトウエア、い
わゆる「組み込みソフトウエア」である。
経済産業省の調査では、日本国内の組み込みソフトウエア技術者の数は15万
人、その市場規模は2兆円(いずれも推定値)に上る。連載第1回に登場するの
はそのうちの一人、30歳の技術者、谷村健二(仮名)だ。
開発期間の短縮で増える残業時間
労働環境は年々、悪化していた。成果主義の導入で、職場の人間関係がかつ
てなくギスギスしていた。残業時間は多いときで月200時間を超えた。ニテ
ツ、サンテツ(2日、3日連続の徹夜)は当たり前、寝ずにマシンに向かっても
まだ納期に間に合わず、発注元に頭を下げにいかねばならない事態もあった。
それでも谷村はこの仕事が好きだった。勤務先は業界では名の通った中堅ソ
フトハウスだ。谷村はそこで携帯電話用組み込みソフトの開発を担当。1996年
の入社から、まもなく8年がたとうとしていた。入社3年目からずっとチーム
リーダーを任されてきた。
携帯電話のソフト開発の難しさは、技術は複雑化しているのに開発期間は逆
に短くなっていること。そして開発内容があまりに巨大化し、トラブルが発生
しやすい点にある。
谷村は最近の2年間で4機種の開発にかかわった。最初のプロジェクトは、全
く新しいプロセサを使ったソフト開発だったので、1年かけて開発することが
できた。だが、その次のプロジェクトからは、開発期間は1機種あたり半年以
下に縮まった。
1機種あたりの開発人員は平均200人に上る。携帯電話事業者、端末メー
カー、部品メーカー、ソフトハウス、さらに孫請け、ひ孫請けのソフトハウス
から技術者が集められ、「音声処理」、「画像処理」といった機能ごとにプロ
ジェクトチームを結成するのが普通である。
チームは大体5、6人前後で編成される。同じ会社の人間は自分以外に一人い
るかいないかで、後は端末メーカーの担当者と下請けソフトハウスの人間だ。
作業は端末メーカーに出向いて行う。機密保持義務を厳守しなければならな
いため、開発に必要なツール類は、メーカー内にある作業部屋の外へは絶対に
持ち出せない。自宅作業が不可能なのが、残業時間が増える一因である。入社
1年目で月70時間、2年目で月80−100時間。3年目は100時間を超え、4年目以降
は時には、月200時間に達した。
この環境に耐えられる人間ばかりではない。どうしてもできない、と「ケツ
をまくる」ソフトハウスもあった。「他社の開発者の中には自殺者が出た」と
いう噂も聞いた。
リーダーとしてチームの和に心を砕く
外向的で人当たりのよい谷村は、幸か不幸か、入社3年目からはチームリー
ダーを任されてきた。リーダーといっても、大事に扱われたわけではない。上
司に突然呼び出され、「明日からあのチームに加わってくれ」と問答無用に指
示を受けることもある。納期を目前にして問題が発生し、火を噴いているチー
ムに送り込まれるのだ。
それでもほかのチームの開発者から、時々、うらやましがられるのがうれし
かった。
「谷村さんのチームは、なんだか楽しそうにやってるね」、「そんな過酷な納
期を突きつけられて、どうして和気あいあいと仕事ができるの?」。
それは、谷村にとっては何よりの「評価」だった。上司による勤務評価より
よほど大切だった。
「僕は最初からチームのまとめ役として鍛えられたせいか、厳しい開発環境
の中でもどうすればチームを円滑に動かせるか、作業効率を上げられるか、早
いうちから考える癖が付いていたと思います」。
こう話す谷村が常に気を配っていたのは、いかにチームメンバーの負担を減
らすかだった。
組み込みソフト開発の作業では、ハードウエアとのすりあわせが常に求めら
れる。やり直し、再調整は日常茶飯事。だからほかのチームとの軋轢(あつれ
き)が起きやすい。
そればかりでなく、自分のチーム内の和を保つのも難しい。というのも、
チームのメンバーは所属企業が異なる人間ばかり。同じような作業をしていて
も、待遇も年齢も様々で、中には谷村より10歳も20歳も年上のメンバーがい
る。些細(ささい)なことでも感情的な摩擦が生じる要素に満ちているのだ。
互いに口も利かないチームもある中、谷村は、何のことはないバカ話であっ
てもとにかくメンバーに話しかけた。「話すとその人の仕事の進捗状況や、ス
トレスがどのくらいかかっているかが分かるんです。本人が気づいていない重
荷を抱え込んでいても、話すとそれが伝わってくる。それを察して、調整する
のが僕の役目です」。
納期や付加機能について上司やメーカーから指示があったときは、それを引
き受けるか受けないか、メンバーに一声かけてから決めた。「トップダウンで
下ってきた命令を否応なく引き受けるのと、『こんな話が来てるけど、やれ
る?』と相談する形で引き受けるのとでは、メンバーのやる気が違ってくる。
この差は、作業効率にも絶対に影響するものなんです」。
メンバーを外からの圧力から守るためにも、気を遣った。例えば何らかのバ
グが発生したとき。「システムが複雑になっているので、そのバグの原因がど
こにあるのかは、簡単には分からない。原因究明作業にかかわり始めたら、極
端に生産性が下がってしまう。だからそういうときは、自分たちの作業範囲の
問題でなかったことを急いで調べ上げ、『うちじゃない』と切り離す。こうす
ることでチームのバグ発生率を低く見せ、実働時間を抑えることができるんで
す」。
日々厳しくなる開発環境の中で、谷村は、誇りを持って仕事に取り組んでき
た。ところがそんな彼が、あるプロジェクトへの参加を機に、わずか2カ月で
休職する事態に陥ったのだった。(第2回へ続く)
(長田美穂=フリーライター)