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P.アーネット現地特別レポート
【日本のメディアはなぜ報じない】
二人の悲劇はブッシュのバクダッド電撃訪問が原因だ
二人の日本人外交官は、なぜ殺害されてしまったのか。
ミスター奥とミスター井ノ上の悲劇的な死は、イラクが現在、地球上で最も危険な環境下にある場所だという事実を改めて
われわれに突きつけました。
殺人者たちは、アメリカ人だけをターゲットにしているのではなく、アメリカにつながるすべての人々、あらゆる物事に向かって
無差別の攻撃を仕掛けているのです。
さらに言えば、イラクにいる限り、死の確率はイラク人を含むすべての人間にとって平等なのです。
アメリカ政府で働くアメリカ人であろうと、通りすがりのまったく罪のないイラク人の子供であろうと、常に犠牲になるの可能性
がある。そして、その犠牲者の中に、二人の日本人外交官がいたということなのです。
二人の外交官はイラクに対して特別な愛情を持っていたようです。
その仕事ぶりは精力的で、イラクに溶け込もうととても熱心だたっと聞きます。
その二人が、人道支援のためにティクリットに向かう途中で無残にも殺害された。
そしてその死は、この地において決して特別なものではなく、あくまでも日常の出来事にすぎません。
その意味で、彼らの死は、大変に気の毒なことに、無駄死にと言わざるを得ないのです。
【イスラム教徒の「聖なる日」に】
二人の有能な外交官の死の背景を考えるとき、見落としてはならないことがあります。
日本のメディアでは報じられていないようですが、11月27日に電撃的に行われたブッシュ大統領のイラク訪問が、
ミスター奥とミスター井ノ上の殺害の引き金になった可能性が極めて高いのです。
それは極秘訪問がサンクスギビング・デー(感謝祭)に行われたことと密接なつながりがあります。
ミスター奥は、「イラク便り」と題した外務省のウェブサイトの中で、イラクでの仕事について詳しく報告していました。
そして、彼の最後のレポートとなった11月27日付の報告では、彼が米軍の第82空挺師団の本拠地で行われたサンクス
ギビング・ディナーに招待されたときの様子が、軍人たちの楽しげ写真とともに紹介されています。
そのレポートの中でミスター奥が書いているように、サンクスギビング・デーは、アメリカ人にとってクリスマス人にとって
クリスマス以上に特別な記念日と考えられています。ブッシュ大統領は、だからこそ、この日を選んでバクダッドを訪れたの
です。元大統領の父にも知らせず、国務省にも相談せず、エアフォースマン(大統領専用機)を暗闇の中、照明灯すらつけず
着陸させるという危険を冒して、わずか2時間ではあってもイラクに足を踏み入れたかった。それは、低下する一方の米軍の
士気を高めると同時に、大統領選を1年後に控えて、落ち込んでいた支持率を再びアップさせるための「政治的パフォーマ
ンス」でもあったのです。
ミスター奥は同じレポートの中で、もうひとつ重要なことに触れています。
今年のサンクギビング・デーが、偶然にもラマダン明けの大祭(イード)の最後の日と重なったことです。
イスラム教徒にとってラマダン明けの大祭は、一昔前の日本の正月のように親戚・縁者が集まって新年を祝う非常に重要な
お祭りなのです。
つまり、イスラム教徒にとっての「聖なる日」に、敵国の最高司令官が首都バクダッドを奇襲し、異教徒の祭りを祝った。
これは、一般のイラク人に対してさえ、大きな怒りを抱かせる行為であったし、ましてフセインに忠誠を誓うテロリスト集団や
レジスタンス(抵抗勢力)にとっては、当然のことながら憎悪と復讐の対象となりました。
ブッシュ大統領のバクダッド電撃訪問が、イラク国民の反米感情に火をつけたことは間違いないでしょう。
もうひとつ、重要なポイントを指摘しておかなければなりません。
これは私のコンタクト(情報提供者)から得た情報ですが、戦後、イラク警察に就職したイラク人は平然と暫定行政当局
(CPA)を裏切り、テロリストやレジスタンスに内通しているということです。
もちろん、警察が人員を採用するに当たっては厳重な身元確認を行っているはずですが、必ずしも徹底されているとは言えない。
そのため、外国軍の動向や要人、政府関係者のスケジュールは、イラク警察を通してリアルタイムで反米組織に伝わっていると
見るべきなのです。
そして、ミスター奥もそうした監視対象の一人だったと思われます。彼は日本政府の代表としてCPAで復興事業に尽力して
いた。仕事ぶりも非常に熱心だった。その彼が、第82空挺師団のサンクスギビング・ディナーに出席していたことを、抵抗勢力
側が承知していたとしても何の不思議もないのです。
ブッシュ大統領の電撃イラク訪問が、ひとつの転機となったことは疑う余地がありません。サンクスギビング・デー直後の29日
スペインの情報将校8人がバクダッドの南方で襲撃されて7人が死亡し、同じ日に日本人外交官がティクリットに向かう途中で
殺害されました。
そして翌30日には、ティクリットで韓国人技師4人が銃撃を受け、二人が死亡しています。
米軍に対する攻撃は一時控えて、防御の弱いソフト・ターゲットを集中的に狙い撃つ作戦に切り替えたのです。
私が聞いたある韓国人企業関係者は、
「親しいイラク人から、『韓国人も標的になっているから、外出するときは十分に気おつけろ』と、何度も警告を受けていた」
ともらしていた。また、襲撃されて一命をとりとめた韓国人技師は、襲撃された際、テロリストの一人が
「おまえたちがくるのを待っていたんだ!」と叫ぶのを聞いたという報告もあります。
こうした情報は、民間人、非戦闘員といえどもテロのターゲットとなること、監視対象になっていることを
示していると言えるでしょう。
週刊現代 2003/12/20号(講談社)---------------