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薬害エイズ事件で業務上過失致死罪に問われ、1審で無罪判決を受けた元帝京大副学長、安部英(たけし)被告(87)に対し、東京高裁(河辺義正裁判長)は23日、公判の停止を決定し、検察、弁護側双方に伝えた。高齢に伴う心神喪失により、裁判を受ける能力がないと判断したためで、97年3月に始まった公判は、約7年の審理を経て、刑事責任が確定しないまま終結する見通しになった。
刑事訴訟法314条は「心神喪失が続いている間、公判手続きを停止しなければならない」と定めている。心神喪失状態が解消されれば再開できるが、元副学長の病状は「現在も進行している」(弁護団)ため、再開の可能性は極めて低い。
昨年11月17日に弁護団から公判停止の申し立てを受けた同高裁は、精神鑑定を嘱託した慶応大病院の医師から「善悪を判断する能力がない」とする鑑定書を受け取り、今月16日には元副学長に直接面会した。「裁判所の決定に従う」との内容にとどまった検察側意見書も踏まえて、公判停止を決めたとみられる。
弁護団によると、元副学長は持病の心臓病などから、昨年4〜9月に2回長期入院をした。退院後に「意思疎通ができなくなった」と判断し、公判停止を申し立てた。
元副学長は85年5〜6月、内科医師にエイズウイルス(HIV)が混入した非加熱血液製剤を投与させ、血友病の男性患者(当時20代)を91年12月に死亡させたとして起訴された。
東京地裁は01年3月、「HIV感染を予見することは困難だった」と無罪(求刑・禁固3年)を言い渡した。控訴審は02年11月に始まり、昨年12月16日の第9回公判で証拠調べが終了、来月2日に結審予定だった。
非加熱製剤の回収指示を怠ったなどとして刑事責任を問われた元厚生省生物製剤課長、松村明仁被告(62)=1審一部無罪、双方控訴=の起訴事実には、元副学長の事件と同じ被害男性のケースも含まれている。このため、元副学長を無罪とした1審判決の是非は、元課長の法廷で引き続き争われる。【小林直】
◇決定やむを得ない
元副学長の弘中惇一郎弁護士の話 現在の状況からして、決定はやむを得ない。新しい立証がなく、判決になっても無罪は動かし難かった。1審(無罪)判決を十分検討し、法的責任がないことを正確に理解し、医療や薬事行政の問題を真剣に考えていくべきだ。
◇非常に残念
栃木庄太郎・東京高検次席検事の話 公判停止は非常に残念。しかし、法は、無罪等の被告に有利な裁判をすべきことが明らかな場合を除き、心神喪失の状態では公判停止しなければならないと定めており、裁判所の判断を厳粛に受け止めたい。
【ことば】薬害エイズ 80年代前半から、主に血友病患者が被害に遭った。厚生労働省の調べでは01年5月末現在、感染者は1431人、死亡者は536人。刑事責任を問われたのは、安部元副学長と、元厚生省生物製剤課長の松村明仁被告(一部無罪で双方が控訴)▽旧ミドリ十字の歴代3社長(1審で実刑。1人は2審公判中に死亡、2人は2審も実刑で上告中)の計5人。国と製薬会社に損害賠償を求めた民事訴訟は96年3月、東京、大阪の両地裁で和解が成立した。
[毎日新聞2月23日] ( 2004-02-23-12:27 )
http://www.mainichi.co.jp/news/flash/shakai/20040223k0000e040028002c.html