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米英政権が統導する「イラク侵略戦争」の見通しについて、三つほどの書き込みを行なった。(末尾に参照リスト。それをお読みいただいているという前提で記述する)
大局的に言えば、「イラク侵略戦争」は、米英政権が打ち出した「理念主義米英 対 悪徳フセイン政権」という妄想的対決構図が崩れ、「侵略者米英 対 侵略者排除のイラク」という現実的対決構図で推移している。
“戦争ショー”が好みと見受けられる主要メディアは、最終決戦である「バグダッド攻防戦」が近いと報道で煽っている。
しかし、対立構図が「米英 Vs. フセイン政権」ではなくなったことで、バグダッド陥落=フセイン政権崩壊が持つ戦略的意義は、攻撃開始前とは大きく変わったのである。
ここ半年以上のイラク関連の投稿で、米国政権は、正規戦で勝利し、形式的な占領政府を樹立できるだろうが、その後のムスリム反米抵抗運動によって敗北(撤退)を余儀なくされるという見通しを書いてきた。
しかし、攻撃が開始された20日以降に漏れ伝わってくる戦況を見聞きしている限り、近代国家派(フセイン政権)やムスリム共同体(部族社会)が連携した「反米抵抗運動」が既に始まっていると判断する。
これは、愚かな親米クルド人一部勢力を除くイラク諸勢力が、フセイン政権の是非を一時的に棚上げし、侵略者である米英を排撃する戦いに共通目標をしていることを意味する。
現段階では、異教徒だからとか、反イスラムの価値観を押し付けるとかという以前に、自分たちの生存基盤である領域に侵攻してきた敵と戦うという構えになっている。
■ 「バグダッド攻略」の阻止が国際社会の緊急課題
ブレア首相が今週中にブッシュ大統領とイラク侵略問題を協議するという報道がなされている。そこではおそらく、「バグダッド攻略戦」が主要議題になるはずだ。
「バグダッド攻防戦」では、防衛側・侵略側を問わず膨大な人的犠牲が発生することが予測できる。
“人でなし”を承知で説明すれば、「バグダッド攻略戦」が戦争目的を達成する戦略的意味を持っているのならば、あれだけの国際世論の反対を押しきってまでイラク攻撃に踏み出した米英政権に対して、膨大な犠牲と破壊が生じるから止めろと説得しても馬の耳に念仏になるだろう。
しかし、「バグダッド攻略戦」の戦略的意味が大きく減じているのなら、米英侵略部隊にも多大な犠牲が出る戦いに突っ込んでいく意義はほとんどないことになる。
それをきちんと説明すれば、イラクから撤退することを説得できる可能性もあるはずだ。
● 「バグダッド攻略戦」の戦略的意義
「バグダッド攻略戦」の戦略的意義は、その戦闘に勝利することで、フセイン政権を崩壊させ、イラクに占領政府を樹立できる政治的条件を手に入れることである。
日本をはじめとした先進諸国や一元的統治構造を確立した国家であれば、壊滅であれ降伏であれ、既存政府を倒すことで占領支配の道が切り開かれるのは確かだろう。
米国を除けば、武器規制が行き届いている先進国で武装している市民の数は限られている。
北朝鮮のような国家も、正規部隊を瓦解させて政権を崩壊させれば占領支配が可能になる。(専制的政権は、自分に向けられる可能性がある武器を市民が保有することを徹底的に嫌う)
しかし、イラクのデモ映像や昨日のアパッチヘリ撃墜映像を見た人ならわかるが、市民が小銃や拳銃を携帯しているのがイラクでありアラブ世界なのである。
フセイン政権は、巷間言われているような独裁(専制)政権ではなく、大都市を除く部族社会(イスラム共同体)を基礎に、「近代」によって押し付けられたイラク国家を統合している上層統治機構と見るべきである。(バグダッドなど大都市は近代意識と近代的生活スタイルが広まっている)
このような統治構造だからこそ、シーア派とスンニ派という宗派的違いを乗り越えて、人々を近代国家イラクの国民としても統合できていると解釈することができる。
中央政府であるフセイン政権は部族社会に過度な介入をせず、部族社会も、経済的面倒を見てくれるだけでそれ以上踏み込んでこないのならフセイン一族の利権漁りも認めるという構えである。
(イラクの部族社会−国家という二元的政治構造は、『どこが「フセイン独裁」なんだ!:「部族社会はどう動く」 [ニューズウイーク日本版3・19]【「部族とフセイン政権の結束は非常に固い」】』( http://www.asyura.com/2003/war25/msg/876.html )を参照して欲しい。大部族の長は。ローテクの武器によるとはいえ20万を超える戦士を抱えている)
「バグダッド攻略戦」に戦略的意義があるのは、基底統治主体である部族社会がフセイン(中央)政権の崩壊を望んでいるにも関わらず、フセイン政権がそれに頑強に抵抗しているという構図が認められるときである。
しかし、現状は、中央政府(フセイン政権)と部族社会が一体になって侵略者米英軍と戦っているのである。
そうであれば、たとえ、米英侵略軍が虐殺&破壊の軍事作戦でバグダッドを陥落させフセイン政権の統治力を実質的に消滅させたとしても、米英侵略軍は、その瞬間にバグダッドで「侵略者排撃勢力」に攻囲された状態になる。
お互いがとっくにわかっている戦術だろうから書くが、イラク側が「バグダッド攻防戦」を最終決戦の機会と考えていれば、主力部隊はバグダッドの外のどこかに温存し、限定部隊をバグダッドに配置しているはずだ。(駐屯地にいるわけでも陣地を築いているわけでもないから探索もできない)
このような配置をしていれば、米英部隊主力が市内に入ったところを見計らって、主力部隊を動員して補給部隊を一気に叩き、市内に入った敵主力部隊の掃討戦に移ることができる。
侵略者部隊は、補給もないまま内側の敵と外からの敵とニ正面で戦わざるを得ない状況に陥る。このような市街戦になれば、ミサイルや爆弾は使いにくいから空軍力が果たす役割は大きく低下する。(航空機は補給をなんとか維持することに忙殺される)
そして、バグダッド戦と同時に、南部及び中部地域でも、補給部隊や増援部隊に対する攻撃を一斉に開始する。
これで、米英侵略軍が当然の報いとして無残な敗北を迎えることになる。
(漏れ伝わって情報に拠れば、米英侵略軍兵士のなかには、イラク人が抵抗するのは当然だと考える人もけっこういるという。これは、今回の戦争に大義を見出していないということである。これも、侵略軍が敗北を早める大きな要因となる)
● 問題は極悪非道なブッシュ政権中枢の盲動
ブッシュ政権もブレア政権も、まったくの愚かな者集団というわけではないから、上述した戦術と結末は理解しているはずだ。
文官はともかく、作戦を立案し部隊を指揮する制服組は、「バグダッド攻略戦」がどれほど危険な賭けか十分すぎるほどわかっているはずだ。
(WW2でも、危険な「ベルリン攻防戦」をソ連赤軍に委ねるという輝かしき伝統を持っている連中だ)
制服組が「バグダッド攻略戦」を拒否すれば、強硬派文官は別の手立てを考えることになる。
それは、幼児性をみごとに現している言葉である「衝撃と畏怖」のさらなる拡大しかない。
歴史を顧みればわかるが、日本家屋に的を絞った焼夷弾まで使った無差別都市空爆の敢行のみならず、原爆を2発も大都市に投下した国家は米国だけである。
(ナチスドイツの英国空爆は、誤爆はあったとはいえ、軍事施設及び軍需産業拠点に絞って行なわれたものである)
「バグダッド攻略戦」は、最低でも12年間かけて準備してきたイラク侵略が水泡に帰すかどうかの瀬戸際である。
理念主義に走り合理的判断を喪失している強硬派なら、フセイン政権崩壊とイラク占領支配の最後のチャンスとして、フセイン政権に否応なく降伏を迫るために、バグダッドに“大量破壊兵器”を使用する可能性を否定できないと思っている。
北朝鮮が日本にミサイルを撃ち込むように仕向け、それを北朝鮮攻撃=キム体制崩壊の契機としようと叫んでいる「救う会」の佐藤会長の言動を見ればわかるように、理念主義におぼれた人間は、とんでもない盲動を“正義”と錯誤する性癖を持っている。
俗に「ネオコン」と呼ばれている勢力は、世界最強の米国権力機構を使って国際金融家による「世界革命」=「世界帝国」樹立を画策していると推測している。
そのような“革命家”は、フランス革命のジャコバン派やロシアのボルシェヴィキを思い出せばわかるように、目的のためにはどんな手段でも自己正当化してしまう性癖を持っている。
(同種の日本極左勢力とは違って、恐ろしいことに、「ネオコン」は世界最強の軍事力を我が物で利用できる立場にある)
もちろん、米国政権にも、“究極の大量破壊兵器”には心理的抑制がかかっているはずだが、アフガニスタンで“デイジーカッター”と呼ばれる虐殺爆弾を使用した前科持ちである。
その“デイジーカッター”が、大都市バグダッドで使用されれば、山岳地帯に潜むタリバン兵士に対して使ったのとは比較ならないほどの大災厄をもたらすことになる。
バグダッドに“デイジーカッター”が投下された状況をイメージして欲しい。そして、それが現実として世界中に放送されることになるのである。
“人殺し”に荷担することで身の安全や経済権益維持を図ることをよしとする人たちがそれにどのような反応を示すかわからないが、まともな価値観を持っている人たち、とりわけ、同胞的連帯意識が強固なムスリムにどれほどの「衝撃と怒り」をもたらすかはわかる。
バグダッドに“デイジーカッター”を投下すれば、米国や英国は、世界に居場所をなくすような糾弾に晒されることになるはずだ。
1発でフセイン政権が降伏しなければ、2発、3発と落とす可能性すらある、
それでも降伏しなければ、大都市に“デイジーカッター”を落とすくらいだから、戦術レベルの“究極の大量破壊兵器”を使用することだってないとは言い切れない。
■ 世界の大分裂を阻止するために
「イラク侵略戦争」は、戦略的に見れば、既に侵略者である米英が敗北しているのである。
むろん、傲慢で愚かな米英政権にそのような敗北を認めさせることはできないと考えている。
しかし、「バグダッド攻略戦」が目前と予想されている現在、世界は、これまでのように言葉だけで攻撃の停止を求めるという段階は終わったという認識をきちんと持たねばならない。
安保理常任理事国や日本は、すぐさま本格的に、「イラク侵略戦争」の政治的決着をつける交渉に着手しなければならない。
知恵を絞って、米英が軍隊をイラクから撤退させてもいいと判断する落としどころを見出さなければならない。
それが無理なら、“デイジーカッター”を含む大量破壊兵器の使用が米英国民を含む世界を敵に回すことになる重大犯罪であることを宣言しなければならない。
また、イラクが使用した見せかけるような化学兵器の使用がないよう厳重に監視しなければならない。(それを“大量破壊兵器”使用の正当化に使う可能性は十二分にある)
我が日本の総理大臣小泉氏は、米国との関係性を重視してイラク攻撃支持に踏み切った。
小泉氏に言いたい。このままブッシュ政権の愚かな軍事行動を見過ごせば、国際社会における米国の威信は地に落ちることになり、赤字のファイナンス不如意から経済的にもおかしくなる。
安全保障や経済権益を米国を頼ろうとしても、頼ることができない存在になってしまうのである。
小泉氏が日米関係を何よりも重要な国家間関係だと考えるのならば、今こそ、米国政権及び世界の主要国に「イラク問題」の政治的な決着に向けた働きかけを始めるべきである。
それこそが、日米関係を重視すると高らかにうたう日本の政治指導者が行うべき緊要な課題である。
● イラクからの撤退は米英にとっても利益
「バグダッド攻防戦」で“大量破壊兵器”の使用を断念すれば、上述した推移で米英侵略軍は大敗北を喫することになる。
このような結末は何を意味するだろうか。
すぐにわかるのは、フセイン氏が「アラブの英雄」になることである。
世界最強の米国軍と正面から戦って撃ち破った国家指導者が、アラブに限らず、発展途上国の人々から歓呼の声で迎えられないはずがないのである。
あのフセイン氏が、アラブのみならず、収奪と隷属に苦しんできた発展途上国の英雄になるという漫画的世界が立ち現れるのである。
そして、アラブ諸国にとどまらずイスラム諸国の人々は、米国に対して恐れるに足らずという意識を持つようになる。
ガソリンがミネラルウォーターとそれほど変わらない価格であることからわかるように、産油国は、原油を安値で供給させられている。
そのような原油価格であっても、一部富裕層と大多数のそこそこもしくは困窮という国家社会なら維持できる。
「イラク侵略戦争」におけるイラクの勝利は、そのような天然資源支配構造にノンを付きつける大きなきっかけになると予測する。
サウジアラビアやUAEなど産油国全体にそれが波及するだろう。
原油の利益配分のあり方が変わり、原油の市場価格が変わることになる。
個人的には、それは富の適正な配分に向かう道であり、湯水のように原油を浪費している現状が抑制されることになることであり、望ましいと考えている。
しかし、強欲者のおこぼれをもらって財的に“豊かな”生活をおくることがすばらしいと思っている人たちには悲劇的な経済状況になる。
なぜなら、従来と同質の生活を維持するためには、これまで石油製品ではなく他の財やサービスに振り向けていたお金を石油製品に振り向けなければならないことを意味するからである。
これは、原油輸入国にとって貨幣的富の流出である。これまで、国内で回っていたお金の一部が産油国に回さざるを得なくなる。
好ましいインフレではなく、石油製品に限定した価格高騰とその余波を受けた他の財やサービスの価格下落であり、企業の収益をより悪化させることになる。
産油国の取り分が増えるのだから、石油メジャーも、販売数量が減少したり利益率が低下して収益の悪化に苦しむことになる。
幼児的理念主義が政権を牛耳っている米国は、いずれにしても、自分たちが意図している世界とはまったく違う世界を生み出そうとしているのである。
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★ 参照書き込みリスト
『米英軍の「イラク侵略作戦」を読む − 長期化の可能性 −』
( http://www.asyura.com/0304/war26/msg/497.html )
『【イラク侵略戦争のゆくえ】 傲慢者らしく“願望”と“信仰”で作戦計画を立てたブッシュ政権 − 戦闘の勝利さえ危うい実情 −』
( http://www.asyura.com/0304/war26/msg/826.html )
『【イラク侵略戦争のゆくえ】 南部地域の点も面も抑えられないままのバグダッド攻略は失敗する − 「反乱」は米英侵略側:1・イラク側:ゼロ −』
( http://www.asyura.com/0304/dispute9/msg/321.html )
※ 「イラク侵略戦争」に見通しに関する参照書き込み
『ラムズフェルド長官とマイヤーズ統合参謀本部議長の記者会見 【長期化必至】』
( http://www.asyura.com/0304/war26/msg/530.html )
『破壊や虐殺の軍事作戦と占領支配とは次元が異なります。』
( http://www.asyura.com/0304/war26/msg/720.html )
『ハイテクとローテク − HPM兵器が効力を発揮するのは米英軍に対して使ったとき −』
( http://www.asyura.com/0304/dispute9/msg/334.html )