★阿修羅♪ 戦争8 ★阿修羅♪ |
フォーブス日本版2002年2月号〜ビンラデインの真の狙いはサウジ王室の転覆だ〜ウサマ・ビンラディンとの戦いは、見方を変えると最大産油国サウジアラビアとの戦いでもあり、世界経済にも大きな影響を及ぼす可能性がある。
●石油埋蔵量の4分の1がビンラデインの手に?
ハイジャックと炭症菌事件は、これまでとは全く異なったタイプのテロリズムの単なる序章かもしれない。サウジアラビアで内戦でも起こるような事態になったら、石油は先進国、特にアメリカを脅かす武器になるだろう。
異教徒を排斥するとか、飢えに苦しむイラク人や、抑圧されたパレスチナ人を救うとか、そんなことは単なる大義名分でしかない。ビンラディンの本当の狙いは、サウジアラビアのサウジ王室(サウド家)の転覆なのだ。サウジ王室一族には3万人がおり、約5000人の王子が、サウジアラビア(人口2270万人)の政府・軍事関係のすべてを実質的に支配している。
もしビンラディン陣営が内戦で勝利を収めるようなことになると、世界の確認石油埋蔵量の4分の1が、敵の手に落ちることになるのだ。
その結果、イスラム原理主義政府が成立した場合、「その力はイラクやイランの10倍にも達するだろう。イランのイスラム教の指導者らも、赤子同然だ」と語るのは、サウジアラビア出身の石油専門家、ナワフ・オバイドだ。
そうした革命の可能性は低い、とオバイドを含む殆どの識者は見ている。だがサウジアラビア育ちのビンラディンが、アメリカの攻撃から生き延びているだけで、石油供給に甚大な影響を及ぼす可能性があるのだ。
アフガニスタンへの爆撃が続けば続くほど、イスラム兵士への同情は強くなる。そうすると、サウジ王室を支えているワッハーブ派指導部からのサウジ王室に対する内部圧力が大きくなる。王室としては、サウジアラビアの国教である厳格なワッハーブ派の伝統主義を選ぶか、石油価格の安定化を図る西側寄りの政策を継続するか、二者択一を迫られることになりかねない。
こうした事態は、過去に実際に発生したことがある。湾岸戟争の際には、イラクに脅かされながらも、サウジ王室は西側寄りの政策をとり、石油輸出を継続した。しかし、1973年の第4次中東戦争には、イスラエルを支持したアメリカヘの報復として、石油の輸出が禁止された。これは、指導部がファイサル国王を追い詰めた結果だと、オバイドは指摘する。そのために、世界経済はその後1年以上も不況に見舞われてしまったのである。
●ビンラデインとも持ちつ持たれつの関係
アメリカは、サウジアラビアの石油に大きく依存している。輸入量は日量150万バレルで、これはアメリカの総輪入量の14%に当たる。だが、ほかの先進国のサウジアラビアへの依存度はもっと大きい。西ヨーロッパの輸入量は日量140万バレル、総輸入量の19%に相当する。
日本の場合、サウジアラビアからの輸入は日量130万バレルで、総輸入量の24%にも及ぶ。
それに加え、サウジアラビアは日量250万バレルの増産余力を持っていることから、世界の石油市場を支配する立場にある。すなわち同国が石油供給の蛇口を閉めれば、世界はたちまち石油不足に陥ってしまうのだ。
そうしたことから、サウジアラビアのラスタヌラ港(日量500万バレルがスーパータンカーに積み込まれる)を攻撃して輸出を止めれば、アメリカに大きな打撃を与えることができるはずだ。
「アメリカがサウジアラビアから輸入している日量150万バレルの石油は、ほかから輸入すれば問題ないが、日量500万バレルが市場に出回らなくなったら、石油価格は急騰するだろう」と石油専門家であるデイビッド・パーセルは言う。
30年代以来、西側諸国は、サウジ王室とはつかず離れずの関係を続けてきた。その間サウジ王室は、西側に反発する保守派としのぎを削りながら、石油を供給し、ドルを獲得してきた。そうしたことに不満を持ち、王室は無能で、腐敗していると非難するグループの中からビンラディンのような過激主義者が出てきたわけであり、彼らは一部の裕福なサウジアラビア人から熱狂的な支援を受けているのである。
だが、王室の支配転覆を企てるような凶暴な反体制派を、どうしてサウジ王室はほうっておくのか、なぜテロリストたちの資金源を断つ手段を講じないのかと、だれもが不思議に思うかもしれない(同時多発テロのハイジャック犯19人のうち、10人がサウジアラビア出身だと言われている)。
それは言うなれば、商店主が暴力団に金を払って、いざこざから守ってもらうようなものだ。
ビンラディンの率いるアルカイダのようなグループに流れている何億円という金は、けっきょく内戦を回避するための袖の下みたいなものだ。王室は、その存続のためには、敵にほどほどの塩を送っておいたほうがよいとわかっでいるのである。
●ブッシュ政権が対決姿勢を取れない理由
サウジ王室の安泰には、石油価格の安定がカギとなる。
「原油価格がバレル当たり1200円に下がると、王室にとっては困ることになる」と、『ミドル・イースト・エコノミック・ダイジェスト』誌の編集長、ディビッド・バターは語る。それは、サウジ政府(名目上はファハド国王が統治しているが、実際は弟のアブドゥラ王子が実権を握っている)が、王室の収入の7割を石油に頼っているからである。
例えば、原油価格(バレル当たり約2400円)が1200円に下落すると、王室の歳入は7兆9000億円から3兆円に減少し、01年の予算額6兆8000億円(推定)を大幅に下回ることになる。そうなると、同国の15%という失業率(兵士が多い30歳以下では20%)にさらに追い討ちをかけ、年率3%の人口増を支えていくにも大きな影響が出るのだ。
好むと好まざるとにかかわらず、今後数十年間というもの、西側先進国は、サウジ王室の存続に賭けなければならないのかもしれない。9月11日の事件以降、サウジアラビアが情報提供にあまり協力的でないにもかかわらず、ブッシュ政権が対決的な姿勢を取らないでいる理由も、これで納得するだろう。
石油問題を研究してきたヘス・エナジー・トレーディング社の顧問、エドワード・モースは、「エネルギー源を石油から水素を利用する燃料電池に切り替えるべきだ」と主張しつつ、「石油を燃やす内燃機関への依存度を減らすための代替エネルギーの技術開発に政府が支出する費用は、サウジアラビア防衛のための軍事費より安くつくだろう」と言う。