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新連載「デフレと生きる」(1):日本経済は持続可能か、迫られる選択 (ブルームバーグ)
2002年1月22日(火)7時30分
東京 1月22日(ブルームバーグ):名目国内総生産(GDP)は500兆円、1人当たりGDPはドル建てで世界2位(2000年)。対外純資産
は1兆2000億ドルと世界最大、個人の金融資産は1400兆円−−。日本が第2次世界大戦後の焼け野原から、営々と築き上げてきた富
と、高い生活水準。
日本を訪れた外国政府や企業関係者の多くは、東京・銀座や渋谷のにぎわいを目の当たりにし、この国のどこが不況なのか、と一様
に驚きをあらわにするという。扇情的に「危機」を叫ぶ週刊誌の見出しとは裏腹に、街は平穏を保っており、失業者の暴動が起きているわ
けでもない。消費の低迷が言われて久しいが、ブランド品の売り出しがあれば、徹夜で開店を待つ長い列ができる。
隣国、中国の経済発展で巨大なデフレ圧力が
一方、21世紀に入り、01、02年度と2年連続で予想されるマイナス成長。5.5%と過去最悪を更新する失業率。99年10月末以来、26カ
月連続で前年比マイナスの消費者物価指数(除く生鮮食品)。国と地方の債務残高の対GDP比は130%と、先進7カ国で最悪。バブル崩
壊以降、失われた国富は株と土地だけで1300兆円−−。日本はいまだに、長い停滞から脱することができないでいる。
相次ぎ発表される企業のリストラ。たとえ仕事はあっても、満員電車でもみくちゃにされる通勤地獄の毎日。発作的な暴力をはじめ、理
不尽な犯罪の横行。日本社会の安全神話は崩壊した。公共投資に依存してきた地方経済は疲弊し、かつて美しかったであろう自然は、コ
ンクリートで塗り固められた。経済活動の源である人口も、今後は減少に向かう。13億近い人口を抱える隣国、中国の経済発展で、日本
経済は巨大なデフレ圧力に直面している。
覚めた思考で“危機感”を共有する
果たして、日本経済は持続可能なのか。今の生活水準を維持することはできるのか。仮に持続可能でないとすれば、どのような選択肢
が残されているのか。いたずらに「危機」を煽り立てることなく、かといって、冷厳な現実から目をそらさず、覚めた思考で“危機感”を共有す
る。そこから得た現状認識をもとに、主体的に選択する。これが今、求められていることではないか。
ブルームバーグ・ニュースはこうした問題意識のうえに立ち、1)日本経済の現状を認識し、2)そのうえで、現状の豊かさ、経済成長を
持続できるのか、3)持続可能でないとすれば、どのような選択肢があるのか−−を、各界の有識者とともに模索していく。新連載「デフレ
と生きる」の1回目は、第一勧銀総合研究所の真壁昭夫主席研究員とともに、問題提起を行う。
過剰設備、競争力の低下、賃金の下方硬直性
日本経済の巡航速度は80年代半ばまで、GDPの約6割が個人消費、それに対し設備投資は約15%だったが、85−89年に20%程度
に上昇した。設備投資は供給能力として残るが、巡航速度との差である5%程度が過剰設備に転化した。供給能力に競争力があれば、
それなりに持続的成長を維持できるが、85−89年の設備投資の結果、供給能力として残ったものには競争力がなかった。
真壁氏は言う。「その理由は意外と簡単だ。85−89年までインフレ傾向が高まっていて、物価水準が高かった。金融資産も高く、特に土
地は80年代前半に比べ3、4倍になった。そういう高いところで設備投資をした供給能力に、競争力がないのは当たり前だった。コストが高
いので、競争力がなければ商品は売れない。そこに、人件費が日本の30分の1の隣国、中国が経済的に離陸したことで、高コストの日本
の製品は競争力を失った」−−。
ここで、労働賃金の下方硬直性というもう1つの大きな問題に直面した。日本が経済的に離陸した60−70年代から80年代半ばまで、
生産要素のなかで一番大きな障害は労働力だった。労働力さえ確保すれば、収益を確保できる時期が続いた。景気が循環的に悪くなっ
ても、いったん雇用に手をつければ、もう人が来なくなってしまうため、企業は首を切れなかったし、賃金を下げることもできなかった。手厚
い終身雇用と年功序列制度は、合理的な方策だった。
労働分配率の上昇、中国の離陸で一層苦境に
しかし、と真壁氏は言う。「90年代初め、設備投資が供給過剰能力として残り、供給能力に競争力がないわけだから、売り上げは伸び
ない。企業業績は悪化する。そこで、賃金の下方硬直性という問題が出てきた。企業はもうからなくなっても、これまで同様、労働者を手厚
く保護した。そこで起こったのが、労働分配率の上昇だ」−−。
日本の労働分配率は3つの階段を上がってきた。経済が離陸した60年から70年代初めにかけて、50%から60%台半ばに上昇。企業
収益が安定していたことにも裏打ちされ、70年から80年代後半には、60%台半ばで安定していた。ところが、90年代に入ると、それが
70%台前半に上昇した。
真壁氏は「企業は業績が悪化するなかで、労働賃金の下方硬直性にぶち当たった。もうからないのに、米国のようにレイオフはできな
いし、賃金も下げられないとなると、必然的に労働分配率は上がる。そこで悪循環に陥る。賃金コストの上昇圧力が一段と増すことで、企
業の製品競争力は著しく減殺された。そこに、中国が経済的に離陸し、日本の30分の1の労働コストで、廉価な商品を作るようになると、
勝負にはならない」と言う。
インフレを起こすか、名目賃金を引き下げるか
企業もようやく、今までのやり方では競争力を失うことに気づき始めた。早期希望退職者を募ったり、賃金を減らすことによって労働賃金
コストを削減し、何とか生産性を上げようとしている。終身雇用と年功序列制度は過去のものとなり、労働者にとって、企業に長くいれば、
自然と役職が上がり、給料も増えていくという時代は終わった。
真壁氏は言う。「労働コストを引き下げるには、2つ方法がある。1つは、インフレにして――できるかどうかは別だが――、物価の変動を
勘案した実質ベースの賃金を下げることだ。実質賃金を下げることで労働コストが下がり、それだけ企業の競争力は向上する。もう1つは、
インフレにならず物価水準が一定だとすると、名目の賃金を下げることで、実質賃金を下げることだ」−−。
実質賃金、つまり、生活水準の引き下げが不可避だとすれば、どちらの方がやりやすいか。インフレを起こし、名目賃金を据え置きなが
ら実質賃金を下げる方が、目に見える痛みは小さいといわれている。デフレは悪であり、インフレの方が望ましいという理由の1つが、ここ
にある。インフレか、名目賃金の引き下げか。残された選択肢は、この2つだけなのか。「インフレと生きる」2回目は、引き続き真壁氏ととも
に、残された選択肢を探る。送信は明日23日。
東京 日高 正裕 Masahiro Hidaka
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「デフレと生きる」(2):生産性上昇なければ長期低迷は必至-真壁氏 (ブルームバー
グ)
2002年1月23日(水)7時30分
東京 1月23日(ブルームバーグ):日本経済が失った競争力を取り戻すには、労働者の実質賃金、つまり、われわれの生活水準を切り
下げるしかないのか。「デフレと生きる」2回目は、初回に続き、第一勧銀総合研究所の真壁昭夫主席研究員とともに、残された選択肢を探
る。
経済対策やデフレ対策として、為替相場の円安という手段を取るべきだという主張がある。真壁氏は、円安推進論には大きく分けて3つ
の理由があるという。1つは、日本は輸出超過なので、円ベースでみた輸出の手取り代金が増えること。たとえば、1ドル=1円違えば、ト
ヨタの経常利益は約60億円変動するといわれる。短期的にみると、円安で輸出企業の収益は改善する。
2つめは、円安によって輸入品の物価が下げ止まる可能性だ。ひいては、根強いデフレ予想も緩和できるかもしれない。そして最後に、
「一番大きな理由は、国内の労働賃金と海外の労働賃金を調整することだ。たとえば、中国の賃金が日本の30分の1だとすると、単純に
考えれば、人民元が30倍になって初めて、日本と中国の労働賃金が為替を通じて調整される」と真壁氏は説明する。
円安は短期的にはプラス、長期的にはマイナスも
そんなことは実際に無理だとしても、円が少しでも安くなれば、ドルベースでみた日本の賃金が減るため、海外との相対的な調整によっ
て、労働賃金を下げることができる。「ただし」と真壁氏は言う。「日本の国民の資産はほとんどが円ベースなので、1400兆円の個人の金
融資産は、ドルベースに直すと目減りする。そうなると、負の資産効果が働き、国際的な購買力は減る。給料も円ベースでは変わらなくて
も、ドルベースでは目減りすることになる」−−。
真壁氏は「円安は経済にプラスという人と、日本の購買力が落ちるのでマイナスという人がいるが、実はこれは2人とも正しい。円安に
なれば企業収益が良くなる、物価が下げ止まる、労働賃金を調整しやすくなるというのは、短期的にはその通り。ところが、長期的にみた
場合、円安が定着すれば、国内の資金は海外に逃げ出すし、海外の投資家も日本の資産を買わなくなる」と言う。
インフレにするか、名目の賃金を引き下げるか、為替を円安にして実質賃金を引き下げることでしか、競争力を取り戻す方法はないの
か。真壁氏は「究極の解決策は技術革新であり、それによって生産性を引き上げ、高コスト構造を変えることができる」と語気を強める。か
つては、カラーテレビ、トランジスターラジオがそうであり、ウォークマンがそうだった。日本の製品には競争力があって、世界の市場を席巻
したものが多くあった。
人口減少で持続的な成長は困難に
しかし、2000年代半ばには人口がピークを打って、減少に向かう。個人消費は人口と所得水準、それに消費性向を掛け合わせたものな
ので、所得水準と消費性向が不変なら、人口が増えれば消費は自然と増える。移民を受け入れない限り、日本はもう人口増加には頼れ
ない。成長率を「人口増加率と生産性上昇率の和」と考えると、人口の減少を補って余りあるくらい生産性が伸びなければ、持続的な成長
は不可能になる。
「生産性の上昇に限界があるということを前提にするならば、賃金は高過ぎるから下げるしかない。インフレにするか、名目賃金を下げる
か、あるいは円安にして実質賃金を引き下げるか、いずれかしかない。実質賃金を下げるということは、生活水準を下げるということだ。現
在の生活水準を維持することはできず、長期低迷、縮小均衡に向かうことになる」と真壁氏は言う。
しかし、もう1つだけ選択肢があるかもしれない。発想を転換し、“成長をあきらめる”という選択だ。日本は戦後、米国の背中をずっと追
いかけてきた。米国は競争社会で、競争することによって生産性を上げ、国力を強めてきた。ただ、米国は今でも人口が伸びており、労働
賃金の低い移民が入ってくる。対照的に、少子高齢化が世界に類をみない速度で進む日本。
移民を受け入れ、米国型を目指すか、成長をあきらめるか
「1つのモデルは北欧だろう」と真壁氏は言う。人口は伸びない。しかも、高い成長を標榜しているわけでもなく、安定した、高望みしな
い社会。「日本が生産性を上昇させることができず、高い成長を望めないということであれば、2つしか選択はなくて、1つは移民を受け入
れてでも人口を増やし、消費を膨らませ、米国のような競争社会をもう一度目指すこと。もう1つは、北欧が目指したように、国民負担率を
上げて、安心して生活できる国にするか」−−。
北欧型といっても、北欧諸国は不況の日本より成長率は高く、GDP規模は違っても、1人ひとりは高い生活水準を享受している。日本
は北欧型を目指す前に、実質賃金引き下げ、生活水準切り下げというプロセスが不可避だろう。真壁氏は「85−89年に水膨れし、10年か
かっても処理が終わらない。ついた脂肪は取り除くしかないし、痛みを伴うのは当然だ。問題は、その処理が終わった後、どういう社会を目
指すかという選択が迫られていることだ」と言う。
どういう社会を作るか、目指すべきものが明確にあれば、逆算して、そのために今こうしなければならないという決断ができる。真壁氏
は「今までずっと米国を目指してやってきたので、大半の人は、今でも米国型を目指しているのだと思う。しかし、本当にそれが可能かとい
うと、所与の環境に大きな違いがある。人口にしても、米国は今でも年300万人も増えている」と言う。
この国から逃げるしかなくなる
日本はこれまでずっと、貨幣ベースの繁栄を目指し、1人当たりのGDPが上がれば上がるほど、幸福になれると信じていた。だから、G
DPを押し上げることが最大の目標だった。ところが、価値観が多様化し、何億円も稼ぎたいという人がいる一方で、給料はずっと少なくても
良いが、自己実現のために生きたいという人が増えてくるかもしれない。
自ら選択し、合意を形成したうえで、長期低迷、縮小均衡を甘受するなら、まだ良い。しかし、と真壁氏は言う。「主体的な選択もないま
ま、長期低迷ということになれば、米国の背中をみて惨めな思いをしながら、生活水準の低下に甘んじなければならなくなる。一縷(いち
る)の望みがあるとすれば、生産性の上昇、技術革新だ。それもかなわず、かといって、自ら選択して生活水準を切り下げるのが嫌であれ
ば、この国から逃げるしかない」−−。
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▽新連載開始「問題提起:日本経済は持続可能か、迫られる選択」(1月22日)
東京 日高 正裕 Masahiro Hidaka
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真壁さんは↓こちらでも連載されていますね。
http://jmm.cogen.co.jp/jmmarchive/m150001.html