投稿者 sanetomi 日時 2001 年 11 月 03 日 13:26:42:
米同時テロは低迷していた金市揚にとってカンフル剤となったか。今月東京で開催された「日経ゴールド
コンファレンス」での中心テーマはそこに尽きた。内外の専門家の議論を集約すると、九月十一日を境に金
市揚が明確に変わったとは言い切れないものの、長く続いた弱気市場が終了しつつ売ると感じ破れた。
「同時テロ以前と以後で金市場の基本構図は変わっていない。予想価格帯は一トロイオンス260−285ドルだ」
(英国の調査会社、ゴールド・フィールズ・ミネラル・サービシズのポール・ウォーカー氏)
米国の政治・経済の中枢への自爆攻撃、その結果としての金融市場などの一時的な機能マヒ。予想もしな
い有事をきっかけに避難資産として金が買われたが、今後世界景気の後退とともに宝飾品など実需が打撃を
受け結局、強弱材料が相殺されてしまう、というのが同氏の見方だ。
テロのショックで金価格は二七〇ドルから二九〇ドルへ上昇。しかし米英軍のアフガニスタン攻撃も含め日常
的に慣れっこになってしまい、先週はまた二七〇ドル台に下落した。何も変わっていないというウォーカー氏
の説を、市場の動きも裏付けているように見える。「有事の金」は長続きしなかったということだろうか。
そうとは言い切れない、というのが金アナリストの亀井幸一郎氏。「いま市場は有事の度合いを探ってい
る段階。投資家は今度のテロ事件で米国経済のぜい弱性に気づいた。米株安やドル安が進んだり、中東を巡
る不安定性が高まるなどの政治的緊張が激化すると、金に対する見直しの動きが出てくる」。金市場の構造
は変わりつつあり、テロがそれを加速したというのが同氏の見立てである。
金市揚の何がどう変わってきたのか。大事なポイン卜は、株や債券などのペーパー資産偏重への見直しか
ら、金など実物投資への意欲が復活する兆しがあることだ。価格の持続的な上昇の触媒役を果たすのが実は
投資需要。その欠落が一九九〇年代の長期低迷の大きな要因だった。
では、九月に一体どれくらいの金が売れたのか。日本で売れた投資用の地金は推定で十数トンとみられる。
月間販売量では過去の何回かの金ブームと比べてもそん色ない。タイやべトナムでも金ブームが起こったし、
米国では金貨への投資が活発になったという。だが、米国で売れた量といってもせいぜい一トン程度とみられ、
「有事の金は先進国では日本でのみ例外的に見られた現象」 (ウォーカー氏)と言えるかもしれない。
株価の下落や金融システムに対する不安がもともと存在したところにテロのショックが加わったことが、
日本で金ブームを生み出した。既存の秩序の不確実性のもとで金は輝くのだ。「九月十一日を境に世界は変わっ
た」といわれるが、もし不確実性が増大した世界に変わったのだとすれば、世界的な金投資復活の可能性はある。
(編集委員 林邦正)