緊急超法規提言 斎藤精一郎(立教大学教授) 不良債権処理で資本主義の一時停止を その1 (週刊新潮2001年10月11日号)

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投稿者 sanetomi 日時 2001 年 10 月 04 日 18:14:24:

 いったい日本経済はどうなるのか。世界貿易センターがテロで崩落した時、世界経済の崩壊を重ね合わせた人も少なくあるまい。
株価は1万円割れし、失業率は5%を突破、景気浮上の見込みも皆無で、国民は不安の中を彷徨っている。このままで我々は大丈
夫なのか。立教大学の斎藤精一郎教授は、「資本主義を一時停止しなければ日本経済済は破滅する」と緊急提言する。
日本経済はそこまで追い詰められているのである。

 9月11日、世界は震撼した。この日の朝、米国で前代未聞の同時多発テロが勃発し、6千人を越える人達が犠牲となった。ニュー
ヨークの金融センターとワシントンのペンタゴンという、米国の心臓部を直撃しただけに、この衝撃波は世界政治・軍事はむろんのこ
と世界経済・金融に甚大な影響を及ぼすのは必至だ。
 果たして、世界経済は70年振りに世界同時大不況に突入するのか。そして、日本経済はさらなる悪化へと追い打ちをかけられるのか。
 多くの国民が、同じ懸念を抱いている。そして、不安の中を彷徨っている。 私は本稿で、そのひとつの回答を示そうと思う。
                                                                                          、
 その答えは、よほどの思い切ったことをしない限り、その懸念が現実のものになる、ということだ。そして、それを回避するためにやら
なければならない、その″思い切ったこと々とは、「資本主義の一時停止」である。
 そこまでやらなければ、日本経済は破滅する −− 冗談ではなく、日本経済、そして世界経済はそれほど追い詰められているのである。
 いきなり「資本主義の一時停止」といわれても、読者は面食らうだけだろう。そこで、本論の前に、いま日本経済がおかれている現状
をまず説明したい。 日本経済は91年春から不況に突入したが、政府も経済界も多くのエコノミストたちも、1〜2年もすれば、景気は回
復すると楽観的に考えてきた。
 しかし、どうだろう。10年経った現在、日本経済はマイナス成長に落ち込み、経済状態はさらに悪化している。
例えば、株価、地価、金利、失業率−−。
 日経平均株価は89年12月末に3万8915円の最高値をつけたが、現在は9774円(9月28日)とその4分の1の水準だ。地価(大都市
商業地)は現在、91年の水準の2割以下まで下落しているが、依然として底値が見えない。
 金利(公定歩合)に至っては91年夏には6%だったが、現在は何と0.1%。1000万円を銀行定期預金にすれば、年間利息は10年前
なら約60万円だったのに今はわずか5000円以下という有様。失業率は逆に10年前2.1%だったが、現在は5%である。
 この間に政府や日銀が積極的景気対策をやってこなかったのであれば、日本経済の「10年の停滞」の原因が経済政策の欠陥で
あったと糾弾できる。しかし、この10年間、政府は財政出動を全開にしてきた。97年度に橋本内閣が財政緊縮策を採ったほかは、
政府は気前よく財政拡大路線を驀進してきた。が、その結果、政府・地方自治体の長期債務残高は660兆円に達し、先進諸国で最悪
の財政状況にある。
 また、日銀も公定歩合を95年9月に1%以下に切り下げ、いまや前代未聞のゼロ金利政策を採っている。 つまり、この10年間、日本
経済は長期的停滞の罠に落ち込んだままなのである。
 もはや、日本経済が通う病院の静療室の薬棚にはカンフル剤も鎮痛剤もなくなってしまっている。つまり、財政出動というカンフル注
射をしようとしても、国債増発の余裕もなく、鎮痛剤をと思ってもゼロ金利のもとではもはやこれ以上の金融緩和のやりようもない。
 まさに日本経済は、八方塞がりの状況にある。このままでは日本経済は「打つ手」がないままに失速、否、墜落が必至なのである。

乱気流に突入した世界経済

 そのほとんど打つ手のない日本経済を襲ったのが、今回の大事件なのだ。
 この未曾有のテロ事件によるマイナスの経済効果は、いうまでもなく今後の米国の報復戦争の展開如何に強く関わってくる。標準的な
想定ではチェイニー米副大統領が語っているように 「この戦争は長期的で大掛かりになり、数年は続く」という。
 とすれば、米国経済は第二次大戦後、最大の不況に突入する可能性が極めて高くなる。
 米国経済は昨秋以来、成長減速下にあったが、この事件は決定的にこれに追い打ちをかけた。
 だが、より本質的には、90年代の米国経済の繁栄を導いてきたIT革命やニューエコノミーの台頭という「米国神話」を直撃し、ニューヨー
クに世界のマネーを引き付けてきた「ドルの磁力」を直撃したことを見逃してはならない
 当然「ドル安」の影がちらつく。報復戦争が長引けば、ドル安は基調化して、米国の株式市場は停滞の度を増す。ニューヨークに大量
流入していた世界マネーが逆流に転じ、流出し始めるのだ。
 国民の約5割が何らかの形で株式投資に関わっている米国では、株価の長期的低迷は個人消費を減少させる。それでなくとも、米国
の家計は貯蓄率がほぼゼロだから、株価の長期的停滞は貯蓄積み増し行動を促す。
 しかも、長引く報復戦争は航空産業、旅行関連ビジネス、保険・金融産業などの業績をさらに悪化させ、これにIT不況が加わるから、
米国経済は戦後初めての大型不況に突入するのである。
 失業率が上昇し、消費不況が居座ってくる。すでにテロ以前から米国経済の変調によって、アジア経済は不況色を強めつつあったが、
米国不況の本格化は太平洋不況を引き起こすのだ。
 まさに、太平洋に世界同時不況という「乱気流」が吹き荒れるのである。問題はこの乱気流がそれでなくとも「停滞の10年」 で八方塞
がりに落ち込んでいる日本経済を痛撃することである。
 すでに、今回の米同時多発テロ以前から「日米同時不況」が世界経済シーンに不気味な足音を響かせ始めていた。これがいま、テロ
発生とこれに続く報復戦争によって、現実化してくれば、世界ナンバー1とナンバー2の経済大国が負の共振運動を増幅させ、世界大不
況を引き起こすのは必至の状況なのである。
 これは1930年代の世界大不況以来、70年振りの経済大激動だ。それは日本経済を「墜落」させる、恐ろしいシナリオでもある。
 世界貿易センターに激突した二つのハイジャック機は「繁栄の10年」 の演出を通じて世界経済の成長を牽引してきた米国経済という
世界最大のエンジン・パワーに致命的な損傷を与えたのである。

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