吉本隆明氏に聞く(1)弓山達也氏と対談

 
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投稿者 おっと、こんなこと言う人もいたんだ 日時 2000 年 3 月 16 日 04:32:22:

【宗教・こころ】吉本隆明氏に聞く(1)弓山達也氏と対談
[1995年09月05日 東京夕刊]


 ◆麻原被告を高く評価 犯罪は否定、宗教は肯定

 現代思想界を代表する思想家、吉本隆明氏(七〇)はオウム真理教事件に関し、
雑誌などで麻原彰晃被告(四〇)の存在を重く評価すべきだという発言を繰り返して
いる。その吉本氏に、若手宗教学者で日本学術振興会特別研究員の弓山達也氏
(三二)がインタビューを行い、麻原被告を評価する理由、オウム真理教を生んだ社
会的背景などについて聞いた。

 弓山氏「今日はオウム真理教をめぐって、先生のお考え、ご意見をお聞かせ願え
ればと思います。先生は雑誌『CUT』の中で、麻原彰晃の著書『生死を超える』の書
評を行い、麻原を修行者として高く評価していますが、それは今も変わらないのです
か」

 吉本氏「僕は今でも、たぶん中沢新一さん(注1)のようにヨガやチベット仏教につ
いて知っている人よりも、麻原さんの存在を重く評価していると思います。うんと極端
なことを言うと、麻原さんはマスコミが否定できるほどちゃちな人ではないと思ってい
ます。これは思い過ごしかもしれませんが、僕は現存する仏教系の修行者の中で世
界有数の人ではないかというくらい高く評価しています」

 弓山氏「先生は麻原彰晃と直接、会ったことはあったのでしょうか」

 吉本氏「会ったことはなくて、ただ会いたいという申し入れが二回か三回ありまし
た。その時は『いいですけれど、もう少し分かるようになってから、お会いしたいです
ね』と言って、そのまま今回の事件になってしまいました」

 弓山氏「麻原彰晃は思想家としてはどうなのでしょうか。麻原のすごさというのはヨ
ガのすごさであって、麻原自身のすごさではないのではないでしょうか。吉本先生は
常々『大衆の原像(注2)を自らのうちに繰り込んで、思想を形成していかなければ
いけない。輸入したり、借りてきたりしたものは思想の自立ではない』とおっしゃって
こられた。その点で“思想家麻原”に関してどうお考えでしょうか」

 吉本氏「僕は思想家麻原を評価する根拠が一点あるんです。それは『生死を超え
る』という本の前半部で、麻原さんが修行の過程と段階とをとても実感的に説いてい
て、はっきり体験的に表現している点です。仏教系の経典とか本とかで、日本の奈
良朝までの修行僧が、何をやっていたのかは『生死を超える』を読むと、ああこうい
うことをやっていたんだ、ということが全部言われてしまっています。僕は『生死を超
える』という本は『チベットの死者の書』や仏教の修行の仕方を説いた本の系譜から
いえば、相当重要な地位を占めると思っています。あそこまで言ってしまったら、仏
教の修行の秘密や秘密めかしたところが何もなくなってしまいます。つまり、相当な
人でないとここまでやれないよ、と思うのです。やっぱり相当な思想家だと思います。
だけど、本当はまだ不明なところがたくさんあるわけです」

 弓山氏「思想の中にわからない点が多いとは?」

 吉本氏「裁判の過程の中でもなんでもいいんですけれど、麻原という人が『自分た
ちは市民社会の善悪の基準、法的善悪の基準からすれば、確かに悪いことをして
いることになる。市民社会的な倫理から弾劾され、法で罰せられることは仕方のな
いことだ。しかし、われわれの持っている宗教的世界観からすれば、それはこういう
位置づけができて、こうなんだ』と、はっきり表明するということをやれば、不明な部
分が分かってくるような気がするんです。それをやってくれないと、分からない。麻原
さんが世界観を話さない次元で、オウム真理教のやったことを弾劾したり、否定した
り、これは犯罪者集団であり、異常者、殺人集団であるからダメだと言いたて、決め
つけたって、オウム真理教、あるいは宗教一般の持っている超越的な(現世の倫理
を超えた)部分を否定することにならないと思います」

 弓山氏「麻原被告やオウム真理教の行った犯罪自体はどう考えるのですか」

 吉本氏「ですから、僕の中では、一般市民として大衆の原像を繰り込んでいこうと
いう考え方の自分は、オウムの犯罪を根底的に否定します。特にサリンによる無差
別殺りく、無関係な人の殺りくというのは、まったく肯定すべき余地がない。まったく
否定します。大衆の原像というのを考える限りは、そうなるわけです。ところが、僕の
中で、否定だけで終わるかといったら、そうではないです。本来、超越的な性格を持
っている宗教の問題、理念の問題、思想の問題が僕の中にあります。その問題を
僕が重点にすれば、『麻原彰晃、つまりオウム真理教というのは、そんなに否定す
べき殺人集団ではないよ。この人は宗教家としては現存する世界では有数の人だ
よ』という評価になると思います。そうすると、僕の中で二重性をはっきりさせなくては
いけないでしょう。なぜ、お前の中に二重性ができたのか、分離してきたのかをです
ね。二重性の解決が、僕にとって、オウム真理教事件の一番の課題なんです」

 (注1)中央大学総合政策学部教授、チベット密教を研究、事件前、雑誌で麻原彰
晃被告と対談、事件後は「麻原氏はタントラ仏教を理解している」と発言している。

 (注2)大衆の生活に価値を見いだし、そこを立脚点に自らの思想を検証する試
み。

 よしもと・たかあき氏 大正13年東京生まれ。昭和22年東京工業大卒。詩人、評
論家。著書に『共同幻想論』など。




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