オウム狩りの危険な熱:ニューズウィーク日本版1999年11月24日号 P.14 より

 
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投稿者 たけしくん 日時 1999 年 11 月 22 日 09:41:54:


ニューズウィーク日本版1999年11月24日号 P.14 より

WORLD AFFAIRS

カルト

オウム狩りの危険な熱

勢いを取り戻したオウム真理教に政府も市民も壊滅をめざして戦う構えだが、そこに
落とし穴はないのか

ジョージ・ウェアフリッツ(東京支局長)高山秀子糸井恵(東京)

 町内会から緊急の電話が入ったのは、9月のある朝、午前11時半ごろだ
った。美容院を営む本多初子(71)は、ちょうど客の髪を染めていた。
 「オウムが来る」という電話を受けて、あわてて仕事をすませようとしてい
ると、外から広報車の声が聞こえてきた。「オウムが来ます。外に集まってく
ださい」
 「毛染めをすませて、次の客には謝った」と、本多は言う。「申し訳ないけ
ど、オウムが来るので行かなくちゃって」
 外に出ると、最近オウムが借り上げた建物の前は住民であふれ返ってい
た。最初のオウム信者が姿を現すと、近所の主婦や店主、町内会の幹部
たちは、「オウム出ていけ」「帰れ」と口々に叫び、信者たちが建物に入るの
を体を張って阻んだ。
 オウム真理教広報副部長の荒木浩に、区長が詰め寄る。集まった男た
ちは荒木を小突き、罵声を浴びせはじめた。あわてた警察は荒木を群衆の
中から連れ出し、最寄りの駅に誘導して最初に来た電車に乗せた。動きは
じめた電車の中で、荒木は「あれでは、何が起きてもおかしくない状況だっ
た」と言った。
 1995年にオウム真理教が引き起こした地下鉄サリン事件から4年たった
今、教団は再びかつての勢いを取り戻しつつある。
 政府部内でオウムの「組織強化」に警鐘を鳴らす報告が提出されたのは
今年2月のこと。オウムの事実上の復活を伝えるマスコミ報道に、日本中が
半ばヒステリーのような状態に陥った。
 オウム施設のある市町村の住民たちは、一致団結して反オウム運動を
展開。教祖・松本智津夫(麻原彰晃)の子供たちの転入を拒否した自治体
もある。

オウム新法提出の裏側

 そして11月2日、政府はオウム真理教の壊滅をめざす「団体規制法案」を
国会に提出。ある全国紙が6月に行った世論調査でも、回答者の80%近くが
オウム規制の新法は必要だと答えている。
 「オウムつぶしのためなら何をやってもいいという危険な状況に来ている」
と、弁護士で参議院議員(社民党)の福島瑞穂は言う。
 なぜ、今なのか。こうした動きに批判的な人々は、今回の規制法案は国
民の基本的人権の侵害につながると主張する。小渕恵三首相の本当のね
らいは国民の目を不況からそらし、連立政権内部のオウム嫌いの一派の
歓心を買うことにあるのではと勘ぐる声もある。
 だが小渕政権は、脅威は現実に存在すると主張する。公安調査庁の報
告書によれば、オウムはパソコン販売などの事業で財政基盤を再建、勧誘
活動も活発化。新たな活動拠点を確保するなどして、組織の拡大を図って
いるという。
 警察の推定では、現在のオウム信者の数は2000人を超える(教団側が
公表している信者数は1500人。97年以降は、ほとんど増えていないと主張
する)。
 「オウム新法」と呼ばれる「団体規制法案」は、「大量無差別殺人を行った
団体」を取り締まるものとされる。成立すれば、公安調査庁にはオウムの
施設を捜査し、信者を監視する権限が与えられ、教団が信者を勧誘した
り、寄付を集めたりすることは違法となる。
 息の根を止められることを恐れたオウムは9月、活動の「休眠」を宣言し、
勧誘活動を中止すると発表した。どうやら教団は地下に潜るつもりらしい。
 教団の各地の支部長は、今でも信者を数人ずつ集めて会合を開いてい
るという。ある信者によると、最近開かれたそうした会合の席で、教団幹部
がユダヤ人の長い迫害の歴史を引き合いに出し、「彼らは今や世界を支配
している。オウムもいずれはそうなる」と語ったという。

各地に広がる排斥運動

 地下鉄サリン事件の後、警察はオウム施設の強制捜査に踏み切り、教
祖の松本を含む幹部の大半を逮捕した。そして宗教法人としてのオウムは
解体され、法廷で破産を宣告された。
 だが97年に「破壊活動防止法」の適用が議論された際、政府は適用を見
送っている。破防法は本来、宗教団体に適用すべきではないという識者の
意見があったようだ。
 以来、若い信者たちは活動を再開し、教団は復活した。彼らはいまだに
地下鉄サリン事件についての謝罪を拒否し、教祖に対する批判的なコメン
トもいっさい出していない。こうした教団の態度に、ついに国民の怒りが爆
発した。
 住民と教団側との最初の衝突は、長野県北御牧村で起こった。1年前、オ
ウムはこの村にある企業の保養施設を購入。反発した住民は、信者の外
出中に施設の周囲に塹壕を掘り、監視塔を建てて、24時間体制で教団の
監視を続けた。
 こうした住民の抵抗にあって、オウム側は今年6月、建物の売却に同意し
た。住民側はオウムの権利を侵害したことは認めているが、そもそも97年
に政府がオウムに破防法を適用して組織を解体しなかったのがまちがいだ
と主張する。「政府は選択を誤った」と、ある地元の役人は語った。
 こうしたオウム排斥運動は、今や日本全国に広がっている。今年の夏に
は栃木県大田原市が、オウムの所有する施設で信者たちと暮らしている松
本の子供たちの転入届の受理を拒否。住民票がなければ、松本の18歳の
娘と5歳の息子は地元の学校に通えない。
 群馬県藤岡市でも、オウム真理教の教団施設となった印刷工場跡地に
500人近い住民が結集し、抗議集会を開いた。「子供たちのためにも市民
が組織的に戦わなくてはならない」と、地元の沢入寛区長は住民に語りか
けた。
 こうした騒動は東京にまで飛び火した。7月7日、東京都の石原慎太郎知
事はオウム真理教と関係団体に対し、都の公共施設の使用を許可しない
方針を表明。教団は、活動拠点にしていた足立区の施設からも退去を命じ
られた。
 こうなると、教団が次に移るのはどこかという新たな恐怖が生まれる。東
京23区の大半がオウム対策本部や連絡会を設け、信者の転入届を拒否
するようになった。
 結局、教団が本部を移したのは豊島区の池袋本町。庶民的なこの町で、
本多は美容院を営んでいる。豊島区は教団が移り住んだ建物周辺で住民
の抗議運動が起こる前から、信者の立ち退きを求める訴訟費用380万円を
地元の住民組織に貸し出した。

焦点は上祐の出所後?

 「オウムは1度も謝罪していない」と、豊島区 の高野之夫区長は言う。「だ
から、裁判で有罪判決を受けた人たちとそうでない人たちを分けて考えるこ
とはできない」
 だが今の信者たちは、教団が地下鉄サリン事件に関与したとは思ってい
ない。
 95年に逮捕を免れた教団幹部たちは、松本が収監されている東京拘置
所に近い東京都足立区に本部を構え(現在は閉鎖されている)、オウム復
活計画を進めてきたと、当局者は語る。
 今年初めに本誌記者が訪れた足立区の施設は、インターネット時代のオ
フィスという感じだった。蓮華座を組み、瞑想する松本と2人の息子のポスタ
ーがなければ、インターネット系のベンチャー企業と見まごうばかりだ。
 当局側の発表によれば、教団はマルチメディアを駆使した勧誘方法で、
新たな信者を何百人も獲得している。だが、教団広報副部長の荒木は、ほ
んの少ししか増えていないと反論、教団に対するマスコミの過剰反応を見て
いると「メディアのほうがカルト宗教のようだ」と語っている。
 いずれにせよ、日本人にとって大いに気がかりなのは、将来のある若者
の一部がいまだにオウムに引かれているという事実だ。オウムの女性ロッ
クバンド「完全解脱」のメンバーのうち、2人は早稲田大学の学生。1人はロ
シア文学を専攻しており、トルストイが好きで、生きる道を「求めていた」とき
にオウムに出合ったという。
 オウムの新しい目標もはっきりしない。「完全解脱」のコンサートビデオは
新人発掘番組のNG版のようだが、もっと暗い何かを暗示しているようにも
みえる。
 彼女たちはインドのサリーを着て、誘うように踊る。そして、精神医学者の
ロバート・リフトンの言う「個人的な慰安の官能的約束」をほのめかして「若
い男を勧誘」している。
 このビデオは東京の街頭風景で始まり、オウムが地下鉄サリン事件を起
こす直前に青酸ガスをまこうとした新宿駅も映し出される。その映像には、
すべての魂が完全解脱にいたることを願うという文字がかぶせられてい
る。
 それは平和の願いなのか、あるいは逆か。オウム新法に反対している日
本弁護士連合会の小堀樹会長は、「オウム真理教に対する国民の不安と
疑念は十分理解できるが、オウムが再び無差別大量殺人を犯す危険性が
あると断定する明確な危険はない」と言う。
 しかし、こうした意見は少数派だ。国会の過半数をはるかに上回る連立
与党は、すぐにも法案を採択に持ち込む構えだ。「私たちはオウム真理教
をテロ集団とみている」と語るのは公明党の浜四津敏子代表代行だ。
 当局が最も警戒しているのは、教団のカリスマ的な元スポークスマン、上
祐史浩だ。彼は詐欺罪と偽証罪で実刑3年の判決を下されたが、12月には
出所する。その後は、彼が教団の指導者になるとみられている。
 上祐は「松本の直弟子で、教義を信じている」と、国学院大学の井上順孝
教授は言う。「彼は信者に直接話しかけ、松本のおかれた状況の真の意味
を説くだろう」

弾圧が教団を増強させる

 教祖・松本の未来は明るくない。あまりにも多くの殺人罪に問われている
ため、判決が下るまでに拘置所で10年過ごす可能性もある。
 一方、彼の信徒たちは地下に潜る準備を進めている。信者によると、教
団幹部らは10月上旬からレストランや喫茶店などに信者を4〜5人ずつ集
め、きたるべき闘争について説明しているという。
 最近の会合に参加したある信徒によれば、「創価学会は20年間迫害され
続けたが、今や日本を牛耳っている」と、指導者の1人は語ったという。「オ
ウムは10年しかたっていないから、彼らのようになるにはまだ時間がかか
る」
 別の信者の話では、もし公に活動ができなくなれば、信徒たちは家族全
員が教団に入っている在家信者の家に逃げ込むつもりだという。カルト専
門家に言わせれば、最も危険なのは締めつけを強めて彼らの被害妄想を
かき立てた結果、逆に教団の力が増すことだ。もし松本に極刑が下ればな
おさらだ。
 長引くオウム裁判にいらだつ人には、近く封切られる石井輝男監督のホ
ラー映画『地獄』がおすすめだ。延々と続くオウム裁判に業を煮やした冥界
の閻魔(えんま)大王が、教団幹部たちを黄泉(よみ)の国に連れ去る話
だ。そこでは鬼たちが松本の生皮をはぎ、能弁にして冗舌な上祐の舌を抜
く。
 「この映画はおどろおどろしいと同時にコミカルにできている」と、青鬼役
の薩摩剣八郎は言う。「観客、とくにオウム被害者の方々は留飲が下がる
かもしれない」
 そうかもしれない。だが映画館の1歩外に出れば、まだこれからもオウム
はすぐそこにいる。

どこに行っても「嫌われ者」

 ヨガ教室を経営していた松本智津夫は、1984年に「オウム神仙の会」を設
立、89年にオウム真理教の名で宗教法人の認可を得た。その後の足取り
をたどると――

1994年6月27日 松本サリン事件発生。死者7人、重軽症者約600人

1995年3月20日 地下鉄サリン事件発生。朝の通勤ラッシュをねらった無
差別テロで計12人が死亡、重軽症者は5000人を超えた。5月16日、松本智
津夫および16人のオウム信者が逮捕された

1995年10月30日 東京地裁がオウム真理教の解散を命令

1999年11月2日 政府・与党がオウム対策の団体規制法案をまとめ、国
会に提出

ニューズウィーク日本版

1999年11月24日号 P.14

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