ベールを脱いだ日本のフリーメーソンたち(長文その2)


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投稿者 SP' 日時 1999 年 7 月 04 日 07:58:24:

回答先: ベールを脱いだ日本のフリーメーソンたち(『宝島30 95年9月号』より) 投稿者 SP' 日時 1999 年 7 月 04 日 07:54:33:

 「陰謀団と悪口を言われるのは、先進国では日本だけです」

クライプ まず最初に、私は世界中のフリーメーソンを代表して何かを言う権限も権威も持ち合わせていません。ですから、私がこれから述べることは、あくまでも私の個人的な意見だと理解してください。
 とかく、フリーメーソンリーとは一つのユニットとか組織みたいなふうに誤解されがちなんですが、そういう中央集権的な組織ではありませんし、組織全体を代表して話すような、スポークスマンみたいな者も実はいないんです。そこのところに注意してください。フリーメーソンリーの組織形態というのは、ピラミッド型の上意下達の組織ではなく、各地のグランド・ロッジが並立していて、それぞれが相互に承認しあっている。国と国との間の外交関係のようなものです。我々の正式な名称に、フリー・アンド・アクセプテッド(承認された)とつくのは、そういう意味もあります。つまり我々のグランド・ロッジは世界各地のグランド・ロッジから承認されていますよ、ということを意味するのです。フリーメーソンリーのあるロッジが伝統的なルールを破った場合、行なわれる最大の“制裁”は、他のロッジから承認を取り下げられることです。そうなるとつきあいが断たれ、他のロッジを訪問することができなくなる。世界的なフリーメーソンリーのネットワークの一員として認めてもらえなくなるんです。

 フリーメーソンリーのグランド・ロッジ・マスターに就く人物とは、どんな人物なのか。クライプ氏のバイオグラフィーを訊いた一一。
一九四四年、米国インディアナ州の生まれ。「典型的な中流クラスの核家族」出身であるという。六二年にハイスクールを卒業したが、経済的な余裕がなく、「奨学金をもらうほどにはスマートではなかった」ので、大学進学を断念し、空軍に入隊。十年間、下士官を務めた後、サクラメント州立大学の電子工学部に入学。卒業後は再び空軍に戻り、将校として十年間、八二年に退役するまで在籍した。退役後に来日し、翻訳の会社で文章を校正する仕事に就く。その後、独立してフリーランスの校正として働くうちに、宇宙開発事業団と仕事をする機会に恵まれ、現在は日本宇宙有人システムのコミュニケーション・エンジニアとして、事業団の人達がNASAの書類などを理解することができるよう、英語を正したり、教えたりしているという。

クライプ フリーメーソンリーに興味を持ち始めたのは、一九七二年頃、つまり将校になった頃です。つきあっていた人達の中で、素晴らしい人達、楽しい人達がフリーメーソンリーのメンバーだったということがわかったんです。それで関心がわき、一九七三年にフリーメーソンリーに入会しました。
 アメリカにいる時には、メンバーとしてそれほど積極的ではありませんでした。フリーメーソンとしての活動を積極的にするようになったのは、日本に釆てからですね。日本には、グランド・ロッジの傘下に十八のロッジがありますが、そのうちの一つのロッジのマスターを六年間務めました。その後、だんだん役職があがっていって、一九九二年にグランド・ロッジのグランド・マスターに選出されました。
一一選挙で選ばれるんですか?
クライプ はい、選挙です。しかし、大事なことなんですが、政治の選挙のようなことはありません。選挙運動をやってはいけないというルールがあるんです。「私に投票してください」とは言えないんです(笑)。

[[[フリーメーソンリーは宗教ではない ]]]

一一あなたの宗教は?
クライプ メソディストだった父親はとても信仰心が強くて、子供の頃、よく教会に連れていかれました。しかし、私は大人になってからほとんど教会に行っていない。そのことに少し罪悪感を感じています。
一一あなたは現在、自分をクリスチャンだとお考えですか? それともフリーメーソンの信徒なのでしょうか? あるいは、フリーメーソンリーはただの友愛団体であって、あなたの信仰はキリスト教なんでしょうか?
クライプ これはとてもデリケートな問題なので、丁寧に答える必要があります。
 私にとっては、宗教というものは魂の救済と関わるものです。それは、神と個々人の魂の関係なんですね。そういう意味ではフリーメーソンリーは宗教ではない。フリーメーソンリーでは、魂の救済に積極的に関心があるわけではないんです。それよりも、個々の人間同士の関係が重要であると教えられる。人間同士が、お互いにどんなふうにしたら仲良く、友愛をもってつきあっていけるか。そうした人間関係を通じていい社会を築いてゆくこと、そこがメーソンリーの教えのメインになる。
片桐 クライプさんの今のお話は非常に大事なポイントです。僕は難しいことが苦手なので、ごくくだいた言い方で補足します。
 近代フリーメーソンリーの歴史は、一七一七年にロンドンで四つのロッジが集まって、最初のグランド・ロッジを作った時から始まると言われています。一八世紀の前半のことですから、宗教界が英国の中でもゴチャゴチャに混乱していた時期なのです。まず、カソリックとプロテスタントの対立がありました。プロテスタントの中でも英国国教会派と非国教会派とがいます。そして国教会派の中でも長老派とそれに反対する勢力という具合に、細かく枝分かれして対抗していたわけです。人々は互いに相争い、非常に疑心暗鬼になっていた。そうした時代を背景として、「宗教的寛容」を説く、フリーメーソンリーが登場したわけです。時代が、フリーメーソンリーのような団体を求めていた、とも言えるでしょう。その結果、宗教対立にうんざりしていた様々な宗派の人達がフリーメーソンリーに入ってきたのです。
 フリーメーソンリーでは、抽象的な概念としての「至高の存在」(Supreme Being)に対して尊崇を表す。これは儀式や集会の中で必ずやります。しかし、この場合の「至高の存在」とは、キリストでもないし、お釈迦様でもないし、マホメットやアラーの神でもないんですよ。僕は一応、仏教徒ですから、心の中で仏様に向かって祈るわけです。クライプさんはキリスト教徒だからキリスト教の神に祈ってる。それでいいんです。「至高の存在」とは、色々な宗教の最大公約数的な概念なのです。
クライプ フリーメーソンリーに対する一番主要な批判というのは、あらゆる宗教からあまりにも無節操に多くの人を受け入れすぎるという批判です。例えば、バプティスト教会。この宗派は一番保守的な教会で「あなたがバプティストでなければ、あなたは悪魔だ」とまで言い切ります。フリーメーソンリーは、そういう人達にとってはまさしく悪魔そのものなんです。フリーメーソンリーでは、自分とは違う宗派の人々に対して寛容であれ、友愛の精神を持てと説くのですから、自分の宗派以外の人間は救われないとする人々からは、「悪魔」よばわりされるわけです。
一一キリスト教の中でも、とりわけカソリックはメーソンを認めないという点では強硬ですね。一七三八年に教皇クレメンス十二世が、フリーメーソンに対して最初の破門令を発表してから、現教皇のヨハネ・パウロ二世まで十七回以上も破門の回勅が出さ れたそうですが、カソリック教会のこうした姿勢を、どうお考えですか?
クライプ 教会の公式見解はともかくとして、信徒個人のレベルでは、実は、カソリック教徒でメーソンの会員という人もとても多いのです。例えば、フィリピンはご存じの通り、非常にカソリック教徒が多い国ですが、メーソンも非常に多い。カソリック教会の中のビショップ=司教がメンバーだったりすることも珍しくありません。
 私個人としては、人を見る場合、その人個人の資質を見ますから、その人がどういう宗教の人かということは重視しません。ただし、カソリックの信徒で、メーソンになりたいと希望する人に対しては、カソリック教会はフリーメーソンリーを否定していますが、いいのですか、と一応確認します。どうしてかというと、本人はいいとしても、家族の中にカソリック信徒がいる場合、問題が生じる可能性がある。そんな事態になってしまうのは、私としてはやはり心が痛むからです。

 思索的メーソンを中核とする近代フリーメーソンリーは、明らかにその出発点から、「脱カソリック」というオブセッションを内包していたといえるだろう。言いかえるならば、それだけカソリックの教権支配が、近世までヨーロッパでは強く、そうであるからこそ、その支配から逃れようとする衝迫も強かったに違いない。
『フリーメイソン』(講談社現代新書)という著書もある名古屋大教授の吉村正和氏は、「フリーメーソンリーには独自の思想というものがあるわけではない。それは様々な思想を受け入れる中空の受け皿であり、実際に盛り込まれたのは一八世紀ヨーロッパの時代精神でした」と言う。
「一八世紀の時代精神」とは何か。啓蒙主義であり、理神論であり、「自由・平等・友愛」の精神であり、エキュメニズム(宗教的寛容と統合の思想)であり、またときに無神論でもある。イングランド系の「正統」フリーメーソンでは、<G>という一文字で表される「至高存在」への尊崇を求められるが、大陸で独自の発展をとげた分派には、この「至高存在」を認めない無神論的セクトもある。この点が、実は英米系のメーソンリーと大陸系のメーソンリーをわかつ決定的なポイントとなるのだが、それは後でふれる。

[[[至高存在<G>の秘密 ]]]

一一フリーメーソンリーでは「至高存在」を<G>という一文字で表しますよね。フリーメーソンに入ると、最初に<G>について、ゴッド、あるいはグレート・アーキテクト・オブ・ザ・ユニバース(宇宙の創造者)と説明される。ところが、そのうちにこれはジオメトリー(幾何学)だと教えられるという話を聞いたことがあります。これは何を意味しているのですか。人間の理性や知性への信仰ですか。
クライプ 最初に<G>はゴッドで、その後でジオメトリーだと明かされるということではありません。最初のレクチャーの二、三分の間に、<G>は神を意味すると同時にジオメトリーであるということを明かされるわけです。
 それは基本的には、教育を受けるとか、何かを学ぶということに関係があるんです。特に幾何学がなかったら、何も作れない。これは、フリーメーソンリーが、もともとは建築家の集団であったことに由来しますが、それだけではなく、今まで無知だった人間に知識が与えられる。そういう「啓蒙」の意味がこめられているんです。
片桐 幾何学がなぜ、フリーメーソンリーの中で重視されるのか、これはイギリスの建築史を知る必要があります。一二世紀から一六世紀ぐらいの間にイギリスではゴシック建築が隆盛をきわめました。この四百年間に一万二千の建物ができたという記録が残っているんです。ゴシック建築には幾つかの特徴がある。一つはとんがった尖塔を作る。あれは、神様が上にいるから、なるべく近い所にいきたいという発想ですね。それから二番目の特徴は、丸いドーム型の天井です。複雑な力学的計算ができないと、これは作れない。
 こうしたデザインの建築物を造るには、当時としては、非常に高度な幾何学=ジオメトリーの知識を必要としたわけです。それを、一二世紀から一六世紀の間、メーソン達はギルドを作って、自分達で囲い込んで、絶対に外に出さなかった。出せば、自分達の利益を損ないますからね。
 しかも、その頃に字を読める人ってほとんどいないわけです。だから、彼らは口から口へと口伝で秘密の技術を伝えた。その前に、「お前、秘密を漏らしたら首を切るぞ」というような脅かしをして、絶対の宣誓をさせて、それで教育していったわけです。それが、実務的メーソンの時代で、四百年も続いていったわけです。
 今のは技術面のことですが、もう一つ、若手の人格教育の側面があります。ギルドの中に若者が入ってくると、技術教育だけではすまなくなってきて、人格教育も必要になる。ところが、教える方も教わる方も字が読めない。それで彼らがやった方法は、工具だとか石とか自分の身のまわりのもので、寓意的、寓話的にわかりやすく教えたわけです。
 例えばどこのロッジにも、石切り場から切り出してきたばかりの原石と、きれいに正方形に磨きあげた石とが置いてある。「お前は、今はこの原石と同じなんだ。原石は、親方メーソンが描く設計図に従って、切って磨きあげないと使いものにならない。石も人間も同じ。磨いて初めて一人前になれるんだよ」と一一。
 こうした象徴的な教え方によって、人格教育をしようとした。それが今でもメーソンの中に儀礼として残っているわけです。

[[[なぜ貴族が石工の集団に入ったのか? ]]]

一一伝統的な実務的メーソンが、集団を維持し、自分達の利益を守るために閉鎖的な共同体を作る必要があった。これはわかるのですが、ではなぜ、上の階級に属する知識人や貴族やブルジョアなどが、この集団に入ってきたのか。どうもその動機がよくわからない。当時のヨーロッパは強固な階級社会でしょう。上流階級の人間が、身分が高いとはいえない石工の集団に、なぜ自ら入っていったのでしょうか。
クライプ 私は歴史家ではないので、正しいことは言えないんですが、「フリー」という言葉が示すように、フリーメーソンはいろんな国へ移動して仕事をする自由が特別に認められていた。当時のヨーロッパは、現代のように交通も通信網も発達していないし、もちろんマスコミもない。移動の自由も制約されている。そんな時代に色々な場所を旅行する人というのは珍しい。フリーメーソンと言われる人達は、いろんな場所に行って、そこにある程度住み着き、また戻ってくる。そうすると、普通の人が絶対に持ち得ないような知識や情報や見聞を持ち帰ってこれる。そうしたフリーメーソンだけが持ち得る貴重な情報や見聞に、知識階級や貴族は非常に強い関心と好奇心を抱いたのではないでしょうか。
片桐 実務的メーソン達の結社に、石工ではない人間が入ってきたのは、最初は一六〇〇年と言われています。スコットランドのエジンバラ・ロッジです。オーチェンレックという土地のジョン・ボズウェルという小領主が入会したという記録が残っているのです。これが思索的メーソンの始まりとなるわけですが、その一六〇〇年から最初のグランド・ ロッジの発足まで百十七年あるわけです。
 その頃の英国史を見ますと、カソリックと英国国教会とピューリタン(清教徒)などが入り乱れて、非常に激しい宗教対立に見舞われた時期だったことがわかる。一六四〇年に始まったピューリタン革命では、国王のチャールズ一世が処刑されている。一六四九年のことです。その後、ずっとそういう血なまぐさい事件が五、六十年の間連続しています。
 すると、これはまったくの想像ですけれども、前後の事情から判断して、貴族だろうが、領主だろうが、我が身かわいさから、宗教的に寛容なフリーメーソンリーに、ある種の連帯感や信頼感を求めて入っていったとしても無理はないなという感じがします。要するに、文化的な好奇心だけじゃなくて、身の安全をはかるという功利心があったとしても決して不思議じゃなかった、そういう時代だったと思います。
 いずれにしても、フリーメーソンリーは、最初のグランド・ロッジが結成され、「憲章」が発表されて以後、まるで火がついたように大流行となりました。一七一七年にたった四つしかなかったロッジが、十二年後には五十になり、三十年後には世界中に広がってしまったんですからね。

 前出の吉村正和氏は、「フリーメーソンリーは、一面ではイギリスの社交クラブ文化の産物」であると言う。
 フランスにおいて社交サロンの文化的伝統が息づいているように、イギリスにも、パブ(居酒屋)を舞台とした社交クラブの文化的伝統が根を張っている。最初にグランド・ロッジを形成した四つのロッジも集会所はパブであり、各々のロッジの名称もパブの店名をつけていた。
「集まって何をするかといえば、要するに宴会を開き、酒を飲むのです。つまりはフリーメーソンリーといえども、数多ある社交クラブの一つにすぎなかったわけです」
 考えてみれば不思議な話である。フリーメーソンリーがその出発点において、どこにでもある、パブの常連客の親睦会にすぎないような社交クラブの一つだとするならば、なぜその中でフリーメーソンリーだけが、「火がついたように大流行」したのだろうか。現代のカルトのように、フリーメーソンリー自身が、積極的に宣伝や勧誘を行なって、会員を増やしていったというならばまだわかる。しかし、事実はまったくその逆なのである。
 宣伝も行なわない。入会に制限を設ける。そんな団体が、なぜ最初のグランド・ロッジの誕生から三十年ほどの間に、カソリック教会に匹敵するほどの世界的なネットワークを形成しえたのだろうか。
『フリーメイソンリー』(中公新書)を著した京都府立医大教授の湯浅慎一氏は、「いくら研究してみても、メーソンの拡大の真の理由はよくわからない」と率直に述べる。
「教会の世俗化という時代の流れの中で、ゴシック建築が衰退してきた一七世紀後半、石工達、すなわち実務的メーソンは失業の危機に瀕していた。そのため、自分達のギルドの保護者を建築者集団の外に求める必要があり、積極的にブルジョア貴族を勧誘しようとした。実務的メーソンの側にはそういう動機はあると思うのです。しかし、貴族やブルジョアや知識人達が石工のギルドに喜んで入ろうとする積極的な動機を説明するのは難しい。あえていえば、メーソンリーの内部に、あたかもそこに古代からの伝統的な神秘思想や叡智が密かに温存されており、入会した者だけにその秘儀が明かされるという、好奇心をかきたてられるもったいぶった誘惑があっただろうとは思います」

[[[階級昇進で明される秘儀 ]]]

一一近代フリーメーソンリーの中には、成立当時の一八世紀の最先端の思想だった啓蒙主義などが取り込まれている。と同時に、キリスト教会から異端として排除されてきたグノーシス主義や、ユダヤ教神秘主義のカバラ思想、錬金術などのオカルティックな思想やシンボルも盛り込まれている。合理的な啓蒙主義と非合理的な神秘主義という、一見、相矛盾する思想が共存しているのは、なぜなのでしょうか。
クライプ これも、私の個人的な意見なんですが、神というのは無限の存在です。そして人間には限界があります。有限な存在が、無限の神について判断することはできません。ですから、無限な存在である、あの神、その神、この神のどれが正しいということを、有限な存在である「私」が判断しようとすることは傲慢であり、実際、不可能なんですね。フリーメーソンリーのロッジの中では宗教とか政治の話をすることは、一切禁止されており、常に周囲との調和を大事にするように求められます。その一方で、ありとあらゆる宗教の信者、そして、色々な政治的理念を受け入れてきたのです。様々な思想やシンボルがフリーメーソンリーの中に保存されているのは、そうした寛容の精神がもたらしたものではないでしょうか。
片桐 フリーメーソンリーは、オカルト結社である、とたびたび批判されています。三十三もの階級に分かれていて、階級を昇るたぴに秘密の教えを順番に説かれていくとも言われている。しかし、こういう話は、半分は本当ですが、半分は誤解です。まず、フリーメーソンリーには徒弟・職人・親方という三つの階級しかありません。しかしこのメーソンリーの付属団体として、スコッティッシュ・ライト、ヨーク・ライトという二つの団体があり、こちらには一応、高位階が用意されています。とはいえ、メーソンリーの上部団体ではありません。命令や指導する権限などないのです。この二つはメーソンリーの哲学を詳しく勉強したい人のための団体なのですが、その教えをひとことで言えば、個人の尊厳が大事だということを説いているだけのことです。オカルト的・秘教的な教えを期待した人は、必ず失望します。
 スコッティッシュ・ライトの三十三番目の階級というのは、これは名誉階級で、儀式の世話役などを長く務めてきた功労者に与えられるものです。実質的には三十二階級で、私もその三十二番目の階級に属するんですが、これは丸二日、講義を聴いてさえいればもらえちゃうんです。外から見ると、何かすごいことのように思えるのでしょうが、大したことないんです。この階級の名前の一つに「薔薇十字」という名前の階級があります。有名なオカルト結社の名前から借りてきちゃったわけです。そういうことがあるために、オカルト結社だと言われてしまうんでしょうけど。
 メーソンの中で教えられることは、神秘主義的な教えではなく、もっと世俗的な道徳ですよ。ただ、生と死については、まじめに考えられています。人間は死後に、シュープリーム・ビーイング(至高存在)によって審判が下される。その時後悔することのないように、まじめに生きろと諭されるわけです。当たり前の道徳という以上のことはないですよ。

[[[ユダヤ人とフリーメーソンリー ]]]

 前出の湯浅氏は、フリーメーソンリーが爆発的な発展をとげたもう一つの理由として、大英帝国の帝国主義的拡張期に重なりあったため、という説をあげる。
「英国の権力者達が、国際的なネットワークをすでに確立していたフリーメーソンリーを、大陸政策のために利用した、ということは十分考えられます。フリーメーソンリーの拡大の歴史は 大英帝国の帝国主義的な膨脹の歴史とぴたりと重なりますし、そう考えれば、貴族や王侯がこぞって参入した理由も説明がつく。メーソンリーを情報ネットワークとして利用できますから。
 ローマ・カソリックの教権支配からの解放という過程も、純粋に思想史上の問題としてみるのではなく、イギリスの地政学的利害がそこにからんでいたと考えた方が、歴史の実相により近いと思います。逆に言えば、そのためにフリーメーソンリーは国際的な陰謀組織であるという疑惑を招くことになったとも言えますが。陰謀論にも一定程度の根拠はあります。批判を加えるためにも頭から無視してはいけない。もっとも、ユダヤ人陰謀論は問題外ですけれども」

片桐 フリーメーソンリーの中に、ユダヤ人が多いのは事実です。特にアメリカのニューヨークのロッジとか、ユダヤ人の居住人口が多い地域には多い。それでも全アメリカのメーソン会員の中に占めるユダヤ人の割合は、一割に満たないはずです。一般の人口比から考えれば多いと思いますけれど、それはユダヤ人が一般社会の中で差別されてきた、それに対し、メーソンは差別をしなかった、そういう歴史的理由によるものです。ユダヤ人あるいはユダヤ教徒は、キリスト教社会の中で徹底的に差別されていましたから、彼らにとって、宗教によって差別をしないメーソンリーはオアシスのようなものだったでしょう。彼らが「こんなにありがたいものはない」と思って入会し、ロッジの外ではまともに相手にしてもらえないキリスト教徒の市民達と、同等に友愛を結ぶということが可能となったわけですから。宗教によって差別をしないということは、先ほども言いましたが、もともとはキリスト教内部の問題だったのです。一八世紀に入るまでに旧教と新教の対立があり、そのために戦争まで起きていた。そういう悲劇を繰り返さないためにも、宗派を越えて友愛の関係を結ぼうという考え方が生まれ、それを実践に移そうとしたのがメーソンだったわけです。後に、こうした宗教的寛容の精神が拡大され、ユダヤ教徒や仏教徒やイスラム教徒にも適用され、今日のような世界的な広がりを持つに至ったわけです。もちろん、ユダヤ人がフリーメーソンリーをコントロールしているとか、フリーメーソンリーはユダヤ人の秘密結社であるとかいった噂は、根拠のない中傷にすぎません。そもそもフリーメーソンリーには、組織全体をコントロールする中央司令部のようなものは存在しません。
 今は、アメリカでもユダヤ系のメンバーが減りつつあるそうです。百年前ならば、ユダヤ人は対等の立場での人間関係を強く求めていました。しかし、現在では、ロッジの外の一般社会の中でちゃんとした社会的地位を持っています。メンバーが減りつつある理由はそういうことでしょう。
クライプ フリーメーソンリーがユダヤ人と組んで世界を支配しようとしているなどというのは、まったく無責任なデマです。そもそもフリーメーソンリーが政治的に動いて政府を倒すとか、団体として政府に反対することは不可能なんです。
 ある人がマスターになる前には、次のようなことを誓わなければいけないんです。
@あなたは、良識ある人間、真実の人間になることに同意し、そして以下に述べるモラルとルールに従うことを厳しく誓います。
Aあなたは、平和的な市民になり、そしてあなたが住んでいる国の法律に快く同意することを誓います。
Bあなたは、政府に対して陰謀を企てたりすることなどなく、忍耐強く(日本の)国法に従うことを誓います。
Cあなたは、法的秩序と司法・治安機関に尊敬の念をもち、勤勉に働き、すべての他者に尊敬されるような行動をすることを誓います。
 マスターは、こういうことを必ず遵守するということを誓わなければいけません。ロッジのマスターがこういうことを誓うということは、ロッジの全員もこれに従わなければいけないわけです。つまり、平和な市民として、国の法律に従うわけですから、国家に対して陰謀を企てたりすることは許されないんです。
片桐 フリーメーソンリーは決して、反社会的行為を認めない。入会の儀礼の時にも、自分が住んでいる国の法律を厳守することを誓約するのです。例えば、私は十年あまりシンガポールに住み、ロッジにも入会していましたが、そこではシンガポールの法律を守らなくてはいけないと約束させられました。このルールを破った者がいたら、我々はきちんと処分します。その場合の処分は、三段階に分かれます。まずは警告。次に資格停止。最後には追放です。追放処分となると、他のロッジに入ることも二度とできません。
 以前、イタリアで、グランド・ロッジの傘下にあったP2というロッジが、組織ぐるみで大規模な政府転覆の謀議に関わっていたという事件がありました。この事件のためにP2は解散させられ、関係者はすべて追放されました。P2を傘下におさめていたイタリアのグランド・ロッジは、承認こそ取り消されませんでしたけれど、監督不行き届きということで各国のメーソンリーから非難を浴びて、大恥をかきましたよ。
一一大変うがった見方かもしれませんが、こういう規則はフランス革命とアメリカの独立戦争の後から作ったんじゃないですか? それともその前からあったんでしょうか? フランス革命に関わった有名なオルレアン公やロベスピエール、ミラボーなどは皆メーソンでしたね。彼らは革命を扇動する演説をしたり、革命的な行動を取ったということで、フリーメーソンリーから除名されたんでしょうか?
クライプ 今言われた、フランス革命などについては、私に歴史的な知識がないのでなんとも答えられません。
 私が述べた規則は、マスターの人が自分のロッジを支え、まとめてやっていくための規則なんです。ですから、マスターは、ロッジの中ではそういうことはやらないけれども、ロッジから一歩でも出たら、政府に反対の意見を持っていて、政治的な行動を起こすかもしれない。でも、その個人的な意見を、ロッジをまとめる上で持ち込んではいけないということなんです。ロッジの規則と個人とは別なのです。
片桐 現在ある憲章のすべてが、ずっと昔から成文化されていたとは確かに言えないでしょう。あらゆる人間の集団のルールがそうであるように、試行錯誤を重ねてできあがったものだと思います。「居住する国の法を守れ」という規約が生まれたのは、やはり苦い経験を積んだからでしょう。フリーメーソンリーは世界各地にありますが、現地の法律を守らないと、やはりその国の政府ににらまれますから。「違法行為」の最たるものは、やはり国家権力の転覆をはかる革命の謀議でしょう。
 フランス革命に数多くのメーソン会員が関わった。これは歴史的な事実だろうと思います。その史実が、「政治的陰謀を企む秘密結社」という風評のもとになっているのかもしれませんが、逆をいえば、だからこそ現在のイギリス系メーソンリーでは組織としての政治活動を禁じる厳しい憲章が確立されたのかもしれません。これはあくまで私の推測ですが一一。





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