便利なキャッシュレス時代に感じる「気味の悪さ」の正体 〜『キャッシュレス覇権戦争』(岩田 昭男 著)を読む
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2019.4.13 情報工場 ダイヤモンド・オンライン
国内のQRコード決済市場は2023年に8兆円規模にも達すると言われています Photo:PIXTA
視野を広げるきっかけとなる書籍をビジネスパーソン向けに厳選し、ダイジェストにして配信する「SERENDIP(セレンディップ)」。この連載では、経営層・管理層の新たな発想のきっかけになる書籍を、SERENDIP編集部のシニア・エディターである浅羽登志也氏がベンチャー起業やその後の経営者としての経験などからレビューします。
キャッシュレス化で
リアル店舗での買い物も丸裸に
何か商品を買おうと思った時に、まずはネットで検索するのが習慣になっている人が、最近は多いのではないだろうか。
かく言う私もそうだ。先日も、ある商品を買ってみようと思い立ち、グーグルの検索窓に商品名を打ち込んだ。そして、その商品を扱っている複数のネットショップを閲覧し、価格を比較した。結局、その時は購入には至らなかった。
ところが、しばらくしてフェイスブックを眺めていたら、私のタイムラインに、その商品や関連商品に関する広告がひんぱんに表示されるようになった。
きっと多くの人が、同じような経験をしているはずだ。
私の場合、表示された広告は楽天市場が出広したものだった。確かに閲覧したサイトの中に楽天市場もあった。だが、楽天グループのサイトに広告が表示されるのは、まだわかる。だが、私が見ているのはフェイスブックのタイムラインだ。つまりこれは、少なくとも閲覧履歴という個人情報が、楽天とフェイスブックの2企業間で共有されていることを意味している。
私自身は、こうした広告を「便利」と感じる方だ。インターネットによる生活の利便性向上の1つだと思うからだ。しかし、個人情報が、自分の関知しないところで勝手に共有されている事実に気味の悪さを感じる人もいるに違いない。
例えば、これがリアルな生活の場面にまで広がったらどうだろう。デパートなどの実店舗で、ネットで検索や閲覧をせずに購入した商品の広告が、SNSの画面にタイミングよく表示されたら、さすがの私でもうす気味悪いと感じるかもしれない。日常の行動がすべて監視されているような気がするからだ。
いま日本政府は、経済成長のエンジンの1つとして「キャッシュレス化」の方針を掲げている。実は、このキャッシュレス化が、上記の「監視されているかのような気味の悪さ」を現実にしそうなのだ。
リアル店舗で現金を使う分には、店員に話したり、会員登録などをしたりしない限り、名前や住所、連絡先、これまでの購入履歴といった個人情報が「売る側」に渡ることは、ほとんどない。しかし、キャッシュレス決済の場合、金融口座やクレジットカードに登録してある個人情報がオンラインで決済業者や店舗に流れる。
つまりキャッシュレス化が進めば進むほど、多くの人の日常的な購買行動がネットに流れ、データ化される。果たして、これを「便利」の一言で片付けてよいものだろうか。
『キャッシュレス覇権戦争』 岩田昭男著 NHK出版(NHK出版新書) 780円(税別)
本書『キャッシュレス覇権戦争』は、日本で進行中のキャッシュレス化の現状を整理した上で、それが私たちの生活に及ぼす影響や、新たに生じる課題について論じている。
著者は、『Suicaが世界を制覇する』(朝日新書)などの著書がある消費生活ジャーナリストの岩田昭男氏。流通、情報通信、金融分野を中心に活動し、現在はNPO法人「消費生活とカード教育を考える会」理事長も務める。特にクレジットカードについては30年にわたり取材を続けている第一人者だ。
火ぶたが切られた
8兆円市場をめぐる熾烈な争い
キャッシュレス化は中国や韓国、北欧などで先行しており、日本は後れを取っている。特に中国では、ネット通販大手アリババの「アリペイ」や、メッセンジャーアプリで成功したテンセントの「ウィーチャットペイ」などの普及が著しい。
これらはQRコードを顧客がスマホで読み取るだけで決済が可能。機器を導入する必要がないため、店舗側の導入が一気に広がった。
よって、こうした気軽なスマホ決済がキャッシュレス化の導線になるのは間違いなく、ここにきて日本でも同様の新しい決済サービスが、雨後のたけのこのように多業種から次々と登場している。
例えば、携帯事業者系ではdocomoの「d払い」やauの「au PAY」、ソフトバンクとヤフー共同出資による「PayPay(ペイペイ)」、ITサービス系では「LINE Pay」「楽天ペイ」「Amazon Pay」、コンビニ系では現時点で「ローソンスマホレジ」がスタートしている。
また、メルカリの「メルペイ」、モバイル決済ベンチャーによる「Origami Pay」など、ベンチャー企業も参入。いささか多すぎるほどのスマホ決済サービスが、ユーザー獲得にしのぎを削る。
日本能率協会総合研究所の予測によれば、国内のQRコード決済市場は2023年に8兆円規模にも達する。この「8兆円市場」でシェアを獲得しようと、決済事業者同士の熾烈な「覇権戦争」が繰り広げられているのだ。
その競争の激しさを象徴する出来事の1つに、昨年末の、いわゆる「PayPay(ペイペイ)祭り」がある。
これは、2018年12月4日にスタートしたQRコードを使った決済サービス「ペイペイ」を運営するPayPay株式会社が仕掛けた「『100億円あげちゃう』キャンペーン」をめぐる騒動である。
このキャンペーン期間中は、1人5万円を上限に、支払額の20%相当が利用者に還元されるほか、何度かに1回は全額がキャッシュバックされた。還元される総額は100億円。何とも大胆な大盤振る舞いだが、8兆円市場を考えれば、100億円など取るに足らないと、PayPayは考えたのだろう。
周知の通り、このキャンペーンには短期間に顧客が殺到。あっという間に100億円を使いきり、最長4ヵ月間を予定していたキャンペーンは、たった10日で終了してしまった。
今後は、他社も多様なキャンペーンでシェア獲得を狙うはずだ。プレイヤーが出そろえば、覇権戦争はさらに激しくなる。
自分で個人情報を
コントロールできる仕組みの構想も
岩田氏は、キャッシュレス社会が「データ監視社会」につながると指摘する。キャッシュレス決済が普及することで、「誰が・いつ・どこで・何を・いくらで・どれだけ買ったか」といった情報が、私たちの知らないうちに勝手に収集・分析される社会になるというのだ。
では、「勝手に」データを収集されない方法はあるのだろうか。
その点に関して岩田氏は、2018年5月18日にEU(欧州連合)が施行した法律「GDPR(General Data Protection Regulation:一般データ保護規則)」を紹介している。
GDPRは、EU28ヵ国にノルウェーなど3ヵ国を加えたEEA(欧州経済領域)でビジネスを展開する企業に適用される。EEA31ヵ国に所在するすべての個人データを圏外に持ち出すことが原則禁止されるのだが、重要なポイントは、各個人が自らの個人情報をコントロールする「データポータビリティ権」が保証されることだ。
実は日本でも同様の取り組みが進められているのをご存じだろうか。本書でも紹介されている「情報銀行」の構想だ。
政府主導で進行中のこの構想は、情報銀行が個人の購買履歴、家計収支、健康情報といった多様なデータを個人から預かり、一元管理するものだ。そうした情報がほしい企業には、データの所有者である個人の意向を確かめた上で、情報銀行が提供する。
さらに情報銀行にデータを預ける個人は、それをどの企業に、どういう個人情報を提供するか、細かく指定できるようになるという。つまり、「サイトの閲覧履歴を楽天には提供してもいいが、フェイスブックには渡さないでほしい」といった、個人情報提供をコントロールすることが可能になる。
このようにネットの利便性を享受しながらも、必要なプライバシーを守るためのルールづくりは、確実に進められているようだ。
だが、利便性と個人情報保護の両立は、完全なトレードオフではないものの、なかなか一筋縄にはいかない。
「Duck Duck Go」という検索エンジンがある。これは「あなたを追跡しない検索エンジン」が売りで、利用者の個人情報の保存や収集を一切行わない。
ところが使ってみると、個人情報を活用しないサービスが、いかに不便かを思い知らされることになる。
例えばDuck Duck Goでは、検索結果の表示順に過去の検索履歴やユーザーの指向などが勘案されない。そのため、自分にとって無駄な情報が上位に来ることがあるので、役立つ情報にたどり着くのに、余計な手間と時間がかかる。
シンプルな表示に最初はすがすがしさを感じるのだが、だんだん不便さがつのり、正直イライラしてくる。
これからのインターネットを利用したイノベーションに、個人情報の収集と流通に関する検討が欠かせなくなるのは間違いないだろう。利便性とプライバシーのバランスをどうとっていくかを慎重に考慮せざるを得ない。
本書では、キャッシュレス化による利便性と、個人情報保護に関する課題の両面からの議論が、わかりやすく整理されている。企業と個人の双方が個人情報を上手にコントロールしながら、より便利な社会を築くために何が必要か、本書を参考に、しっかりと考えてみたい。
(文/情報工場シニアエディター 浅羽登志也)
便利なキャッシュレス時代に感じる「気味の悪さ」の正体 | イノベーション的発想を磨く | ダイヤモンド・オンライン https://t.co/oCdzQ1fyq0 クレジットカードを使ってこなかった人達の購買内容を分析する労力ってすごくて成果は少なそう
— motoeng (@motomotodan) 2019年4月13日
便利なキャッシュレス時代に感じる「気味の悪さ」の正体 ダイヤモンド・オンライン いま日本政府は、経済成長のエンジンの1つとして「キャッシュレス化」の方針を掲げている。実は、このキャッシュレス化が「監視されているかのような気味の… https://t.co/W2VvR4F1S5
— 歴史ガイド (@Rekishi_Guide) 2019年4月12日
ネットの利便性を享受しながらも、必要なプライバシーを守るためのルールづくりは、確実に進められているようだ。https://t.co/LKAgIwQkcC
— kaoru (@kaoru14052660) 2019年4月12日
QRコード決済市場って8兆円なのか。
— 🙌🏾 カガタケシ|コムニコ(SNS企画・運用) (@takeshi_gaka) 2019年4月13日
それならPayPayも100億かけて獲りにくるのも理解できる。
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