晴海・五輪選手村の「巨大タワマン」が我々の不動産にもたらす影響 地価暴落の引き金を引くという見方も
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2019.04.13 週刊現代 :現代ビジネス
いま、マンションは「買い時」か「売り時」か。難しい問題だが、4年後に引き渡し予定の「晴海フラッグ」から目を離してはいけない。前代未聞の巨大マンション群が、今後の不動産価格を大きく左右する。
まさに国家プロジェクト
東京オリンピック開催まで、ついに500日を切った。世界のオリンピアンが集う選手村は、東京都中央区晴海5丁目に設けられる。目前に東京湾が広がり、周囲には既存のタワーマンションが立ち並ぶ典型的な湾岸エリアだ。
目下建築中の選手村予定地を歩くと、要塞のように湾岸を取り囲む高層ビル群が目を引く。フェンスや建物の外壁にかけられた防護ネットには、三井、住友、東急……さまざまなデベロッパーのロゴが並ぶ。
晴海5丁目の再開発は、三井不動産レジデンシャルを幹事とする大手デベロッパー11社共同で行われる。まさに「国家プロジェクト」の雰囲気をにおわせる現場だ。
選手村の面積はおよそ13ヘクタール。東京ドーム2.8個分の土地開発に業界全体が足並みを揃えて協力するのにはワケがある。2023年、選手村の跡地を利用した巨大レジデンス「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」が完成するからだ。
晴海フラッグは選手村として使用した宿泊施設を改修し、さらにタワマンを2棟新たに建てて一般用住宅に作り替える。分譲と賃貸あわせて5632戸、1万5000人規模の住宅街が誕生する。
マンションだけでなく、ショッピングモールや小中学校、介護付き有料老人ホームも併設される。750台以上の防犯カメラがネットワークでつながり、セキュリティも万全。さながら近未来のニュータウンだ。
そして今年5月、いよいよ分譲4145戸の販売が始まるのだ。引き渡しまで最長4年、改元後最初の巨大都市計画であることは間違いない。
「おそらく引き渡しが4年先というのは過去に例がないでしょう。住友不動産が天王洲で手掛けた約2000戸の『ワールドシティタワーズ』が、販売から3年後の引き渡しでしたが、それ以上の長期プロジェクトははじめて聞きました」(住宅ジャーナリストの山下和之氏)
晴海フラッグが注目されるのは、規模や五輪のプレミアムによるものだけではない。
その「価格」である。公式発表はされていないが、販売価格は1坪あたり270万円前後との見方が強い。周辺エリアのタワマンが300万円前後と言われているから、相場の1〜2割ほど安く売られることになる。
投資用か、住宅用か
ご存じのとおり、新築マンション市場は徐々に停滞感がにじみ出てきた。'18年、首都圏の新築マンション平均価格は5871万円で、前年度から0.6%ダウンだったことがそれを物語る。
ところが東京23区に絞ると、平均販売価格は7142万円で前年比0.7%増となり、依然として上昇トレンドにある。
都心部と周辺部の「マンション格差」は広がる一方だ。このような状況のなか、中央区アドレスの割安マンションは魅力的に映る。値上がりは間違いない、そう信じる人も少なくないだろう。
そもそも、悲願だった東京での五輪開催、そしてそのレガシーを生かした都市開発は、本来であれば不動産の「上げ潮」ムードの象徴と考えてもいいはずだ。
では晴海フラッグは値上がりするのか。結論から言えば、そう単純ではない。
順を追ってみていこう。
まずは立地の難。中央区とはいえ、三方を川と海に囲まれた「陸の孤島」である。最寄り駅となるのは都営大江戸線の勝どき駅だ。新橋駅まで12分、六本木駅まで14分と利便性は高い。
とはいえ、勝どき駅までは歩いて最短でも17分はかかる。駅遠を解消するため、バス高速輸送(BRT)が晴海フラッグと勝どき駅を繋ぐが、予定本数は1時間に6本。朝の通勤ラッシュに対応しきれるとは思えない。
立地上の問題は他にもある。最近のタワマンは十分な免震対策が図られているが、晴海は東京湾に面する埋め立て地だ。災害時はさまざまな弊害に見舞われることは想像に難くない。
住宅ジャーナリストの榊淳司氏は言う。
「東日本大震災のとき、同じく埋め立て地の千葉県浦安市では一部液状化現象が見られました。晴海や豊洲などの湾岸エリアでも同様の被害が出ることは十分に想定されます。
また、周囲に大規模マンションが非常に多いため、災害時には救援が来るまで時間がかかるでしょう。水と電気が止まったまま、高層階に留まらなければいけなくなる。これらは大きなデメリットです」
引き渡しまでに起きること
東京の新築マンションが高騰を続けるのは、値上がりへの期待や相続税対策としての期待が高かったからだ。不動産は「住む」ものではなく、金融商品として取り引きされてきた。だが晴海フラッグは、投資用には向かない物件と考えたほうがいい。
「投機目的のマンションは、多いと常時2%は売りに出ています。分譲約4000戸のうち80戸以上、ふつうのマンション1棟分が市場に出ているとなると、まず晴海フラッグ内での価格競争が起こり、値下がりするスピードが早い。
併せて1400戸以上が賃貸として供給されますから、人に貸そうにも更なる値下げ合戦に飲み込まれることになります」(榊氏)
そもそも投資目的で4年も先に引き渡される物件を狙うのは、分の悪いバクチと考えるのが普通だ。
「最大の懸念事項は、金利水準です。いちばん安価な物件で売り出し価格が6000万円程度と仮定します。30年の住宅ローン金利が0.5%から1.5%に上昇したとすると、総支払額は1800万円増える計算になる。
つまり、割安で買った意味がなくなります。日銀の黒田東彦総裁の任期はちょうど'23年4月までで、いまのゼロ金利政策が変化していてもおかしくない」(前出・山下氏)
ただ、投資目的でなく住宅用に購入したい人にとっては、湾岸の最新タワマンが安く手に入るのは魅力である。しかし、その安さは東京の不動産市場全体に影響を与えるだろう。
ただでさえ、値段が上がりすぎた都心部の新築マンションでは買い控えが進んでいる。
そのようななか、近年のタワマンブームの象徴ともいわれた湾岸エリアに格安物件の大量供給が行われることで、過熱していたマンション投資に冷や水を浴びせることになるからだ。
晴海フラッグが引き渡されるまでの4年間で、不動産市況が大きく変わる要因がある。オラガ総研の牧野知弘氏は言う。
「まず、後期高齢者の人口が多い大田区や世田谷エリアでは大量の相続が発生します。次に、'22年に生産緑地の指定期限があります。生産緑地とは、農地として使う義務と引き換えに、固定資産税などの大幅減税が受けられる土地のことです。
いずれにしてもマンション用地が増え、晴海フラッグと同じような割安レジデンスが大量に生まれるきっかけになるでしょう」
晴海フラッグ最大のメリットである「お買い得感」が周囲の物件価格を下げ、そこに人口構造の変化などが加わる。そうなると物件引き渡し時には、晴海フラッグは「お買い得物件」ではなくなっているかもしれない。
では、具体的に東京のどのエリアから不動産価格の下落ははじまっていくのか。
「ゆりかもめが走る有明や東雲エリアの駅遠物件は危ないと言えるでしょう。すでに、湾岸エリアに投資目的で物件を持つのは危険な賭けだとされていますが、その傾向は強まります。
どうしても湾岸で買いたいのであれば、月島や勝どき駅至近のタワマンなどを買ったほうがまだ安全です」(牧野氏)
山手線外のエリアでも世田谷、杉並などは地価が安定していた。だが、晴海フラッグの登場によってそのあたりも危なくなる。
「山手線の内側では、今や坪300万円以下で買える物件はなく、晴海フラッグの売り出し予想価格を坪270万円程度と考えれば、ここは競合するエリアではありません。
懸念すべきは、世田谷や目黒区、杉並区や品川の一部エリアと食い合う価格帯であることです。今回の住宅大量供給は当然、これらの地域の下落圧力となります」(前出・榊氏)
「五輪直後」に注意
一方、山手線外の住宅地でも、値段が下がらない地域もある。マンション管理士の日下部理絵氏が言う。
「墨田区の錦糸町や足立区の北千住といった下町エリアの人気はしばらく続き、大きな影響はないと考えられます。また、中野付近の中央線エリアも根強い需要に支えられるでしょう」
問題は、この「晴海ショック」とも言うべき現象が、いつ起こりうるのかということだ。
オリンピックが終わっても、建築資材や人件費の高騰が続き、ひとまず不動産価格は暴落しないとポジティブに捉える向きもある。
だが晴海フラッグの売れ行きに着目すれば、やはり「五輪直後」が大きなターニングポイントになると考えておいたほうがよい。一方、山手線外の住宅地でも、値段が下がらない地域もある。マンション管理士の日下部理絵氏が言う。
「墨田区の錦糸町や足立区の北千住といった下町エリアの人気はしばらく続き、大きな影響はないと考えられます。また、中野付近の中央線エリアも根強い需要に支えられるでしょう」
問題は、この「晴海ショック」とも言うべき現象が、いつ起こりうるのかということだ。
オリンピックが終わっても、建築資材や人件費の高騰が続き、ひとまず不動産価格は暴落しないとポジティブに捉える向きもある。
だが晴海フラッグの売れ行きに着目すれば、やはり「五輪直後」が大きなターニングポイントになると考えておいたほうがよい。
先述のとおり、4年という晴海フラッグの売り出し期間は異例中の異例だ。4000戸超を途切れることなく売り切るのは、11社合同プロジェクトであることを考慮しても簡単なことではない。
「普通のマンションはスタートの第1期が重要で、その半分が即日売れれば好調とみなされます。4年で4000戸を売るとすれば、第1期で少なくとも500戸は売らなければなりません。これでつまずくことがあれば、先行きは怪しくなります。
デベロッパーは五輪が盛り上がっている'20年の夏がピークになるように、販売の差配をすると思います。
ただ、すでに消費増税を終えたあとで、駆け込み需要は期待できません。五輪が終わってから、空室を埋めるために、ズルズルと値下げしつづける事態になれば最悪です」(榊氏)
一見明るいニュースに思えても、不動産大暴落の引き金になりかねない選手村の今後。近いうちに不動産の売買を考えている人は、晴海フラッグの動向から目を離してはいけない。
「週刊現代」2019年3月30日号より
東京・晴海の五輪選手村跡地を利用する分譲マンション「晴海フラッグ」の販売が間もなく開始される。前代未聞の巨大タワマンは「買い」なのか。地価への影響も見逃せない。そんな晴海フラッグの最新情報を緊急レポート!https://t.co/TYJlSzW3FB #マネー現代
— マネー現代 (@moneygendai) 2019年4月13日
2023年、#東京オリンピック 選手村の跡地に巨大レジデンス「晴海フラッグ」が誕生する。一見明るいニュースに思えても、#不動産大暴落 の引き金になりかねない選手村の今後。https://t.co/60tHGfiJim
— 無核 (@nonucs) 2019年4月13日
晴海はほんと不便なので見送りました。
— AssetArt (@AssetArt) 2019年4月13日
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