外為フォーラムコラム2018年12月21日 / 13:31 / 4時間前更新
原油急落はいつ円高を招くのか
高島修 シティグループ証券 チーフFXストラテジスト
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[東京 21日] - 米株の下落と並んで原油安が進んでいる。ニューヨーク市場のWTI原油先物は、10月初めに1バレル=75ドル以上に上昇したものの、その後は急落に転じ、12月3週目に50ドルを割り込んだ。
原油安は日本の輸入額を減少させ、貿易収支など国際収支の改善を通じてドル円相場に円高圧力を加える。ただ、そのメカニズムは複雑で、短期と長期の影響はそれぞれ異なる波及経路で表面化してくる。
短期的に警戒すべきは、投資家のリスク回避志向を一段と強めて円高圧力を生む展開である。一方、より重要な日本の国際収支を通じた中長期的な影響は、早くても2019年終盤まで顕在化することはないと考える。
<謎の原油急落>
原油相場は10月上旬、突如として崩れ始めた米株とともに下落に転じた。そのタイミングは、地政学的に重要な2つの出来事と重なった。1つは10月4日のペンス米副大統領によるハドソン研究所での演説で、中国を徹底して批判し、対決姿勢をあらわにする内容だった。
原油相場にとってそれ以上に重要だったのは、10月2日に発生したサウジアラビア人ジャーナリストの殺害事件だろう。折しも11月の米中間選挙前、支持率浮揚を狙ったトランプ大統領が、サウジに対して執拗な原油の増産要求をしている最中だった。
サウジは米国などから制裁を科されかねない苦しい立場に立たされた。原油相場の下落には、サウジがトランプ大統領からの要求をのみ、増産に動かざるを得なくなるとの思惑が誘発した側面もあった。
国際通貨基金(IMF)によると、サウジの財政収支が均衡する原油価格は数年前には100ドルを超えていたが、足元は80ドル前後まで低下している。それでも今のようにWTIで50ドル、より国際的な市況を反映する北海ブレントで60ドルを下回る事態に陥れば、致命傷になりかねない。サウジは史上最大の新規株式公開(IPO)として注目された国営石油会社サウジアラムコの上場も見送っている。
サウジのファリハ・エネルギー産業資源鉱物相は石油輸出国機構(OPEC)加盟国やロシアなどと再減産の方向に舵を切り、7日の産油国会合で日量120万バレルの減産を決定した。原油の需給は次第に改善に向かっていくと考えられるが、価格底入れの兆しはまだ見えない。
こうした状況が長引けば、産油国は財政赤字補てんのため国外資産の売却に動く可能性がある。すでにぜい弱な、米株を始めとした世界の金融市場を一段と不安定にしかねない。
<シェール企業の信用不安リスク>
米国のシェール企業などに信用リスク不安が広がる可能性にも警戒が必要だ。2015年に原油安が進み、米シェール産業の採算ラインとみられていた1バレル=50─60ドル(WTI)を割り込んだ際には、世界は米中株安など信用収縮相場を経験した。
投機的な格付けが多い米国のハイイールド社債市場は、シェール企業などエネルギー産業の占める割合が大きく、採算ラインを割り込む原油安で生じる経営リスクに対して警戒感が高まったためだ。シェール各社の企業努力もあり、現在の採算ラインは40─50ドルまで下がったと言われているが、足元の原油安は再びそれを脅かしかねない状況にある。
2015年と同様、米社債市場では現在も上乗せ金利が膨らむクレジットスプレッドのワイド化が進んでおり、米株安と並んで市場のリスク回避志向の高まりを象徴する事態になっている。為替市場では円高圧力が強まりやすくなる。
原油相場が現在の水準で底入れし、北海ブレント1バレル=70ドル前後、WTI60ドル前後で安定するのであれば、市場は数カ月前に警戒された80ドル台を超えるような原油高リスクが後退したことを好感するはずだ。米株の底入れなど市場環境は好転し、ドル円相場は円安に傾くだろう。
逆に北海ブレント60ドル、WTI50ドルを割り込む現在の状況が長期化するようだと、サウジなどによる資産売却やシェール企業の経営不安などへの警戒感が高まり、強まる市場のリスク回避志向がドル円相場を押し下げる。
もちろん、すべての原油安が世界のリスク資産にとってネガティブ材料という訳ではない。産油国への不必要な所得移転を減らし、米国や日本、中国などエネルギー輸入国における消費者の購買力を改善し、景気にポジティブに作用する効果もある。また、今回のようにインフレ懸念の後退が米金利上昇を抑制することになれば、トルコやインドなど資源輸入国を中心に、新興国経済には追い風になる。
<長期的な影響は2020年か>
一方、日本の国際収支を通じて表面化してくる油価変動の長期的な影響は、ここまで複雑なものではない。原油安は日本の輸入減、しいては貿易収支の改善につながり、ドル円相場には上昇圧力となる。原油高であれば逆の方向に作用する。いずれも1年ほどのタイムラグを置いて表面化する傾向にある。
日本のエネルギー輸入額は、年間17兆円規模に膨らんでいる。10月以降原油価格が2割ほど下落したため、その額は約3兆円減る見込みだ。貿易収支、国際収支全体を改善する可能性がある。
ただし、2019年10月に予定されている消費増税が貿易収支に与える影響には注意が必要だ。過去の増税時には駆け込み需要が輸入を増加させ、貿易収支が悪化した。逆に増税後は反動で輸入が減少し、貿易収支が改善した。
安倍晋三政権がさまざまな増税対策を講じることを考えると、これまでほど輸入が大きく増えることはないとみている。それでも事前の景気対策が内需を押し上げ、最近の原油安による輸入減を相殺する可能性がある。
しかも、日本企業による大型の海外投資案件がこのところ相次いでいる。経常黒字をほぼ帳消しにする年間14兆円規模の直接投資は、さらに5割以上増えてもおかしくない。これも原油安に伴う日本の国際収支改善を阻む。それどころか、一段と悪化させる要因になるだろう。
原油安による国際収支改善に伴い、長期的な円高圧力が表面化してくるのは、早くても2019年10月の消費増税後になると筆者はみている。場合によっては、2020年までずれ込んでもおかしくない。
(本コラムは、ロイター外国為替フォーラムに掲載されたものです。筆者の個人的見解に基づいて書かれています)
(編集:久保信博)
高島修 シティグループ証券 チーフFXストラテジスト(写真は筆者提供)
*高島修氏は、シティグループ証券のチーフFXストラテジスト。1992年に三菱銀行(現・三菱東京UFJ銀行)に入行し、2004年以降はチーフアナリスト。2010年シティバンク銀行入行、チーフFXストラテジストに。2013年5月より現職。
https://jp.reuters.com/article/column-forexforum-osamu-takashima-idJPKCN1OK0BE
外為フォーラムコラム2018年12月21日 / 11:00 / 2時間前更新
米利上げや安全資産需要、それでもドルが売られる理由
Jamie McGeever
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[ロンドン 20日 ロイター] - 世界経済の雲行きが急速に怪しくなり、米国の景気後退(リセッション)がちらつき始め、株価と長期金利が下がり、米国債の長短イールドカーブが今にも逆転しそうな状況では、ドルは堅調と考えるところだろう。
なぜなら投資家は安全な場所に避難しようとして、米国に資金が戻り、世界的にも安全資産と流動性の需要が一気に高まる。これらは全てドルの上昇につながる。
とりわけ米連邦準備理事会(FRB)が先進国で唯一、引き締め政策を実行している今の局面なら、なおさらだ。米国の長短金利が、どの先進国をも大幅に上回っているからであるのは言うまでもない。
だが現実は異なる。FRBが19日に今年4回目の利上げに動き、来年も金利正常化を続ける意向を示したにもかかわらず、ドルは下がった。しかも急激に。
20日のドルの下落率は今年を通じても屈指の大きさで、週間ベースでは今年2月の米国株急落直後以来の値下がりとなりそうだ。
どうしてそうなったのか明確な理由は見出せないが、いくつかのもっともらしい説明要素はある。
まずは、市場のポジション動向だ。投資家とトレーダーは膨大なドル買い持ちを積み上げてきたので、年末を迎えて持ち高を圧縮しようと考えるのは自然と言える。
バンク・オブ・アメリカ・メリルリンチが今週公表した12月の調査によると、ファンドマネジャーの間で「ドル買い持ち」は最も集中的に行われた取引だった。
ヘッジファンドなどの投機筋は6月以降ドル買い持ちを続け、今月に入って一時、買い持ち規模は310億ドル強と約2年ぶりの高水準を記録。その後やや減ったものの、なお285億ドルと相当残っており、当面さらに縮小する余地がある。
これは来年のドルはやや値を消すだろうという、為替市場におけるより幅広いコンセンサスとも一致する。為替アナリスト60人余りを対象とした最新のロイター調査では、ドルは来年5%前後下げるとの見方が示された。
もちろん為替レートは相対的なので、米国の金融政策だけではドルを動かす要素の半分にしかならない。他の条件が全て等しい場合、FRBの利上げペースが想定よりも緩やかになってもドルが底堅さを維持できるのは、他の主要中央銀行も同じ程度ハト派的になるケースしかない。
しかしユーロ圏、英国、日本の金融政策は既にとてつもなく緩和的で、ユーロ圏と日本では政策金利はマイナスとなっており、さらなる緩和余地は限られる。
主要国の政策運営を比較して、FRBがよりハト派的になって、欧州中央銀行(ECB)と日銀、イングランド銀行(英中央銀行、BOE)がいずれも現状維持であるなら、ドルは足を引っ張られる。
さらにFRBは来年2回、2020年に1回の追加利上げを想定しているとはいえ、金利先物市場は2020年の利下げを織り込み始めた。
米国の金融政策サイクルが今どの位置にあるかに留意することも大きな意味を持つ。
スタンダード・バンクのスティーブ・バロー氏が指摘するように、引き締めサイクルの初期、あるいはそのサイクルが始まる前でさえも、サイクル終盤よりもずっと大きくドルを押し上げる傾向がある。
バロー氏は「市場がオーバーキル(過度の利上げによる景気失速)を心配するようなら、利上げがドルの弱気材料になり、現在はそういったケースだ」と語り、FRBがトランプ政権から利上げをやめるようかつてないほどの政治圧力を受けている点にも言及した。
そして最後に、ドルを圧迫してユーロを支える長期的、構造的な要因が存在する。これは日々の為替取引では考慮されていないかもしれないが、足元で再び脚光を浴びる形になった。
19日に発表された米国の第3・四半期経常赤字は1248億ドルと10年ぶりの高水準だった。前期を236億ドルも上回り、拡大幅は過去2番目の記録に並んだ。
一方20日に発表されたユーロ圏の10月の季節調整済み経常収支は230億ユーロの黒字で、1─10月では黒字額が2840億ユーロ。今年1年間でも、最高だった昨年の3534億ユーロ並みになると見込まれる。
これらの要素を総合して考えれば、いくら米金利上昇や世界経済と市場環境の悪化といったドルに追い風とみられる材料があっても、ドルの苦境はそれほど不思議でないかもしれない。
https://jp.reuters.com/article/dollar-reason-column-idJPKCN1OK06L
トップニュース2018年12月21日 / 15:21 / 1時間前更新
焦点:
ナスダック弱気相場寸前、FAANG株の「落日」鮮明に
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[ニューヨーク 20日 ロイター] - いわゆるモメンタム投資は全てがバラ色に包まれているわけではない──。これは20日のニューヨーク株式市場でナスダック総合が弱気相場に片足を突っ込んだ中で、投資家が味わった苦い教訓だ。
長期にわたる米国株の強気相場が終盤に差し掛かってもなお、今まで投資家はさらに値上がりしそうだとみなされた一連の銘柄に買いを入れ、多大な利益を手にしてきた。だが足元で潮目が変わり、投資家は十分素早く逃げ出すことができないように見える。
モメンタム投資の代表格は、フェイスブック(FB.O)、アマゾン・ドット・コム(AMZN.O)、アップル(AAPL.O)、ネットフリックス(NFLX.O)、アルファベット(GOOGL.O)子会社グーグルの頭文字を合わせた「FAANG」銘柄の買い。
こうした取引についてロバート・W・ベアードの機関投資家セールス取引担当マネジングディレクター、マイケル・アントネッリ氏は「幕が下りた。もはや箸にも棒にもかからない。『FAANGトレード2009─18』という墓碑銘が刻まれている」と述べ、5社の成長率とバリュエーションの高騰は最終的にストップしたと付け加えた。
20日のナスダック総合終値は、8月29日に付けた最高値から19.5%下がり、2割安という弱気相場入りの正式認定が目前になった。8月終盤以降のFAANGの下落率は19─30%程度だった。
ナスダック総合構成銘柄のいくつかはもっと大きく下げているとはいえ、時価総額や投資家層の幅広さから言ってもFAANGの指数全体に対する影響力は抜きんでている。
アップルを除くFAANGの予想利益に基づく株価収益率(PER)は、依然としてS&P総合500種の15.3倍を相当上回っている。それでも株価急落に伴ってPERは下がっており、アマゾンとネットフリックスの下振れ幅が最も大きい。
チェリー・レーン・インベストメンツのパートナー、リック・メクラー氏は「FAANGのバリュエーションをきっちり把握するのは非常に難しい。多くの部分が将来の話だからだ。投資家は彼らが描く未来図に喜んで対価を支払う場合もあるし、そうでない場合もある。今は対価を払うのを渋っているようだ」と話した。
ただしハイテク株は経済全体の減速が予想される局面で堅調さを保つ可能性があり、積極的には資金を引き揚げない投資家もいる。
インベスコのチーフ・グローバル市場ストラテジスト、クリスティナ・フーパー氏は、FAANGに関して投資家の側に選別化・差別化の姿勢が強まっていて、この傾向は続くと予想。「FAANGの一部にとって買い場が提供されるのは間違いないが、全ての買い場になるわけではない」と説明した。
(Chuck Mikolajczak、Caroline Valetkevitch記者)
https://jp.reuters.com/article/faang-investment-idJPKCN1OK0F4
イタリア債、外国人の売りが債務危機来の高水準−機関投資家は敬遠
James Hirai
2018年12月21日 16:05 JST
海外勢は1−10月の累計では500億ユーロを売り越し
予算問題は今週決着したが一部の大手機関投資家はまだ敬遠
外国人投資家のイタリア債売り越しが今年、欧州債務危機のさなかだった2012年以降で最大になっている。
欧州中央銀行(ECB)が20日公表したデータによると、海外勢は10月にイタリア国債と短期証券38億6000万ユーロ(約4900億円)相当を売り越し。1−10月の累計では500億ユーロに達した。これは2012年の550億ユーロ以来の高水準。
ポピュリスト政権の誕生と予算を巡る欧州連合(EU)との対立の中でイタリア債は売られてきた。今月は回復しつつあり予算問題は今週決着したが、一部の大手機関投資家はまだ敬遠している。
合計で2兆ドル(約223兆円)を運用するアライアンスバーンスタイン、アバディーン・スタンダード・インベストメンツ、アクサ・インベストメント・マネジャーズの3社は、ユーロ圏でトップクラスの利回りでも、リセッション(景気後退)や選挙、銀行危機の可能性を含むリスクに照らして十分ではないと考えている。
Love Lost
Foreigners sold the most Italian bonds and bills for six years in 2018
Source: ECB
原題:Foreigners Sell Most Italian Bonds Since 2012 Euro-Zone Crisis(抜粋)
https://www.bloomberg.co.jp/news/articles/2018-12-21/PK2CX66S972801
http://www.asyura2.com/18/hasan130/msg/227.html