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衝撃! キャッシュレス大国・中国の「知られざる闇」 QRコードを使った窃盗事件が続出中
https://gendai.ismedia.jp/articles/-/58098
2018.11.09 姫田 小夏 フリージャーナリスト 現代ビジネス
「偽札」をつかまされなくなったのはよかったが…
「いまどきの中国人は財布なんて持たないのさ」――そんなコメントをよく聞く。日本に来た中国人観光客は、財布を開いて小銭を数える日本人をチラ見して、「中国は完全に日本を抜いた」と溜飲を下げているらしい。
だが、「財布を持たない」なんてホントなのか、「現金いらない」は単なる見栄じゃなかろうか? じつは、そう思わざるを得ない「キャッシュレス問題」が中国ではいまいたるところで起きているからだ。ほとんど報じられてない中国キャッシュレス化の「闇」についてレポートしたい。
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スマートフォンに表示されたQRコード(モノクロの四角い画像)をピッとスキャン。一瞬にして代金支払い完了のQR決済サービスが中国の人々にもたらすのは「煩わしさからの解放」だ。
小銭を数えないで済むし、最高額面の100元札で財布を膨らませなくても済む。何より偽札をつかまされなくなった。 “トランプのババ”よろしく流通するニセ札、つかまされたその日は夜も眠れないという中国人は星の数ほどいた。
上海でブティックを経営する女性も「従業員も売上金をちょろまかせなくなった」とニコニコ顔だ。野菜や肉を売る市場のおばさんたちは、「これまで角の単位は客に値切られていたが、おかげで1角、2角の単位まで課金できるようになった」と喜んでいる。富裕層相手の高級食材店も「小銭がいらなくなったので銀行に両替に行く手間が省けた」と大歓迎だ。
2013年、中国は「インターネットファイナンス元年」を迎えたが、以来、すっかりQRコード決済は中国市民の生活の中に定着したかのようだ。
QRコードで「金を騙し取られる事件」が続出中!
中国に拠点を持つアイリサーチによれば、中国のスマホ決済の規模はアメリカの50倍。中国ではスマホ決済が爆発的に伸びており、2017年に中国の商業銀行が処理したスマホ決済業務は375億件(前年比46%増)、金額にして202兆元(前年比28%増、約3232兆円)となった。
これが物語るのは、朝起きてから寝るまでQRコードにガッツリ支配される中国の現代人の生活だ。上海・浦東の金融街で働く何華(29歳、女性、仮名)さんもそのひとり。朝ごはんの定番「大饼油条」を買うのもQR、シェアサイクルの開錠もQR、商品情報を得るのもQRと、一日5〜6回はQRコードを読み取るのだという。「QRコードとスマホ決済は便利すぎ、これなしには生きていけない」(何さん)らしい。
けれども何華さんはどこかでこの“神決済”を疑っている。その理由は「お金を騙し取られたニュースが絶えないから」だという。
例えば、通販サイトの買い物中に、商店側から「商品情報はここ」と送られてきたQRコードを読み取った瞬間に、モバイルウォレットから18万元(約288万円)が消えてなくなったとか、シェアサイクルを開錠しようとQRコードをスキャンしたらデポジットの名目で299元(約4780円)が引き落とされたとかいう事件がある。
一部のメディアが報じるのは、2017年に広東省で起きた日本円にして14億円超が盗まれる事件だ。上海在住の日本人からは「充電した瞬間に残高がなくなるという被害もあるらしい」という話も聞いた。
QRコードで「金を騙し取られる事件」が続出中!
QRコードを利用した犯罪は主に2つのパターンがある。スマホにウイルスを感染させることで、利用者のウォレットから金を盗むというものと、自前で作ったQRコードを上から張り付けて、自分の口座にお金を落とさせるものだ。
中国全土でシェアサイクルに火が付いた2017年には、中国には自前のQRコードを何百枚と印刷し、夜中に張り付けて回る“窃盗団”も出現した。QRコードからリンクをたどっていきついた先で、ユーザーの身分証番号、カード番号、携帯番号など重要情報を盗み取られる被害も続出している。セキュリティのゆるいQRコード決済からの「巻き上げ」など朝飯前だ。
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しかも、ひとたびトラブルに直面すると、泣き寝入りするしかないのが中国社会だ。アリペイのウォレットから5万2000元(約80万円)を盗まれた青年の怒りは、“盗っ人本人”ではなく「損害賠償の拒絶」に向けられたものだった。
この青年は、アリペイに損害賠償を申請しようとしたら「あなたの損失は損害賠償の範囲には含まれない」とけんもほろろに一蹴された。青年は約款を熟読し、何度となくアリペイ側に掛け合い、その交渉に1か月を費やしたものの、結局取り戻せたのはたった2000元(約3万2000円)。
損失の補償額はケースバイケースだろうが、青年がネット上で公開する交渉の記録からは、保険を掛けさせておきながらいざとなれば申請を回避しようとする、企業側の対応の冷淡さが伝わってくる。
筆者のかつての上海での生活がそうだったように、中国社会では“万事諦め”が肝要である。トラブル解決にいざ問い合わせをしても、音声ガイダンスによってたらい回しにされてしまう。たとえ消費者が善意無過失でも、その合法的権益はなかなか保護されにくいのだ。
中国インターネットネットワーク情報センター(CNNIC)によると、中国におけるスマホユーザーは7億5300万人、スマホ決済の利用者は5億2700万人にも上るというが、本当はみんな“震える指”でスマホの決済ボタンを押しているのではなかろうか。
「中国の国産スマホで大丈夫なのか」問題
「国産スマホ大丈夫か?論」もある。
中国の7億5300万人のスマホユーザーのほとんどが「中国製」のスマホを利用する昨今、しょっちゅう壊れるスマホで正常な取引ができるのかというものだ。
IT専門調査会社IDCによれば、2017年の出荷台数でみた中国市場のスマホのシェアはファーウェイ(華為)が首位であり、それにオッポ(OPPO)、ヴィーヴォ(Vivo)、シャオミ(小米)と国産スマホが続く。近年の国産スマホのスピーディな発展はまぶしいくらいだ。
だが、輝かしい発展の裏には必ず「ひずみ」が存在するのは中国社会の鉄則。市場シェア争奪のみに目を奪われる中国メーカーに、果たして「不良品」に対する呵責はあるのだろうか。中国のスマホメーカーを取引先に持つ中国在住の日本人総経理がこんなことを話していた。
「中国の電子部品業界は、不良が出れば新しいものと交換すればいいという認識が強い。日本のメーカーなら徹底的に原因を追及し改善しようとするんですが」
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そもそも国産スマホの歴史は模造品から始まり、内陸部のアップルやサムソンを買えない層を中心にその後ローエンド版が広まった。100元(約1600円)のスマホで利益を出そうと思えば、組み込まれる部品は安価なものになるから、いつ故障が起きても不思議ではなかった。しかしそんな国産スマホも今は昔。日進月歩の技術力とシェア拡大で、多くの国民が支持するようになった。
上海在住で香港系物流会社に勤務する李瑞さん(38歳、男性、仮名)にとっては、国産スマホも“使い捨て”同然のようだ。李さんが今使っているスマホはレノボ製で、2か月前に1300元(約2万2000円)で購入した。使い心地を訪ねると、「1300元の国産品だからね、半年使えればそれで十分」という。本体価格1300元は使用中に不具合が出たとしても諦めがつく価格だ。
李さんの同僚が使うのは1800元(約2万8800円)のシャオミだ。ホワイトカラーも支持するシャオミなら、筆者も使ってみたいものだ。そう思って調べると、2018年第1四半期、シャオミは14%の高い故障率(モバイルデバイス診断企業ブランコ調べ)だった。
100台あれば14台が壊れる計算だ。発熱したり、画面がフリーズしたりするらしい。李さんのお母さん(66歳)は「壊れたら買い替えりゃいいんだよ」というが、そんな不安定な端末で行う「決済」なんて決して愉快なことではない。
人民銀行が「安全性が比較的低い」と認めた…
中国はキャッシュレス社会に向けて取り組みを加速させている。貨幣の発行を減らせば流通コストも減らせるわけだし、経済活動の透明度を高め、脱税やマネーロンダリングをなくすためにも、キャッシュレス化は有効だ。
だが、人民銀行ですら「安全性が比較的低い」と認めるのがQRコードだ。それでも中国がこれを推し進めるのは、「キャッシュレスといえば中国」というように、中国は「QRコード方式のキャッシュレス」で世界のトップに立ちたいからだ。
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ちなみに筆者はキャッシュレス化には決して反対はしていない。だが、セキュリティに不安が残るQRコード決済よりも、クレジットカードやプリペイドカードをそのままスマホに搭載するアップルペイやアンドロイドペイのほうがずっと安心じゃないかと思う。
また、中国のQRコード決済は利用規約がしょっちゅう変わる。なにぶん“一大実験の真っただ中”だから朝令暮改もやむなしだろうが、不安定なことこの上ない。しかも、市場は二大企業(アリペイとウィーチャットペイ)が寡占、利用者が翻弄されることはありはしないかと心配になる。
さて、貴州省には、「13日間のキャッシュレス生活」に挑戦した市民がいるという。果たして「完全キャッシュレス」に成功したかというと、惜しくもこの市民は「2元5角」を現金払いしていた。日本円にしてわずか40円程度だが、スマホ決済を拒否された店があったということだ。たとえ小額であろうとも、やっぱり現金は必要だったということだ。
いや、ここは素直に讃えよう。貴州省といえばつい最近まで中国を代表する“貧困省”で、日本のODA援助の対象だったが、その貴州省でも「時代はスマホ決済」なのだ。日本人は従来の“現金信仰”から目を覚ます必要がある。
それでも、筆者はしつこく尋ねたい。
電池切れしたらどうするの、フリーズしたらどうするの、水没したらどうするの――
「現金なんていらない」はやっぱり見栄でしょう、と。
富士山麓の「忍野八海」、富士山を訪れる中国人が必ず立ち寄る観光スポットだが、池の底でキラキラ輝くのは水没したスマホ群だ。「買い物はこれから!」の矢先の水没事件。それでも中国の人々は「現金なんて持たない!」と言い切れるのだろうか。