もし、通勤通学時間帯に首都直下地震が起きたら…(※イメージ)
首都直下地震 通勤時間帯に発生で一時滞在施設足りず66万人行き場なし〈AERA〉
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160831-00000240-sasahi-soci
AERA 2016年9月5日号
阪神・淡路大震災、東日本大震災、熊本地震……。数々の大震災に続き、危機が迫っているのが首都直下地震だ。過度な人口密集地域であり、大量の帰宅困難者も予想される。東京だからこそ被害が拡大する恐れがある。
朝のラッシュ時、ランドセルを背負った小さな子どもたちが大人に交じって電車に乗っている。その姿を見かけると、大佛俊泰・東京工業大学教授は心配になるという。
「子どもたちが今、地震で駅から放り出されたら、親も先生もいない。誰が守ってやれるのだろう」
通勤通学の途中や、買い物で外出中など、会社や学校、自宅などから離れたところで地震と遭遇するのは、帰宅困難の中でも最悪の状況だ。大佛教授のシミュレーションによると、通勤通学時間帯の朝8時に首都直下地震が起きれば、こんな事態に陥る人たちが約200万人発生する。
東京都は2013年に帰宅困難者対策条例を施行し、一斉帰宅を抑制することや、企業に従業員の3日分の水、食料、簡易トイレなどの備蓄をすることを求めている。難しいのは通勤中、外出中などの人たち。都は一時的に避難する場所を必要とする人が92万人発生すると予想し、都の施設や民間企業のエントランスホールなどを一時滞在施設にして収容する計画だ。ただし確保されているのは25万5千人分。66万人の人たちは、行き場がない。
1日364万人と、世界一の乗降客数を誇るターミナル新宿駅では、こんな帰宅困難者が約5万人発生すると予測されている。西口からは中央公園、東口からは新宿御苑にいったん退避してもらい、それから一時退避施設に移動してもらうルールを決めている。
●損害賠償責任も妨げ
ただし、一時滞在施設として協定を結んでいる施設は1万人分しかなく、残り4万人の行く先はめどが立っていない。新宿区の鯨井庸司危機管理課長は言う。
「駅周辺の民間施設に、自主的に受け入れてもらうのをあてにするしかない」
東日本大震災の時は、小中学校などの施設も一部開放して帰宅困難者を受け入れたが、首都直下地震では、そこは地域住民の避難所となるため、あまり期待できない。新宿区は02年に新宿駅周辺の民間会社や大学、区などが協議会をつくって帰宅困難者対策を進めてきた「先進地」だが、それでもまだ、この状況である。
東京商工会議所が会員企業に4月にアンケートしたところ、災害時に外部の帰宅困難者を受け入れることは難しいと答えた企業が73%にのぼった。困難な理由は「受け入れるスペースがない」(52%)、「外部の帰宅困難者用の水・食料の備えがない」(25%)など。
そもそも従業員用の飲料水・食料・トイレなどの備蓄がある企業も半分に満たない状況で、さらに外部からの受け入れは荷が重いようだ。災害時に外部の帰宅困難者を受け入れて、大きな余震などでけがを負わせたりすると損害賠償責任を問われる可能性があり、それも妨げとなっている。
●4割が「帰宅」呼びかけ
周辺のベッドタウンから都心に長距離・長時間かけて通勤通学し、昼間に人口が集中する東京。関東大震災当時とは都市構造が大きく異なっている。
1980年代から「帰宅困難」の問題が認識されはじめたが、当初は帰宅支援が対策の中心。無理に帰宅しようとすれば群衆事故や火災に巻き込まれたり、渋滞が救助活動の妨げになったりすることから、中央防災会議が「帰宅させない」に方針を変えたのは08年だ。それが十分周知されないまま東日本大震災を迎えた。3月11日当日、従業員に「原則として帰宅するように呼びかけた」企業は首都圏で約36%もあった。
帰宅困難者が、新しい形の都市災害を引き起こさないようにするための対策は、まだまだ途上のようである。(ジャーナリスト・添田孝史)