森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 小手先の地方移転をやめろ
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週刊実話 2016年3月24日号
昨年10月に行われた国勢調査の速報値が発表された。総人口は1億2711万人で、前回調査から94万7000人減り、調査開始以来、初の人口減となった。
さらに問題なのは、地域別のアンバランスだ。人口が増加したのは、沖縄(3.0%増)、東京(2.7%増)、愛知(1.0%増)、埼玉(0.9%増)、神奈川(0.9%増)、福岡(0.6%増)、滋賀(0.2%増)、千葉(0.1%増)の8都県だけだ。
一方、秋田(5.8%減)、福島(5.7%減)、青森(4.7%減)、高知(4.7%減)など、東北地方を中心に大幅な人口減少が発生している。これを見ても、安倍政権が掲げる地方創生とは、まったく裏腹の結果となってしまっているのだ。
そうした中、政府は文化庁を京都府に全面移転する方針を固めた。国会対応や外交関係などの一部の機能を東京に残すほかは、長官も含めて全面移転するという。さらに、消費者庁についても、徳島県への移転を検討していくという。
これらの移転は、地方創生を掲げる安倍政権が、アリバイ作りのためにやっている目くらましだと私は思う。
文化庁は、文部科学省の外局、消費者庁は内閣府の外局だ。つまり霞が関のなかでは、影響が少ない官庁だ。それを地方に移したところで効果は限られる。本気で地方創生のための移転を考えるのであれば、まず財務省や国土交通省など、大きな権力を握っている官庁から移さなければ、効果が出ないのだ。
また、中央官庁をバラバラに地方移転させれば、ますます縦割り行政がひどくなる。
法案作成でも、国会答弁でも、霞が関では関係省庁に「合議」がかかる。そこで政策調整が行われているのだ。ギリギリの折衝の場合は、角を突き合わせて話し合いが行われる。省庁をバラバラにしたら、それができなくなってしまうし、かと言って、頻繁に出張させたら、旅費や人件費がかさんでしまう。
だから、中央官庁の地方移転を進めるのであれば、まとめて移してしまえばよいのだ。
話は四半世紀前にさかのぼる。平成2年11月に衆・参両院本会議で、国会等の移転の推進が決議された。この決議にもとづいて平成4年には「国会等の移転に関する法律」が成立し、国会等移転審議会が移設先候補地の選定に入った。そして、平成11年12月に最終候補地として「栃木・福島地域」または「岐阜・愛知地域」の2地域が選定されたのだ。
東京一極集中の弊害を解消するためには、国会と霞が関の官庁街を集団移転するしかないという判断だった。
ところが、法律まで出来上がっているにもかかわらず、政府はのらりくらりと候補地の一本化を見送り、首都機能移転を先送りしてきたのだ。
しかし、今回の国勢調査で明らかになったように、一番人口減が深刻なのは、東北地方だ。その東北地域で首都機能移転先として候補になっているのは、福島県なのだから、いますぐすべての首都機能を福島に移す決断を下すべきなのだ。首都機能を移せば、移転先に大きな経済効果が生まれる。それは、いまだ停滞している東北復興を劇的に進めるだろう。