黒田日銀総裁
“マイナス金利”成果見通せず。生保や年金で運用難も
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160313-00010001-newswitch-bus_all
ニュースイッチ 3月13日(日)9時11分配信
■決済システムや税制面での調整も必要に
「風が吹けば桶屋が儲かる」ということわざがある。何か事が起こると、一見すると関係のないところでその事に起因する予想外の影響が出てくるという因果応報の不確実性をたとえている。マイナス金利についてはどうだろうか。
前代未聞のマイナス金利を日銀が導入して以来、銀行に預金すると元金が減るので、市民生活のレベルでは、自宅で現金を保管する需要が増え、金庫が売れているという。そうなると、空き巣や泥棒が増え、治安が不安になるので、各人が防犯対策を強化することになりそうだ。
日本に先駆けて、デンマーク、スウェーデン、スイスの中央銀行、そして、欧州中央銀行(ECB)ではマイナス金利が導入されている。ECBの預金金利は2015年12月でマイナス0・3%である。
国際決済銀行(BIS)は、各国中央銀行のマイナス金利導入の影響について報告書をまとめている(3月6日付)。前人未到の金融政策の成果がどうなるかについて、実は誰も明確な見通しを持っていない。先ほどの江戸の小話のようにその因果応報は不確実なのである。
例えば、市中銀行と中央銀行(日銀)とのいわば卸し(ホールセール)レベルでみると、銀行は日銀に預けるとペナルティーを払うことになるので、より収益を稼ぐ投資運用へかじを切り替える必要に迫られ、長期債や高リスク債券への投資を増やしている。こうなると、長期運用資金を抱える生保や年金でも運用難となり、事業収益を圧迫することになる。
一方、マネーマーケットではマイナス金利で取引量が減り、短期資金市場で流動性が逼迫(ひっぱく)しそうな状況が出て来そうだ。
また、銀行が一般市民と関わる小売り(リテール)レベルでは、住宅ローン金利などに影響が出てきそうだ。マイナス金利で金利が下がれば、ローンを抱える個人にとってはありがたい。しかし、それがいつまで続くのか、急激な金利上昇に転じないかなど不透明感が払拭(ふっしょく)できるまでには時間がかかりそうだ。
実際スイスでは資本流入を防ぐために自国通貨(スイスフラン)高に誘導し、マイナス金利を導入しても、住宅ローン金利は下がるどころか上昇している。
さらに、マイナス金利導入で決済システムや税制面での調整が必要になると見られている。おカネ(貨幣)を保有することでペナルティーを払うのであれば、ビットコインのような仮想通貨を前提とした金融システムに移行する可能性を示唆する声もある。その場合、誰がその通貨の最終的な信用の裏付けをするのか。金融のもっとも本質的な原則が問われることになりそうだ。
大井幸子(国際金融アナリスト兼SAIL社長)