ついにAIが囲碁で人間を負かした。世紀の囲碁決戦に際して、イ・セドル九段(写真左)とともにポーズを取るDeepMindのCEO、デミス・ハサビス。
人間を破った人工知能をつくったDeepMindとは何者か?
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20160313-00010002-wired-sci
WIRED.jp 3月13日(日)12時0分配信
2016年3月9日は、人工知能(AI)の歴史において重要な日となった。世界最高の棋士のひとり、イ・セドルが囲碁AIソフトウェア「AlphaGo」に敗れたのだ。
AlphaGoをつくったのは、DeepMind(ディープマインド)というロンドンのスタートアップ。2014年にグーグルが4億ドルで買収した、最注目のAIカンパニーである。
■知性を解明すること
DeepMindの創業は2010年。彼らのウェブサイトには「知性を解明すること、それにより世界をよりよくすること」というミッションが掲げられている。彼らはディープ・ニューラルネットワークと強化学習アルゴリズムの2つの研究領域を統合することで、そのミッションに挑んでいる。
設立時には、ピーター・ティールやイーロン・マスク、Skype共同創業者ジャン・タリン、ホライゾン・ヴェンチャーズの李嘉誠(リ・カシン)らがDeepMindに投資をしている。創業から約3年後にはグーグルが同社を4億ドルで買収した(ちなみにこの金額は、グーグルにとってヨーロッパ地域での過去最大の投資だった)。
2015年2月、DeepMindは「DQN」(Deep Q-Network)と呼ばれる彼らのAIが、Atari2600用の49本のTVゲームをほとんど何も教えることなくプレイすることができたという内容の論文を『Nature』に提出。ブロック崩しを行うDQNの動画が話題となった。はじめは素人のような動きだったDQNは、数時間のうちにゲームのコツを学んでいき、ついには人間が思いつかなかったような裏技まで発明してしまったのだ。
■3人のブレイン
DeepMindは、まさにAI研究を行うために生まれてきたようなデミス・ハサビスら3人によって創業されている。
まず、CEOのデミス・ハサビスだ。1976年ロンドンに生まれたハサビスは、4歳のときからチェスに没頭し、始めて2週間も経たないうちに大人を負かすようになったという。6歳でロンドンのU-8大会のチャンピオンになり、9歳で英国のU-11チームのキャプテンを務めている。13歳のときに、同年代で世界第2位のチェスプレーヤーになった。
14歳でGCSE(英国の一般中等教育修了証)を獲得、15歳で数学のAレヴェル、16歳で高等数学・物理学・化学の単位を取得。15歳のときにケンブリッジ大学コンピューターサイエンス学部の試験に合格する(入学は16歳になってからという条件を出された)。ケンブリッジをダブル・ファースト(卒業試験での2科目優等生)で卒業すると、ライオンヘッド・スタジオというゲーム会社に就職。1年後には自身のスタジオ、エリクサーを立ち上げている。
その後、認知神経科学の博士号を取るためにロンドン大学ユニヴァーシティカレッジで記憶と想像の研究を行う。彼の論文は2007年、『Science』誌が選ぶ10大ブレークスルーに選ばれている。ハサビスは同大学のギャツビー計算神経科学ユニットで計算神経科学を学びながら、MITとハーヴァードで客員研究員としても働いていた。
つぎに、AI応用部門ヘッドを務めるムスタファ・スレイマンは、オックスフォードで哲学と神学を専攻したが、2年生のときにドロップアウトし、ビジネスや政治の世界で働き始めることになる(ハサビスの弟とは親友だった)。グーグルによる買収を経た現在では、DeepMindのAI技術をグーグルの製品に統合する仕事を担っている。
最後に、シェーン・レグ。現在チーフサイエンティストを務める人物だ。彼はニュージーランドの大学で複雑系の理論を学んだあと、スイスのIDSIA(Dalle Molle Institute for Artificial Intelligence)に入り、機械知能の計測方法に関する研究で博士号を取得する。その後、神経科学を学ぶためにユニバーシティカレッジのギャツビー計算神経科学ユニットに移り、ハサビスと出会った。
■20年の梯子
2016年1月下旬、DeepMindはグーグルによる買収から再び世界を驚かせた。「AlphaGo」と呼ばれる彼らの囲碁ソフトが、15年10月、秘密裏に現欧州チャンピオンであるファン・フイと対局しており、5局すべてでフイを破ったというのだ。
そして彼らは、3月には公の場で、AlphaGoが世界最高峰の棋士のひとり、イ・セドルと大局することを宣言。冒頭に記した通り、AlphaGoが勝利を収めたのである。
果たしてこの勝利は何を意味するのだろうか? 囲碁という複雑なゲームにおいて、AIが人間を超える次元でふるまったという事実は、“対立”、あるいは“戦略が求められるもの”すべてにおけるAIの可能性を示している(「これには戦争やビジネス、金融取引も含まれる」とディープラーニング研究を行うスタートアップSkymind創業者のクリス・ニコルソンは言う)。
ハサビスにとっては、今回の勝利も「小さな一歩」にすぎないのかもしれない。AI研究を現代の「アポロ計画」になぞらえる彼によれば、ディープマインドは「20年ロードマップ」に従っているのだから。
『WIRED』vol.20「人工知能」特集で掲載したディープマインドについての記事でも、ハサビスは「人間と同等の汎用人工知能ができるのは、まだ何十年も先の話です」と語っている。「ぼくたちはいま、梯子の1段目に登ったところです。この先10や20のブレークスルーを起こさなければ、その梯子が全部でいったい何段あるのか、そして『知性とは何か』を解明することはできないでしょう」
AIの進化は、まだまだ序章にすぎないのだろう。だが少なくとも、ぼくらはその梯子のひとつが登られた瞬間を目にしたのである。
TEXT BY WIRED.jp_U
グーグルの囲碁AI「AlphaGo」が最強の棋士を破った日
http://wired.jp/2016/03/09/alphago-win-but/