[異常気象]を逆手にとる投資術
http://zasshi.news.yahoo.co.jp/article?a=20150720-00050948-hbolz-bus_all
HARBOR BUSINESS Online 7月20日(月)9時21分配信
5月時点で2日連続の真夏日を観測したかと思えば、今年の夏は冷夏だという。毎年のように“異常気象”と騒がれているが、これは日本に限らず世界的に起こっている現象。では、そこに投資機会はないのか。検証してみた
◆エルニーニョで穀物は歴史的高値圏。世界的な天候不順に勝機あり!
ここ数年、夏場になると常套句のように繰り返されるのが「世界的に異常気象」というニュース。事実、ここ10年間の世界の平均気温は観測史上最高値を更新していて、日本でもゲリラ豪雨、竜巻被害などが世間を賑わしている。もはや、異常気象自体が“通常”という状況である。
地球規模での気候変動について、その原因を追求するのは本稿の趣旨ではないが、世界的な天候不順が投資市場にどのような影響を及ぼしているのかは気になるところだ。楽天証券のファンドアナリスト・篠田尚子氏は次のように語る。
「民間気象情報で世界最大手のウェザーニューズ(東1・4825)という会社があります。主に、陸海空の交通機関向けに気象情報を提供する同社は、気象アプリなど個人向けビジネスも積極的に展開しています。直近5年間で同社の株価が約4倍に上がったことは、気象問題への人々の関心の高まりを端的に表しているといえます」
天候リスクによって生じる企業の減収を補償する、天候デリバティブという金融派生商品もあるが、日本では総合商社をはじめとした民間企業向けに、オーダーメイドで設計されることが一般的。では、少々言い方は悪いかもしれないが、個人投資家がこの世界的な天候不順に“便乗”するにはどんな投資手法が考えられるのか。「短期なら、穀物への投資が面白いのではないでしょうか」と語るのは商品アナリストの小針秀夫氏。
◆カリフォルニア州に端を発する干ばつ被害
「異常気象が続けば、穀物の生産量が減少し、価格は高騰します。商品の世界では、収穫期にあたる5、6月から9月にかけては“天候相場”といわれ、価格変動に大きく影響します。特に、今年は’10年以来となるエルニーニョ現象の発生が報告され、秋にかけて続くとみられています。’10年の例でいえば、農産物全体が収穫高の減少により、上昇を続けました」
エルニーニョ現象とは、海面水温の高い状態が半年以上続く現象で、世界的に異常気象をもたらすといわれている。
「アメリカ干ばつモニターが発表した北米の干ばつ度合いによれば、現在、カリフォルニア州での干ばつが危機的状況に陥っていて、すでに同州で生産されるオレンジ、アーモンドは高騰しています。ただ、この状況はさらに拡大することが懸念されているので、これから目をつけるのであれば、大豆、トウモロコシ。これらは、遺伝子組み換え技術の応用でハイブリッド品種を生み出し、収量を増やしてきていましたが、やはり自然の力には敵いません。現在は高温、干ばつで過去最高値を更新した’12年のパターンが再来する可能性があるとの見方が一部にはあり、6月30日時点ですでに、急騰の兆しを見せています」
トウモロコシといえば、ポップコーンやシリアルなどの食品を想像しがちで「供給が減ったところでそんなに需要があるのか?」と思う人は多いことだろう。だが、先月、台湾のクラブで起きた大規模火災の原因となったカラーパウダーをはじめ、石油の代替エネルギーであるバイオエタノールや家畜飼料など、工業用としての用途が大半で、世界的に需要は増加傾向だという。
「’12年の例でいえば、シカゴ・コーンの先物価格は8ドル49セントまで上昇しました(現在4ドル近辺で推移)。主要生産地であるインディアナ、オハイオあたりの干ばつが進むのであれば、絶好の仕込み時といえます」
前述したアメリカ干ばつモニターでそれらの地帯のレベルが赤色に分布されれば、「大豆、トウモロコシ、根こそぎ買いや!」と、ナニワの商人のように「買い」を入れていけばいい。仮に9万円の証拠金でレバレッジの50倍となる450万円分のトウモロコシを3枚買って、今の2万7000円から3万円まで値上がりすると45万円の利益となる(証拠金を含む)。
◆環境意識の高い企業に投資マネーが集まる
異常気象を逆手にとり、短期でアクティブに稼ぎたいなら穀物へ投資するのがベストであることはわかったが、「地球温暖化などの異常気象は一過性のものではなく、将来的に進んでいく現象」とみれば、長期投資でじっくり資産を増やすことも視野に入ってくる。
「国連が金融業界に対して、『機関投資家の意思決定にESG課題(環境・社会・ガバナンス)を反映させるべき』との提唱がなされています。これはつまり、環境、社会問題に積極的に取り組む企業に投資マネーが入りやすく、株価上昇の一因となることを意味しています」(前出の篠田氏)
代替エネルギーの開発など、「環境」をテーマに掲げたファンドも多く出てきている。
「ただし、日本の環境ファンドは“名前先行”の感が否めず、純資産額も少ないものが多いです。実際、組み入れた銘柄を見ても、結局、日経225と連動しているようなものがあり、高い手数料を出して、あえて手を出す意味があるかといえば疑問です。それなら、村田製作所のように、特に環境関連で成長性の見込める企業に個別で投資したほうがいいでしょう」
投資妙味があると篠田氏が推奨するのは、海外株式型の「ラッセル世界環境テクノロジー・ファンド」。いずれにしろ、「地球……どうなるの?」と漠然と不安を感じているよりも、“投資機会あり”と捉えたほうが、環境問題への理解も深まることは間違いない。
◆世界的な異常気象は続く! 長期で乗るならこの銘柄
【ラッセル 世界環境テクノロジー・ファンド】
基準価格:1万4993円
純資産:59億5220万円
信託項目(名目):1.90%
販売手数料(最高):3.24%
累計リターン(1年):17.9%
累計リターン(3年):138.9%
主要投資対象は、日本を含む世界各国の株式。持続可能な成長に欠かせない環境テクノロジーに注目し、今後成長が期待される環境関連企業に投資。原則として、為替ヘッジは行わない
【村田製作所】
株価:2万1620円
単元株数:100株
目標株価:2万5000円
どの環境ファンドにも組み入れ比率上位に出てくる国内トップレベルの環境マネジメントを推進。国内はもとより、海外の全事業所にまで、環境活動の推進とガバナンスを強化
【森永乳業】
株価:443円
単元株数:1000株
目標株価:550円
「マウントレーニア」など環境保全食品のブランドを持つ。世界的に優れた環境貢献を実現した企業を年1 回審査する「レインフォレスト・アライアンス」で表彰された
【日立造船】
株価:721円
単元株数:100株
目標株価:900円
海水淡水化技術など、温暖化対策、再生可能エネルギー対策の技術開発に強い。新技術Hitzは世界中から注目されている
【篠田尚子氏】
楽天証券ファンドアナリスト。楽天証券経済研究所のファンドアナリスト。国内銀行、リッパー・ジャパン(現トムソン・ロイターマーケッツ)を経て現職。投資信託や市場動向の的確な分析に定評
【小針秀夫氏】
商品アナリスト。トーキョー・トレーダーズ・タイムズ代表取締役。東京工業品取引所日報編集長を経て現職。ラジオ日経「マーケットトレンド」レギュラーコメンテーター
※株価、基準価額等は6月3日時点の終値
取材・文/池田達哉(本誌) 図版/松崎芳則(ミューズグラフィック)