FRBのイエレン議長 photo Getty Images
イエレン議長の発言でわかった アメリカの利上げ、いよいよ秒読み段階
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2015年07月20日(月) 真壁 昭夫「通貨とファイナンスで読む世界経済」 現代ビジネス
7月15日、米下院金融委員会で、FRBのイエレン議長が半期に一度の証言を行った。その中で注目すべきポイントは、利上げに関する考え方だ。イエレン議長の発言内は明確に、年内に緩やかな利上げを開始したいというFRBの強い意図が現れている。
FRBは米国の景気動向だけではなく、ギリシャなどの国際金融情勢も金融政策の判断材料に入れている。一時混乱が想定されたギリシャでは、財政改革法案が可決された。また、中国の株式市場も、取り敢えず落ち着きを取り戻しているようだ。それらの外部要因を含めて、議長証言の年内の利上げの環境が整いつつある。
金融市場は、徐々に利上げを織り込みつつある。米国の金融政策の変更予測が盛り上がるにつれ、新興国などから投資資金の米国への回帰が目立ち始めている。今後の展開次第では、主に新興国の株式市場への影響が顕著になるだろう。それに伴い、為替市場にもその波が及ぶことになると見る。
■年内の利上げを開始したいFRB
イエレン議長の議会証言の想定ケースは大きく二つある。一つは、早い段階で利上げを開始し緩やかに金利が上昇するケース。もう一つは、利上げを先送りした場合の急速な金利上昇のケースだ。
多くの市場関係者は、「前者のケースがよい」と答えるだろう。2013年5月、当時のFRB議長だったバーナンキ氏が早期の量的緩和の縮小に言及した際、潤沢な流動性が吸収されることを恐れた市場は急速にリスク回避度を高めた。その結果、世界的な金融市場の混乱が生じた。
そうした経験に照らすと、やはり金利は緩やかに上昇していく方が好ましい。その方が市場参加者も金利の上昇シナリオを描きやすいからだ。金融市場の安定を保ち、新興国通貨への売り圧力を防ぐうえでも重要だ。
イエレン議長は、年内の利上げが適切だという考えを示した。それをサポートするかのように、6月の米国のコアCPIは前年比で1.8%上昇した。FRBの目標水準である2%を下回っているものの、雇用の改善も加わり利上げの環境は少しずつ整いつつある。
■利上げ観測に戸惑う米国の金融市場
では市場は、十分に利上げに準備できているのだろうか。金利動向などを見ると、どうも充分な準備ができていないように見える。政策金利の意向を反映しやすいといわれる2年金利は緩やかに上昇してきた。5年金利も同様であり、短期から中期の金利は徐々に利上げを織り込んでいるようだ。
利上げが近づくと長期金利と短期金利の利回り格差は縮小しやすい。2年金利などが利上げ期待を反映して長期金利以上に上昇しやすいからだ。一方、足許の長期金利は低下している。7月13日に2.45%程度だった米長期金利は17日、2.35%程度に低下した。
あるファンドマネージャーは、「米国の長期金利が低下した理由は見出しづらい」と話していた。短期の金利が上昇してドルが買われる一方、長期の金利が低下する。この状況を端的に説明するならば、米国金利市場は利上げに対して十分に準備できていない可能性があるということだろう。
物価上昇率が十分に高まっていないこと等を受けて、長期金利は低金利環境が続きやすいという見方を反映している可能性がある。そう考えると、緩やかな利上げを主張してきたFRBの考えは、短期金利などが織り込む以上に緩やかな利上げを志向している可能性もあるのではないか。
市場では過去の利上げ幅を参考に、9月に25bpの利上げを行うという考え方が有力だ。現時点で、それ以上の利上げ幅は考えづらい。一方、25bpの利上げが適切なのか、FRBは明確な情報を発してはいない。非伝統的な政策の正常化だけに、過去のパターンだけを基に利上げを論じることには慎重になることも必要だろう。