2年後に実現する「人間の頭部移植」は、死生観をどう変えるのか ガーディアン(UK)より
http://gendai.ismedia.jp/articles/-/43285
2015年05月17日 現代ビジネス
生きた人間の首を切り、その生首をドナーが提供した別の身体に移植する――。こう聞くと、多くの人は、SFの世界でしかありえない奇想天外な話だと思うだろう。グロテスクだと顔をしかめる人もいるかもしれない。
ところが英紙「ガーディアン」は、この「頭部移植」とも「全身移植」とも言える過激な手術が、2年後にも実現しそうだと報じている。プロジェクトを進めているのは、イタリア人脳神経外科医のセルジオ・カナヴェロ。倫理上の問題を含めて、世界的に大きな反響を呼ぶことは必至だろう。
同紙によると、カナヴェロは今年6月、米国アナポリスで開かれる「米国脳神経外科学・整形外科学会議」でプロジェクトを公表し、始動させるという。この手術法が確立できれば、筋肉や神経の病気で身体を動かせなくなった患者や、複数の臓器をがんに冒された患者の命を救える、と彼は語る。
「社会がこんな手術は要らないと言うのなら、私は手術法を確立したいと思いません。しかし、欧米社会にとって不要でも、他の社会で求められるかもしれません。どう計画を進めるのが正しいのか、今は頭を悩ませています。月を目指して飛び立ったところで、誰も付いてきてくれなかったら困りますからね」
サルを使った頭部移植の実験は、1970年、米ケース・ウェスタン・リザーブ大学のロバート・ホワイト率いる研究チームによって行われた前例があるという。サルの頭部を別のサルの身体に移植したのだ。このサルは9日間生きたが、身体が頭部に対して拒絶反応を示し、身体を動かすことができなかった。以来、頭部移植の研究は停滞していたが、昨年、中国の哈爾浜医科大学でマウスを使った実験が行われ、研究が前進したとされている。
ガーディアン(UK)より
カナヴェロが提唱する方法は、最初に患者の頭部とドナーの身体を冷却し、手術中に細胞が死なないようにする。次にそれぞれの首を切り始め、まず主要な血管を小さなチューブで結ぶ。次に脊椎を鋭利な刃で切り、損傷を最低限に抑えてから、患者の頭部とドナーの身体を結合させる。最後に筋肉と血管をつなぎ、患者を数週間、昏睡状態に保って体が動かないようにする。
カナヴェロによれば、目が覚めた患者は、1年以内に声を発し、自分の顔を触ることもできるようになる。理学療法を受ければ、歩くことも可能だとか。すでに彼のもとには、全身移植を希望する患者が集まっている。
こうして将来、臓器や筋肉が不治の病に冒されている人の健康な頭部を、脳が損傷している人の健康な胴体に移植した"新しい肉体"が増えていったら――。人間の死生観や宗教観まで、根底から変わることになりそうだ。