森永卓郎の「経済“千夜一夜”物語」 格差拡大の構造がみえてきた
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週刊実話 2015年5月14・21日 合併号
4月17日の毎日新聞が興味深い分析を掲載した。総務省が毎年公表する「市町村税課税状況等の調(しらべ)」を使って、全国1741市区町村の納税者1人当たりの年間平均所得を求め、格差の度合いを示す「ジニ係数」を計算したところ、小泉内閣後半と第二次安倍内閣で、格差が急拡大している事実がわかったのだ。
これまで、数多くの格差の定量分析が行われてきたが、小泉政権や安倍政権下での格差拡大を明確に示す証拠は、なかなかみつからなかった。というのも、大金持ちが所得を調べる調査に回答しなかったからだ。ところが、金持ちも、税務データからだけは逃れることができない。逃れようとすると脱税で捕まってしまうからだ。
毎日新聞によると、直近の'13年の課税所得の内訳をみると、給与や事業に伴う所得は、前年比0.8%増とほぼ横ばいだったのに対して、短期の不動産売買による所得は1.4倍、株式譲渡や上場株式の配当による所得は3.1倍に膨張し、これらを合わせた資産所得の全体は、前年比70.9%増の7兆3953億円に達したという。
我々は、格差拡大というと、すぐに大企業と中小企業の格差を思い浮かべてしまうが、実はアベノミクスの格差拡大の本質は、カネでカネを稼ぐ人が最も大儲けをしているということなのだ。
そのことは、具体的な地域を採り上げてみると、さらにはっきりする。全国で平均所得が最も高かったのは東京都港区で、前年比40.5%増の1267万円だった。一方、平均所得が最も低かったのは熊本県球磨村で、前年比1.3%増の194万円。港区の所得は球磨村の6.5倍だ。港区と球磨村は、通常の所得でも4.4倍の格差があるが、不動産の譲渡所得(長期)で84倍、株式の配当で154倍、株式の譲渡益で4455倍もの格差がついている。
真面目に働いていたら金持ちになれない。まさにいまの日本を象徴する数字だ。ちなみに港区の平均所得1267万円のうち、383万円が株式の譲渡による所得だ。国民のうち株式を持っている人は1割、その中で実際に株式を売って儲けた人が1割とすると、実際に売却益を手にした人は、1%ということになる。だとすると、港区で、株で儲けた人は、3億8300万円もの大金を手にしたことになるのだ。しかも、それは実際に手にした利益で、株式を保有し続けている人の含み益は、これよりずっと大きいということになる。
私はずっと「濡れ手に粟の大金持ちから税金を取れ」と言い続けてきた。そう言うと、必ず出てくる批判は、「そんな人はほとんどいない。大金持ちが存在するなどというのは、妄想に過ぎない」というものだった。しかし、具体的な名前こそわからないが、たくさんいることは間違いないことが、市町村税の課税データで証明されたのだ。
港区で区民税の所得割を収めた人は12万7000人いる。そのうち1%だとしても、大金持ちは1270人もいることになる。平均所得のランキングは、港区に続いて、千代田区、渋谷区、芦屋市と続いている。これらの地域を家宅捜索するだけで、お金がゴロゴロでてくるというのが、いまの日本の本当の姿なのだ。
とりあえず、「ヒルズ税」を創設したらどうだろう。