http://www.bloomberg.co.jp/news/123-N5I2XL6TTDTR01.html
5月20日(ブルームバーグ):
17年ぶりの消費税率引き上げを3週間後に控えた安倍晋三首相は、経済革命に不可欠な要素を立て直すため米国のノーベル経済学賞受賞者ロバート・シラー氏に助言を求めた。それは楽観主義だ。
安倍首相は3月10日に都内でエール大学のシラー教授と会談し、15年に及ぶデフレで陥った日本の「萎縮マインド」を反転させるにはどうしたらよいか話し合った。安倍首相は約100人の広報チーム、テレビ番組への出演、アベノミクスのようなキーワードを動員して、賃上げ、投資、支出を促すリスクを取る精神の復活を図ろうとしている。
2009年に共著「アニマルスピリッツ」を出版したシラー教授は、「革命のような響きを持つことが重要だ」と話し、「アニマルスピリッツを起こすことは大衆の精神をつかむことだ。それは時代精神だ」と指摘した。
アベノミクスによって消費者物価、信頼感は上昇したが、4月からの消費税引き上げで企業や家計の心理は落ち込んだ。安倍政権はこれを一時的なものに終らせることが使命だ。6月に発表する成長戦略改訂版がアベノミクスの次の試金石になっている。
シラー教授によると、安倍首相との会談では財政支出、金融緩和に続く「第3の矢」について話し合われた。第1の矢と第2の矢では、消費税増税の影響を打ち消し、賃上げや投資の動きを促進するまでには至っていない。
心理を鼓舞
独立行政法人・経済産業研究所(RIETI)の上席研究員、関沢洋一氏はブルームバーグ・ニュースとのインタビューで、アベノミクスの主要な部分は心理学との見解を示した。安倍首相のテレビ番組での発言を見ると、自分がポジティブな気持ちでいることによって、人々の気持ちを変えていくということを考えているのではないかとみている。
安倍首相は3月21日のフジテレビの番組「笑っていいとも!」で、「私がマイナス志向になると、日本全体にも影響していく可能性がある。その意味においても気持ちを明るくしている」と述べた。
内閣府によると、安倍首相が12年12月に就任して以来、消費者態度指数は上昇し、国民の現在の生活に対する満足度は18年ぶりに70%を超えた。アベノミクスは昨年、グーグル・ジャパンの定義や意味を調べる検索急上昇ランキングで1位となった。
しかし、心理を改善させるというアベノミクスの初期の成功は昨年下半期に、株高の勢いが止まった上に消費税引き上げを控えていたこともあって色あせ始めた。
消費者態度指数は昨年5月に6年ぶりの高水準を付けたが、今年4月は消費税引き上げを受けて11年8月以来の低水準となった。15年3月期の大企業の設備投資計画は前期比0.1%増にとどまっている。
ドンペリニヨン
高級クラブ「稲葉」など銀座で4店を経営する白坂亜紀さん(47)はアベノミクス効果について、10万円以上の「ドンペリニヨンがポンポンと出た。去年はそういう抜きものが増えたと思う。ちょっと気分でワインを抜いてもいいよという感じになった」と述べた。
白坂さんは景気実感について、「給料が上がるところまでは行っていないと思う。売り上げが上がっても今までのマイナスを補充するのにいっぱいいっぱいで、女の子の給料を上げるところまではいっていない」と漏らした。
日本総合研究所の副理事長、湯元健治氏は「大多数の人は、期待は芽生えているけど、自分が行動しようかというところまでは行っていないというのが今の状況」と指摘した上で、「そういう意味で今年が正念場」という。
安倍政権は6月に取りまとめが予定されている成長戦略改訂版で、法人税の引き下げや、規制を大幅に緩和した国家戦略特別区域の詳細などを盛り込む見通し。
シラー教授は「第3の矢には労働市場の硬直性の緩和が盛り込まれ、企業が従業員を解雇しやすくなるかもしれない」との見通しを示した。一方で、アベノミクスで出てきたポジティブなムードが失われることを懸念し「桶の水といっしょに赤ん坊を流さないように注意する必要がある」と述べた。
ドジョウ
安倍首相の態度は、自分をドジョウに例え汗を流して地道に政策を進める方針を示した野田佳彦前首相と好対照をなしている。ジャーナリスト出身の谷口智彦内閣官房参与は、悲観的に見せることは日本人の趣味のようなもので一国のリーダーは応援団長のように振る舞うべきだと述べた。
安倍首相が日銀総裁に起用した黒田東彦氏は3月のロンドンで講演で、26回にわたって人々の期待に言及した。黒田総裁は3月15日、都内で講演し、「われわれが目指すのはアニマルスピリッツを復活させることだ。成長期待や成長力を高めるための一つの重要なピースだ」と述べた。
賃金のベースアップと規制や投資分野での目に見えた改革がないと国民が忍耐を失いつつある兆しが出ている。
タクシー運転手の川崎一慶さん(27)はアベノミクスについて「こうだよ、こうだよと言って国としては好景気なのかとマインドコントロールされつつある。実際問題、お客さんの大半は口だけじゃないかと言っている。下まで単純に降りてこない」と述べた。
15日に発表された1−3月の国内総生産(GDP)速報は前期比年率で5.9%増と6四半期で連続でプラス成長となった。4月の消費税率引き上げ前の駆け込み需要で個人消費が好調だったためだが、安倍政権はこの勢いを今年下半期以降も維持する必要がある。
原題:Abe Taps Nobel Laureate Shiller to Expand Japan’s ShrunkenMinds(抜粋)
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更新日時: 2014/05/20 11:51 JST
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