【 脅かされる日本の漁業資源と沿岸漁業、海洋環境に迫る重大な危機 】《前篇》
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2013年8月30日 星の金貨プロジェクト
汚染水の漏出を一貫して否定してきた東京電力、しかし汚染水漏出は『非常事態』
日本の大切な漁業資源の汚染が続いている – 懸念される長期的影響
ガブリエル・ドミンゲス / ドイチェ・べレ(ドイツ国際放送) 8月14日
▽「非常事態」
実に2年以上の間、破壊された福島第一原子力発電所から毎日数トン、数十トン、あるいは数百トンの汚染水が、太平洋に流れ込み続けていたことが明らかになりました。
複数の専門家が、福島第一原発の汚染水漏出が漁業資源に与える影響と、どうすれば汚染水の漏出を止めることが出来るのか、その検証を行います。
ロイター通信社のインタビューに対し、日本の原子力規制委員会の当局者の一人が、福島第一原発の汚染水漏出の問題は「非常事態」であると表現しました。
2011年3月11日、東日本を襲った巨大地震と巨大津波が福島第一原発に壊滅的被害を与え、3基の原子炉がメルトダウンして以降、一日当たり300トンの放射能に汚染された水が毎日太平洋に流れ込んでいたことが解りました。
この量は、オリンピックで競技が行われる大きさのプールを一週間でいっぱいにするほどの量です。
この事実が公表されたのは、福島第一原発の所有者である東京電力が、汚染水の海洋流出を防ぐために地中作った防護壁が、地下水の水位の上昇により最早バリアの役割を果たしていないと発表を行った直後でした。
この汚染水の漏出は事故発生以来ずっと疑われてきたことですが、この声明により事実確認が行われたことになります。
地元の漁師や独立した立場で検証を行ってきた研究者などは早くから汚染水の漏出を疑ってきましたが、
東京電力はこの間一貫して否定し続け、2013年7月というタイミングで、やっとその事実を認めました。
しかもこの問題には、さらに厄介な事実がついていました。
東京電力が汚染水と敷地内の土から採取したサンプルには、発がん性が高いことで知られる放射性物質、セシウム-137、トリチウム(三重水素)、ストロンチウム-90がきわめて高い濃度で含まれていることが明らかにされたのです。
東京電力は現在、汚染水の海洋への流出量を減らすため、福島第一原発の敷地内で汚染された地下水をポンプでくみ上げる作業を開始しました。
▽ 汚染が続く福島県沿岸の漁業資源
魚を食することが伝統的食文化の重要な部分を占める日本では、たくさんの人々が沿岸で獲れる魚の安全性について懸念を深めています。
福島沿岸の海底に沈殿している福島第一原発が放出したセシウム-137などの放射性物質により、沿岸の魚の汚染が続いているという点において、複数の専門家の見解は概ね一致しています。
アメリカに本部を置くウッズホール海洋科学研究所のケン・ビュツセラー博士によれば、日本政府によって行われている定期な調査により、商業的にも重要な漁業資源である海底に棲息する魚類から検出されるセシウム137の量は、福島県沖で最も高くなっていることが解っています。
また魚類から検出される放射性物質の検査結果は、破壊された福島第一原発沖の漁場を漁獲禁止区域にしたり、隣接する漁場の放射線量が限度量に達していないかどうかの監視にも利用されています。
「現在、福島県沖での漁獲は禁止されています。」
専門家がドイツ国際放送の取材にこう答えました。
▽「人間に対しては差し迫った危険は無い」
一方でビュツセラー博士は、海洋汚染が止まれば、魚の体内からセシウムが失われていく速度は早いという点について、指摘を行いました。
「汚染の影響をほとんど受けていない海域に移動した魚は、体内から福島第一原発が放出したセシウムが徐々に失われて行きます。日本沿岸であっても、汚染されていない海域で獲れた魚を食べても、人体に差し迫った危険はありません。」
この見解はハンブルグに本部を置く、テュンネン魚類生態研究所のギュンター・カニッシュ氏も支持しました。
カニッシュ氏は2013年1月の段階で、福島県沖で獲れた魚のうち、90%のセシウムの測定値が政府が定める食品制限値の1キログラム当たり100ベクレル以下であったと語りました。
「さらに2013年5月の段階では、試験的に漁獲された魚の90パーセントは、1キログラム当たり50ベクレル以下の値でした。」
ドイツ国際放送の取材に、カニッシュ氏がこう答えました。
しかし、多くの科学者は、長い目で見れば海洋生物の汚染については懸念が続くことになるだろうと語っています。
前出のビュッセラー博士とプリンストン大学原子力未来研究所のM. V.ラマナ博士は、海洋中に放出された放射性物質には様々な種類のものがあり、一部は広大な太平洋の中で希釈されてゆくものの、ストロンチウム-90のような放射性物質は、海底に沈殿するか、あるいは他の海域より汚染濃度が高くなる場所が出現することになるだろうと語っています。
「ストロンチウム-90は生物の体内ではカルシウムと認識されるため、体外に排出されずに骨の中に吸収されてしまう性質を有しているのです。」
ラマナ博士がこう説明しました。
〈 後篇に続く 〉
http://www.dw.de/fish-stocks-threatened-by-fukushima-leaks/a-17017871
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日本には、福島第一原発による汚染に懸念を表明する人を、『感情的』だと攻撃する政治家などがいます。
工学系のひとりの人間が3.11の後、大学で自分が参加した原子力工学の実験内容について説明した後、私に次のように語ったことがあります。
「放射性物質について言えば、現代の科学はその5割まで解明しているかどうか…」
「巨大地震が頻発し、放射性核廃棄物の処理もできない日本では、原子力発電は行ってはいけない」
という私の立場に対し、彼は
「学問としての原子力工学まで否定すべきではない」
という立場です。
ただし、
「東京電力には原子力発電を扱う資格は無い」
という立場だけは一致しています。
現在日本政府が放射性物質について定めるいくつもの『安全基準』も、様々な規制値も、つまりは「現在解っている範囲内」でのことだということなのだと思います。
政府側の立場で原子力発電を推進してきた『科学者』が、原子力発電の危険性について指摘する科学者に対し、
「科学的に説明しろ!」
などと威圧的に話すのを見ていると、この人間は科学たずさわって良い人間が持つべき謙虚さを持っていないのだな、と感じます。
今後は放射性物質に関わる『安全』について口にするなら、「これまで解明されている限りでは」という前置きをつけるべきです。
それが「科学的態度」というものでしょう。
◇
【 脅かされる日本の漁業資源と沿岸漁業、海洋環境に迫る重大な危機 】《後篇》
http://kobajun.chips.jp/?p=13511
2013年8月31日
2011年だけで日本の漁場が1兆500億円の損失を被った
そもそも汚染水の漏出がどこで起きているのか、その状況すら正確にはつかんでいない東京電力
汚染水の貯蔵場所を失ってしまう事態が目前に迫っている
ガブリエル・ドミンゲス / ドイチェ・べレ(ドイツ国際放送) 8月14日
▽ 漁場を襲う衝撃
東京海洋科学技術大学の神田穣太教授は、今日海底で見つかる放射性物質の大部分は、最近汚染されたものではなく、3基の原子炉のメルトダウンが発生した直後の2カ月間に起きたものだと語りました。
最近になって流れ込んだ放射性物質による汚染よりも、事故直後の放射性物質の流入量の方がはるかに大きかったことを指摘した一方で、神田教授はセシウムのような海底に沈殿した放射性物質の影響が消え去るまでには、何十年という歳月が必要であることを強調し、沿岸漁業に対する影響が長期間続くことを指摘しました。
東北大学大学院環境科学研究科の馬奈木俊介(まなぎ しゅんすけ)准教授は、2011年だけで日本の漁場が1兆500億円の損失を被ったと語りました。
ドイツ国際放送の取材に対し馬奈木准教授は、この際に日本の漁業が失った収益は2,600億円に上り、2012年にも少なくとも1,000億円の損失を被ったと語りました。
▽地中凍結策
そもそも汚染水の漏出がどこで起きているのか、その状況すら正確にはつかんでいない東京電力が、ただちに汚染水の海洋への流出を止める措置を採れるかどうか、その点は未だに明らかではありません。
事態の緊急性に鑑み、日本の安倍晋三首相は東京電力の事故収束作業に、政府が直接関わることを約束しました。
まず最初に、400億円の政府予算を投入することが検討されています。
この資金は汚染のひどい破壊された原子炉建屋の基礎部分に地下水が入り込まないようにするため、建屋を囲むようにして地中を凍結させてしまう対策に費やされることになっています。
マサチューセッツ工科大学の原子力工学を専門とするマイケル・ゴレイ教授は、確かに試してみる価値はあると語りました。
「これは民間事業などで、軟弱な地盤を安定させるために使われている一般的な技術なのです。」
確かに地下鉄工事などで使われてはいますが、このような複雑で緊急を要する対策に適しているかどうか、そのような検証は行われたことがありません。
さらにはラマナ教授が指摘するように、再び大きな地震がこの場所を襲った場合、あるいは一時的ではあっても電源が失われてしまった場合にどのような事態につながるかという疑問もあります。
この地中凍結作業は2015年7月までに完了する見込みです。
▽ ひっ迫する汚染水の収納スペース
さらに福島第一原発は汚染水の貯蔵問題にも直面しています。
事故を起こした3基の原子炉では、そこにある核燃料の冷却を続けるため、毎日数百トンの水を必要とします。
核燃料に直接触れたこの水は汚染され、保管し続けるのが困難な程の量の汚染水が作り出されているのです。
現場では汚染水を保管するため、1,000基以上の鋼鉄製のタンクを建造しましたが、380,000トンの収容能力の内すでに85%のタンクがすでに満杯となり、東京電力が汚染水の貯蔵場所を失ってしまう事態が目前に迫っています。
東京電力と日本政府がこの問題に解決の道筋をつけられなければ、汚染水による環境破壊の問題の一層の悪化は避けられません。
この状況について前出の神田教授は、東京電力が汚染水の漏出個所と状況の確認を丹念に行うことにより、汚染水の漏出を大幅に減らすことが可能だと主張しています。
しかし海洋科学の専門家である神田教授は、まずは対策の力点を別の大規模な汚染水漏出を防ぐことに置くべきだと主張しています。
なぜなら「相当な量の放射能汚染水」が原子炉建屋の基礎部分、地中の排水溝、そして地上の一時貯蔵タンク内に存在してしまっているからです。
「これらの汚染水を適切に、妥当な手段を用いて保管し続けること、それをまず優先課題とすべきです。」
神田教授が、このように強調しました。
〈 完 〉
http://www.dw.de/fish-stocks-threatened-by-fukushima-leaks/a-17017871