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2013年8月16日 15時43分 小笠原 誠治 | 経済コラムニスト
インターネットが普及したお陰で昨今は、どんなものでもネットで買うことができ、大変便利になったと実感しています。
本も、洋書も、カブトムシも、クワガタも、かつてのアイドルのポスターも、そして、ハマグリ碁石も。
かつては、どんなにニーズのある商品を生産する力があっても、近くに市場が存在しなければ折角の商品を世に送り出すことができなかったのに、今やどんな片田舎にいても、魅力ある商品を生産する力さえあれば、どれだけでも儲けることができます。つまり、ビジネスマンになるために都会に出ていく必要が必ずしもなくなったのです。どんなに僻地にいても、人々が欲しがる商品、或いはサービスを提供することさえできれば、幾らでも収入を得ることができるのです。それに、ネットを利用できる環境さえ整っていればいい訳ですから、必要とされる資本も小額で済む。
経済を成長路線に乗せるにはどうしたらいいか、とか、消費者の需要を活性化するにはどうしたらいいか、なんてことが言われている訳ですが‥ネットを本格的に利用することによって、どれだけでも可能性は広がるのです。
問題は、そのネットの上手な活用の仕方が分からない人が多いこと、或いは起業家精神が大せいでないこと、そして、ネットを活用した商売を邪魔しようとする人々がいることです。
仮に、こうしたネットを利用したショッピングがこれからも拡大をしていくならば、幾ら少子高齢化が進展しつつある日本だとはいえ、もう少しは消費が拡大することが十分に期待されるのです。
例えば、以前は田舎に住んでいると、洋書を読んでみたいと思っても、殆ど不可能だったのです。だって、田舎には洋書屋さんがないから。洋書屋さんがあるのは、大都会だけですよね。しかし、その大都会の洋書屋さんでも、扱っている洋書は限られている。
しかし、今や、ネットの本屋さんを利用すれば、割と早く注文した洋書を手にすることができる。もちろん、普通の書籍ならもっと早く手にすることができる。首都圏近辺に住んでいたとしても、大きな本屋さんに行くには交通費と時間がかかる。多分、半日程度は費やしてしまうでしょう。それに比べてネットで購入すれば、そうした費用と時間が節約される、と。
それに、そうしてネット上の店の利用が増えるからと言って、地元の商店の売れ行きにはそれほど影響を及ぼすとは思えない。というのも、地元の商店で手に入らないからネットを利用する訳ですから。むしろ地元経済にはプラスの影響がある。というのも、そうして注文された商品を配達するために運送業者の活躍の機会が増えるからなのです。
何と経済にとっていいことばかりなのか!
でも、そうしたネットでの販売には弊害もあるのです。例えば、もし、違法ドラッグがネット上で取り引きされるのであれば、社会に悪影響を及ぼすでしょうから、そのためには何らかの規制があってしかるべき‥否、そうではないのです、そもそも違法ドラッグの取引が禁じられている訳ですから、ネット上でも取引を行うことはできないのです。問題は、そうした違法行為を取り締まることが難しくなるということなのです。
では、通常、薬局で購入することができる薬のネット販売に関してはどうなのか?
薬の販売に関する基礎知識を整理しましょう。
薬は、基本的に二つに分けられます。1つは、処方薬と言って、お医者さんの処方箋がなければ購入することができない薬。そして、今1つは、大衆薬といって、処方箋なしに購入することができる薬。
そして、後者の大衆薬が、さらに3つに分類されていて、1類、2類、3類とあって、厚生労働省は、これらのうちリスクの高い1類と2類はネットでは販売していけないと省令で禁止していたのです。というよりも、そもそもはネットでの薬の販売が法律で禁止されていた訳ではないのに、厚生労働省が、既得権益者を保護するために2009年に省令でもって医薬品のネット販売に規制をかけてしまっていたのです。ところが、今年の1月に最高裁の判決が出て、何とそうしたネット販売規制が違法だという判断が下ってしまった、と。そして、その判決を受け、安倍総理が大衆薬のネット販売を全面解禁すると、例の成長戦略で打ち出したのです。
ところで、1類、2類、3類などと言っても分かりにくいと思いますので例を挙げれば、育毛剤や胃腸薬は1類、風邪薬や鎮痛剤は2類、そして、ビタミン剤は3類ということで、私たちが最も頻繁に購入すると思われる胃腸薬や風邪薬をネットで購入することを厚労省は禁じてしまっていたということなのです。
私は、はっきり言って、厚生労働省の真意が分かりません。というのも、幾らネットで医薬品が購入できるようになったと言っても、近くに薬局があれば、わざわざネットで購入する人は限られていると思うからです。それにも拘わらず何故、殆どの薬のネット販売を禁止してしまっていたのか?
ネットで購入するには、それだけの理由があるのでしょう。例えば、近辺に薬局が存在しないとか、買いたい薬が、水虫の薬であったり、痔の薬であったり、或いは育毛剤であったり、と。まさに、ネットを利用するもっともな理由が存在しているのです。また、だからこそ、離島に住む購入者の場合には、規制の対象から外していたのです。
ということを考えるならば、口では薬の副作用というリスクから消費者を守るためとは言いながら、本当は他の理由で、規制をかけていたとしか思えないのです。
確かに薬には副作用が伴います。素人が勝手に判断して薬を服用すべきではないかもしれません。しかし、そうではあっても、いつも飲んでいるような風邪薬や胃腸薬、或いは水虫の薬を購入するときに、薬局で薬剤師さんに相談しないことの方が多いでしょう。棚に並べてある薬のなかから自分で選択して、そしてレジでお金を支払うだけ。薬剤師さんの話を聞くと、高い薬を勧められそうになったりもするからです。
私としては、薬局で自由に購入することができるのに、何故ネットでは自由に購入することを禁じたのか、それがそもそも不思議でならないのです。
薬局で買うときにも、薬剤師さんと相談した上で買う必要があるのであれば、ネット販売を規制する理由は理解できる。しかし、薬局で自由に購入することができるのに、ネットでは購入できないとなれば、その規制の真の理由は薬に副作用があるということではないことが明らかです。
要するに、既存の薬局の利益を保護するためにネットの販売を規制した、と。
いずれにしても、そうした厚生労働省のネット販売規制が違法だという判断が最高裁から下され、そして、安倍総理自ら、大衆薬のネット販売の全面解禁をすると言ったのに‥またしても、厚生労働省では、ネットで販売することができるようになった解熱剤や育毛剤をなど売れ行きのよい薬品を含む28品目に関して、新たに規制をかけるようなことを検討しているのだとか。
本当に懲りない人々です。そもそも最高裁の判断を何と心得ているのでしょう? 全くおかしいとしか言いようがありません。
そんなに副作用が気になるというのであれば、大きな字で書いた注意書きでも入れておけば、それでも十分のような気がするのですが、如何でしょうか? 或いは、ネットで購入するに際して、薬の効能や注意を書いた文書を読むことを条件にすればいいではないですか?
新たにネット販売に規制をかけようとしている厚生労働省は、おかしいとしか思えません。もちろん、副作用のリスクを消費者に周知徹底することが必要ではあると思いますが、だからと言ってネットの販売を禁止することがそのために必要だとは思えないのです。
以上
小笠原 誠治
経済コラムニスト
小笠原誠治(おがさわら・せいじ)経済コラムニスト。1953年6月生まれ。著書に「マクロ経済学がよーくわかる本」「経済指標の読み解き方がよーくわかる本」(いずれも秀和システム)など。「リカードの経済学講座」を開催中。難しい経済の話を分かりすく解説するのが使命だと思っています。