法科大学院、乱立で混迷
「修了なら法曹」の期待添えず 志願者減続く/社会人の割合低下
鳴り物入りで始まった日本版ロースクール、法科大学院を巡る混迷が深まっている。修了者の司法試験の合格実績が伸び悩み、入学志願者は制度発足時の5分の1以下に。政府は学校の「乱立」が主因とみて統廃合を促す方向にかじを切るが、より抜本的な制度の見直しを求める声も出ている。
東京都内の法科大学院を出たものの司法試験に受からず、一般企業に就職した男性(32)は「法科大学院に進みたいという人がいたら止めたい。リスクが大きすぎる」と肩を落とす。
全部で74校
学生の法科大学院離れは鮮明だ。発足1年目の2004年度に約7万3千人いた入学志願者はほぼ一貫して減り続け、今年度は約1万4千人に。他の職業から法曹への転身を目指す動きもしぼみ、社会人が入学者に占める割合は48%から19%に下がった。
最大の原因とみられるのが修了者の司法試験合格率の低迷。当初の想定では修了者の7〜8割が法曹になれるとされていたが、09年以降、単年度の合格率は2割台で推移し、累計でも5割程度にとどまっている。
「これほどたくさんできるとは思わなかった」。制度設計に関わった法務・検察幹部は、大学院の「乱立」が現在の混乱を招いたとみる。
修了すれば高い確率で法曹になれるとのイメージが広がった法科大学院は、少子化に悩む大学には学生集めの切り札と映った。事前審査から事後チェックへという行政改革の流れの中、文部科学省は各地から殺到した新設申請をおおむね認め、04年以降、74校が設立されるに至った。
今や学校間の格差は明らか。12年の司法試験合格者2102人のうち、4割強に当たる889人を合格者数上位5校(中央、東京、慶応義塾、早稲田、京都)の修了者が占めた。他方、全74校中38校は修了者の合格が10人に満たなかった。
強制退場も
法曹養成制度の改善策を議論してきた政府の検討会議は6月、実績の上がらない法科大学院を事実上強制的に退場させる「法的措置」を検討するよう提言をまとめた。修了者に司法試験の受験資格を与えないことなどが想定されている。
しかし、具体的な制度設計については、別の有識者会議を設けて「2年以内に結論を出す」と先送りした形。司法関係者からは「合格実績で法科大学院を淘汰しても、詰め込み型の司法試験対策がより激化するだけ」との声も上がる。
国学院大法科大学院の四宮啓教授(刑事司法制度)は「法科大学院の数を減らすだけでは抜本的な改善は見込めず、司法試験の在り方を含めた大幅な見直しが必要だ」と指摘している。
司法試験合格でも就職難 日弁連、人材確保に危機感
法曹需要が拡大するとの見通しの下で司法試験合格者を増やしてきた結果、供給過多になった法曹資格者の就職難も深刻になり、法科大学院の学生離れの一因として指摘されている。
「弁護士になっても夢がない。そう思っている学生に弁護士の仕事の大切さを教えるところからのスタートです」。京都産業大法科大学院の坂東俊矢研究科長は、学生の間に広がる悲観的な空気に顔を曇らせる。
日本弁護士連合会(日弁連)によると、2012年に司法修習を終えた2080人のうち、修習終了直後の同年12月20日時点で、裁判所や検察庁に採用されず弁護士登録もしなかったのは546人。07年の5倍を超えていた。「厳しい就職状況を映す危機的な数字」(日弁連幹部)
弁護士事務所などに就職が決まっていながら12月分の弁護士会費を惜しんだ人もいたとみられ、今年1月19日時点で未登録者は298人に減少。その後も次第に減っていき、6月3日時点では78人になっている。
しかし、新人でいきなり独立開業する「即独(即、独立)」、無給で事務所の机などを使わせてもらう「ノキ弁(軒先を借りる弁護士の略)」として「厳しいスタートを切った人も多いとみられる」(日弁連幹部)。
政府の検討会議は、司法試験の合格者数を「年3千人程度」とした政府目標を撤回するよう提言をまとめたが、法曹資格者の働く場を広げる具体策は見えないまま。
日弁連は「このままでは法曹界に優秀な人材が集まらなくなる」と、企業や自治体に採用を働き掛け、経験不足を補う若手向け研修などにも力を入れている。
[日経新聞7月7日朝刊P.11]