『Le Temps des Cerises』は1868年(明治元年)、フランスの銅工職人のジャン=バチスト・クレマン(Jean-Baptiste Clément、1836〜1903)の作詞、歌手のアントワーヌ・ルナール(Antoine Renard、1825〜1872)作曲。後にパリ・コミューン加わったクレマンは、この頃ベルギーに亡命中で困窮の生活をしていた。
1868年のヨーロッパは普仏(プロシャ・フランス)戦争(1870〜1871年)前夜である。パリ・コミューンは普仏戦争直後成立、わずか2か月でヴェルサイユ軍に殲滅された。この歌はこの時の「血の一週間(Semaine sanglante)」による犠牲者を悼む歌でもある。クレマンは、この粛清を題とする『La Semaine Sanglante』という歌も書き、彼の書いたわらべ歌は今でもフランス国民に愛されている。
この歌は優しいメロディーと詩で、できた頃の背景抜きで、シャンソンのスタンダードになっている。イヴ・モンタン、コラ・ヴォケール、ジュリエット・グレコなどの有名な歌手が好んで持歌とした。ナナ・ムスクーリ、セリーヌ・ディオン、日本の越路吹雪、加藤登紀子も歌った。ここではナナ・ムスクーリの歌をリンクする。歌の印象とは裏腹に、悲惨な戦争を背景に生まれた歌であるところが何とも不思議で、懐の深いフランスの文化の一端であることに驚きを感じる。
LE TEMPS DES CERISES
Quand nous chanterons le temps des cerises
Et gai rossignol et merle moqueur
Seront tous en fête
Les belles auront la folie en tête
Et les amoureux du soleil au cœur
Quand nous chanterons le temps des cerises
Sifflera bien mieux le merle moqueur
サクランボの季節をうたい
ナイチンゲールやツグミが
浮きたつ頃
娘たちは湧き立ち
恋する人は希望を胸に
サクランボの季節をうたうと
ツグミはより心地よくさえずる
Mais il est bien court le temps des cerises
Où l'on s'en va deux cueillir en rêvant
Des pendants d'oreilles
Cerises d'amour aux robes pareilles
Tombant sous la feuille en gouttes de sang
Mais il est bien court le temps des cerises
Pendants de corail qu'on cueille en rêvant
でもサクランボの季節は短くて、
二人で夢見る揺れる耳飾り
お揃いの装い愛しのサクランボ、
赤いしずくは葉の下にもぐり
サクランボの季節はとても短い
夢の中のサンゴの耳飾り
J'aimerai toujours le temps des cerises
C'est de ce temps-là que je garde au cœur
Une plaie ouverte
Et Dame Fortune, en m'étant offerte
Ne saura jamais calmer ma douleur
J'aimerai toujours le temps des cerises
Et le souvenir que je garde au cœur
私はサクランボの季節が好きだ
あの時から私は心に
痛む心を秘めて
運命の女神が私をなぐさめても
私の苦しみが和らぐことはない
私の好きなサクランボの季節と
心に秘めたあの思い出
矢津陌生ブログ http://yazumichio.blog.fc2.com/blog-entry-285.html より転載