22. 2011年5月03日 09:28:35: RDoas9sARs
内部被曝の方が外部被曝より危険?
何となく不気味な内部被曝
放射線の浴び方には、いろいろあります。時間的に言えば、一度にどっと浴びたのか、それとも、同じ線量をだらだらと少しずつ浴びたのか、という問題もあります。また、全身に浴びたのか局所に浴びたのか、というのも重要な点です。と同時に、体の外から浴びたのか、それとも体内汚染をおこした放射性物質によって、体の中から浴びたのか、という分け方も重要です。よく内部被曝の方が外部被曝より危険なのではないかという疑問を耳にします。体の内側から浴びる方が不気味なので、その気分はわかるような気がします。しかし、実際はどうなのでしょうか?
たとえば、生殖腺が内部被曝で1シーベルト浴びた場合と、外部被曝で1シーベルト浴びた場合を考えてみましょう。両者の影響に違いがあるでしょうか、それとも同じでしょうか?
体の外から生殖腺が浴びる場合には、多分、ガンマ線のような透過性の放射線のことが多いでしょう。稀には、かなりエネルギーの高いベータ線の被曝によることもないとはいえません。その場合には、ベータ線は生殖腺に当たって主として表面近くで吸収される可能性が強いので、ガンマ線被曝の場合のように生殖腺全体がほぼ均等に浴びるということにはならないかもしれません。
一方、生殖腺自身に取り込まれた放射性核種による被曝の場合には、どういう放射性核種かに応じて、アルファ線の場合もあるだろうし、ベータ線の場合もあるだろうし、ガンマ線の場合もあるでしょう。あるいは、それらの組み合わせの場合もあるに相違ありません。とくにアルファ線の場合などは、それを放出する放射性核種が、生殖腺内でどういう分布をしているかによって、被曝線量の空間分布もずいぶん違ってくる可能性があります。
このように考えてくると、ひとくちに「生殖腺が1シーベルト浴びた」などと言っても、線量の分布などが微妙に異なる可能性があるので、そう簡単な話ではありません。しかし、今のところ、同じ臓器が同じシーベルト浴びたのなら、それが外部被曝によるものであれ内部被曝によるものであれ、生物学的な障害度に基本的な差はないと考えられています。とくに、浴びる放射線が両方ともガンマ線とかベータ線とか同じである場合には、そこにできた放射線の傷跡が外から来た放射線によるものか中から出た放射線によるものか、区別する根拠はまったくありませんので、同じものとして考えていっこうに差し支えありません。
もちろん、かたや、骨に入り込んだプルトニウム239によって骨髄に1シーベルト浴びた、というケースと、かたや、外部被曝のベータ線によって皮膚に1シーベルト浴びた、というケースを同等に扱うなどということはナンセンスです。同じ臓器がほぼ似たりよったりの浴び方で放射線を被曝した場合には、それが外部被曝によるものであれ内部被曝によるものであろうが、本質的な差はないのです。
全身線量の求め方
いろいろな臓器が不均等に被曝したような場合、全身線量を求めるにはどうすればよいでしょう。単純に各臓器の線量を加え合わせばよいでしょうか。そう簡単ではありません。なぜならば、臓器によって、遺伝的影響や癌の危険度が違うからです。発癌の危険性が少ない臓器が1シーベルト浴びるのと、その危険性が大きい臓器が1シーベルト浴びるのとでは当然意味が違ってくるので、各臓器の重要性に応じて重みづけの係数(荷重係数)をかけて合計しなければなりません。下の表は、国際放射線防護委員会がこうした目的のために設定した係数の値です。
実行線量当量とは?
外部被曝であれ、内部被曝であれ、いろいろな臓器が異なる割合で被曝した場合には、この表の係数を乗じて重みづけをしながら合計線量として同じ尺度で比較することができます。なかなか面倒なことですが、そのようにして計算された線量の値は共通に比較ができて便利なので、とくに「実行線量当量」と呼ばれています。言うまでもないことですが、下表の係数を全部加え合わせると、当然1.0になります。
*荷重係数
生殖腺:0.25、乳腺:0.15、赤色骨髄:0.12、肺:0.12、甲状腺:0.03、骨表面:0.03、残りの組織:0.30
内放射能は無限に蓄積される?
摂取と排泄はやがてバランスする。
放射能で汚染された食品を、来る日も来る日も食べ続けたとしましょう。この場合、体の中の放射線は、どんどん蓄積され続けるのでしょうか。
たとえば、セシウム137の半減期は30年です。放射能が半分に減るのに30年もかかる。ちょっと考えると、こんなに寿命の長い放射性核種をつぎからつぎへと体内に取り込めば、どんどんたまっていきそうです。本当はどうなのでしょうか。
この問題を理解するには、生物学的半減期や有効半減期のことを知る必要があります。
セシウム137を例にとりましょう。たしかに、この核種の放射能が半分に減るのに要する時間は30年ですが、私たちの体の中に入ってきたセシウム137は、そこにいつまでもじっとしているわけではなく、尿や糞から排泄されることによって、体の外に追い出されていきます。日本人の場合、セシウムを100だけ摂取したとすると、そのうちの半分を排泄によって体外に追い出すのに約3カ月必要です。これを「生物学的半減期」というのですが、幸い、セシウム137の場合、物理的な半減期が30年と長くても、生物学的半減期が3か月程度と短いために、体内に取り込まれたセシウム137は、割合に速く追い出されてしまうのです。
体内に取り込まれた放射能が100あった場合、これが、物理的減衰と生物学的排泄の両方によって、とにかく半分の50に減るまでの時間のことを「有効半減期」と言います。物理的半減期と生物学的半減期と有効半減期の関係は、つぎのとおりです。
有効半減期=(物理的半減期×生物学的半減期)÷(物理的半減期+生物学的半減期)=(30年×0.25年(3か月))÷(30年+0.25年(3か月))=0.247933884年
*0.247933884年=約3カ月
セシウム137の場合には、物理的半減期が生物学的半減期よりも圧倒的に長いので、このような場合には、有効半減期はだいたい生物学的半減期と同じになります。
摂取と排泄のバランス
セシウム137を毎日食べ続けると、体内量は無限に増えていきそうな気がしますが、実際には、ある時点までくると摂取量と排泄量がバランスして、それ以上は増えなくなります。逆の言い方をすれば、摂取量と排泄量がつりあう状態になるまでは、体内量が増え続けると表現してもかまいません。ちょっとした理論的考察によって、平衡状態での体内放射能(ベクレル)は、次式で求められることが知られています。
体内放射能の平衡値=1.44×(1日当たりの放射能摂取量、ベクレル/日)×(有効半減期、日)
カリウム40の体内量
私たちは天然の放射性核種であるカリウム40を、1日50ベクレル程度食べています。この元素の生物学的半減期は約60日、物理的半減期12億6,000万年ですから、有効半減期は60日となります。したがって、下に計算されているように、私たちの体内には、カリウム40が4300ベクレル程度は、たまっている計算になります。実際には、1日当たりのカリウム摂取量や生物学的半減期にはかなりの個人差がありますので、誰でもピッタリ4300ベクレルというわけではありません。しかし、大人なら4,000〜5,000ベクレルの体内放射能をもっていることは、実際に測定した結果としてもよく確かめられた事実です。
当然、1日あたりの摂取量が多ければ多いほど、また、有効半減期が長ければ長いほど、平衡状態に達したときの体内放射能のレベルは高くなります。しかし、それでも、無限に増えるわけではありません。
平衡時の体内放射能(ベクレル)=1.44×(1日当たりの放射能摂取量、ベクレル/日)×(有効半減期、日)
(例)カリウム40(天然放射性核種)
1日あたりの平均摂取量:約50ベクレル/日
有効半減期:約60日
ゆえに、私たちの体内のカリウム40の放射能は、
体内量(ベクレル)=1.44×50(ベクレル/日)×60(日)=4,300(ベクレル)
放射性核種の種類と特徴
放射性核種:プルトニウム239、物理的半減期:24,400年、生物学的半減期:200年(骨)・500日(肺)、有効半減期:198年(骨)・500日(肺)
放射性核種:ストロンチウム90、物理的半減期:29年、生物学的半減期:50年(骨)・49年(全身)、有効半減期:18年(骨)・18年(全身)
放射性核種:ヨウ素131、物理的半減期:8日、生物学的半減期:138日、有効半減期:7.6日(甲状腺)
放射性核種:コバルト60、物理的半減期:5.3年、生物学的半減期:9.5日、有効半減期:9.5日(全身)
放射性核種:イットリウム90、物理的半減期:64時間、生物学的半減期:38年(全身)・49年(骨)、有効半減期:64時間(全身)・64時間(骨)