東大 牧野純一郎氏の福島原発事故についての解説の紹介
非常に分かりやすい事、事故が発生したときのコンピュータシミュレーションが既にある事などが紹介されています。知りたいことが明確に書かれているため、是非読まれる事をお薦めします。
出典 http://jun-makino.sakura.ne.jp/articles/future_sc/note098.html
97.1. 核分裂反応と原子炉の基礎の基礎
原子炉の中での核分裂反応はどうやって起こっているか、ということをまず簡単にまとめます。基本的には、235U ( と書くべきですが以下面倒なのでこの表記。原子量 235 のウラン同位体です)にあまりエネルギー (速度)の高くない中性子が当たると、原子核が不安定になって2つに分かれる、その時に平均 2.5 個の中性子を出す、というのが核分裂反応です。
ここで、でた中性子がまた235Uにあたって吸収され、さらに分裂が起こるのが連鎖反応と呼ばれる現象です。これによってはネズミ算的に核分裂が進み、爆発にいたるのが原子爆弾です。
原子炉では爆発しては困るので、 平均 2.5 個の中性子のうち1つだけが核分裂につかわれ、後の 1.5 個は別のことにつかわれるようにしています。別のことには 2つあります。
一つは核分裂しない 238U に吸収させることです。そうすると中性子を吸収した 238U は電子を放出(β崩壊)して239Pu、プルトニウムに変化します。天然ウラン中では 99% 以上が 238U で、235U は 0.7% しかないために、実はそのままでは 235U が放出した中性子は殆ど238U に吸収されてしまって、連鎖反応を継続させることができません。少なくとも1個を235Uに吸収させる方法は2つあります。
一つは、中性子の速度を落とすことです。235U と 238U では中性子との反応の速度依存性が違い、中性子の速度が遅いと235Uと反応しやすくなります。速度を落とすには軽い原子核と衝突させます、水素・酸素からなる水や炭素(黒鉛)が使われます。但し、普通の水だと、水素が中性子を吸収してしまう、という問題があり、水を減速剤に使って天然ウランで原子炉を作ることはできません。陽子1つの原子核である水素 H の代わりに陽子と中性子からなる重水素 D でできた水(重水)を使えば、この問題を解決できます。このため、黒鉛や重水を減速剤に使えば天然ウランで連鎖反応させることができます。
天然ウランに比べて235U の割合を高くした「濃縮ウラン」を使えば、水を冷却剤に使っても原子炉を作ることができます。現在日本で商業発電に使われている原子炉は全てこのタイプで、「軽水炉」と呼ばれるものです。
実際に連鎖反応をあるレートで継続するには、微調整をする必要があります。これは、燃料の間に「制御棒」と呼ばれる、中性子を吸収しやすい物質で作った棒を挿入することで行ないます。基本的には、制御棒を一杯に差し込むことで連鎖反応は急激に停止します。
但し、連鎖反応が止まっても、発熱は0にはなりません。これは、核分裂でできた色々な原子核が、安定ではなくてα崩壊やβ崩壊をして熱を出すからです。この発熱は、連鎖反応が停止して0.1秒後で元々の出力の 10%、1時間後で 1.5%、1年後でも 0.1% 程度になります。
福島第一原発の場合、2-5号機は同型で熱出力が 200万kW、すなわち 2GW 程度なので、1時間後で 30MW、1年後で 2MW 程度の発熱となります。「停止」したあとでも冷却を続けないと、燃料はすぐに高温になってしまうわけです。
97.2. 原子炉の構造
軽水炉には PWR (加圧水型)とBWR(沸騰水型)の2つがありますが、福島原発は第一も第二も全て BWR なのでまずそちらの話をします。ちなみに、1979 年にアメリカで事故を起こしたスリーマイル原発は PWR です。
BWR の場合、原子炉は基本的には湯沸かし器で、圧力釜の中に細長い「燃料棒」を整然と並べたものです。
燃料棒は金属(ジルコニウムをベースにする合金)のチューブにいれた酸化ウランのセラミックの錠剤を沢山いれたもので、直径が1センチくらい、福島第一の場合長さ4メートルくらいの燃料棒大体5000本くらいがはいっていて、燃料の総重量は100トンくらいのはずです。
圧力釜、というかいわゆる圧力容器は、細長い、断面が円形のカプセルです。運転している時には燃料棒からでる熱で水が沸騰し、それでできた高圧の蒸気をタービンに導いて発電し、タービンを通ってでてきた温度・圧力がさがった蒸気をさらに2次冷却水(海水)を使った熱交換器で水に戻して圧力容器に注入しています。圧力容器の中では燃料棒は水面より下にありますが、沸騰していて泡もまじった状態です。泡があると減速効率がさがって連鎖反応が進みにくくなるので、暴走的に連鎖反応が進むことは BWR ではないとされています。
実際の原子炉では、この圧力容器が万一壊れた場合にに備えて、この全体を格納容器という、下半分が球で上に太い首をつけた容器の中にいれています。
この容器の下には、ドーナツ型をした「サプレッションプール」と呼ばれるものがあって、太いパイプで格納容器とつながり、さらに圧力容器から緊急時に蒸気を逃がす弁からのパイプがここにはいります。このサプレッションプールの水の中に蒸気をいれることで水に戻し、冷却するわけです。
さらに、全体を頑丈なコンクリートで作った「建屋」と呼ばれる建物にいれています。
97.3. 想定された事故と対策
原子炉の事故としては、考えられる限りのものを想定はしていたはずですが、基本的にはなんらかの理由で圧力容器やその配管が壊れて、水がなくなってしまった、というのが最悪の事態です。これに対しては ECCS (緊急炉心冷却系) という、通常とば別系統で圧力容器に水をいれる系統を用意して、冷やすことにしています。
97.4. 事故の経緯
さて、では何が起こったか、ということです。以下1-3号炉の話です。
まず、地震を感知して原子炉は緊急停止しています。ここで、「停止」というのは、上に述べた通り、制御棒がはいって連鎖反応が止まった、ということです。ECCS の動作も始まっていたかもしれません。
しかし、その後、おそらく広域の停電により発電所外部からの電源供給が停止、その直後に津波がきて非常用のディーゼルエンジンが水没ないし破損したか何かで動作しない状態になったようです。その後、数時間はバッテリーでどこか (私は良くわかっていません)のポンプかタービンを回すことができていて圧力容器の中の水を巡回させ、冷却することができていたらしいですが、それも同じ日のうちに停止、電源車を接続してこの系統を復活させることに失敗したため、圧力容器から熱を逃がすには格納容器に蒸気を出すしかないことになりました。これはただちに始まり、数時間で燃料棒が露出する、という事態になると同時に、サプレッションプールの水ではでた熱を吸収しきれなくなって、格納容器の中の圧力も上がりはじめます。次の節でみるようにこれが数時間で設計圧力を超えるので、圧力を逃がす弁をあける必要があります。1号機では、圧力を逃がし始めた数時間後に爆発がおきました。これは、建屋上のブローアウトパネルだけを吹き飛ばす小規模な爆発でした。
3号機では 13日にベントをしたのですが14日はしていない、という発表で、何故か14日に爆発が起こって1号機より大規模な、建屋の海側の横壁も吹き飛ばすような爆発になっています。
2号機は、3/15 にベントをした後に爆発が起こったのですが、この時にサプレッションプールが破損したとの発表もあり、どういう爆発なのかはっきりしません。
ここから 3/21 注
某巨大掲示板での匿名の指摘によると、ベント、つまり、格納容器から建屋の中に(外にもいきますが)気体を逃がす、というのを始めてから爆発が起こっている、とのことでした。指摘ありがとうございます。1号機ではベント/ バルブ開放の数時間後で、水素爆発である可能性が高いと思います。3号機は公式発表ではベントは13日にベント開放をして、14日にはしてないというのが公式発表だと思いますが、爆発は14日に起こっています。また、爆発の規模が1号機とは全く違ったので、「同じ種類」という公式発表を信じるべきかどうか疑問な気もします。ということで、表現を修正しました。
ここまで 3/21 注
爆発のあと、1号機では「消火用ポンプ」で海水をいれています。報道では「炉内」に海水をいれる、となっていて、圧力容器か格納容器かよくわからないです。
2, 3 号機では爆発の前から海水注入をしています。
このように整理してみると現在のところ何が起こったかは正確なところは良くわからないです。
なお、3, 4 号機では、原子炉の他に使用済核燃料を水で冷やしながら保存するプールがあり、4号機ではそこでも水素が発生して爆発が起こったとされています。
97.5. どんなことが起こったはずか
実際になにが起こったかは良くわからないので、シミュレーションでどうなったのかを見ることにします。といっても、もちろん私がやったわけでではなくて、 原子力安全基盤機構原子力システム安全部の報告書リストにある「地震時レベル2PSAの解析(BWR)」というものの中身を紹介するだけです。
この報告書では、1号炉に対応すると思われる BWR-4(電気出力50万kW)と 2-5号炉に対応すると思われる BWR-4 を含む7種の原子炉について解析を行っていて、特にこの2つについては「電源喪失」というまさに今回起こった通りのことをシミュレーションしています。
要点をまとめたところだけを書くと、 BWR-4(電気出力50万kW)では2.4 時間後に燃料落下開始、3.3 時間後に圧力容器破損、16 時間後に格納容器の破損となり、70時間後までのシミュレーションでは主に外に放出された放射性物質は CsI (ヨウ化セシウム)、元々炉心にあった量の0.2 % です。BWR-4 では起こることは殆ど同じですが、CsI のでる量がかなり多く、9% となっています。
圧力容器が破損するのは、溶けた燃料が底にたまって容器を加熱し、そこが弱くなって穴があくということと思われます。格納容器の破損メカニズムは良くわからないですが、設計限界を超えた8気圧程度になってから下がる、となっており、圧力容器と同等に下に燃料がたまってそこが破壊されるのか、もっと違うところが壊れるのかは私にはわかりません。
現在のところ建屋の中がどうなっているのか殆ど情報がないので、このシミュレーションに非常に近いことが起こっていると考えるのが無難ではないかと思います。少なくとも、現在の日本の原子炉の事故に対する最高の知識が蓄積されたシミュレーションコードによる予測なので、大きく違うことが起きたとは考えにくいです。
なお、早い時期に格納容器の圧力を逃がせていた可能性はあります。この時には、爆発は起きないのですがその代わりに蒸気と一緒に一部の放射性物質は建屋の外まででたと思われます。
また、格納容器の破壊があったかどうかに無関係に、現在も、さらに今後数ヶ月から数年にわたって燃料(あるいはその残骸)からの発熱は続きます。大量に水を投入できないと、その熱は水が沸騰して蒸発することで外に運ばれます。この水は損傷を受けた燃料棒と接触しているわけで、放射性物質に汚染されています。
チェルノブイリでは減速剤の黒鉛が燃えて、それが極めて効率的に色々な放射性物質を大気中に巻き上げました。今回の事故では蒸気なのでそんなに効率良くヨウ素やセシウムを運ぶわけではありませんが、微粒子の形で、例えば海風が塩を含むのと同じように運ばれます。シミュレーションでも、格納容器破損のあと CsI の放出はだらだら続いており、放出は殆どこの段階で起きています。格納容器破損時ではありません。それと同じことが現在進んでいるものと思われます。
使用済核燃料プールで起きていることも結局同じで、崩壊熱によって過熱した燃料棒が破損して、水の中に放射性物質が流出、それが水の沸騰にともなって空気中にでているわけです。
シミュレーションは3日間で終了ですが、実際には既に1週間以上続いており、 2, 3 号炉ではシミュレーションの結論である CsI の9%より多量の CsI が大気中にでている可能性があります。チェルノブイリは熱出力3GW あり、 1-3号炉の合計は 6GW と大体2倍です。
1-3号炉の全てで10%でたとすると、ほぼ全部がでたと想定されているチェルノブイリ事故の 1/5 程度が既に放出されているかもしれません。但し、ここは1桁程度は不確定性があります。
実際には格納容器が破壊されていないかもしれないから、このシミュレーション結果とは全然違うのでは?という意見もあると思いますが、これについては最後のほうに書きます。
97.6. 今後どうなるのか?
水が完全になくなって燃料棒が露出すると、熔融した燃料が建屋の床や地面もとかして沈んでいき、地下水層に達して水蒸気爆発を起こし、今まで環境中にはあまりでていなかったストロンチウム等やプルトニウムも大気中にばらまく、というのが考えられる最悪の事態で、こうなるとチェルノブイリでも経験していないレベルの事態になります。そうならないためには建屋の床に広がっていると思われる燃料を数ヶ月にわたって冷却し続ける必要があり、蒸発しない程度の大量の水をいれるなら放射性物質が海に流れこむ、そうでなければ大気中へのヨウ素、セシウムの放出が続く、ということになります。1ヶ月程度で大半が放出されるのではないかと思います。
もっとも理想的に全てが上手くいくと、1次冷却系(緊急系でもなんでもいいが、熱交換器を通せる閉鎖系のもの)と2次系の両方が回復し、放射性物質をたれながすことなく炉心その他を冷却できるようになります。そうなると基本的に事故は収束、ということです。
97.7. それはどれくらい危ないのか?
私は東京に住んでいるのでまず関東のことを書きます。現在のところ、関東にきている放射性物質の量は(茨城県の一部を除いて)非常に低いレベルです。大雑把に平均すると 0.1-0.2uSv/h (マイクロシーベルト/時)程度上がっているものと思われ、これをもうちょっと普通の量であるキュリーに換算すると、関東の面積を4万平方キロとして 5-10万キュリー前後です。これは、地表に残っているヨウ素やセシウムの値です。
この量自体は原発の事故としては決して少ない量ではなく、チェルノブイリで 5000万キュリー程度、イギリスのウィンズケール事故で2万キュリー、スリーマイルでは稀ガスで200万キュリーですがヨウ素ではわずか15キュリーといわれています。
しかし、幸運か不運かはともかく、関東の広い領域に広がったので、個々人が受ける被曝としては、あくまでもいまのところ、ですが殆ど無視できるレベルです。ヨウ素131は甲状腺に濃集するといった効果もありますが、そういう効果を、危険が大きい小児、妊婦で考えてもまだ大きな危険ではありません。
ウィンズケール、チェルノブイリ等の過去の事故からわかっていることは、放出された放射性物質がどこに落ちるかは風と雨次第ということです。放射性物質は前に書いたように放出された水蒸気と一緒にでます。水蒸気は高温なので上昇気流になり、地表から数百メートルまで上昇しつつ風にのって運ばれます。運ばれている過程で少しづつ地面に落ちますが、雨になると一気に落ちることになります。
3/19 までは、少なくとも関東については神風がふいているというべき状況 (もちろん、季節的にそうなる、ということでもありますが)で、福島原発から関東にむかって風がふいたのは 15日、16日の短い時間に限られ、雨は伴わないものでした。このため、この2日間に関東に飛来した放射性物質の大半は、関東に落ちないでさらに拡散していったと考えられます。
風はほとんど西風で、太平洋にむかってふいていましたが、15日の午後に南東からの弱い風がふき、さらにこの日の17時から福島市一帯で弱い雨となりました。おそらくこのために、福島市の測定点での放射線レベルは 20uSv/h と、自然放射線の500倍(γ線のみ数えた場合に)に上昇しました。また、文部科学省の測定では、福島市と福島第一原発の中間くらい、原発から30km 程度の場所では、180uSv/h と自然放射線の5000倍もの値が検出されています。放射線による急性障害でがでるのは 200mSv 程度からとされているので、それには1000時間必要で急性障害の危険はありません。が、長時間いたり、あるいは体内被曝では発ガンが増加する等の影響がでる可能性があります。
3/19 現在で放射性物質の放出は継続していると考えられるので、風下になる領域で、特に雨が降ると高濃度に汚染される可能性があります。雨の時に外出していると特に危険で、衣類、皮膚が汚染される他、呼吸によって体内に入る恐れがあります。30kmの距離で測定された 180uSv/h もの値が関東で広い面積にわたって発生することは考えにくいですが、福島市で見られた20uSv/h 程度は風・雨の具合によっては例えば関東の数パーセントの面積で、また、もっと高濃度の汚染も狭い面積ではありえると思います。
もっとも、これも今後どの程度の放射性物質の放出があるかにもよっています。最悪のケースではこれまでにでた量の10倍程度が放出されるので、ありそうにはないですがもしもそれが全部関東にきて雨で落ちると大変なことになります。現在まで、関東に落ちる量は放出された量の1パーセント程度に留まっていますが、これは幸運にも雨がなかったせいであり、一度雨にあたると容易に10倍程度増え、10パーセント程度になるかもしれません。確率的には、悪いほうでこれまでの30倍、300万キュリー程度です。このうち結構な量が関東の1パーセント程度の狭いエリアに集中するというようなことがもしも起こると、1mSv/h くらいにはなりえることになります(チェルノブイリではそのような高濃度汚染スポットが見つかっています) この程度になると、人体への影響が無視できないので、遅くても1日、なるべく早くこのような場所を発見し、避難することが必要になります。もう1桁低いレベルでもなんらかの対応が必要になると思います。
とはいえ、これは、関東の多くの住民が深刻な被害を受ける、といったことは極めて考えにくい、ということではあります。東北地方、特に福島県についてはわかりません。
このレベルの放射線でもっとも問題になるのは農産物への影響で、植物がまず地面から濃縮し、動物がさらに濃縮し、となります。これは福島県では既に問題になる地域があるレベルで、今後対応が必要となります。また、 10uSv/h を超えるレベルになると、137Csについても 0.1-1uSV/h 程度ある可能性があります。131I は半減期8日ですが 137Cs は30年で、基本的に減らないのでそこにで暮らす人はずっと影響を受けることになります。10年スケールでは人が住むことができなくなっている領域がある程度の面積であちこちに発生していると考えられ、特に福島県については早急により空間分解能の高い測定が必要と考えられます。
97.8. 本当にそんなに沢山の放射性物質がでた/でるのか?
チェルノブイリで 5000万キュリーと上に書いたわけで、もしもその1/5 だとすると1000万キュリーです。本当にそんなに莫大な量の放射性物質がでたのかどうか、シミュレーションだけでなく測定値から見積もってみましょう。関東にきて落ちた量は10万キュリーですが、これと放出された量の比の推定は難しいです。別の方法として、放出量が推定されていて、土壌汚染の程度もわかっているウィンズケール事故と比べてみます。
ウィンズケール事故では、原子炉から50kmのところの汚染は典型的には でした。これに対して、3/19における福島県での原発から50kmのところでの典型的な測定値は 2-3uSv/h というところです。私の換算が正しいと、 なので、これはとなり、ウィンズケールの100倍です。なので、100倍の200万キュリーがでているわけです。但し、これは西風で太平洋にいった分ははいってないので、実際にはこの数倍、と思うと1000万キュリーは全く間違っているわけではなさそうです。
97.9. 色々
97.9.1. 格納容器とか壊れてない、という発表だし、まだ放射性物質はでてないのでは?
確かに、シミュレーションに比べると水素爆発(と発表されているもの) が起きるまでに数倍時間がかかっているので、シミュレーションのシナリオの通り、というわけではありません。例えば、格納容器の破壊の前にどこかの弁をあけて圧力を下げ、破損の前に海水注入に成功した可能性はあります。
但し、以下の理由から燃料棒の大規模な破損と放射性物質の大量放出は起こっていると考えるべきです。
燃料棒が大規模に破損していないとは考えられません。これは、 そうでないと理解できない量の I, Cs が放出されているからです。 (1-3 全部かどうかはわかりませんが、多分全部。でなければ水素は発生し なくて爆発も起きないので)
とすると、何が壊れているか、はあまり問題ではありません。注入した海水 が蒸気になってしまえば、(この辺化学に弱い私には断言できないのですが) おそらく I, Cs はある程度水蒸気にも溶ける(特に高温の水蒸気には)し、 また燃料表面で膜沸騰のような激しい沸騰状態になっていたら、そこで濃縮 された CsI が微粒子になって水蒸気にまざるといったことも起こると考え られます。この水蒸気は、圧力容器、格納容器が壊れているかどうかに無関 係に、基本的には大気中に放出されていると考えられます。
沸騰を抑えるだけの大量の海水を注入しているとすれば、それは溢れて地下 水層か海に流れだしています。
ということで、現在の状態は圧力容器、格納容器が壊れていてもいなくても同じだと思います。壊れていなかったとしたら人為的に逃がす必要がある、それを閉じ込めるものはない、という状態なので。
97.9.2. チェルノブイリ事故に比べるとどうか?
放出された放射性物質の規模としては、そういうわけで3/19現在の時点で 1/5 程度と思われます。原子炉の事故で歴史に残っているものでは2番目になることは間違いないレベルです。国際原子力事故評価尺度ではだいたい100万キュリー以上がレベル7ですから、これまでチェルノブイリだけだったレベル7となるべき規模の大事故です。
97.9.3. でも、そんなに人が死ぬとかないよね?
と思います。事故から1週間、殆どの間は西風だったのは神風といってもよいと思います。また、早い段階で 20km 圏から退避、としたのは適切な判断だったと思います。もっとも、体内被曝、特に農作物にはこれから注意が必要です。ウィンズケール事故では汚染が大きい 500平方キロ範囲で牛乳を廃棄する処置がとられました。今回100倍以上の放射性物質がでており、また日本の現在の規制値は当時のイギリスの 1/10 と厳しいものになっています。
97.9.4. 再臨界はない?
私にはわかりません。但し、これまでに中性子線が測定にかかったことがあるので、連鎖反応がある程度起こったことはあるように思います。以下、全くの想像ですが、例えば水の中で燃料のかたまり同士が接触して臨界になり、連鎖反応がある程度進むと、熱がでて水が沸騰し、かたまりが動いてしまって臨界から外れる、といった感じで弱く状態で自動的に調整されるのではないかと思います。溶液なので同列に議論してはいけないのですが、 1999年の JCO の臨界事故ではそのような形で弱い臨界が維持されたようです。
逆に、強い爆発を起こさせるためには、連鎖反応を非常に速く増幅するよい環境を準備する必要があり、原子爆弾の設計が難しいのはそこにあるわけです。
つまり、再臨界は起こりうるが、それほど巨大な爆発になる、といったことはないものと想像します。
なお、減速剤がないから再臨界はおこらない、というのは以下の2つの理由で間違いです。
まず、現在のところ核燃料の大半は水につかっています。
また、既に述べたように相当量の 239Pu が生成されていて、これは高速中性子でも核分裂します。
また、3号炉の燃料棒の 1/3 は MOX 燃料というもので、これは初めから 239Pu を 4% (資料によっては9%と書いてあるけどこれはちょっと考えにくい)ほど含んでいます。
燃料の融解が起こると比重が違うのでプルトニウムとウランが分離し、主にプルトニウムが下にたまる、ということも考えられます。
そうなると、上にウランの重い蓋があって、その下でプルトニウムの臨界が起こることになり、ある程度の規模の爆発が可能になるかもしれません。
97.9.5. アメリカの大学の先生が、大した事故じゃないっていってるけど?
アメリカ人には対岸の火事です。それを信じるかどうかはあなたの判断です。
97.9.6. どうしてイギリス、フランス、ロシアで全然いうことが違うの?
何故でしょうね?私もわかりません。
98. 福島原発の事故その2 (2011/3/21 書きかけ)
前項が専門的すぎてなんもわからん、という絶賛の声を多数(嘘だけど)いただいたので、わかるようにかけるかどうかがんばってみます。
98.1. 放射線とか放射能とかって何?
えーと、ですね、放射線というのは、電波とか光と同じ光子や、あるいは電子、ヘリウム原子核等が高速で飛んでいるもののことです。
光子の場合は高速といってもあらゆる光子は全て光速で動くのですが、光子1つの持つエネルギーと波長(私も良くわからないのですが、量子力学によると粒子と波は同じ、という例のアレです)に関係があって、エネルギーの高い光子は短い波長をもちます。光子で非常にエネルギーが低いのが普通の電波で、例えばギガヘルツ帯(携帯等に使われているはず)では数センチです。目に見える普通の光は1ミクロン(1/1000ミリ)程度です。原発とかで関係するのはγ線という名前がついていて、目に見える光よりさらに 6 桁程度波長が短く、エネルギーが大きいものです。大きなエネルギーを持つγ線は、原子にあたると電子をはじき飛ばしたりします。そうするとその原子を含む分子が壊れたりするわけで、体の中のタンパクや、遺伝子を作っている DNA が壊れて、色々な害、特に DNA が壊れてガンになったりするわけです。
ちなみに、代表的な放射線は α線、β線、γ線、中性子線です。
α線、β線、γ線は19世紀末から20世紀初頭に発見されたもので、これらは放射性元素からでるものだということがわかりました。α線はヘリウム原子核、 β線は電子で、γ線は上に書いたように光子です。
放射性元素の原子核は何かと反応するわけではなく、勝手にある確率でこれらの粒子を打ち出して別の元素に変わります。例えば、131I、これは と131を上に書くのが本当で、陽子 51個、中性子80個の合計131個から原子核ができていることを示すのですが、以下面倒なので 131I とします。これはβ線とγ線をだしてキセノン (Xe) に変わります。β線を出すので中性子が一つ減って陽子が増え、原子番号が52 になるわけです。この、β線を出すことを、β崩壊ということがあります。 β崩壊というとβ線だけを出すのかと思いますが、γ線の他ニュートリノという殆ど観測できない素粒子もだしたりします。
137Cs (セシウム) も同様にβ崩壊し、137Ba(バリウム)に変化します。放射性元素の中にはα崩壊するものもあります。
α線は(素粒子物理的には)大きな粒子で、簡単に他の原子とぶつかるので、あまり長い距離を飛ぶことはありません。紙1枚でさえぎられる、ということだそうです。β線は空気中では8cm 程度しか飛びません。 γ線はこれらよりもずっと長い距離をとび、大気中では200m程度で強度が半分になる、つまり、沢山同じ方向にγ線がとんでいると200mくらい飛ぶうちに数が半分になります。
マスコミ等で、放射性の強度は距離の2乗で小さくなる、とかいっていますが、そういうわけで、どこかに塊である放射性物質(放射性元素を含んだもの)からの放射線はもっと急激に小さくなります。例えばβ線の場合 1mで1/2000 になるわけです。γ線でも、2km で 1/1000、20km では1000兆分の1 になるわけです。
98.2. じゃあ、どうして原発からずっと離れたところで放射線が?
これは、原発にある放射性物質からでる放射線ではなくて、離れたところまで風にのってとんできた放射性物質からでる放射線です。原発で何度も起こった爆発の時にまきちらされたり、あるいは水蒸気と一緒に舞い上がったヨウ化セシウムや水酸化セシウムの微粒子が、風ににのって何十キロ、何百キロも飛んできているのです。
98.3. 報道では、放射線の強度って上がってもすぐさがってるけど、これはどうして?
主な理由は、風にのってきたものがそのまままた風にのってどこかにいってしまう、ということです。(多分)でも、一部は残っていて、福島県のある場所では最大 180マイクロシーベルト/時、関東の色々なところでも事故前の値の2倍以上になったりしています。
98.4. でも、段々弱くなってる、ってテレビでいってたよ?
これは、放射性元素がβ崩壊して、別のものになってそれはもう放射性をもたないものだからです。 131I は8日間に半分が崩壊して、半分が残ります。なので、1日で 9パーセントくらい放射性強度が下がることになります。3ヶ月たったら 1/2000 しか残りません。 137 Cs は30年でやっと半分になります。
98.5. ミリシーベルト/時ってどういう意味?どれくらい危ないの?
大雑把にいうと、シーベルトというのは放射線の単位ですが、重量あたりのエネルギー、という少しわかりにくいものです。
人が体重1キログラムあたり131I の原子核20兆個が崩壊してできたγ線を吸収すると、1シーベルトということになります。137Cs でも同じくらいです。どちらの崩壊でもβ線はγ線より高いエネルギーを持つので、β線も入ると 1/3 程度の6超個くらいです。体重50キロの人が1シーベルトの被曝をした、ということは、131I でβ、γ両方だと大体100兆個の原子核が全部壊れた分、ということです。
ミリシーベルト、というのは、上のシーベルトの1/1000 の放射線を1時間で、ということですから、γ線だけだと体重50キロの人で3000万個の原子核の崩壊分です。
98.6. じゃあ、報道での強度って、γ線だけ?β線もはいる?
測定しているのはγ線だけで、β線の分は数えられてないです。それは詐欺じゃないか、というと、β線は遠くまで飛ばないので、遠くにある放射性物質からの被曝なら無視して大丈夫です。でも、空気中のごく近くに放射性物質があるとか、地面にあるとか、服や皮膚についてしまったとかいうと駄目です。 131I, 137Cs とも、地面に残ったり、最悪の場合体内に取り込まれたりします。この時には両方数えないとおかしいわけです。
98.7. 比較している、自然放射線ってのは?
これは、宇宙線起源のγ線、β線や、身の周りの物質に微量含まれている放射性元素からでる放射線です。β線は飛距離が短くて宇宙からこないし、γ線もそうでは?と思うわけですが、宇宙から飛んでくる宇宙線が大気の色々な原子と相互作用して色々ややこしいことをした結果β線やγ線を出すのです。
報道ででていた日本での自然放射線の値は年間 1ミリシーベルト、とかが多くて、これは1時間当りだと 0.1 マイクロシーベルト/時です。一方、自然放射線の値、として報道ででていたものは大体 0.05-0.08 くらいになっていて、これはγ線だけ、残りはβ線と考えられます。あ、すみません、あと、食物からのもあります。
98.8. で、どれくらい危ないの?
1シーベルトくらいの放射線被曝から、すぐに死ぬ人がでてきて、6シーベルトで殆ど全部死にます。これが急性障害というもので、報道でいう「すぐに人体に危険がある」というものです。
では、すぐではない人体への危険、ってのはどうか、というと、1シーベルト被曝して急性障害で死ななかった人が男性、女性それぞれ 1万人いたとして、男性800人、女性1000人がこの被曝が原因のガンで死ぬ、というのが、広島、長崎の被曝者の調査等からわかっていることです。
ガンになる割合は、調査データがある割合大量の被曝では、受けた放射線の量に比例するとわかっています。なので、1ミリシーベルトでは 1万人に一人が放射線が原因のガンで死ぬ、ということになります。自然放射線は例えば80年間に200ミリシーベルトなので、1万人のうち 200人くらいが自然放射線が原因のガンになっているかもしれません。但し、自然放射線と、原発からでる、人工の放射性物質で効果が同じかどうかは不明です。
30キロ圏のだいぶ外側でも原発からの放射性物質のための放射線レベルが20マイクロシーベルト程度まで上がった地域がありますが、これは主に131I からの放射線だとわかっています。131I は8日で半分になるので、8ミリシーベルトくらい受けることになり131I だけでは大したことはありません。但し、まだはっきりしていませんが放射線強度としては 131I の 1/100 -1/200 程度の 137Cs があるかもしれなくて、半減期(半分になる時間)が1400倍違うので、受ける放射線の量は10-50 倍、もしも50倍だと 400ミリシーベルトになって、100人に4 人が原発事故の放射線が原因のガンで死ぬ、ということになります。β線も考えるともうちょっと多いかもしれません。この辺で人間が住んでいいとはいいがたい、という感じで、その10倍になると確実に駄目なレベルです。20キロと 30キロの間にはそういう場所もみつかっています。
特に 131I の場合、体内に取り込まれると甲状腺に集まってここを集中的に攻撃してガンを発生させる、という性質があります。なので、微量でも雨やチリに含まれた 131I を吸い込んだり、あるいは農産物に含まれる 131I を摂取したりしないようにする必要があります。 3/19 くらいから、規制値以上の放射性物質が色々な農産物で見つかっています。規制値は、上のガンになる割合がまあまあ小さいように設定されている「はず」です。
98.9. 広島の爆心地だって放射線は大したことないのでは?
その通りで、福島第一原発の周りのは現在の広島の爆心地より放射線レベルが高いところができているかもしれません。理由は2つあって、広島原爆では核分裂を起こした 235U は1kg 程度といわれていますが、原発では燃料は100トン、そのうち 235Uが3トン、核分裂を起こた分が1トンくらいあるので、半減期が長くてなかなか減らない物質が広島の原爆の1000倍くらいあり、そのいくらかが既に外にまきちらされたことが一つ。
もう一つは、原発からの放射性物質は風で運ばれて、雨が降った時に落ちる、ということがあり、風向きや雨の降り方等によって放射性物質が集まって沢山ふる場所がある、ということです。これはチェルノブイリの事故でも見つかっています。
98.10. チェルノブイリと比べて?
以下、単位の換算が正確ではないので、数倍間違っているかもしれません。そこに注意して読んで下さい。
放射性物質が放出された量、というのはまともな発表がないので良くわからないのですが、放射線の強さをあちこちで測定しているのでそれをチェルノブイリの場合と比べることができます。日本のデータは原発から 30kmの距離で、 180マイクロシーベルト/時をしばらく記録した(131I がメインだと思うので段々下がる)というものです。
これにたいして、チェルノブイリの場合、30km圏境界での最大値がセシウムで 100キュリー/平方キロ、というものです。キュリーというのは放射性物質の量をはかる単位で、一方マイクロシーベルト/時は放射線の強さですが、これは換算が可能で私の計算が間違ってなければ(若干自信がないです) 1マイクロシーベルト/時が大体10キュリー/平方キロになります。なので、チェルノブイリの値は 10マイクロシーベルト/時で、福島県の数字の 1/18 にしかなりません。
といっても、ここでびっくりしてはいけなくて、放射性元素が違います。チェルノブイリでは 131I がなくなったあとの 137Cs を測っていて、福島では 131I がまだメインの状態です。最初の頃の放射線強度としては40倍くらい 131Iが強いので、チェルノブイリは最初は 400マイクロシーベルト/時あったことになります。
なので、倍違う、ということです。倍しか違わない、ということでもあります。
最大値同士を比べて意味があるのか?という問題はあるのですが、大雑把な目安にはなって、10倍違う、ということはないのではないかと思います。つまり、放出した放射性物質の量に関する限り、チェルノブイリより多くはないかもしれないけれど、少なくとも 1/10 程度にはなっているであろう、という感じです。
98.11. それって大変なことじゃない?
福島県の、上の 180マイクロシーベルト/時のところは大変です。セシウムで 5マイクロシーベルト/時だとすると、年間 50ミリシーベルト/時になって人が住んではいけません。30年いると 1.5 シーベルトの放射線で、 100人に12人がガンになる、というとんでもない数字だからです。
もっとも、セシウムの量がこれからどうなるかはまだわかりません、日本は幸いなことに非常に雨量が多い国であり、セシウムは水に良く溶ける物質なので水に流されてくれるかもしれないからです。山間部では特にその可能性が高いと思います。チェルノブイリ近辺は、例えばキエフでの年間雨量が 400mm くらいと、日本とは全く違う気候です。
核物理的な半減期は30年ですが、そんなに長く待つことなく水に流れてくれるかもしれないわけです。とはいえ、これはそういう希望もある、ということで、時間がたってみないとわかりません。
で、現在の数字が 10マイクロシーベルト、1マイクロシーベルトのところはどうなんだ?ということですが、これは、それぞれ(水に流れないとして)100人に 1人、1000人に1人程度ガンが増える、ということです。どれくらい増えるのを我慢するか、というのは、民主主義国家であるはずの日本では、本来主権を持つ国民全体、あるいは実際にに退避することになる住民が判断するべきことであって専門家が適当に決めていいわけではないですが、他の色々な危険や、退避することのコストによって決める、といったことになるのではないでしょうか?
131Iが体内に入ると甲状腺に集まって甲状腺ガンを増やす、ということがあるわけですが、これについては国際標準の規制値がきまっていて、成人男性は 0.25シーベルト、妊娠・授乳中女性については 0.05シーベルトとなっています。これらがどれくらいガンを増やす数字なのかは実ははっきりしません。
この 0.25 シーベルトって、非常に大きい、と思ったのではないでしょうか?これは、「シーベルト」が人体の重量当りで、これは甲状腺の重量当りだからです。甲状腺は 15-20グラムぐらいで、そのこととか他の色々を計算すると、 0.25 シーベルトは大体1000万ベクレル、となります。「ベクレル」というのはキュリーと同じ放射性物質の量の単位ですが、 1キュリーが370億ベクレル、と定義されています。なので、は1000万ベクレルはは 0.27ミリキュリーになります。
牛乳の規制値が300ベクレル/キロといった報道をみた人も多いと思います。
私の計算がどこか間違っていなければ(しばしば間違えるのですが、、、)牛乳の 300ベクレル/キロは 1000万ベクレルになるには30000リットル飲め、という量でなかなか大きいです。妊娠・授乳中女性では0.05 シーベルトなので、1年間ずっと300 ベクレル/キロの 131I が含まれた牛乳を毎日15リットル飲むと、完全に無視できるわけではない危険がある、ということになります。
もちろん、牛乳以外の色々なものが汚染されているかもしれないので、牛乳だけで規制値までになっては駄目で、 1/10 から 1/100 程度でないといけません。
とはいえ、今回の原発からでた 131I は8日で半分になってしまうので、実は1年間飲むということはなかなかないはずです。という意味では、今回にかぎってはもう少しゆるい規制値にしてもよいかもしれないという気もします。
なお、意外に危険かもしれないのが、地面に落ちたヨウ素が砂ホコリと一緒に風で巻き上げられたものを吸い込んでしまう、とか、アスファルトの道路で車が巻き上げたものを吸い込んでしまう、といったことです。1マイクロシーベルト/時くらいのところだと、 10キュリー/平方キロなので 0.27 ミリキュリーは 27平方メートル分です。1週間のうちにそんなに吸い込むことはない、というとそうかもしれないですが、牛乳と同じでこれだけで規制値になっていいものでもないので。
98.12. 原発は今どうなってるの?
詳しいことは 97 に書いたのですが、要するに、
少なくとも福島第一2、3号機では、原子炉で核分裂反応でできた色々なもののうち、 131I, 137Cs は毎日相当な量がでている
さらに、 3, 4 号機では、専用のプールで水で冷やしていた「使用済核燃料」 からも色々でているらしい。
ということです。地震のあと、原子炉はちゃんと停止したのですが、ウラン (235U) の核分裂でできた色々な放射性元素がα崩壊やβ崩壊をして熱をだします。この熱が結構莫大なもので、事故後10日近くたった今で大体原子炉1つ当り 5000キロワットくらい、水で冷やすとすると1時間で50トンの水を 100度まで上げるか、10トンの水を蒸発させる必要があります。
燃料ウラン(酸素との化合物をセラミックにしたもの)は実際の原子炉では細い金属パイプの中にはいって水につかっています。普通はこの水が原子炉の中で沸騰して、それが蒸気タービンにいって発電し、でてきた蒸気を海水で冷やしてまた原子炉の中に戻します。普通に原子炉を止める時には、まず核分裂反応は起きないようにして、それでもでてくる熱は炉内の水を循環させて、それを海水で冷やす、ということをずっと続けるわけです。でも、福島第一では原子炉を止めたあと停電があって、ここが上手く回らなくなりました。さらに、自家発電用のジーゼルエンジンが2台ずつあったのですが、これが 1-4 号機では全部故障し、さらに非常電源のバッテリーも数時間であがり、と原子炉をひやせなくなりました。このため、別途水をいれないといけなくなったのですが、新しく水をいれるには元々あったものを出す必要があります。というわけで、結局事故から現在までずっと、原子炉の中に水をいれて、それが沸騰して蒸気になってでていく、ということになっているようです。この蒸気に I と Cs がちょっとですがまざってでていっていて、福島県の色々なところとか、 3/20, 21 には関東の広い範囲に雨とともに降ってきています。
水をいれなければ水蒸気にならないか、というと、残念ながら今度は燃料自体が高温になって溶け、一部蒸発したり、原子炉の底や建物の床を全部溶かして地面にもぐっていくかもしれません。そうすると地下水と接触して水蒸気爆発とか、極めて危険なことが起こるので、そうならないように今がんばって水をいれているわけです。
98.13. これからは?
発熱は3年くらい立つと、1000キロワットくらいになり、放射線レベルもだいぶさがってきます。そのころになると、チェルノブイリでやったようにコンクリートで固められますが、これも外側から水で冷やす必要があります。
3年間水を消防車でかけ続けるわけにもいかないので、発電所にあるポンプとかをなんとか復活させよう、というのが 3/22 現在やっている作業、ということになります。海水を循環させられるようになれば、大気中にでてくる放射性元素はだいぶ減るでしょう。そのかわり、海にでていくことになります。これを3年間続けるのはよろしくないので、原子炉を冷やす水を、捨てるのではなくさらには別の水で冷やす、というふうに最終的にはする必要があります。
というわけで、まだしばらくは(数日か数週間か数ヶ月かわかりません)、福島第一原発のあちこちから放射性元素のまじった蒸気か煙がでていて、風にのって動いて雨が降るとそこに沢山落ちる、という日々が続くかもしれません。
98.14. 放射性物質がふってくるって、それ、大丈夫なの?どっかに避難しなくていいの?
色々なところ(最後に場所のリストをつけます)で放射性のレベルをモニタリングしていて、それによると大抵、1時間以内の短い時間で急激に上昇し、また下がるんだけど元には戻らない、というのの繰り返しで段々上昇していきます。つまり、空からいつでも放射線がふってきているわけではなくて、場所によって集中してふってくる時がある、ということです。地面に落ちてしまったものからの被曝は、上でみたように 10マイクロシーベルト/時になったらだいぶ心配ですが、数時間でどうというわけではありません。但し、数年にわたってそこに住むのは私には勧められません。
しかし、集中してふってきている時は、放射性物質がはいった雨が皮膚や服についたり、細かい雨つぶが口ははいってしまう可能性があります。どこにどれくらいふってきそうか、というのは国のどこかで天気予報の計算結果をつかったシミュレーションで計算しているはずですが、公開はされていません。
何もわからないのは気持ちが悪い、「安全」と言われても、、、と思うなら、色々な公開データを使って自分で考えてみるしかありません。
なお、 3/22 くらいから、東京の水道水で基準以上の放射性物質が検出されるようになりました。3/23 時点では金町浄水場で、これは江戸川から取水しているので 3/21-22 に降下した放射性物質がでてきているもの思います。これは、しばらく水道水は大量には飲まないようにしたほうがよいかもしれません。上の牛乳と同じで、今のところはそれほどの量ではないですが。
また、海水中に基準の10倍とか100倍のヨウ素、という報道もあります。これも、事故が始まって以来放出されtあ物質が蓄積しているものと思います。
上に書いたように、地面に落ちた放射性物質からの放射線を直接浴びることによる被害は今現在ではそれほど大きくはありません。が、農作物ではすでに規制値以上の放射性物質が検出されるようになってきており、また食物連鎖の上のほうにいる動物や、海では大型の魚では、放射性物質が上のほうになるほど濃縮される、といった効果があります。
ふってくる直接の放射性よりも、水の安全、その他食品の安全、といったことがこれから大きな問題になってくるものと思います。
98.15. 参考になるサイト
98.15.1. リアルタイムモニタデータ
茨城県モニタリングデータ http://www.houshasen-pref-ibaraki.jp/present/result01.html
東海第二でのモニタリングデータ http://www.japc.co.jp/pis/tokai/trend2.htm
日野市モニタリングデータ http://park30.wakwak.com/~weather/geiger_index.html
KEKモニタリングデータ http://rcwww.kek.jp/norm/
単位、表示方法がバラバラですが、例えば茨城県で急に数字があがると、風が千葉とか東京にまでくる可能性が高いので、注意したいところです。 Gy(グレイ)はγ線、β線に関する限り Svと同じ単位です。
98.15.2. もうちょっと遅いデータ
横浜市モニタリングデータ http://www.city.yokohama.lg.jp/kankyo/saigai/
新宿モニタリングデータ。 http://www.fujitv.co.jp/saigai/radiation_graph.html
東電のモニタリングデータ。 http://www.tepco.co.jp/nu/monitoring/index-j.html
福島県 http://www.pref.fukushima.jp/j/index.htm
文部科学省の福島県データ http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303726.htm
文部科学省の県別データ http://www.mext.go.jp/a_menu/saigaijohou/syousai/1303723.htm
各地のデータをグラフにしたもの http://dl.dropbox.com/u/16653989/NuclPlants/index.html
東大モニタリングデータ http://www2.u-tokyo.ac.jp/erc/
茨城県 http://www.pref.ibaraki.jp/important/20110311eq/index.html
同じ時刻でも新宿と東大駒場では振る舞いが違ったりしていて、原発から200 キロ離れていてもほんの数キロの距離でだいぶ違うことがわかります。
98.15.3. その他
牧野の日記とメモ。最新の情報はこちらに http://jun-makino.sakura.ne.jp/Journal/journal.html
東電原子力トップ http://www.tepco.co.jp/nu/index-j.html
Weather report 33時間風予報 http://www.weather-report.jp/com/professional/msm/fusoku/kanto.html
33時間風予報は、33時間後(1日4回更新のようなで26時間後くらいまでしかない時もありますがう)までの風向き、風速の予報データが見られます。放射性物質がこの通りにくる、というわけでは決してありませんが、原発の上を強い西風がふいていればしばらくは大丈夫だし、自分のいるほうにふいていれば要注意です。
また、雨の予報もあります。こっちも細かいところはあまり信用できない気がしますが、大体の目安になります。原発から風がふいている時の雨のふりはじめには気をつけたいものです。
この辺は、ちゃんと国が予報とか出すべきと思いますが、、、「ただちに健康に危険があるレベルではない」って、それ、ただちではないけど危険があるかもしれないの?というような疑問もでてくるわけですから。
http://www.asyura2.com/11/genpatu7/msg/671.html