85. 中川隆[-13672] koaQ7Jey 2018年9月12日 16:39:07 : b5JdkWvGxs : DbsSfawrpEw[-18502]
世界の低金利のアンカーになったジャパンマネー 吉田繁治 2018年8月10日
https://archives.mag2.com/0000048497/20180810114930000.html
7月31日の金融政策決定会合(日銀)で、「長期金利0.2%までの容
認」を発表して以降、わが国の10年債の利回りは0.1%から0.12%
の間を不安定に波動しています。
7月20日までは0.03%台だった金利が0.12%に上がっても、わずか
0.09ポイントという誤差のような上昇に過ぎません。
しかし上昇の倍率では4倍です。政府の、これ以降に発行する国債
の利払いが、今の4倍になる規模です。
国債は、その時の市場金利を、発行額面に対する表面利率として、
政府から売られるからです。国債に入札する銀行が、発行額面に対
していくらで買うかによって、長期金利が決まります。
債券の発行額面と金利、そして市場の価格と金利は、以下のメカニ
ズムで決定しています。
【国債の発行と、市場の金利の仕組み】
0.12%の表面利率の10年債(100万円)を、銀行が103万円と入札し
て買えば、10年後の満期には、額面の100万円の償還しかないので、
単利の概算では「{(3万円÷103万円)÷10年}≒0.3%」分、金利
が下がったことになります。
発行金利は0.12%でも、市場の金利は、マイナス0.18%に下がりま
す(これが2016年2月でした)。
逆に、97万円という低い価格で落札されると、「{(3万円÷97万
円)÷10年}≒0.3%」分、金利が上がったようになります。
97万円で買った国債でも、額面の100万円が10年後に財務省から償
還されるからです。額面の100万円に対する表面金利は0.12%でも、
その国債の、利回りは0.42%/年に上がります。(注)本当は複利
で計算しますが、金利が2%以下のときは、単利での計算とあまり
変わりません。7%だと大きな違いになります。
約1000兆円という大きな残高がある既発国債の流通価格は、10年債
の金利が0.1%上がるにつき、0.8%(8兆円)下落します。長短国
債の平均残存期間は8年だからです。
・金利が1%上がると、8%(80兆円)下落し、
・2%上がると、16%(160兆円)の含み損が、金融機関(国債をも
つ日銀、銀行、生保)に生じます。
日本では、既発国債が1000兆円(GDPの1.8倍)と、経済規模に対し
て世界最大であるため、普通は問題ではない1%や2%の金利の上昇
が、銀行の資産下落から金融危機を引き起こす規模の、国債損を生
みます。
1%や2%金利が上がっても、何も起こらないというエコノミストは、
GDPの1.8倍の1000兆円という国債の発行残を無視しています。
(注)政府の借入金を含む総債務は1280兆円ですが、そのうちの国
債は1000兆円です。
【既発国債が大きすぎる日本】
わが国では、普通の金利より低くても、金利2%辺りから、金融危
機に向かうでしょう。
値下がりする既発国債の残高が1000兆円と大きく、金利の上昇が、
国債をもつ金融機関の資産の損失を招き、その損失が、金融機関の
信用の淵源である自己資本(総計で150兆円)を超えるからです。
【超低金利国債が、金融機関に高く買われるのが、国債バブル】
表面金利1%以下の10年債を、2012年以降、金融機関が発行額面以
上の価格で買ってきたということは、「国債が高く買われ過ぎた、
国債バブル」を示しています。
予想PER(株価収益率=株価/予想純益)が40倍や50倍の株を、更に
高く買ってきたことと同じです。
1000兆円の、マイナス金利も含む超低金利の国債は、わずかな市場
金利(予想金利)の上昇により、下落します。PERの高すぎる株が、
少しの次期予想純益の低下により、大きく下がることと同じです。
【リーマン危機を超短縮すれば】
2008年のリーマン危機(米国の金融危機)は、
・2000年から2倍に上がっていた米国の住宅価格が、
・2006年にピークをつけ、2007年から下落しはじめ、
・2008年には住宅ローン証券の暴落(-40%)に至り、
・関連するデリバティブの全面崩壊を招きました。
住宅価格の下落額の、何倍もの債券の下落が生じたのです。
リーマン危機での、金融機関の総損失は、$4兆(440兆円)と推計
されます。FRBはQE(量的緩和)として、$4兆のドル増発を行い、
金融機関の資産損を埋めたのです。FRBがもつドル信用を使って、
民間に与えたと言えます。
【FRBは、今も、ドル増発のままである】
FRBは、金融危機が終わった現在も、$4兆(440兆円)を増発した
ままです。買ったMBSと米国債をFRBが売れば、米国債の価格が下が
り、MBSは再び暴落して、金利が高騰することが容易に予想できる
からです。
ここまで考えると、米国の金融は、3回のQE(量的緩和)により正
常化したのではなく、銀行システムには、危機が「内包」されてい
るままと言えます。QEのマネーは、落とし穴の覆いです。加えて、
米国の株価の3倍への上昇も、危機を覆い隠しています。金融機関
は株を買っているからです。株価が下がれば、穴の大きさも分かる
でしょう。
【FRBの利上げ(2018年度は4回の予定)】
「金融資産・負債が大きすぎるため、サイクル的になった金融危機
の内包」の中で、2018年度の4回の利上げ(0.25%×4回)に、向か
っているように思えます。
なぜ経済には悪い影響がある利上げをするのかと問われたイエレン
前議長は、正直に答えています(2016年)。
(注)現在の議長は、法律家であり、その発言からして金融理論に
は素人に見えるパウエルです。トランプも、貿易赤字は分っても、
金融理論は知りません。このため「ドル安策」を唱えるのです。ド
ル安とは、金融面ではドルの売りが超過し、米国債の価格が下がっ
て金利が上がることです。米国にとっては困ることになるでしょう。
「FRBが、信用つまりバランスシートを拡大したままで、しかも金
利ゼロを続けていれば、次の金融危機のとき、ドル増発と利下げと
いう手段を取れなくなる」(イエレン前議長)
このとき、労働経済学者のイエレンが想定していたのは、
・住宅価格の下落からの金融危機ではなく、
・リーマン危機から3倍に上がった米国の株価でした(IMFの、クリ
スティーヌ・ラガード専務理事とのTV対談)。
(注)この発言は、FRBのドル信用を使って$4兆以上の増発はでき
ても、そのときは、外為市場で米ドルの下落が起こるため、増発効
果は相殺されると表明したことと等しい意味をもっています。
FRBの信用の限界を言った重要な発言です。FRBが発行する通貨が、
外為市場で大きく下げないうちは、FRB信用があることになります。
【中央銀行の信用とは、発行権をもつ通貨の信用である】
机上論で言うように、「中央銀行の信用は無限」ではない。発行通
貨の価値下落(世界の通貨に対する実質実効レートの低下)という
形で、限界が現れます。中央銀行の信用は、通貨の信用です。
1997年のアジア通貨危機のとき、タイ、マレーシア、インドネシア、
韓国の中央銀行は、通貨の増発は自国通貨の下落をとめることはで
きなかった。それぞれの経済力がバックになった中央銀行の信用の
限界、つまり通貨増発の限界に達していたからです。
株価下落から来る次の金融危機のとき、FRBがドル増発の対策を取
れないと、1929年から1933年のような、金融危機が実体経済の大恐
慌(GDPの30%低下と失業率25%付近)になると言いたかったので
しょう。
【金融危機】
金融危機は、金融機関(特に銀行)の不良債権の増加と、保有債券
と株の下落から起こる信用収縮です。
信用収縮とはマネーサプライの量の減少です。マネーサプライの量
が減れば、商取引も減って、商品生産と流通が減り、実体経済の恐
慌になります。
【マネー量は区分せねばならない】
2013年からの日本での実証のように、中央銀行が、マネー量(ベー
スマネーの量)を増やすだけでは、経済の成長率を高めるとは言え
ません。
しかし銀行信用が縮小して、マネーサプライの量が減ると、マネー
を使った商品の取引量であるGDPは、低下するということは、確実
に言えます。マネー量は、経済に対して「非対称な働き」をします。
【ベースマネーと、マネーサプライは別物である】
紙幣の発行量と、中央銀行に金融機関がもつ当座預金が、ベースマ
ネーです。マネーサプライの元になる基礎的なマネーがベースマ
ネーです。
一方、実体経済の商取引に使われるのはマネーサプライ(M2)です。
企業と世帯の「現金と銀行預金」です。日本では、M2が1007.2兆円、
郵貯等を入れたM3が1336円です(2018年6月)。
日銀の当座預金が主であるベースマネー(493兆円:18年6月)は、
現在は年率7.4%で増えています。過去をさかのぼれば、2015年は
32%、16年は23%、17年には14%の増加でした。金融緩和の増加額
はほぼ同じでも、分母のベースマネーの金額が大きくなると、増加
率は減ったように見えます。日銀が金融緩和を縮小したのではあり
ません。
これに対し、企業と世帯の預金であるM2(1007兆円)の増加は、年
3.2%と低いままです。2015年から17年まで3%台しか増えていませ
ん。この増え方は、日銀の異次元緩和の効果が、実体経済に使われ
るマネーサプライの増加には及ばなかったことを示しています。
日銀の量的緩和は、当座預金の口座がある金融機関に対するもので
あり、世帯と企業に対するものではありません。日銀から現金や預
金を増やしてもらった人はいないでしょう?
https://www.boj.or.jp/statistics/money/ms/ms1806.pdf
https://www.boj.or.jp/statistics/boj/other/acmai/release/2018/ac180731.htm/
同じマネーですが、機能からは両者は別物です。金融機関の資産が
下落して、金融危機になると、銀行信用(=銀行預金が銀行信用で
す)であるマネーサプライが、減少します。企業と世帯の使うマ
ネー(預金の総量)が減るため、実体経済の恐慌に至るのです。
リフレ派の誤りは、日銀が国債を買ってベースマネーを増やしてゼ
ロ金利に下げれば銀行システムに現金が増えて、そのまま、市中の
マネーであるマネーサプライが増えると考えていたことに求められ
ます。
【銀行システムとは、連結した銀行】
銀行システムの信用の拡大、言い換えれば、貸付の総量の増加がな
いと、マネーサプライは増えません。
銀行システムとは、単独の銀行ではなく、全部を連結したものです。
銀行は、貸付金(債権)を預金(負債)にするという形で、企業と
世帯に対し「信用創造」を行っています。
貸付金は、資本主義の複式簿記では、以下の処理です。国民に対し
て預金マネーの発行をしているのは、日銀ではなく銀行です。1兆
円のマネー発行は以下の形で行われます。
・銀行には貸付金という資産が増え、
・その貸付金は、借り手の預金口座振り込まれ、銀行の負債である
預金の増加になります。
これが、市中のマネーであるマネーサプライの1兆円の増加です。
貸付金は、約定返済されて減って行くので、銀行が返済額以上に貸
付金を増やさないと、マネーサプライは増えません。現在のマネー
サプライ(M2)の増え方は、年3%台と低く、30兆円台でしかあり
ません。これでは、2%のインフレは起こりません。
銀行システムの資産 銀行システムの負債
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貸付金増加 1兆円 預金の増加1兆円
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本稿ではまず、「日銀の金融緩和の副作用」とは何かを解きます。
次は、日本の金利がわずかに上がったことがなぜドルの長期金利の
上昇にもなったのかということです。3番目は、日本の金利の上昇
のパターンの研究です。紙幅があれば、4番目にドル金利の上昇と、
トランプ関税による人民元の下落と、中国の不良債権増加の問題で
す。
以下は、本稿の目次です。
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<954号:世界の低金利のアンカーは、ジャパンマネー>
2018年8月8日:有料版
【目次】
1.わが国における、金融緩和の副作用とは何か
2.異次元緩和と金融機関の利益
3.円国債は、今後、値下がりしかないリスク債券になってきた
4.日本の金利の上昇のパターンを読む
5.ふたつのシナリオ
6.日本の金利がわずかに上がると、なぜ、米国とユーロの金利も上
がるか、ということについて
7.世界の低金利のアンカーの日本円
【後記:銀行の、国債による損失について】
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■1.わが国における、金融緩和の副作用とは何か
金融緩和は、中央銀行が金利を下げて銀行に現金を供給し、低い金
利とふんだんな現金にし、企業と世帯がそれを借りて投資または消
費を増やすこと目的に、行われます。
資本の自由化以前は、日銀が銀行に貸すときの金利である公定歩合
を下げることでした。1980年代からは米欧日の順で、「資本の自由
化」、つまり、民間の外為交換の自由化が図られました。このため
公定歩合の調整だけでは(利下げによる現金の貸付供給だけでは)、
不十分になったのです。
一国が金利を下げると、金利の高い国にマネーが流出し、国内のマ
ネーの緩和状態が引き締まって、中央銀行が下げた金利が上がる傾
向に戻るからです。
金融の自由化のあとは、その国の短期金利は、短期国債の利回りを
ベースに決まるように変わっています。金融市場が、国債の売買に
よって金利を決めるようになったのです。中央銀行も、大きな国債
市場では、もっとも有力ではあっても1プレーヤーです・・・
http://www.asyura2.com/09/revival3/msg/823.html#c85